 |
 |
情報:農業と環境 No.29 2002.9.1
|
No.29
・第22回農業環境シンポジウムおよび第2回有機化学物質研究会:
・サイエンスキャンプ2002が開催された
・オランダ・ワーゲニンゲン国立農科大学
・POPs条約の批准と国内の動向
・地球の周囲が成長しつつある
・Nature, Volume 418 (8 August 2002) に掲載された
・シミュレーションモデルにおける絶滅と空間構造
・本の紹介 84:環境保全型農業
・本の紹介 85:海馬−脳は疲れない−、
・本の紹介 86:Global estimates of gaseous emissions
・報告書の紹介:欧州議会、欧州理事会、経済社会評議会
・報告書の紹介:カルタへナ議定書関係審議会・懇談会中間報告
第22回農業環境シンポジウムおよび
第2回有機化学物質研究会:合同シンポジウムの講演要旨
−残留性有機汚染物質(POPs)による
環境汚染の現状と今後の対策−
|
残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants, POPs)は、環境中で安定であるため地球上のあらゆる場所から検出されており、そのうえ脂溶性であるために食物連鎖により動物の脂肪組織に蓄積されやすい性質を持っている。POPsは、内分泌かく乱作用を有することが疑われており、ヒトをはじめとする動物の種の存続の脅威となっている。このため、POPsに対して人の健康の保護および環境の保全を図るため、2001年5月に「POPsに関するストックホルム条約」が採択された。
現在、わが国では同条約の批准に向けて、国内制度の整備と関連物質の排出抑制対策が重要な課題となっている。優先的に対策を求められている12物質のうちアルドリン、ディルドリン、エンドリン、ヘプタクロール、クロルデン、DDTはわが国で農薬として使用されたことがあり、使用を中止した際に残余の農薬を埋設処分した経緯がある。そのため、これらの農薬による環境汚染が懸念されおり、埋設した農薬の無毒化処理技術の検討が行われている。
このシンポジウムではPOPsについて環境中濃度の実態、生物影響、無毒化処理に関する現状等について問題点を整理し、今後の対策について議論を深めることにより、POPsによる環境汚染を抑制し、国民の生活環境の保全のための研究に役立てたい。
開催日時 |
: |
平成14年9月12日(木)10:00〜17:00 |
開催場所 |
: |
(独)農業環境技術研究所 大会議室 |
講演のタイトルと演者 |
|
1.主催者あいさつ |
10:00〜10:15 |
農業環境技術研究所理事長 陽 捷行 |
|
2.POPs条約の批准と国内の動向 |
10:15〜10:55 |
農林水産省生産局農薬対策室長 澤田 清 |
|
3.農業環境中におけるダイオキシン類の動態 |
10:55〜11:35 |
農業環境技術研究所 殷 熙洙 |
|
4.両生類生態系における難分解性有機塩素系化学物質の挙動 |
|
−過剰肢ガエル発生地を例として− |
11:35〜12:15 |
北九州市環境科学研究所 門上希和夫 |
|
(昼 休 み) |
12:15〜13:15 |
5.水圏生物への残留性有機汚染物質の蓄積と影響評価 |
13:15〜13:55 |
愛媛大学沿岸環境科学センター 岩田久人 |
|
6.POPsの分解技術の現状とその応用 |
13:55〜14:35 |
東京農工大学工学部化学システム工学科 細見正明 |
|
7.難分解性有機化合物の微生物分解機構と分解技術の開発方向 |
14:35〜15:15
|
農業環境技術研究所 小川直人 |
|
(休 憩) |
15:15〜15:30 |
8.化学物質の人への健康影響リスク |
15:30〜16:10 |
国立医薬品食品衛生研究所 関沢 純 |
|
9.総合討論 |
16;10〜17:00 |
講演要旨
1.POPs条約の批准と国内の動向
(農林水産省生産局生産資材課農薬対策室長 澤田 清)
2001年5月スットクホルム会議で「POPsに関するストックホルム条約」が正式に採択され、2002年7月25日、わが国の国会が条約を承認しました。現在、批准に向けての手続き中である。わが国では約30年前に有機塩素系農薬を使用禁止あるいは使用制限した際に残余の農薬を埋設処分したことがある。POPs条約の批准を契機として、これらの埋設処理農薬の安全な処理の技術開発と埋設地点での環境調査を行い、POPsによる環境負荷を極力削減するための施策について行政担当者からの解説が行われる。
2.農業環境中におけるダイオキシン類の動態
(農業環境技術研究所 殷 熙洙)
物質が燃焼するときに生成されたダイオキシン類は、大気や水の循環を介して環境中に拡散し、土壌に蓄積する。一方、農薬など化学物質が製造されるとき副産物として生成されるダイオキシン類が環境中に拡散する。ここでは、われわれの食料である農作物中のダイオキシン類がどこから来るのか、どのようにして農作物へ移行するかについ解説する。また、かって使用された除草剤により農耕地に持ち込まれ、土壌中に蓄積したダイオキシン類の濃度および異性体比率の経時変化を紹介する。さらに、農作物中のダイオキシン類濃度を抑制するための技術、農作物に残留しているダイオキシン類の作物体の分布、除去方法ついての研究成果を踏まえて解説する。
3.両生類生態系における難分解性有機塩素系化学物質の挙動
(北九州市環境科学研究所 門上希和夫)
近年、両生類の生息数が世界的に減少している。これは、開発による生息場所の減少、水質の悪化、紫外線(UV-B)、酸性雨、農薬など化学物質等が複雑に影響していると見られる。
ここでは、北九州市の山田緑地で観察された二本を超える前肢を持つヤマアカガエルの発生原因の解明のために行った研究について紹介する。DDT、PCB、ダイオキシン、ジベンゾフランなどを対象として、カエルの生息環境中濃度、環境からカエル体内への化学物質の移動、母ガエルから卵への化学物質の移動などについて調査した。カエル体内のダイオキシン/ジベンゾフランおよびコプラな-PCBの脂肪換算濃度は、同一性間では対数正規分布をしており、2種のカエル間(ニホンアカガエルとヤマカカガエル)に差が認められなかった。カエルの体内濃度は生息環境の濃度を反映し、秋から春にかけて体脂肪を消費することにより有機塩素系化学物質の体内濃度が上昇する。この時期の化学物質の生体への影響が懸念される。メスは産卵により体内の有機塩素系化学物質が卵に移行する現象や、ダイオキシンおよびジベンゾフランよりPCBがカエル体内へ移行しやすいことおよび2,3,7,8-4塩化ダイオキシン/ジベンゾフランがカエル体内に残留しやすいことが観察されている。
4.水圏生物への残留性有機汚染物質の蓄積と影響評価
(愛媛大学沿岸環境科学研究センター 岩田久人)
水圏生態系は陸生生態系に比べて食物連鎖の階段が多く、水圏に移行したPOPsは食物連鎖により高次栄養段階の生物に濃縮されるため、魚食性鳥類や鯨類に高濃度の蓄積が見られる。生物は化学物質を解毒、分解して体外に排泄する能力を持つ。この役割を担う酵素群がチトクロムP450である。この酵素は微生物、植物から高等動物まで広範な生物に存在する。これらの酵素群は、多様な環境汚染物質の解毒や活性化に関与するほか、同時に生体にとって重要な内因性物質の体内動態や内因性物質が支配する情報伝達系に影響を与える。これらの酵素群は、多様な化学物質の暴露により変化する場合がある。
POPsによる環境汚染の状況把握のため、魚類、魚食性鳥類、水棲哺乳動物は長年汚染の指標生物とされてきたが、生体中に蓄積された化学物質の毒性的影響は種により大きく異なることが予測される。この毒性学的な影響の差を遺伝子レベルで解明することが重要である。水圏生態系には膨大な生物種が存在する。化学物質の体内侵入時に活性化されるレセプターやチトクロムP450酵素群に関する遺伝情報の差が種間差として影響している考えられる。このため、水圏生物へのPOPsの多様な影響をラットやマウス、一部の魚類の実験から評価することは困難である。ここでは、POPsの水圏生態系への毒性発現について、関与する遺伝子産物の遺伝子情報を系統的に研究することの重要性が解説される。
5.POPsの分解技術の現状とその応用
(東京農工大学工学部化学システム工学科 細見正明)
POPs条約の批准のため、各種の国内的な取組みがなされている。なかでも、30年前に使用が規制された有機塩素系農薬が多量に埋設保管されており、これらの農薬の無毒化処理が重要な課題となっている。ここでは、難分解性有機化合物の無毒化処理技術の現状として現在実用化試験が行われている3種類が解説される。それらの方法は、非加熱下で脱塩素を図るメカノケミカル法、アルミナとともに電気溶融させるジオメルト法および高温高圧化で炭酸ナオトリウムにより脱塩素・酸化分解を行う水熱分解法である。すでに、一部のPOPsの分解無毒化処理への適用性について実証試験が実施された。ここでは、これらの技術には、操作性、処理コストの低減化、土壌等の不燃物を含む多様な試料への適応性など問題点について試料実証試験の結果を踏まえて、それぞれの技術が解説される。
6.難分解性有機化合物の微生物分解機構の開発方向
(農業環境技術研究所 小川直人)
有機化合物による環境修復技術として、微生物や植物を利用した技術開発が行われている。ここでは、DDT、ダイオキシンおよびPCBについて微生物などによる分解機能についての解説とともに、特にPCBの微生物分解プロセスについて遺伝子レベルでの制御機構を解説する。PCBは、かって大量に製造されたが、環境汚染を引き起こし、さらにその毒性の強さゆえに使用が禁止された。現在、膨大な量が保管されており、その無毒化処理が重要な課題である。化学的な処理法以外に微生物の持つ分解能力を応用した分解技術は高温、高圧を必要とせず、穏やかに有害化学物質を無毒化することができるため、エコエコノノミーの立場から効果が期待される技術である。ここでは、微生物によるPCBやDDTの分解経路でのキー代謝物であるクロロ安息香酸やクロロカテコールの分解機構について分解遺伝子発現機構を紹介する。これらの成果は、PCB等を分解する遺伝子の組合せの最適化のための重要な情報を提供できる。また、これらの遺伝子群を植物に組み込んでクロロカテコールを植物により分解させる試みなどについて解説する。
7.化学物質の人への健康影響リスク
(国立医薬品食品衛生研究所 関澤 純)
昨今、化学物質の健康影響、とくに環境ホルモン関連の書物やマスメディアの報道などの情報があふれている。しかし、実際の健康影響がどの程度の頻度あるいは確実さで起こるかを具体的に示したものは少ない。化学物質の人の健康へのリスク評価プロセスについて、国際的には評価手法が進展を遂げつつあるが、わが国では評価に使用できるようなデータベースがない。健康影響リスクについてのある種の指標が示されたが、あまりにも単純化し過ぎているのではないか。リスク評価とは、特定のリスクについて生物学的な蓋然性、実験動物で観察される現象が人でも起こりうるか、その内容や強度はどうか、このような内容を科学的なデータと論理的なプロセスで推定するものである。
ここでは、リスクについてその調査方法、健康リスク評価方法、有害性の特定、人における知見、用量−反応関係の評価(遺伝毒性を示すか否か)、暴露評価(暴露のプロセス、暴露濃度、吸収量評価、到達量、有害作用など)、リスクの判定、リスク管理、リスクコミュニケーションについて専門家から解説していただく。
サイエンスキャンプ2002が当所において、平成14年8月21日から23日の期間に開催された。キャンプの趣旨などを以下に紹介する。
1.趣旨
サイエンスキャンプは、科学技術創造立国にふさわしい創造性豊かな青少年を育てて行くために、研究機関のもつ学習資源としてのポテンシャルを最大限に活用した「創造的科学技術体験合宿プログラム」である。この事業は(財)日本科学技術振興財団が主催し、関係研究機関が協力して平成7年から実施されている。
本年度は28機関がそれぞれの研究機関の特徴を活かして、実習・実験を主体とした科学技術体験学習、研究者・技術者との対話、参加者どうしの交流を行う。農林水産関係での受け入れは9機関である。農業環境技術研究所は、平成7年から毎年このキャンプを実施している。
2.農業環境技術研究所における実施内容
環境問題は身近なところから地球規模まで様々な分野で生じている。農業の分野においても、環境の変化によって農業生産に影響が及んでいることはもとより、農業生産にともなって派生する環境への影響が問題になっている。
農業環境技術研究所は、将来にわたって安全な食べ物を生産していくため、土・水・大気を健全な形で保全し、植物や昆虫と共生する農業を目指した研究を行っている。今回の「サイエンスキャンプ2002」では、「さまざまな顔を持つ土壌」、「外来植物による遺伝的な影響を調べる」および「地球温暖化の影響を土壌から見よう」と題して3つのコースを準備した。これらのコースで、青少年が研究者はどのようにして環境問題に取り組んでいるかを体験できた。
1)プログラム
(1)Aコース:「さまざまな顔を持つ土壌」
土壌は作物(植物)の体を支えるばかりでなく、作物に水分や養分を与えている。また、土壌に入ってきたさまざまな物質を、一時的に貯蔵したり、分解したりして、環境変化を和らげる作用もしている。土壌の中では、水分や温度、土壌のもとになる物質などその場の条件に応じたさまざまな作用が働き、独特の顔(断面)ができる。そこで、どのような作用が、どのような土壌断面を作るかを調べた。
●土壌を掘って断面を観察し、土壌を作る作用との関係を調べた。
●土壌標本(土壌モノリス)を作成した。
●土壌モノリスでさまざまな顔をもつ土壌を調べた。
(2)Bコース:「外来植物による遺伝的な影響を調べる」
セイヨウタンポポは、生育地の特徴から、開発の進んだ都市的な環境の指標として捉えられてきた。ところが、これまで外来のセイヨウタンポポだと思っていたものの中に、日本産のタンポポとセイヨウタンポポの雑種が多く含まれていることがわかってきている。遺伝的な情報を用いて、実際に、雑種かどうかを判定したうえで、タンポポの雑種形成を例に、外来植物による遺伝的な影響について考えてみた。
●タンポポのゲノム含量を、フローサイトメーターで測定した。
●雑種を識別し、その割合を解析した。
(3)Cコース:「地球温暖化の影響を土壌から見よう」
近年の化石燃料の大量消費によって、大気中の二酸化炭素濃度が上昇し、地球の温暖化が憂慮されている。気温上昇は、直接的な作物生育への影響だけでなく、昆虫や雑草の生態または土壌環境を通した間接的な影響を作物に及ぼしている。また、温暖化によって降雨量が変わり、干ばつや侵食の多発が懸念されている。そこで、次の調査研究を体験してもらった。
●気温上昇が土壌有機物の分解速度に及ぼす影響を、発生する二酸化炭素濃度から測定した。
●人工降雨装置を使用して、降雨量が増えると土壌侵食量がどの程度変化するか測定した。
2)参加者 |
A |
コース: |
|
|
|
秋山 智史(あきやま ともふみ) |
広島県立西条農業高等学校
|
3年 男 広島県
|
|
花岡 小百合(はなおか さゆり) |
埼玉県立大宮高等学校
|
1年 女 埼玉県
|
|
本慶 忠士(ほんげい ただし) |
広島県立西条農業高等学校
|
3年 男 広島県
|
|
望月 孝祐(もちづき たかひろ)
|
神奈川県立平塚農業高等学校初声分校
|
2年 男 神奈川県
|
|
|
|
|
B |
コース: |
|
|
|
宇野 健(うの たける) |
埼玉県立熊谷高等学校 |
2年 男 埼玉県 |
|
金井 まり子(かない まりこ) |
京都橘高等学校
|
2年 女 奈良県
|
|
中村 傑(なかむら すぐる)
|
神奈川県立平塚農業高等学校初声分校
|
3年 男 神奈川県
|
|
山本 鮎香(やまもと あゆか) |
愛知県立刈谷高等学校
|
1年 女 愛知県
|
|
|
|
|
C |
コース: |
|
|
|
伊藤 吏(いとう つかさ) |
広島県立西条農業高等学校 |
3年 男 広島県 |
|
小林 保(こばやし たもつ) |
茨城県立水戸農業高等学校
|
3年 男 茨城県
|
|
田尻 勇気(たじり ゆうき) |
岐阜県立斐太農林高等学校 |
3年 男 岐阜県 |
|
三嶋 祐子(みしま ゆうこ) |
岡山県立総社高等学校 |
2年 女 岡山県 |
日本科学技術振興財団事務局及びアドバイザー |
|
大野 力(おおの りき) |
(財)日本科学技術振興財団振興部主任 |
|
石島 秋彦(いしじま あきひこ) |
千葉県立柏高等学校教諭
|
3)各コースの講師 |
Aコース |
:
|
小原洋、大倉利明、戸上和樹(農業環境インベントリーセンター土壌分類研究室) |
Bコース
|
:
|
井手任、芝池博幸(生物環境安全部植生研究グループ
景観生態ユニット、組換え体チーム)
|
Cコース |
:
|
谷山一郎、坂本利弘(地球環境部食料生産予測チーム)
|
4)期日 |
:
|
平成14年8月21日(水)午後1時〜8月23日(金)午後3時 (2泊3日) |
5)会場と問い合わせ先: |
|
農業環境技術研究所:〒305−8604 茨城県つくば市観音台3−1−3 |
|
|
Tel:0298−38−8197(情報資料課広報係)
Fax:0298−38−8191 |
オランダ・ワーゲニンゲン国立農科大学
稲専門家養成計画参加者寄贈の絵図
|
(独)農業環境技術研究所の前身であるかつての農業技術研究所(東京都北区西ヶ原)の二階の貴賓室に、縦55センチ、横2メートル20センチにおよぶ大きな絵図があったことを記憶しておられる方があると思う。この絵図は、研究所の移転・再編に伴って筑波の農業環境技術研究所の来賓室にその居場所を変えた。その後、(独)農業環境技術研究所の設立に伴って再び居場所を変え、現在は理事長室におちついている。
幅広い横長の額には、沿岸の風景と町並みと大空が描かれ、左右の上部と下部に小さくラテン語とオランダ語の文字が書かれている。大空の中央には AMSTELODAMUM の文字があって、左右いっぱいに天使やギリシャ神話の神々が舞っている。
アムステルダムの沿岸いっぱいに70艘をこえる大小の帆船が浮かび、帆船の間を10艘をこえる艀(はしけ)が行き交っている。額に描かれた波の刻みは抜群である。沿岸からの自由な往来を遮断するかのように、沿岸全域にわたって柵が張りめぐされており、直接、帆船が岸壁には停泊できないようになっている。柵を通過するための許可を受けた帆船だけが接岸できたのであろう。
沿岸には、6本の川が流れ込んでいる。川縁には、ゴシック風の教会堂や煉瓦造りの高層住宅が建ち並び、当時のアムステルダムの繁栄ぶりが伺われる。右端の田園風景の入り口には、オランダを代表する風車が見える。左端にはオランダの歴史を象徴するかのように、営々として築かれたであろう堤防が、波打つ湾岸とともに描かれている。
この絵図の来歴や由緒などを知る人がいないため、この不可解な絵図の謎解きを試みたので、ここに紹介する。手がかりは、絵図の枠外にある日本語、「オランダ・ワーゲニンゲン国立農科大学稲専門家養成計画参加者寄贈(昭和40年6月9日〜同年7月13日)」と、これとほぼ同じ内容の枠外にある英語、「In gratitude presented by the Participants of the Rice Training Programme from the State Agricultural University of Wageningen, Holland, June 1965 (その下に、消えかかった9人のサイン)」だけであった。
絵図の中のラテン語もオランダ語も理解できないし、その上、これらの文字がそれほど鮮明でない。唯一の手がかりは、9人の参加者のサインである。しかし、このサインも37年の歳月が邪魔をし、文字が明白でない。だだ、最初のサインのBreemen と6番目のサインの Hydendael だけは鮮明に読みとることができた。
あとは、一挙にことはなされた。インターネットで Breemen と Hydendael を探しまくる。幸いにも、Nico van Breemen に行き着くことができた。氏は現在、オランダのワーゲニンゲン大学の土壌科学・地質学研究所の所長であった。早速、インターネットで氏に絵図を送り、当時のいきさつを聞くことができた。
ここからは、氏のメールを紹介する。
大変ありがとう。メールと「アムステルダムの町」と刻まれた絵図の写真を感謝をもって受け取りました。われわれが1965年に学生として過ごした楽しい時を思い出して大変喜んでいます。
”われわれ”は、オランダのワーゲニンゲン大学の9人の学生で、19ヶ月にわたる稲作農業研究のための世界周学旅行の一端で、日本を訪れました。われわれの専門は、それぞれ、土壌科学(van Breemen, Oldeman,Wielemaker)、農業経済(Molster, Heydendael)、かんがい工学(Plantinga, Simons)、植物育種(Hille Ris Lambers)および植物生理学(van Hoogstraten)の学生でした。
ワーゲニンゲン大学の Robert Best 博士の監督のもとで、ポルトガル、スリナム、トリニダード、ジャマイカ、メキシコ、カリフォルニア、ハワイ、日本、台湾、フィリピン、タイ、インド、イラン、エジプト、ヨルダンおよびトルコを訪問しました。日本には、1965年の6月9日から7月13日の34日間滞在しました。われわれの正式な名前は、Nico van Breemen、(Rik) H.C Molster、Pim (W.J.) Plantinga、Wilfried F Simons、Derk Hille Ris Lambers、L. Roel Oldeman、S David van Hoogstraten、Alexander JF Heydendael および Willem G Wielemaker です。
わたしは、オランダ語だけ英訳できます。「アムステルダムの町」の絵図には、次のようなオランダ語が書かれています。「貴族院(Staten Generaal) は、6年の間、Willem 一世”等”にこの「アムステルダムの町」の図版を印刷させ、売買する権利を与えた。その権利は、誰にでも複製、拡大、縮小でき、何処でも売買を許可するというものである。それは、1606年の2月4日の手紙(解読不明)からも明らかである。」
Breemen の注:「貴族院は、7つを総合したオランダの連合議会であった。Willem 一世は、「父なる国の父」で、われわれの今の王室の創設者である。彼は、この絵図が刻まれ印刷される前の1584年に亡くなっているので、”等”は彼の血族を指していると推定する。ラテン語の翻訳については、日本で誰か見つけることができると確信している。あなたが、この覚え書きを何らかの方法で日本に紹介されることを喜んでいる。」
今、オランダは農業技術・研究の輸出国である。イネの研究については、早くから東南アジアの国々を指導している。一方、エネルギーや温暖化の問題についても、早くから世界に先駆けて取り組んで華々しい成果を挙げている。一見、ドンキホーテ的な行動に見えるオランダの研究のあり方は、今も昔も変わらず、決してドンキホーテではないのである。ドンキホーテを笑った読者は、時間の経過と空間の広がりの重要さを反省しなければならないかも知れない。
残留性有機汚染物質 (Persistent Organic Pollutants, POPs) は、環境中で安定であるため地球上のあらゆる場所から検出されている。そのうえ、脂溶性であるため食物連鎖により動物の脂肪組織に蓄積されやすい性質を持っている。さらに、POPsには内分泌かく乱作用物質の疑いがあり、ヒトをはじめとする動物の種の存続の脅威となっている。このため、1997年国連環境会議(UNEP)においてPOPsに対して「人の健康の保護および環境の保全」を図るための条約化が決定された。その後、幾多の政府間交渉が行われ、2001年5月22日に「POPsに関するストックホルム条約」が採択された。
わが国は、この条約を2002年7月25日に国会において承認し、批准手続きを進めている。すでに、国内では条約批准のための諸制度の整備が行われている。今後は、POPsの汚染除去や分解のための技術開発ならびに排出抑制対策が重要な課題になる。
POPs条約で優先的に対策を求められている12物質は、アルドリン、クロルデン、ディルドリン、エンドリン、ヘプタクロル、ヘキサクロロベンゼン、マイレックス、トキサフェン、PCB、DDT、ダイオキシンおよびジベンゾフランである。このうち、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、ヘプタクロール、クロルデン、DDTは、わが国では農薬として使用されたことがあり、使用を中止した際に未使用の農薬を埋設処分した経緯がある。現在、これらの農薬による環境汚染が懸念され、埋設した農薬の無毒化処理技術の開発や環境調査が行われている。
ここに、POPs条約の批准と国内の動向を簡単に整理する。
1.POPs条約の締結
(1)経緯
●1992年6月:地球サミットで採択されたアジェンダ21でPOPsによる地球環境汚染の防止対策の重要性が指摘された。
●1997年2月:UNEP管理理事会で条約化を決定
●1998年6月:政府間交渉の開始
●2000年12月:第5回政府間交渉会議で条約案について合意
●2001年5月:ストックホルム条約採択
●2002年2月:この段階で条約締結国は5ヶ国(カナダ、フィジー、レシチ、オランダ、サモア)、条約は50カ国の締結により発効
●2002年7月25日 条約の国会承認、条約批准国14カ国(7月22日現在)
(2)わが国の条約締結
平成14年2月 条約締結について閣議了承、国会での承認手続き中であり、ヨハネスブルグサミットまでに条約を締結の予定
(ヨハネスブルグサミットとは、2002年8月26日から9月4日まで、南アフリカのヨハネスブルグで開催される「持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)」
2.ストックホルム条約の概要
(1)製造、使用の原則禁止(アルドリン、クロルデン、ディルドリン、エンドリン、ヘプタクロル、ヘキサクロロベンゼン、マイレックス、トキサフェン、PCB)および原則制限(DDT)
(2)非意図的生成物質の排出の削減(ダイオキシン、ジベンゾフラン、ヘキサクロロベンゼン、PCB)
(3)上記のPOPsを含有するストックパイル・廃棄物の適正管理および処理
(4)これらの対策に関する国内実施計画の策定
(5)その他の措置
(1) 新規POPsの製造・使用を予防するための措置
(2) POPsに関する調査研究、モニタリング、情報公開、教育等
(3) 途上国に対する技術・資金援助の実施
3.国内実施計画
(1)条約上の規定
(1) 締約国は、自国でこの条約が効力を生じた日から2年以内に国内実施計画を作成し、条約発効後2年以内に締約国会議に提出する。
(2) 締約国は、自国でこの条約が効力を生じた日から2年以内に非意図的生成物の排出削減または廃絶計画を作成し、実施する。
(3) 国内実施計画の記載する内容
● 非意図的生成物の排出削減の行動計画:排出インベントリーを作成し、具体的な排出削減計画を作成する。
● 疾病管理のためのDDT使用管理の行動計画(わが国は関係なし)
(4) PCBの廃絶の進捗状況の締約国会議へ報告:PCBを2025年までに廃絶するスケジュールの具体的な施策
(5) POPsのストックパイルおよびPOPsに汚染された廃棄物の適正管理・処理の推進
(6) POPsの総生産、輸出入並びに輸出相手国の把握
(7) 適用除外継続の必要性の把握:適用除外継続の必要性、体制整備の現状、計画を取りまとめる。廃絶へのスケジュールの取りまとめ。
(8) POPsに汚染されたサイトの特定の状況および特定のための措置または計画の取りまとめ。
(9) POPsに関する情報の交換、意識の啓発の支援、国際支援、5年後の見直し等
4.POPsのスクリーニング基準(PBI基準)
(1)POPsの特性
(1) 残留性、難分解性 (Persistence)
(2) 生物蓄積性 (Bioaccumulation)
(3) 長距離移動性 (Potential for long-range environmental transport)
(4) 毒性 (Toxicity for adverse effects)
(2)PSBT基準の例
北東大西洋の海洋環境を保護するための条約(OSPAR条約)
(1) 残留性:容易に生分解されない。
(2) 生物蓄積性:log Kow >= 4 または BCF >= 500
(3) 毒性:ヒトに対する毒性(発がん性、変異原性、生殖毒性)
生態毒性(水生生物に対して、急性毒性:L(E)C50 =< 1 mg/L
慢性毒性: NOEC =< 0.1 mg/L
(3)上記基準で懸念される物質
(1) ドデシルフェノール
(2) ジコホル(農薬)
(3) エンドスルファン(農薬)
(4) メトラクロール(農薬)
(5) オクチルフェノール
(6) ペンパブロモエチルベンゼン
(7) EPN(農薬)
(8) テトラスル
(9) 硝酸ミコナゾール
(10) ネオデンカン酸エテニルエステル
(11) ヘキサデカフルオロヘプタン
(12) トリデカフルオロヨウ化ヘキサン
(13) ディオスゲニン
(14) シクロドデカントリエン
(15) urea-, N,N'-bis[(5-isocyano-1,3,3-trimethylcyclohexyl)methyl]-
(16) 2-propenoic acid, (pentabromophenyl)methyl ester
(17) トリフルラリン(農薬)
(18) クロトリマゾール
5.埋設農薬
(1)有機塩素系殺虫剤の使用および使用不能農薬の処分について(昭和46年2月27日付け46農蚕第934号農政局長、畜産局長、蚕糸園芸局長及び林野庁長官通知)
(1) 有機塩素系殺虫剤の稲および家畜飼料作物への使用禁止
(2) アルドリン、ディエルドリン、エンドリンのうり類、いも類、根菜類への使用禁止
(3) 有機塩素系殺虫剤の化学的処理もしくは小規模埋設
その他
(2)有機塩素系殺虫剤等の処分について(昭和46年4月17日付け46農政第2055号農政局長通知):有機塩素系殺虫剤および有機リン系殺虫剤の処分
(1) 埋設場所の選定
地下水汚染を避ける、崩壊する場所を避ける、発掘を避ける。
(2) 処分方法
1ヶ所300kg以内、乳剤は100倍希釈、消石灰などに吸収させる、コンクリートやアスフ ァルトとの混合
(3) 処分実施
病害虫防除員、毒物劇物取扱い責任者、農業改良普及所、保健所の指導を受ける。
多量の農薬を処分する場合は防除協議会や市町村に連絡の上実施する。
(3)農薬安全処理対策事業実施要領の制定について(昭和47年6月16日付け47農政第2956号農林事務次官依命通知)
(4)埋設農薬の実態調査について(平成13年6月5日付け13生産第1738号生産局長通知)
(5)農薬環境負荷低減処理技術等開発事業(424、488千円)平成12〜15年
1万8千年の間スリムになり続けていた地球が、急にずんぐりと太りはじめている。
小さな変動は地球の微妙な力学で説明できるが、今回のような大きくて早い成長を説明することは難しい。最初の衛星が打ち上げられた後まもなく、科学者は地球が完全な球形ではないことを明らかにした。なぜなら、地球は早い勢いで回転しており、大部分が溶解した岩石でできているため、北極から南極の方向より赤道の周りの方が少し幅が広いからである。
1980年代の正確な測定では、地球は実際にさらにより球状になりつつあった。最近の氷河期の後に氷冠部が溶けていくにつれて、それらの重みは両極から取り除かれ、そのため両極の地表面はもとの高さに戻ろうとしていた。
少なくとも、1988年まではこの傾向が続いていた。この4年の間に、そのスリムになる傾向が逆転した。と、Raytheon 社のクリストファ・コックスとNASAゴダード宇宙飛行センターのベンジャミン・カオは語る。「その原因は不明であるが、恐らく説明可能な現象であろう。」と、フランスのトウーローズにある国立宇宙研究センターの地球科学者、アニー・カズナーブは語る。
もし質量が赤道に再分配されているなら、その質量はどこから来ているのか? コックスとカオは、この急な変化は地球の半溶融のマグマの流れによるにしては、あまりにも速すぎると推測している。地球温暖化による氷冠の溶解が、赤道近辺により多くの水を提供していることもあり得るが、観測されるはずの海水位上昇は検出されていない。
そのかわり、研究者達はこの現象の原因の一つが地球の磁場の変化であると考えている。これらの電磁気の変動は、地球の流動性金属からなる中心核が動くと、10年間に1回ぐらいおこる。そのような変化が1999年に生じ、そのため、溶融した金属が極から赤道へ移動したことも考えられると、コックスとカオは示唆する。彼らの根拠は、最近の Science (297, 783-784, 831-833) に発表されている(The Japan Times, 2002/8/8)。
Nature, Volume 418 (8 August 2002)
に掲載された農業環境研究に関する記事
|
2002年8月8日の Nature 誌には、「農業と環境」に関連する記事が数多く掲載されている。2年3ヶ月前に始めた「情報:農業と環境 No.1」の「はじめに」で述べたように、「農業と環境」は、国内外においてますます重要な問題になってきている。
「はじめに」の概要は、次のようなものであった。一つは、グローバリゼーションの問題である。WTO、OECD、IPCC、IGBPなどでの環境保全や地球規模の環境問題が常に農業と関係していること。
ほかは、有害重金属、環境ホルモンなどの化学物質による食物連鎖や、遺伝子導入作物の生態系への影響など、人類が作り出したものによる環境へのインパクト、さらには、農業環境の劣化や多面的機能の低下の問題である。
21世紀に予想される様々な環境問題は、人口問題の解決を抜きにしては考えられない。環境問題は人口問題であり、人口問題は食糧問題で、食糧問題は農業問題である。したがって、環境問題はまさに農業問題なのである。
60億人を超えて増えつつある世界の人口に、大地と水と大気と生物に悪い影響を与えないように食糧を供給するためには、農業生態系の持つ自然循環機能を活用し、健全な食糧を生産することがきわめて重要な課題である。
8月8日の Nature 誌 418 巻 (6898 号) の内容を紹介する。詳細は Nature 誌を参照されたい。
1)Robert, B et al., Ecosystem carbon loss with woody plant invasion of grasslands, Nature, 418, 623-626 (2002):草原への木本植物の侵入に伴う生態系の炭素の減少
砂漠、草原やサバンナに木本植物が侵入すると、一般的には、これらの生態系に蓄積される炭素量が増加すると考えられている。この理由から、低木や森林の拡大は、不確実ではあるが陸上の炭素吸収源のかなりな部分を占めていることも示唆されている。今回われわれは、異なった降水量(年間200〜1100mm)の6カ所で草原への木本植物の侵入を、炭素および窒素の収支や土壌のδ13Cのプロファイルを比較することにより調査した。一カ所当たり2つの草原を調査し、一方は30〜100年前に木本の侵入を受けている草原とした。われわれは草原が木本植生に侵入されると、土壌有機炭素および窒素成分の変化と降水量の間には、明らかな負の相関関係があり、乾燥した場所では土壌有機炭素が増え、降水量の多い場所では土壌有機炭素が減少することを見出した。降水量の多い場所における土壌有機炭素の減少は大きく、植物バイオマス炭素量の増加をうち消すほどであった。これは、土地利用にもとづく現在の評価法が炭素吸収源を過大に評価していることを示唆している。したがって、木本植物の侵入によって貯蔵される炭素が排出量とつり合うとする評価は妥当でない可能性がある。
2)Goodale, C.L. and E.A. Davidson, Carbon cycle: Uncertain sinks in the shrubs, Nature, 418, 593-594 (2002):低木地帯は炭素吸収源なのか?
米国では、草原地帯から低木地帯への変化が大規模に起きている。これにより相当量の炭素が貯蔵されると考えられている。ところが、このような「炭素吸収源」の規模は従来の予測をかなり下回っているかもしれない。気候条件によって結果に相違が認められている。
3)Brief Communication:
Nitrogen cycle: Addiscott, T. and P. Brookes
Replyies: N van Breemen
What governs nitrogen from forest soils?, Nature, 418, 604-605 (2002):窒素循環:森林土壌からの窒素損失を決めるもの
森林土壌から流出する窒素の形態について、三者の論文を中心に論争がおこなわれている。ここでは、植物が窒素を有機態で吸収するか、無機態で吸収するかという、古くて新しい問題も含まれる。その論文は以下のものである。
(1) Perakis, S.S. et al., Nature, 415, 416-419 (2002)
(2) Breemen, van N., Nature, 415, 381-382 (2002)
(3) Pearce, F., New Scientist, 11 (26 January 2002)
4)Tilman, D. et al., Agricultural sustainability and intensive production practices, Nature, 418, 671-677 (2002):持続的農業と集約的生産技術
世界の食糧は50年後に2倍必要になる。このことが、食糧生産の持続性および陸域・海域の生態系とそれらが社会に提供するサービスの持続性の両方にとって大きな難題を突きつけている。農業は、世界中の利用可能な土地の最も重要な管理者であり、地球の表面を今後数十年にわたって、おそらく非可逆的に、形作るであろう。環境の健全性と公衆衛生をそこなわないで生産性を高めるという要求を満たすためには、農業と生態系便益の持続性を確保するための動機(インセンティブ)と政策が必須であろう。
5)Huang, J. et al., Enhancing the crops to feed the poor, Nature, 418, 671-684 (2002):貧しい階層を食べさせる作物生産の増強
「緑の革命」の成功は、過去においては農業技術が食料生産の成長を引き起こすために重要であったことを証明しているが、発展途上国が将来必要とする食料需要にどう対応するかという問題への解決策は、食料の増産よりももっと幅広い問題である。これらの成功にも関わらず、世界はいまだに食料不足の危険に直面している。必要な基金があれば、伝統的な作物育種が遺伝子工学や自然資源管理にもとづく新しい技術とともに、今後数10年の間、生産性を改良し続けると思われる。
6)Hails, R.S., Assessing the risks associated with new agricultural practices, Nature, 418, 685-688 (2002):新しい農業活動に関わるリスク評価
21世紀の重要な課題の一つは、われわれが必要とする食料を生産し、同時に、望ましい地域環境を守るにはどうしたらよいかということである。いま、遺伝子組換え作物を農業にどのように取り入れるかという問題にいかに答えるかに注目が集まっている。同様な考え方は、さらに広いく将来の土地利用変化による環境影響の評価にも適用されるかも知れない。
7)Pauly, D. et al., Towards sustainability in world fisheries, Nature, 418, 689-695 (2002):持続性を目指した世界の漁業
Extinction and spatial structure in simulation models
K. Wiegand et al., Conservasion Biology, 16 (1), 117-128 (2002) |
農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが、その一部を紹介する。
個体群の存続可能性のモデルを作る場合に、個体群内の空間構造が無視されることが多い。個体群の存続と各個体群の空間構造との関係を分析するために、なわばりを持つ樹上性のヤモリの1種(Oedura reticulata)について3つのモデル、(1) 低密度と高密度の両条件下で、樹間の移動が盛んになることによって死亡率が増加するような空間構造を持つモデル、(2) 空間構造を持つが、Allee効果(交尾相手を見つけるコストの増大など、低密度条件が増殖や生存に及ぼす負の効果)を取り除いたモデル、(3) 死亡に密度効果が働かず、かつ空間構造を持たないモデルを開発し、それらのシミュレーション結果を比較した。
空間構造を持つモデル個体群は、空間構造を持たないモデル個体群と比較して、絶滅までの期間が明らかに短かかった。また、空間構造を持つモデル個体群の絶滅までの期間は、Allee効果があるモデルの方が、Allee効果のないモデルより、わずかに短かった。これらの結果は、Ginzburgら(1990)の密度依存性は個体群の存続に正の効果を持つという、よく引用される主張とは異なる。全てのモデル個体群において生息場所が小さいと絶滅リスクは大きくなったが、空間構造を持つモデル個体群は、密度に依存せず空間構造を持たないモデル個体群と比べて、特に小さな生息場所に高密度で生息している場合には、なわばりを見つけることが困難であるために死亡率が高まり、個体群の絶滅までの期間が顕著に短かくなった。このように、なわばりを持つ生物個体群のモデル化においては、空間構造を考慮して個体群の存続可能性を分析すると、絶滅リスクの推定にかなりの影響を生じることが判明した。
本の紹介 84:環境保全型農業
10年の取り組みとめざすもの
平成13年度環境保全型農業推進指導事業
全国農業協同組合連合会・全国農業協同組合中央会編 (2002)
|
環境保全型農業に関して、国内における地際、世界における国際、そして現在と未来のあいだの世代関係のあるべき姿を、誰が代表して考察するのか。となれば、その第一人者は知識人である。しかし、近現代において、知識人は衰退する一方である。そのかわりに、特定分野の情報に長けた専門人が増えてきている。その傾向が、いわゆる高度情報化の動きのなかでさらに加速させられている。知識を総合的に解釈する者が少なくなって、知識を部分的に分析したり、現実的に利用するものがわがもの顔をしはじめたということである。その上、多くの専門人はその分野の責任を避けるため、専門に没頭しているかのようにも見える。とくに環境問題は、知識人たることがきわめて難しい分野である。
本書の第1章「環境保全型農業10年の動きとこれからの方向」は、環境保全型農業に関して上述の疑問を払拭してくれる。わが国の環境保全型農業を、国際、学際そして地際の観点から見ている知識人の書いた章だからだ。環境保全型農業とは何かが、米国、EU、日本において比較される。また、環境保全型農業に関連する国内の最近の政策が紹介される。これらの背景の後に、全国環境保全型農業推進会議の歩みが、推進憲章、行動方針、推進コンクールなどの説明とともに語られる。続いて、環境保全型農業の現状が解説される。ここでは、世代間に関わる担い手の問題、具体的な肥料・農薬の節減程度、環境保全型農業に取り組む農家数、エコファーマーなどの紹介がある。これらのことからも、地際をその領域に入れなければ環境問題の解決は成立しないことが解る。
第1章では、環境保全型農産物における認証問題が、有機農産物の検査認証、特別栽培農産物の栽培基準の検討、環境にやさしい農産物の認証の観点から書かれている。環境保全型農業と環境指標という項では、農業者の環境問題意識、地下水の硝酸汚染が紹介される。
最後の「これからの方向」が、将来の環境保全型農業にとって重要になると考える。それは、1)地域資源循環、2)地下水の硝酸生窒素濃度に配慮した土壌管理、生産物の安全性と生物多様性の保全に配慮したIPM、4)有機性廃棄物の循環的農業利用、5)地球温暖化ガスの削減に対する貢献、6)安全・良質な農産物の流通を保証するシステムの確立。目次は以下の通りである。
まえがき
第1部 環境保全型農業の取り組みの現状と方向
第1章 環境保全型農業10年の動きとこれからの方向
第2章 農協における環境と調和した持続的農業の推進に関する調査
第2部 第7回環境保全型農業推進コンクール受賞事例
■大賞8事例 |
酪農家と協力してクリーン農業−キャベツ産地を育成−: |
北海道しかりべつ高原野菜出荷組合(鹿追町) |
北の国から自然純米をお届けします: |
青森県中里町自然農法研究会(中里町) |
循環型社会の一翼をめざして: |
茨城県有限会社森ファームサービス(三和町) |
「おいしい、楽しい、健康野菜」の合い言葉で取り組む減農薬・減化学肥料栽培トマト: |
石川県松任市農業協同組合トマト部会(松任市) |
地域への貢献をめざした環境にやさしい米づくり: |
岐阜県アイガモ稲作研究会(羽島市) |
町全体で実践する環境創造型農業「有機の里いちじま」: |
兵庫県市島町 |
堆肥を活用した地域資源循環型農業: |
広島県高堆肥センター利用組合(庄原市) |
総合産直組織の発展経過と生産情報開示の取り組み: |
長崎県農事組合法人ながさき南部生産組合(北有馬町ほか) |
その他の各賞 |
参考資料 |
本書は、「まえがき」にもあるように、国民のニーズである安全な農産物の供給や農業の環境保全型機能を高めるため、JAグループが環境負荷の少ない持続的な環境保全型農業の推進に取り組んで、その結果を毎年刊行しているものの一つである。
JA全中・全農では、平成4年から農林水産省の補助を受け、環境保全型農業の先進事例紹介を実施してきた。このねらいは、環境保全と経営成立の諸条件を総合的に検討し、各地の普及・推進の参考に供するためである。平成7年度からは全国環境保全型農業推進会議によるコンクール受賞事例も紹介している。
本年度は、この事業に取り組み10年目にあたることから、この10年間で環境保全型農業の取り組みがどう変わったかを総合的に検討し、これからの推進方向を明らかにする目的で、全国のJAに協力を仰ぎアンケート調査を行っている。第1章が総合的な検討の結果である。
調査結果によれば、環境保全型農業の推進体制や生産農家の取り組みも、格段の前進がみられ、より安全な国産農産物の供給や、地産地消運動により地域農業を守る動きも活発である。各自治体および団体の先進事例や要望・提言なども多数寄せられている。しかし、輸入農産物の増加や国内農産物価格の低迷、農業従事者の高齢化、農地の荒廃化、農業をとりまく情勢が厳しいなどという意見もある。こうした状況の中で、地域における農業環境問題の存在は、依然として大きな課題である。この事業が継続的に成果をもたらすことを希望する。
本の紹介 85:海馬−脳は疲れない−
池谷裕二・糸井重里著、朝日出版社
(2002) 1700円 ISBN4-255-00154-5
|
等閑:夏休み。そのうえ酷暑なので、「情報:農業と環境」から逸脱して、暑さを払拭すべく「脳」に関する本を紹介する。「脳」が涼しいと思えば、体は涼しいのです。
「脳の本」といえば、だれしもあの天才的でユニークな養老孟司氏に思いあたるであろうが、今日は、新進気鋭の東京大学助手の池谷裕二氏(1970年生)の本を紹介する。氏は4年前、「海馬」の研究で薬学博士号を取得した。これほど若いのに、講談社ブルーバックスの本、「記憶力を強くする−最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方−」がある。
本書はすべてが対談形式で書かれており、とても読みやすい。相手は、テレビジョンでもよく見かける糸井重里氏。糸井氏の本当の職業がなんであるかは、よく知らない。本書を読んでいると、猛然と勇気がわいてくる。仮に若いときこの本を読んでいたら、この本を紹介している私でも、天才になれたかと思わせるような説得力のある「脳」の話である。いわく、「30歳を過ぎてから頭は良くなる」、「脳は疲れない」、「やりすぎてしまった人が天才」など。
本書は、30歳前後の人に、「夢と希望とノーベル賞」を、60歳前後の人に「夢と希望と老後のあり方」を提供してくれる。しかし、これに類似したことは、江戸期の儒学者、佐藤一斎も言っていたような気がする。「少にして学べば即ち壮にして為すことあり 壮にして学べば即ち老いて衰えず 老いて学べば即ち死しても朽ちず」と。本書をまとめた内容は、以下の通りである。
第1章 脳の導火線
「もの忘れがひどい」はカン違い。脳の本質は、ものとものとを結びつけること。ストッパーをはずすと成長できる。30歳を過ぎてから頭はよくなる。脳は疲れない。脳は刺激がないことに耐えられない。脳は、みたいものしか見ない。
第2章 海馬は増える
脳の成長は非常に早い。脳は、わからないことがあるとウソをつく。人間が整理できる記憶は7つぐらい。海馬は増やせる。旅は脳を鍛える。脳に逆らうことが、クリエイティブ。「これが、他人の悩みだったら・・・」が、悩みを解決するコツ。
第3章 脳に効く薬
記憶力をを増す食べ物は、あることはある。やりはじめないと、やる気は出ない。寝ることで記憶が整理される。酸化することは腐ること。失恋や失敗が人をかしこくする。生命の危機が脳をはたらかせる。
第4章 やりすぎが天才をつくる
やりすぎてしまった人が天才。予想以上に脳は使い尽くせる。問題はひとつずつ解こう。言ってしまったことが未来を決める。他人とつながっている中で出た仮説には、意味がある。
本の紹介 86:Global estimates of gaseous emissions
of NH3, NO and N2O from agricultural land,
IFA and FAO, Rome, 2001
(2002) ISBN 92-5-104689-1
|
本書は、作物生産のために圃場に施用された化学肥料と堆肥から発生するN2O、NO、および揮散するNH3 を世界的規模で推定したものである。これらの定量化は、窒素肥料の使用効率を推定したり、大気汚染、生態系の酸性化や富栄養化への影響を知る上で重要である。
本書は文献のまとめと、 N2O とNOXの発生および NH3の揮散に関わる規定の要因(たとえばN供給割合)と測定技術を考察したものである。モデル式を使った地球規模での年間発生量は、耕地と牧草畑からN2O-Nは350万トン、NO-Nは200万トンである。肥料のタイプにより推定すると、肥料由来の発生量はそれぞれ90万トンと50万トンで、それらは、施肥窒素のそれぞれ0.8および0.5% に相当する。NH3 の揮散は、施用した化学肥料の14% に相当する。一方、家畜堆肥からは22% (途上国から60%)である。ある種の肥料からの NH3 揮散は予想していた値より高いようである。
以上が本書の概要である。目次は以下の通りである。17枚の表と12枚の地図と3枚の図が大変役立つ。
1. Introduction
2. Regulating factors
3. Measurement techniques
4. Measurements
5. Global estimates
6. Conclusions
Annex 1: Maps
Annex 2: Table
References
報告書の紹介:欧州議会、欧州理事会、経済社会評議会
および地域委員会への欧州委員会報告;
ライフサイエンスとバイオテクノロジー
(第2部:行動計画)
|
COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT,
THE COUNCIL, THE ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE AND
THE COMMITTEE OF THE REGIONS
Life sciences and biotechnology - A Strategy for Europe
(2002/c 55/03)
COM(2002) 27 final |
「欧州議会、欧州理事会、経済社会評議会および地域委員会への欧州委員会報告:ライフサイエンスとバイオテクノロジー−欧州のための戦略」(COM(2002)27 final 2002/c55/03)をEC官報(2.3.2002)
仮訳した文章の中には原文の内容が的確に表現されていない部分もあると思われるので、確認していただきたい。なお、本報告書を読むにあたり、参考となる資料を脚注に加えた。
1.潜在力を手に入れる
・ 人への投資
行動1
委員会は、加盟国1)の所管官庁とともに、知識社会における学習に関する10ヵ年目標2)のなかで、ライフサイエンスに関する教育の必要性を確認し、教科課程と教員養成の勧告を行うことによって:
a) ライフサイエンスに関する幅広い教育と理解を強化し、
b) ライフサイエンスの熟練労働者を伸ばし、養成する。
欧州共同体の支援は、コメニウスプログラムとエラスムスプログラム*のもとで提供される。
c) 生涯学習に関する欧州圏の文書3)で提示したように、委員会は加盟国、産業界、学界やほかの組織とともに社会人教育を促進する対策を行い、また科学技術労働者の現在の能力の再活性に取り組む。欧州共同体の支援は、レオナルドプログラム**で提供される。
d) 専門分野の横断的交流を活発にする目的で、委員会と加盟国は、専門科学者のための討論フォーラムを支援する必要がある。専門分野が交流する場所で、極めて重要な発見が生み出されることが多い。欧州共同体の支援は、エラスムスプログラムで提供される。
実施者:加盟国、委員会、民間部門
期間:2003年〜2010年
|
1)行動計画に関して加盟国に言及している個所で、委員会は加盟予定国と参加について検討する。
2)欧州理事会への教育理事会報告5980/01。
3)COM(2001) 678。
*:コメニウスプログラム(Comenius Programme)およびエラスムスプログラム(Erasmus Programme)は、欧州共同体の教育プログラム(ソクラテスプログラム)の一部で、それぞれ、初等中等の学校教育と、高等教育とを扱う。
**:レオナルドプログラム(Leonardo Programme)は、欧州共同体の職業訓練実施プログラム。
行動2
委員会は加盟国と次のことを調査する
a) 求人募集の効果的な通信に関連して、熟練労働者を就職の機会に合わせる効率的な方法、定着した会社との共同研究、利用可能な雇用の条件を認識した労働者を確立するための機会と最良の方法、
b) 科学者を引きつけ、保持し、頭脳流出を避けることが可能な対策。これを達成するために、文書「研究領域の流動性戦略」4)の下で開始される新計画が具体的な参考になるだろう。これは、欧州連合において研究者とその家族の総合的な環境を改善することを目指している。今度の第6次枠組み計画(2002年〜2006年)によって提示された、流動性の機会の拡大、参加に関心をもつ加盟予定国とより具体的には、この方策は外国の研究者を引きつけることと、世界の他の国で定住している欧州連合の研究者の帰国とを支援することに、十分な注意を払う。
実施者:加盟国、委員会
時期:2003年以降
|
4)2001年12月20日の理事会決議で補足された「欧州研究圏における流動性戦略の強化」に関する2001年6月20日のCOM(2001) 331 final。
知識を生み出し、開発する
研究
行動3
委員会は、欧州研究圏の創設に貢献することを目的とする2002年から2006年までの次期枠組み計画のもとで、ライフサイエンスとバイオテクノロジー研究、技術開発、デモンストレーションと養成の活動のための支援を強化する。
バイオテクノロジー研究は、次のことを含めた優先事項のもとで支援される:
1:健康のためのゲノミックスとバイオテクノロジー
3:ナノテクノロジー
5:食品の品質と安全
6:持続可能な開発
7:公民とガバナンス
具体的な対策は、中小企業の参加、国際協力、研究者の流動性と研修を促進することを提供する。
卓越した総合プロジェクトのネットワークという新しい手段は、欧州全域の共同研究の目的、限界質量の達成、ならびに行政手続きの簡易化を促進するだろう。
委員会と加盟国は、欧州投資基金(EIF)と協力して、バイオテクノロジー研究を支援し、競争的なバイオインフォマティクス*のインフラストラクチャーを開発する必要があり、そして、コンピュテーショナルバイオロジー*、生物医学情報科学の研究の発展に対する支援に集中する必要がある。
実施者:加盟国、欧州投資基金、委員会
時期:2002年〜2006年
|
*:バイオインフォマティクスとコンピュテーショナルバイオロジーの用語の使い分けについては、下記のウェブページが参考になる
http://www.bisti.nih.gov/docs/CompuBioDef.pdf (該当するURLが見つかりません。2015年10月)
管理と法律上のサービス
行動4
具体的な管理と法律上の技能の供給を強化するため:
a) 加盟国と各国のバイオテクノロジー協会は、国レベルでバイオテクノロジー企業管理者の自立したネットワークをつくる機会を検討しなければならない。
b) 加盟国と委員会は、バイオテクノロジー企業が必要とする特定の法的能力を開発するために、法科大学院、法律事務所と企業の間の協力を促進しなければならない。
実施者:加盟国、大学等、弁護士協会、委員会
時期:2003年以降
|
知的所有権の活用
行動5
研究開発と革新の誘因として機能する、強力で、一致した、経済的に入手可能な欧州知的所有権保護システムは、次のことによって完成される:
a) 加盟国はバイオテクノロジーの発明の法的な保護に関する指令98/44/ECを国内法令の中に直ちに移行し、
b) 理事会は欧州共同体特許法を採択し、
c) 加盟国と委員会は公的研究による知的所有権の所有に関する規則を明らかにし、研究と革新に対する特許法の実施の効果を監視し、
d) すべての研究と革新の過程において、知的所有権(IPR)の戦略的使用を訓練することの自覚を助長し、大学等における研究成果の商業化の可能性についての自覚を高め、企業家精神と、大学等と企業との間の移動を奨励し、
e) バイオテクノロジー発明の特許保護に関する工業先進国との公平な競争の場に向けた業務を目的に、国際的な対話と協力を促進するための手段を講じ、この分野の革新のための効果的な保護水準を確保する。
実施者:加盟国、理事会、委員会
時期:2002年以降
|
資本基盤
行動6
委員会は、欧州投資銀行(EIB)および欧州投資基金(EIF)と協力し、次のようにして、バイオテクノロジー産業界の資本基盤を強化しなければならない:
a) 委員会と欧州投資銀行グループとの間で、2001年6月に調印され協力合意に基づき、相互補足的な資金調達によって、研究と技術革新への投資を刺激することにつとめ、
b) 欧州投資基金の企業立ち上げ事業を介して、インキュベーター*への投資を刺激することにつとめ、
c) 特許プールへの資金調達や他の特許活用の方法のような、技術移転メカニズムを支援するための対策を検討し、
d) 中期的投資の観点から、企業の商業上の資金調達を促進するための対策を検討する。
実施者:欧州投資銀行グループ、委員会
時期:2002年以降
|
*:ビジネス・インキュベーター(business incubator;事業の育成・創出)については下記のウェブページが参考になる。
http://www.janbo.gr.jp/imc/recture/0901.html (対応するURLが見つかりません。2012年8月)
行動7
委員会は、資本供給の分野の政策立案についての助言を提供する主要な関係者を加えることによって、バイオテクノロジーと財政のフォーラムの仕事を強化する。
実施者:委員会
時期:2002年
|
欧州バイオテクノロジー共同体のネットワーク化
欧州内ネットワーク
行動8
委員会は:
a) 情報への自由なアクセスと、利用可能なインターネット・プラットホーム*のネットワーク化とを可能にするように、欧州の商業的バイオテクノロジーのウェブポータル**の構築を支援する。このウェブポータルの内容は、経済的な実行可能性と継続した需要の要件に基づいて規定する必要がある
b) バイオテクノロジーに関する委員会の作業への幅広い入力プラットホームを提供するために、新しく委員会ウェブサイトを構築する
実施者:委員会
時期:2002年と2003年
|
*:ネットワークやコンピュータシステムにおいて、さまざまなサービスや利用を提供する基盤となる機器や基本プログラム。
**:ある目的のためにインターネットを利用するときに、利用者が最初に表示すると便利な総合ページ。ニュースやリンク集などの情報提供機能、情報検索機能、掲示板機能、メール機能などを備えている。
行動9
加盟国、それらの地域、委員会、および欧州投資銀行は、次のことを支援しなければならない:
a) より強い地域間協力、たとえば、バイオテクノロジー地域のネットワークによる協力。国境を越えた地域間の協力は、地域間計画(とくにInterreg IIIBとIIIC*)から財政支援を受けることができる。
b) バイオテクノロジー・クラスター**のネットワーク。さらに、委員会は、特定の科学分野において優れた中心をもつクラスターを開発する能力を重視するため、欧州内でのバイオテクノロジーの技術革新クラスター間の競争を組織する。
実施者:加盟国、各地域、欧州投資銀行、委員会
時期:2003年〜2006年
|
*:Interreg IIIは、欧州内の地域間協力を促進するための2000年から2006年までの欧州共同体イニシアティブ。国境をはさんだ隣接地域間の協力(IIIA)、複数国を含む大きな地域グループの形成(IIIB)、欧州地域間の情報交換ネットワーク(IIIC)の3つの要素からなる。
**:クラスターとは、ある地域で有力な特定の産業を核として、さまざまな周辺産業をになう企業や機関から形成される地域的産業集団。一般に、産業クラスター(industries cluster)と呼ばれる。
公的当局のための先を見越した役割
行動10
委員会は次のことを確立する:
a) 競争力を監視する機能とバイオテクノロジーの競争力に責任をもつ加盟国省庁の連絡ネットワーク。監視には欧州の競争力に対する法律と政策措置の影響を含まなければならない
b) 欧州の競争力に影響する問題の解明を助けるための産業界と大学等によるバイオテクノロジーの競争力助言グループ。このグループは、ライフサイエンスとバイオテクノロジーについての委員会の定期的な報告に情報を提供する。
実施者:加盟国、委員会
時期:2002年
|
行動11
行政手続きの透明性:
a) 委員会と加盟国は、規制当局として、規制プロセスを通して、承認を申請している申込者、とくに新設会社と中小企業を援助しなければならない
b) 委員会は、規制や法律の分野の人員や専門知識が限られているユーザーや起業家のための欧州共同体規則の手引きを発行する。このような手引きは、EU以外の地域(発展途上地域)の申請者や一般の人々にも便益がなければならない。
実施者:a)加盟国、委員会、b)委員会
時期:2003年以降
|
行動12
関係者と協力して、委員会は、バイオテクノロジー企業のクラスター形成と、ビジネス・インキュベーターの仕事に関する優良規範(good practice)*をベンチマーク**し、その結果を普及する。また、委員会は加盟国とも、既往のベンチマーク組織にに加えて、バイオテクノロジー政策に関連する要素をベンチマークするための計画をを確立する。
実施者:委員会
時期:2003年以降
|
*:優良規範(good practice)については下記のウェブページが参考になる。
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)
**:ベンチマーキング(benchmarking)は、経営用語では、他社の優れた事例(good practiceあるいはbest practice)と自社の業務とを比較・分析し、数値的評価を用いて、自社の業務効率を向上させる、継続的な経営改革手法。公的機関等の改革でも使われる。下記のウェブページが参考になる。
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)
2.責任ある政策の重要な要素:ライフサイエンスとバイオテクノロジーのガバナンス
社会の精密な調査と対話
行動13
委員会、加盟国、団体、公共機関、およびそのほかの関係者は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーについての理解と情報の交換を開発するために、さまざまなレベルで組織立てた対話に携わらなければならない。委員会は、公衆討論にすべての重要な関係者の動員を促進、財源の限られた利害関係者の参加に便宜をはかる。
とくに:
a) 委員会は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの欧州戦略の成果として、利害関係者と一緒に実施する対話と追跡調査の手順についての枠組みを提案する。この枠組みには、広範囲の利害関係者のフォーラムがとくに含まれる。この手順で、委員会は、(予防原則の適用、リスクマネージメントの役割、監視、保護対策と規制決定の撤回可能性など)欧州規則の取り組みをより適切に説明するためにイニシアティブをとる;
b) 科学的不確定性、ゼロリスクがありえないこと、相対リスク、その科学は絶え間なく発展し、そのためわれわれの管理基準が絶え間なく進歩すること、およびリスクアナリシスの過程における各段階間の接続関係のような規制監督の基礎となる重要な科学的パラダイムの認識を促進するため、委員会がイニシアティブをとり、また科学者団体や他の利害関係者に支援することを求める。欧州食品安全機関と欧州医薬品審査庁は、それぞれの分野において、リスクアセスメントの結論の科学的な背景などの総合的なリスク・コミュニケーションにおいて重要な役割を果たす;
c) これらの2つのイニシアティブのほかに、委員会は、特定の技術開発に焦点をあて、このような開発について、社会の関心を高めた潜在的な便益とリスクについて、早期に情報を提供するため、患者グループ、農民や消費者などのような特定の利益団体を含めて、科学者、産業界、市民社会の間での、バイオテクノロジーについての公衆討論を奨励する。科学者団体と産業界の開発者は、それらの生産物の背景と便益についてそれぞれ積極的に説明する責任がある。
実施者:加盟国、産業、大学等、市民団体、欧州食品安全機関、欧州医薬品審査庁、委員会
時期:2002年以降
|
倫理的価値基準ならびに社会の目標と調和するライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発
行動14
委員会は、将来の報道を促進し、バイオテクノロジーとライフサイエンスの応用について社会が判断するために十分な根拠を提供するため、農業・食料生産におけるバイオテクノロジーの利用の便益の評価基準を含め、社会経済と倫理にかかわる問題の研究と成果の普及に対する欧州共同体の支援を強化し、集中する。委員会は、情報の普及と討論の有力な構成要素になるべき便益と不利益/リスクのもっと組織的な位置づけのための研究支援を計画する。
倫理的、法律的なかかわりは、生命倫理研究への資金助成と、受理された研究提案の倫理レビューによって、欧州共同体が支援した研究をできるだけ早い段階で考慮されることを委員会は確保する。
実施者:委員会
時期;2002年〜2006年
|
行動15
委員会は、倫理に関する欧州グループの役割を強化することを提案する。さらに、委員会は組織や手続きの改善について、ほかの共同体機関との別の協議を開始する。委員会は、また国と地方の倫理組織および選ばれた代表者のネットワーク化を推進することによって、欧州共同体、国、地方のレベルの間での協力を増進する。委員会は、特定の社会経済的な状況について、特別に助言を得るために、大学や企業の専門家のネットワークを組織する。
実施者:倫理団体、立法部、委員会
時期:2002年
|
行動16
委員会は、欧州議会と共同で、欧州連合レベルの倫理問題の検討結果を知らせるための窓口対策を開発する。
一方、文化的多元主義を尊重して、委員会は、倫理ガイドライン/基準あるいは最良事例(best practise)*についてのコンセンサスを確立できる領域を明確にするために官民協力者と一緒に作業を行う。領域としては、幹細胞研究、バイオバンク、異種移植、遺伝子検査、研究における動物の使用などがあげられる。このようなガイドラインは、適切な場合には、科学者団体や産業界の自己規制イニシアティブの形態をとることもできる。
実施者:欧州議会、加盟国、地域、産業界、団体、委員会
時期:2002以後
|
*:最良事例(best practise)については下記のウェブページが参考になる。
(対応するURLが見つかりません。2010年5月) あるいは
情報に基づく選択による需要から生まれた応用
行動17
委員会は、加盟国、農業者やほかの民間事業者と協力して、伝統的農業や有機的農業生存と、遺伝子組換え作物との持続可能な共存を確保するための農業対策と他の対策について、その必要性を明らかにするための研究と実験的プロジェクト、可能な選択肢を開発するためにイニシアティブをとる。さらに委員会は農業における現在の遺伝資源を保護することの重要性を認識し、欧州共同体内の農業における遺伝資源の保全、特性調査、収集と利用のための新たな行動計画を開始する。
実施者:加盟国、専門団体、他の事業者、委員会
時期:2002年以降
|
科学に基づく規制監督に対する信頼
薬事法
行動18
欧州議会と理事会は、次の措置を含めて、欧州共同体の薬事法を修正する3つの法案を速やかに採択することを求める:
a) 科学的助言を与えるシステムを開発し、強化すること、また、欧州医薬品審査庁(EMEA)の科学委員会に専門委員会と常設作業部会を設置して、高い水準の専門知識へのアクセスを拡大すること。専門知識の水準の向上は、バイオテクノロジー医薬品の品質、安全性、効力の各側面面についての欧州ガイドラインの改訂や開発にも役立つ;
b) 公衆衛生に大きな利益がある製品に対して、医薬品の評価と認可が短期間で行える迅速な手続きを導入すること;
c) 1年間有効であり、更新可能な仮認可を与える手続きを導入すること。これは、公衆衛生に大きな利益があるが、ある調査がまだ進行中であり、その調査が終了するまでの期間、暫定的に市場に出された製品に与えられる。
実施者:欧州議会、理事会
時期:2002年
|
遺伝子組換え生物(GMO)法規
短期の規制行動
行動19
議会と理事会が、次の2つの法案の採択を早めることを求める:
a) 遺伝子組換え生物のトレーサビリティ*と表示、および遺伝子組換え生物に由来する食品・飼料のトレーサビリティに関する欧州議会と理事会の規則の提案。
b) 遺伝子組換え食品と飼料に関する欧州議会と理事会の規則の提案。
実施者:欧州議会、理事会
時期:2002年
|
*:トレーサビリティ(追跡可能性)とは、植物の栽培あるいは家畜の飼育から、流通、加工を経て、食品・飼料として購入されるまでの記録などが保持され、必要に応じて経路をたどることができること。
行動20
委員会は、遺伝子組み換え植物繁殖資材、環境責任とバイオセーフティ議定書の実施のように、すでに発表された法案を完成させるために、その作業を継続する。
実施者:欧州議会、理事会、委員会
時期:2002年〜2003年
|
実施と施行の活動
行動21
委員会は、法規が欧州共同体中に一様で効果的な方法で施行されることを確保し、また、検出と試料採取の方法について必要な指導など、関連法規法のもとで要求される適切な実施対策を採用する。委員会は、遺伝子の組換えに関する情報を含む、公衆が利用できる分子目録を確立する。
実施者:委員会
時期:2002年〜2003年
|
特定の長期の規制行動
行動22
委員会は、中央に集中させた欧州共同体の認可手続きを含め、環境への意図的放出のためのGMOの認可に関する枠組みの整合性と効率性をさらに改善るため、選択肢の実行の可能性について報告する。
実施者:委員会
時期:2003年
|
行動23
委員会は、従来の作物と比較したGMOの長期環境影響の可能性を監視する方法、および、従来の食品や飼料と比較した遺伝子組換えの食品や飼料の影響を監視する方法の開発を支援する。欧州食品安全機関の設立によって、新たなリスクの早期確認作業が強化され、改善されることになる。
実施者:委員会
時期:2002年
|
3.世界の中の欧州−世界的な課題への対応
国際協力のための欧州アジェンダ
行動24
委員会は、国際的な科学的コンセンサスに基づき、関連部門における国際的なガイドライン、基準と勧告の開発において、先導的な役割を果たし、とくに、食品の安全性の問題を取扱う、一貫した、科学に基づく、焦点の合った、透明性のある、包括的、統合的な国際システムの開発を押し進めていかなければならない。
実施者:委員会
時期:2002年
|
開発途上地域に対する欧州の責任
農業
行動25
委員会は、加盟国と協力して、次のことを支援する:
a) 地方の農民とともに進展させた優先事項に基づいて、従来の技術と新技術の適切な混合のための各国の研究を再検討すること。
b) 欧州条約で定められた国際協定に従って、開発途上国と欧州連合における官民の研究組織の間の効果的な研究協力と、このような協力に参加するための開発途上国の適切な能力やインフラストラクチャーを確立する。
c) 地域内組織、地域別組織、国際組織、とくに、国際農業研究センター。
実施者:加盟国、委員会
時期:2002年以降
|
遺伝資源
行動26
委員会と加盟国は、開発途上国における遺伝資源の保全と持続可能な利用と、それらの利用から生まれる便益の開発途上国への公正な分配を支援する:
a) 遺伝資源と伝統的な知識を保全し、持続的に利用し、そしてアクセスを提供し、さらに、知的所有権の保護によって生み出される収入を含め、それらから生まれる便益を公正に配分するための効果的な対策の開発と実施を支援する。地域の共同体への支援は、地域固有の知識と遺伝資源を保全するために必須である;
b) 関連する国際条約の交渉に、開発途上国からの代表者が参加することを支援する。
c) 国際的協定に従って、遺伝資源に由来する製品のアクセス、便益、あるいは貿易における不均衡を最小限に抑えるための法規によって、もっと広範囲な地域協調を促進する対策を支援する。
実施者:加盟国、委員会
時期:2002年以降
|
健康
行動27
委員会と加盟国は、HIV/エイズ、マラリア、結核や、ほかの貧困と関係する主要な病気と戦う方法を研究するという公約を具体化するため、国際組織とともに努力しなければならない。さらに開発途上国が保健衛生政策を展開するために必要な組織の設立について、開発途上国を支援する有効な対策を明らかにしなければならない。
実施者:加盟国、委員会
時期:2002年以降
|
責任をもった、慎重な利用
行動28
委員会は次のことを支援しなければならない:
a) 自主的な選択と国内開発戦略に基づいた、開発途上国における現代のバイオテクノロジーの安全で、効果的な利用;
b) その国で一般的となっている条件の下で、開発途上国が人と環境に対するリスクを評価、管理する能力を高める対策;
c) カルタヘナ議定書の適切な実施のための、開発途上国における適切な行政、法的、規制的対策の開発;
d) 社会、経済、環境への影響に関する国際的研究が、開発途上国で一般的になる条件を考慮して、効果的に適合できるようにすること。また、その知見が適切な方式で、開発途上国に伝えられること;
e) 国際的規制要件は、開発途上国によって管理可能なものにし、それによって開発途上国の貿易や生産の将来性を妨げないこと。
実施者:委員会
時期:2002年以降
|
4.各政策、分野、関係者にわたる実施と一貫性
行動29
委員会は次のことを強化する:
a) 新たに出現した問題と政策措置の要素とを早期に確認するための、委員会の各部局を横断した総合的な先見的機能、とくに予測技術研究所(IPTS)*による技術の予測の役割
b) 次のことを評価するための委員会の監視と再検討の機能
− 法規と政策の関連性、一貫性と有効性、
− 政策目標の達成と法規施行の程度、
− 法規と政策措置の社会的・経済的影響。
これらの目的を追求し、政策の一貫性をさらに強化するため、委員会は、
c) 委員会の各部局の継続的協調を強め、また、加盟国の先見性と再検討の機能を強化し、これらの問題について議論するための協議の場を用意することを加盟国に求める。
実施者:委員会、加盟国
時期:2002年以降
|
*:予測技術研究所(IPTS)については駐日欧州委員会代表部広報誌"ヨーロッパ"(Web版)の1998年1/2月号の記事が参考になる。
行動30
委員会は、進歩を監視し、政策と法規の一貫性を確実にするために可能な特定の提案を示すために、ライフサイエンスとバイオテクノロジーに関する定期的な報告書を提出する。報告書は、行動11と30における結論に基づいて作成される。
実施者:委員会
時期:2003年以降
|
報告書の紹介:カルタへナ議定書関係審議会・懇談会中間報告
|
生物多様性条約のもとで「バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」が2000年1月に採択された。これを受けて、文部科学省、農林水産省、経済産業省及び環境省の4省の審議会・懇談会において、わが国における措置のあり方が検討された。検討内容に関する相互の報告・確認と意見交換を行うために関係審議会等連絡会議が開催され、2002年7月25日に4省の中間報告が公表された。またこれらの中間報告等について、広く一般からの意見を募集した(募集期間:2002年7月25日〜8月25日)。
同審議会・懇談会ではそれぞれの役割分担のもとに並行して検討が進められ、生物多様性への影響に関する横断的事項については、環境省、個別プロダクト(新たに作られた生物)の安全性の確認・管理については、農林水産分野が農林水産省、鉱工業分野が経済産業省、科学技術分野が文部科学省がそれぞれ分担し、輸出入管理事項は経済産業省、または個別プロダクトに関係する省が分担した。そのため、審議会・懇談会もそれぞれの目的に対応した名称となっている。今後はそれらの中間報告に対するパブリックコメントを受け、各省で再検討され、さらに関係審議会等連絡会議で整合性を取って、政府に提出されることになろう。各省の中間報告は下記のホームページから、入手できる。
・ 文部科学省:「科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会試験研究における組換え生物の取扱いに関する小委員会」
(対応するURLが見つかりません。2012年8月)
・ 農林水産省:「遺伝子組換え農作物等の環境リスク管理に関する懇談会」
・ 経済産業省:「産業構造審議会化学・バイオ部会遺伝子組換え生物管理小委員会」
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)
・ 環境省:「中央環境審議会野生生物部会遺伝子組換え生物小委員会」
カルタヘナ議定書とわが国における遺伝子改変生物の取り扱いについての概要を環境省の中間報告から抜粋して紹介する。また、各省庁の国内措置に対する取組みについての項目もここに紹介する。
I. バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書についての概要
1.生物多様性条約でのバイオテクノロジーの位置づけ
生物多様性条約は、1)生物多様性の保全、2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用、3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分を3つの目的として、1992年に採択された。
生物多様性の保全に関する様々な措置のうち、第8条(g)で生息域内での「バイオテクノロジーにより改変された生物であって、環境上の悪影響(生物多様性の保全及び持続可能な利用に対して及び得るもの)を与えるおそれのあるもの」の利用及び放出に係るリスクについて、これを規制、管理、制御するための措置をとることが締約国に求められている。
条約の第19条では、特に「バイオテクノロジーの取扱い及び利益の配分」に関する条文が設けられ、バイオテクノロジー研究への遺伝資源提供国の参加の確保、遺伝資源からの利益の提供国への還元等について締約国の措置を求めるとともに、同条第3項でバイオテクノロジーによって改変された生物が生物多様性へ与える影響を防止するため、その移送、取扱、利用に関する手続きを定めた議定書について検討することを求めている。
2.議定書の採択の経緯
議定書については、1995年にジャカルタで開催された生物多様性条約第2回締約国会合で設置が決議された、バイオセイフティ作業部会(Ad Hoc Working Group on Biosaiety:BSWG)において、1996年から1999年まで6回にわたり議論がなされ、2000年1月にカナダ・モントリオールにおいて開催された特別締約国会合再開会合において議定書が採択された。
3.議定書の概要
採択された議定書では、主として、生きている改変生物(Living Modified Organism:LMO)の輸出入に関する手続きが規定されている。LMOでも工場などの閉鎖的な空間で利用されるもの(封じ込め利用あるいは閉鎖系利用)、食料、飼料、加工用として利用が予定されるもの(コモディティ)、農地での栽培など環境に放出して利用されるものの3つに分けて手続きが規定されており、生物多様性の保全及び持続可能な利用に対する悪影響(以下「生物多様性への影響」という)を防止するという観点から、環境への放出利用の場合の規制が最も厳しい扱いとされている。
環境放出利用の場合の輸出入手続きに関しては、輸出入に先だってAIA手続き(事前の情報に基づく合意の手続き:Advance Informed Agreement Procedure)を行うことが定められている。これは、輸出国あるいは輸出者が輸入国に対して事前に通告をし、輸入国は通告の受領を確認した後、輸入されようとしているLMOが、自分の国内で利用された場合に、生物多様性への影響の可能性を評価し(リスク評価)、その結果をもとに輸出国あるいは輸出者に対して、輸入の可否を回答する。輸入国によって輸入可とされたものについて、はじめて輸出ができることになる。このような手続きを通して、LMOが輸入国での生物多様性の保全と持続可能な利用に影響を及ぼすことのないよう措置できる仕組みとなっている。
また、食料、飼料、加工用として利用されるLMO(コモディティ)に関しては、輸出入に関して必ずしもAIA手続きを必要とはしないものの、そのコモディティを開発あるいは国内で利用することを承認した国は、バイオセーフティ・クリアリングハウス(バイオセーフティに関する情報交換機構:BCH)に、そのことを通報する義務がある。BCHに登録されたコモディティを輸入する際に、輸入国の判断でAIA手続きと同様の手続きを求めることもできるようになっている。
環境に放出・利用でないもののうち、工場などでの封じ込め利用に関しては、このAIA手続きは必要とされておらず、輸出入に際しては、適当な方法で輸送、取扱を行うことが規定されている。安全な取扱、輸送、包装、文書の添付はいずれのタイプのLMOについても適用され、これは単に国内を通過する場合にも適用される。
なお、ヒト用の医薬品であるLMOについては、他の関連する国際協定又は国際機関による取扱いの対象となっている場合には議定書の対象外となる。
4.議定書の目的等での人の健康への影響の取扱い
条約第8条(g)では、最終的には、人の健康を主な論点として扱うこととはしないものの、人の健康への影響に考慮する旨の規定が盛り込まれることになった。具体的には、遺伝子改変された植物の花粉がアレルギー反応を引き起こすなどの環境を経由した影響は含まれるが、LMOを食品として摂食したことに起因する健康影響は議定書の対象とはならないと考えられる。
5.カルタヘナ議定書で求められている措置
1)求められている措置の概要
LMOによる生物多様性の保全とその持続可能な利用に対してもたらされる悪影響を防止するためには、利用に先立つ影響の評価、評価に基づき、生じるおそれのある影響を緩和する、あるいは未然に防止するための措置が必要である。
カノルタヘナ議定書で求められている具体的な措置は、主として以下のとおり。
●輸出入の手続きに関し、環境放出を目的としたLMOの輸出に際して、輸出先(輸入国)に対して事前の通告が必要。
●輸入国は、輸入に先立ちリスク評価を実施し、輸入の可否を決定することが必要。
また、輸入に限らず、国内でLMOの環境放出利用に先だってリスク評価の実施といった非意図的な越境移動による悪影響を防止するための措置が必要。
●LMOの取扱、運搬、包装に関し、議定書で求められた措置の確実な実施が必要。
●輸出入に際して、コモディティ、封じ込め利用、環境放出利用のLMOの用途ごとに、それぞれ必要な事項を特定した書類の添付が必要。
●議定書で求められる措置に違反した不法な輸出入を防止するための措置が必要。
以上の措置は、これまでの指針(ガイドライン)に基づく影響の評価の仕組みでは、十分な実施が担保されないと考えられることから、法律に根拠をおいた措置が必要となる。
また、これまで生物を輸入する際の影響の検討に関しては、植物防疫法、家畜伝処病予防法、感染症予防法等、人の健康への影響、農作物、家畜への影響という観点での規制が行われていたが、カルタヘナ議定書で求められている生物多様性への影響という観点で、輸入時の生物を評価する仕組みはない。これまでの指針(ガイドライン)に基づく遺伝子改変生物の評価の経験を踏まえ、生物多様性への影響を評価する仕組みが必要となる。
2)国内措置のあり方の検討体制
カルタヘナ議定書を締結するためには、関係各省で現在持っている指針(ガイドライン)で対応することだけでは不十分であり、関係省がそれぞれの役割分担の上で、議定書に対応した国内措置の検討を連携して行っていくことが関係省間で合意されている。
遺伝子組換え生物及びそれを利用した実験、産業利用の影響の管理については、現在、関係する指針(ガイドライン)を持っている農林水産省、経済産業省、文部科学省においてそれぞれの分野ごとに検討が行われている。この場合、農林水産、鉱工業、科学技術といった分野に必ずしも含まれない組換え体の利用が生じてくることも考えられるため、これに対応した国内措置の検討が必要である。
さらに、カルタヘナ議定書は、遺伝子改変生物による生物多様性への影響を防止しようとするものであり、国内での利用に当たって生物多様性への影響の審査を的確に行うため、影響の評価の視点、方法、考え方を明らかにする必要がある。
(以上、環境省の中間報告から抜粋)
II. 各省の環境への取り組みに関する項目
1.環境省
1)遺伝子改変生物による生物多様性への影響の評価
(1)生物多様性への影響の考え方
(a)生物多様性を減少させる要因
(b)遺伝子改変生物の生物多様性への影響の視点
(c)環境放出に伴う生物多様性への影響のプロセス
(2)生物多様性への影響の評価と利用の決定の考え方
(a)影響の評価の基本的考え方
(b)危倶される影響の可能性を検討するための評価項目
(c)収集すべき情報
(d)影響の評価の判断
(3)影響の軽減措置
(a)影響の軽減措置と利用の決定の流れ
(b)利用による便益の考慮
(c)モニタリング等利用に際しての措置
(d)新たな情報が得られた場合の再評価
2)議定書に対応した国内措置のあり方
(1)新たな仕組みの検討の際の基本的考え方
(2)利用タイプごとの遺伝子改変生物の取扱い一環境放出利用
(3)利用タイプごとの遺伝子改変生物の取扱い一封じ込め利用
(4)影響評価に関する情報の提供
(5)新たな知見等に基づく決定の見直し
(6)一般的な影響の監視
2.農林水産省
1)遺伝子組換え農作物等の環境リスクを管理する新たな仕組みの構築
(1)現在の仕組みと改善の視点
(2)新たな仕組みのあり方
(a)基本的考え方
(b)リスク評価の考え方
(c)リスク管理の考え方
(d)リスク・コミュニケーションの考え方
(3)情報収集体制の整備・調査研究の推進
2)環境リスクの管理措置の内容
(1)利用形態に応じたリスク管理措置
(2)利用に当たって実施すべき具体的措置
(a)モニタリング(環境影響の監視)・報告
(b)環境への悪影響が発見された場合の対応
(c)生産・流通状況の把握
(3)環境リスク評価を終えていない遺伝子組換え農作物等への対応
(a)監視
(b)発見時の措置
(c)意図せざる少量混入の取扱い
3)その他
(1)遺伝子組換え農作物等の輸出時の措置について
(2)遺伝子組換え品種と非組換え品種の交雑について
3.経済産業省
1)鉱工業分野における遺伝子組み換え生物の管理のための制度
(1)制度構築に当たっての基本的な考え方
(a)法的枠組みの必要性
(b)簡素で合理的な規制
(c)運用の重要性
2)遺伝子組換え生物の管理のための制度とWTOとの関係
3)新たな法的枠組みの対象となる範囲
(1)遺伝子組換え生物のみを対象とするか
(2)プロダクト・ベースのリスク評価
(3)法的枠組みの対象となる遺伝子組換え生物
4)遺伝子組換え生物のリスク評価のための枠組み
(1)リスク評価を義務付ける範囲
(2)リスク評価の実施体制
(3)リスク評価の際の体制
5)遺伝子組換え生物の国境を越える移動に関する措置
(1)輸入に関する措置
(2)輸出に関する措置
6)遺伝子組換え生物のリスク管理のための枠組み
(1)リスク管理のための法的枠組み
(2)リスク管理のために必要な措置
(3)輸送、包装、特定に関する措置
4.文部科学省
1)試験研究におけるLMOの取扱いに係る基本的考え方
2)試験研究における「意図的な環境放出」と「封じ込めの下での利用」との境界について
3)LMOの意図的な環境放出を伴う試験研究のリスク評価・リスク管理について
(1)基本的考え方
(2)LMOの環境放出後における措置
(3)LMOの非意図的な環境放出に関する措置
4)LMOを封じ込めの下で利用する試験研究のリスク評価・リスク管理について
(1)基本的考え方
(2)封じ込めの基準
5)試験研究に係るLMOの輸出入手続について
(1)LMOの輸入手続
(2)LMOの輸出手続
(3)手続の周知徹底
6)試験研究に係るLMOの運搬・包装等について
7)その他
(1)実験計画の立案
(2)公衆との相互理解等の確保と知的財産権の取扱い
(3)不法な国境を越える移動