「データベース」という言葉をご存知でしょうか? おそらくほとんどの方は耳にしたことがあると思います。データベースは、少し前までは情報科学の専門家だけが口にする専門用語だったのですが、現在では非常に身近な言葉になっています。
■身近に存在するデータベース
現代の人は、生活していく上で、様々なデータベースを利用しています。例えばインターネットの検索エンジンとして最も有名なグーグル検索は、グーグル社が提供する巨大データベースを利用して情報を検索します。コンビニやスーパーに入荷する商品の種類やその分量は、過去の売れ行きデータベースの情報を元に決定されます。天気予報は、過去数十年にわたる天気をデータベース化し、そこから降水確率を算出しています。このように、普段まったく意識することはありませんが、私たちの便利な生活はデータベースによって支えられています。データベースは現代の私たちの生活に欠かすことができない縁の下の力持ちなのです。
■農業に貢献するデータベース
もちろん農業分野においてもデータベースは活躍しています。私たちの研究所で開発されたデータベースをいくつか紹介したいと思います。
・ 農業統計メッシュデータ閲覧システム http://agrimesh.dc.affrc.go.jp/
耕地面積や品目別作付面積、家畜の飼育数などの農業統計情報は、市町村等の行政区画ごとで集計されます (農林業センサス)。この情報はわが国における農林行政の基盤情報として非常に貴重なものですが、地形や気温といった、自然環境の情報を組み合わせるのが困難であるという問題がありました。この問題を解決するため、市町村単位の農業統計情報を約1km四方のメッシュ単位で再集計したデータベースを構築し、地図として閲覧できるようにしたものです。
・ 土壌情報閲覧システム http://agrimesh.dc.affrc.go.jp/soil_db/
あまり知られていないことですが、わが国の土壌は非常に多様な種類から成立しており、その種類によって、作物生産性や、炭素を貯める機能、養分や水などの循環機能などが大きく異なります。そこで、農耕地における土壌の種類と、種類ごとの性質をデータベース化し、その内容がひと目でわかるようにしたものです。
これらのデータベースは、農業現場、研究、教育といった様々な場所で利用されています。
■データベース利用の幅を広げる
これまで紹介してきたように、データベースは、単独でも非常に有用なのですが、複数のデータベースを横断的に利用することで、さらに大きな力を発揮することができます。これを実現するための第一弾として開発したのが 『農業環境情報データセンターgamsDB』( http://agrienv.dc.affrc.go.jp/ ) です。ここには、先に紹介した2つのデータベースに加え、農耕地土壌から出る温室効果ガスの排出量データベース、作物気象データベース、メッシュ気象データシステムという計5つのデータベース由来の様々なデータ収められており、まとめてダウンロードすることができます。複数のデータベースを横断的に利用することで、全国の農耕地から溶脱する窒素の総量を推定するなど、単独のデータベース利用ではなかなか実現できなかった難しい課題が解決できると期待されています。
gamsDB(農業環境情報データセンター)では、複数のデータベースを横断的に利用できます。
■データベースのこれから
近年のIT技術の発展により、農業関連の分野においても様々な情報がデータベース化されています。そのデータベースに収められたデータは、ひとつひとつが、多くの農業者や技術者、研究者の努力や経験から生み出されたものです。この貴重なデータを無駄にすることなく有効利用していくことは、過去の経験を生かし未来につなげて行くという意味において、非常に意義があると考えています。我々の研究グループは、今後も様々なデータベースを構築し、農業現場に役立てていきます。
大澤剛士(農業環境インベントリーセンター)
農業環境技術研究所は、農業関係の読者向けに技術を紹介する記事 「明日の元気な農業へ注目の技術」 を、18回にわたって日本農民新聞に連載しました。上の記事は、平成23年6月25日の掲載記事を日本農民新聞社の許可を得て転載したものです。
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