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情報:農業と環境
No.28 2002.8.1

No.28

・中国科学院土壌科学研究所とMOUを締結

・中国の水質汚染

・生物多様性は生態系への侵入に対する障壁となる

・報告書の紹介:欧州議会、欧州理事会、経済社会評議会
   および地域委員会への欧州委員会報告;
   ライフサイエンスとバイオテクノロジー
   (第1部:欧州のための戦略)

・本の紹介 83:Climate Change;
    Implications for the Hydrological Cycle and for Water Management,
    Ed. Martin Beniston, Kluwer Academic Publishers (2002)

・資料の紹介:「インベントリー」第1号、
  (独)農業環境技術研究所・農業環境インベントリーセンター刊


 

中国科学院土壌科学研究所とMOUを締結
 
 
独立行政法人農業環境技術研究所は、2002年7月3日および4日に、中華人民共和国の南京市にある中国科学院土壌科学研究所を訪問し、両国に共通する農業環境問題を協力して解決するための共同研究領域の検討およびMOU(協定覚え書き)の締結を行った。
 
日本側からは陽 捷行 理事長、林 陽生 地球環境部長、岡 三徳 生物環境安全部長および渡辺 薫 会計課長補佐が、中国側からは周 健民 中国科学院土壌科学研究所長、楊 林章 同副所長、林 光貴 同副所長ほか8名が2日間にわたって開催された検討に参加し、MOUの調印を行った。
 
会議の経過は次のとおりである。一日目の午前に、周所長および陽理事長が、両研究所の概要について紹介し、共同研究を実施する意義について意見交換を行った。その結果(A)Material cycling through atmosphere、 hydrosphere、 pedosphere and biosphere、 and the associated environmental changes、 (B)Preservation of resilient soil environment および(C)Monitoring and assessment of bio-sensitive pollutants in agro-ecosystems に関する研究領域について今後協力する方針を決めた。
 
ひき続き二日目にかけて、研究領域の核となる研究テーマに関し、双方から話題提供を行い討議した。話題提供のタイトルは下記のとおりである。共同研究の具体的なテーマについては、今後さらに両研究所の間で検討を重ね、具体的な共同研究課題として成立させていく方針とすることで合意し、最後にMOUの本文に陽理事長と周所長が署名をし、調印が完了した。これにより7月4日をもって、両研究所の間に「協定覚え書き(MOU)」が発効することになった。
 
農業環境技術研究所では、すでに大韓民国農村振興庁農業科学技術院との間で、2001年10月に今回と同様のMOUを締結している(情報:農業と環境No.20)。また、引き続きインドネシアとの間でMOUを締結する方針である。これらのMOUは、農業環境技術研究所と相手国間における共通の研究課題を国際共同研究の形式で実施することを約束するもので、これを利用して多くの研究課題が実行されることが期待される。
 

 
    (記:会議における検討事項)
   
1.  周 健民 中国科学院土壌科学研究所長 「ISSの紹介」
2.  陽 捷行 農業環境技術研究所理事長 「NIAESの紹介」
3.  MOUについての検討
4.  共同研究分野の検討
(1) 陽 捷行 「共同研究課題の位置づけと候補研究分野」
(2) 林 陽生 「CO濃度上昇が農業生態系へ及ぼす影響」
(3) 蔡 祖聴 「トレースガスの放出」
(4) 朱 建国 「FACEプロジェクト」
(5) 楊 林章(副所長) 「非点源汚染」
(6) 路 永明 「汚染土壌のバイオリメディエイション技術」
(7) 周 東美 「土壌−植物系の重金属動態と人間の健康」
(8) 周 健民(所長) 「肥料と環境への影響」
(9) 岡 三徳 「遺伝子組み替え作物の環境影響評価」
(10) 施 工明 「施肥効果の高い遺伝子組み換え作物」
(11) 童 元華 「環境調和と生物指標」
(12) 林 光貴(副所長) 「土壌微生物の多様性」
5.  MOUの共同研究の分野
6.  MOUの調印
 

 
 

中国の水質汚染
 
 
世界の地下水の硝酸濃度
 地下水の環境基準における健康項目のひとつに、NO−N(硝酸性窒素)濃度10mg/l(ミリグタム/リットル)以下という数値が規定されている。硝酸塩を多量に摂取すると、これが条件によっては胃のなかで亜硝酸に還元される。還元された亜硝酸が血液中に取り込まれると、ヘモグロビンと結合してメトヘモグロビンに変化し、血液の酸素を運ぶ能力が低下する。このことが、とくに乳児に対してチアノーゼなどの健康影響を引き起こす。このため、水道法によるNO−Nの基準値は10mg/lと規定されている。
 
 しかしながら、世界のいたるところで、地下水のNO−N濃度が10mgをこえている。アメリカのアイオワ州の測定例をみると、1960年代に3mg以下であったものが、1983年には10mgに上昇している。この間トウモロコシへの施肥窒素量は、50kg/haから153kg/haに増加している。カリフォルニア州の家畜多頭飼育地帯では、345mgを示した例もある。EU諸国も同様である。オランダのある地域での調査によれば、56点の浅層地下水のNO−N濃度の平均値が20mg、最高値81mgが検出されている。フランスでは、1970年後半にすでに20%の井戸水が10mgをこえていた。このように、世界各地で地下水から高濃度のNO-Nが検出されるようになり、しかも多くの国でその濃度は年とともに上昇の一途をたどっている。最近では、中国でも窒素肥料の使用料の増大にともなって、地下水のNO-N濃度が急激に上昇している。ちなみに、現在の中国の窒素肥料使用量はアメリカのそれをすでにこえている。
 
日本の地下水の硝酸濃度
 日本も例外ではない。1993年に行われた11都道府県の井戸水の調査によれば、799地点のなかで39地点が10mgの指針値をこえていた。このような背景のもとに、1999年2月、環境基準の要監視項目であった硝酸性窒素(NO3-N)および亜硝酸性窒素(NO2-N)の濃度10mg/l以下が、公共用水域および地下水の水質汚濁にかかわる人の健康保護に関する環境基準の項目に格上げされた。今までの硝酸性窒素および亜硝酸性窒素に関する水質基準には、水道水質基準があり、硝酸性窒素および亜硝酸性窒素は、10mg/l以下になっていた。この基準では、水中に硝酸性窒素および亜硝酸性窒素が10mg/l以上存在したとしても飲用しなければ問題はなかった。
 
 しかし、環境基準項目となると一時期公害の原因物質として名をはせたシアン、カドミウム、トリクロロエチレン、PCBなどと同類の物質として取り扱われることになり、極端な言い方をすれば、10mg/l以上の硝酸性窒素が環境に存在すること自体が問題であると、明確に位置づけられたことになる。
 
窒素の驚異
 世界の多くの地域で、耕地に使用される化学肥料と農薬が農業地帯の地下水に浸透している。1950年代初め以来、世界は単位面積当たりの収穫量を増やすため、窒素肥料の使用量を20倍に増大した。しかし、窒素の投入量を増やしても、植物はそれを完全には吸収するわけではない。
 
 例えば、中国北部の14万平方キロメートルの地域について行われた調査によると、作物は施用された窒素の平均40%しか利用していないことが明らかになった。アメリカの例では、全米研究評議会の報告がある。アメリカで作物栽培に使用された窒素肥料の3分の1ないし2分の1は、地下水への浸透、河川への流亡、大気への揮散などで環境に放出されている。
 
 好気(酸素)条件下で、窒素は硝酸塩(植物に利用されやすい化合物)に変換される。利用されなかった硝酸塩は、雨水や灌漑用水に溶けて土壌に浸透し、地下の帯水層に浸入する。
 
 耕地に施用された窒素の過剰な部分のほかに、硝酸塩を過剰に含む家畜糞尿と都市下水が、窒素の脅威をさらに大きくしている。家畜糞尿は、その膨大な量により、環境に放出される過剰な硝酸塩の流れの大きな要因になっている。アメリカでは、家畜からの排泄物は全国民の排泄物の130倍にものぼる。その結果、ウシやブタの数百万トンもの糞尿の一部が河川に流入したり、硝酸塩のかたちで地下水に浸透する。このような負荷に、さらに都市下水システムからの大量の漏水や流出水、郊外の芝生、ゴルフ場、植栽からの肥料の流亡、ゴミ埋立地からの硝酸塩(他の各種汚染物質も含む)の浸出が加わるおそれがある。
 
 わが国では、化学肥料として施用されるの窒素が約50万トンに対して、家畜の排泄物に含まれる窒素量は約70万トンであることから、家畜排泄物からの環境への窒素の負荷がきわめて大きいことがわかる。
 
中国における窒素汚染の状況
 人口の集中化が進み、限られた農地でより多くの食料を生産する必要がある地域では、とくに地下水の硝酸塩汚染が深刻化している。中国北部の北京市、天津市、河北省、山東省では、調査地点の半数以上で、地下水の硝酸塩濃度が50mg/lをこえている。これは、世界保健機関〈WHO〉の定める飲料水基準値をこえた値である。硝酸塩濃度が300mg/lに達していた地点もあった。この調査が行われたのは1995年であるから、それ以降、施肥量の急増にともなってこれらの数値はさらに上昇したと考えられる。中国の人口と食料需要は今後も増加すること、さらに都市化・工業開発・地力低下・土壌侵食などによりさらに多くの農地が失われることから、硝酸塩濃度はいっそう上昇するであろう。
 
中国の近海と河川の汚染
 中国水産学会の専門家らは、近海、内陸河川の水質汚染の深刻さから、このほど「水生生物資源保護国家行動計画」の早期制定を要求する意見書を当局に提出した。中国では生活、工場、農業廃水や無計画な養殖産業、海底油田開発によって生態系が破壊され、漁獲高が激減している。汚染水域に生物が存在しなくなる「水域の砂漠化」が心配され、汚染された水産物を摂取する人体への影響も無視できない状況になっている。
 
 中国夕刊紙の北京晩報(7月6日付)によると、現在、中国の近海や河川を直接汚染する汚水の排出量は、1日1.3億トンにのぼる。また、全国1200の河川のうち850以上がなんらかの影響を受け、中国七大水系中の河川では延べ約2400キロにわたって、魚類、甲殻類が絶滅しているという。中国近海の有機物、無機リン濃度はいずれも、基準値を超え、この水質汚染により、魚の繁殖能力、稚魚の成長能力が著しく低下している。毎年の損失は、漁獲高にして50万トン、約30億元(約420億円)にのぼる。
 
 とりわけ汚染が深刻なのは、内陸の河川である。長江流域では、1954年の漁獲高は42.7万トンだったのが、近年は10万トン前後に落ちている。また、湖南省牧畜水産局漁業資源観測センターの97年から99年の統計調査によると、漢詩にも詠まれる中国の名勝・洞庭湖(Dongting Hu)では、未処理の工場廃水、生活排水が毎年8億トン流入し、毎年約2.6億個の魚卵が死滅している。
 
 中国の水質検査で主な汚染物質は、アンモニア、石油、過マンガン酸カリウムなどである。このほか、内陸の河川・湖沼では工場廃水に含まれる重金属類、および養殖湖に大量に使用される抗生物質による上海ガニなどの内陸産甲殻類への汚染が懸念されている。
 
 中国当局は水生生物資源を保護するため、本年から春季の長江での漁獲を禁止し、漁獲量の調節によって資源保護をはかろうとしているが、専門家たちは、「外国の成功例にならって、もっと高度で戦略的な水生生物資源と生態環境の保護を進めなければならない」と危機感を強めている(産経新聞:7月10日)。
 
 現在、爆発的な人口増加が続いている国の多くは、単位面積当りの収量を獲得するため大量の窒素肥料を使用している。最近、先進国では窒素肥料の使用量と作物生産量が経済的に見合わなくなったため、使用量が減少する傾向にある。しかし、耕地面積の拡大と窒素肥料の使用量の増大なくして、増えつつある人口に対する食糧の世界的需要は満たされないから、とくに発展しつつある国々での窒素肥料の使用量は、今後も増大しつづけるであろう。その結果、今後さらに土壌に浸透したり、土壌から流亡する硝酸塩の濃度は上昇し、地下水や河川や湖沼のNO濃度も増大しつづけるであろう。このことが地球規模での環境の面からも懸念され続けるであろう。
 
 

生物多様性は生態系への侵入に対する障壁となる
 
Biodiversity as a barrier to ecological invation
T.A. Kennedy et al., Nature, 417, 636-638 (2002)
 
 農業環境技術研究所は、農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに、侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって、生態系のかく乱防止、生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的の一つとしている。このため、農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが、その一部を紹介する。
 
要 約
 
 外来植物の侵入への抵抗性に関係する生物的要因(在来植物の多様性)と、そのほかの外部要因(かく乱の頻度や強度、土壌の肥沃度、気候など)の相対的な寄与割合は、空間的規模によって異なる。たとえば、それまで孤立していた場所に侵入植物がはじめて到達することは、人為的な持込みのような外部要因に左右される。同様に、ほ場内の裸地に侵入植物の種子が落ちた場合、侵入植物の成功度を左右するのは, 植物多様性よりも外部要因によるものと考えられる。しかし、ほ場内の植物のある場所では、侵入個体は近隣の植物にとり囲まれ、在来の植物の種構成や密度などの生物的要因が、侵入個体にとっての競争的環境を決めることになる。
 
 侵入抵抗性に対する生物多様性の影響を検討するため、米国ミネソタ州の草地に設けられた147の実験区で、植物の種数の違いが13種の侵入植物の定着と成功度にどのように影響するかを調査した。種内競争や種間競争の研究で広く用いられている近隣植物との関係を示す以下の3つの特性に注目した。(1)近隣種数、(2)近隣個体数、(3)近隣の全植物との距離と大きさの両方を考慮した近隣こみあい度指数。
 
 実験区は、24種の在来種から無作為に選択した1種から24種までの7段階に設定した。また、実験区は、それぞれの種数が維持されるように、侵入調査前の三年間にわたって除草した。さらに、調査区の設定時に表層土を除去し、シードバンクの大部分を除去した。したがって、調査区内に新たに定着した侵入種は、基本的には、隣接する雑草地から新たに侵入した種子と考えられる。
 
 すべての調査区の面積、来歴および外的要因は同じである。さらに、雑草地からの種子散布の条件もかたよっていないので、調査区間で観察された侵入抵抗性の違いは、基本的には生物的要因によると考えられる。調査の結果、在来植物の種数が多いと、近隣の種数、個体数、こみあい度が増加した。多様性が大きいと、侵入植物の定着(侵入個体の数)も成功度(大きい侵入個体の割合)も低下する。
 
 この研究の結果は、一般的に、多様性の高い植物群落は、望ましくない侵入種を効果的にしめ出す性質があることを示している。さらに、在来植生の回復や再生を試みるときには、できるだけ多様性の高い植物群落を確立することが望ましいと考えられる。
 
 

報告書の紹介:欧州議会、欧州理事会、経済社会評議会
および地域委員会への欧州委員会報告;
ライフサイエンスとバイオテ
クノロジー
(第1部:欧州のための戦略)

 
COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT,
THE COUNCIL, THE ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE AND
THE COMMITTEE OF THEREGIONS
Life sciences and biotechnology - A Strategy for Europe
(2002/c 55/03)
COM(2002) 27 final
 
 「欧州議会、欧州理事会、経済社会評議会および地域委員会への欧州委員会報告:ライフサイエンスとバイオテクノロジー(第1部:欧州のための戦略)」(COM(2002)27 final 2002/c55/03)をEC官報(Official Journal of the European Communities)(2.3.2002)
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2002:0027:FIN:en:PDF (最新のURLに修正しました。2010年5月) )から仮訳した。
仮訳した文章の中には原文の内容が的確に表現されていない部分もあると思われるので、確認していただきたい。なお、本報告書を読むにあたり、参考となる資料を脚注に加えた。
 
     目 次
第1部 :欧州のための戦略
1. 戦略上重要な問題
1.1.  技術革命と政策対応
1.2.  欧州の戦略
2. ライフサイエンスとバイオテクノロジーの可能性
3. 潜在力を手に入れる
3.1.  知識基盤
3.2.  科学的・技術的解決をもたらす欧州の能力
4.
 
責任ある政策のための重要な要素:ライフサイエンスとバイオテクノロジーのガバナンス
4.1.  社会の綿密な調査と対話
4.2.
 
 倫理的価値基準および社会の目標と調和するライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発
4.3.  情報に基づく選択をとおした需要に応じた応用
4.4.  科学に基づいた規制監督に対する信頼
4.5.  規制の原則
5. 世界の中の欧州−地球規模の課題への対応
5.1.  国際協力のための欧州アジェンダ
5.2.  発展途上地域に対する欧州の責任
6. 政策、分野と関係者を横断する実施と一貫性
7. 対話と行動のための枠組み
 
    第1部:欧州のための戦略
     
    1.戦略上重要な問題



























 



























 
ライフサイエンス(生命科学)とバイオテクノロジー(生物工学)は、情報技術に続く知識基盤経済の次の波として、われわれの社会・経済に新しい機会を創造すると、広く認識されている。

これらは、また重大な政治・社会問題となり、幅広い公衆の討論を引き起こしたことが、2001年の秋に委員会が行った広範囲の公衆諮問において確認されている(1)。これらの問題には、十分な配慮と敏感さで取り組む必要がある。しかし、欧州ではこれに関わる責任が、政策や関係者など広範囲に及んでいる。何が問題なのかの共通の対象がなく、また共通の目標や有効な協調がないため、欧州は、これらの新技術の挑戦とチャンスに、実にゆっくりと、苦労して取り組んでいる。

われわれの民主主義社会は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発と応用が、基本権憲章によって欧州連合が承認した基本的価値基準を尊重することを保証するため、必要な保護対策と対話のチャネルを提供しなければならない。

欧州は重大な政策の選択に直面している:消極的・受動的な役割を受け入れて、どこかよそでの技術開発と関係をもつのか、あるいは欧州の価値基準と規範に合った信頼できる方法によって、それらを利用するための先を見越した政策を開発するのか。欧州がさらに長く立ち止まっていれば、二つめの選択肢は、より現実性を失っていくだろう。

欧州共同体は、関連のある重要な政策の局面を扱うことができ、そのため、委員会は将来の方向を見つけだす手助けをする特別な責任がある。この新計画は、このための枠組みを提案する。
     
    1.1 技術革命と政策対応
     
政策の対応を必要とする幅広く、重大な影響




 








 
革命はライフサイエンスとバイオテクノロジーの知識基盤において起こり、新しい科学的発見だけでなく、保健医療、農業と食料生産、環境保護への新たな応用に広がっている。これは、地球的規模で起きている。生物と生態系に関わる共通の知識基盤は、ゲノミックス(ゲノム科学)とインフォマティクス(生命情報科学)のような新しい科学分野、あるいは遺伝子検査や人間の器官・組織の再生などの新しい応用を生み出している。これらの科学は、遺伝子組換え作物などの利用をはるかにこえ、われわれの社会・経済をとおして重大な影響をもつ応用が予測されている。
 





 




 
(1)欧州委員会文書「ライフサイエンスとバイオテクノロジーの戦略的展望に向けて」:2001年9月4日の諮問文書COM(2001)454。この文書、公表されたウェブ・コメント、および2001年9月27日と28日に開催された委員会関係者の協議の結果は、 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) で入手可能である。

 

















 

















 
この知識基盤の拡大は、新分野の科学的発明の実用化と製品化が、前例のない速度で同時に起こっており、新しい富を創造する可能性を示している:古い産業は刷新され、新しい企業が出現し、知識基盤経済を支えるさまざまな専門技術を基盤とした仕事を提供している。おそらく、もっとも有望な先端技術である、ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、欧州共同体リスボン・サミットの目的、すなわち知識基盤経済の先導役になるという目的を達成するために重要な貢献を果たすことができる。2001年3月のストックホルムでの欧州理事会はこのことを確認し、委員会が理事会とともに、消費者と環境に対して健康で、安全であり、また、共通の基本的価値基準と倫理原則に矛盾しない方法で、これらの開発が行われることを確保すると同時に、一流の競争相手に対抗するために、バイオテクノロジーの可能性を十分に利用し、また欧州のバイオテクノロジー分野の競争力の強化に必要な対策を検討することを求めている。

現在の欧州のライフサイエンスとバイオテクノロジーの状況では、その目標の達成が容易ではない。
     
欧州は躊躇しているように思われる













 

















 
欧州とその他の国々で、公衆の激しい討論が持ち上がった。公衆の討論は重要な論点を自覚し、具体的な進展に役だったが、遺伝子組換え生物(GMO)と特定の倫理的問題の狭い範囲に集中し、世論が大きく分かれた。他の地域や国々と同様に欧州共同体においても、これらの分野の科学技術の進歩が、難しい政策問題と複雑な規制の課題を引き起こしている。この社会的受容の頼りなさは、革新と技術開発に対するわれわれの知的能力と理解力とを決定する諸要素に対して、欧州では関心を引かなくなった。このことは、われわれの競争力を抑え、研究力を弱め、そして、長期間にわたって政策の選択肢が限定されるかもしれない。

欧州は現在、岐路にいる:われわれは前向きに将来を考え、全体的な観点から責任ある政策を積極的に発展させる必要があり、さもなければ、われわれは欧州でも世界でも、ほかでまとめられた政策と向かい合うことになろう。技術とその応用が、急速に発達している:したがって、委員会は、欧州の政策の選択肢は、行動するかどうかではなく、新たな知識とその応用がもたらす課題をどのように扱うかであると考える。
     
    1.2. 欧州の戦略
     
拡散した責任−しかし委員会は貢献できる












 
















 
欧州委員会は、これらの問題の検討に積極的に役立ち、この課題に取り組む。2001年9月に、問題とされているさまざまな論点について、幅広い公衆諮問を開始した(2)。これらの問題のうち、欧州共同体が扱えるものはほんの一部だけである。すなわち、問題のほとんどは他の公的関係者や民間の関係者にかかっている。製品の承認、域内市場の保護、農業政策や貿易政策のような、いくつかの領域については、欧州共同体が全面的な権限をもっている。その他の局面では、欧州共同体は権限を持っていないか、あるいはそれを加盟国と共有している。したがって、成功か失敗かの最終的な責任は、共有のものである。

しかし、補完の原則を尊重して、欧州人が共通の目標に向かって共に行動することを妨げてはならない。長期的な地球規模の機会と難しい問題が共存する展望のなかで、とくに、リスボン戦略を支持する公開の調整とベンチマーキングを通して、新たな形態の協力と調査も利用しながら、われわれは、明確な戦略的目標と首尾一貫した全体的な取り組みを発展させることが可能である。
 




 



 
(2)2001年9月4日COM(2001) 454。
ベンチマーキング(benchmarking)については下記のウェブページが参考になる。
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)

 
戦略的優先事項
















 


















 
この新計画では、欧州委員会は次の3つの広範囲の疑問に取り組むために持続可能な責任ある政策を欧州が展開する戦略を提案する。

● ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、健康、老化、食物と環境、そして持続可能な発展についての、地球規模の要求の多くを扱う機会を提供する。欧州が社会の要求を満たし、その競争力を増強するために、これらの技術を開発・応用するための人、産業および財政資金を引きつけるにはどうしたらもっともよいのか?
● 幅広い公衆の支持が欠かせず、また倫理的また社会的なかかわり合い、や懸念に取り組まなければならない。欧州は市民の信任と支持を受けた、効果的で、信頼され、責任ある政策をどのように達成することができるか?
● この科学・技術革命は、貧富を問わず、世界のあらゆる国々に、新しい機会と課題を創出する地球規模の現実がある。欧州が、どのように、地球規模の課題に最もよく対応し、明確な国際的視点で域内政策を展開し、またその利益を追求するために、国際的に行動できるか?
     
戦略と行動計画











 













 
委員会は、倫理的根拠に関して、責任のある、科学を基盤にした、そして人間を中心とした政策に答えた戦略を提案する。この戦略は、欧州がライフサイエンスとバイオテクノロジーのプラスの可能性から恩恵(benefit)を受け(第2、3節)、適切なガバナンス**を確保し(第4節)、そして、欧州の地球規模の責任を果たすようにすること(第5節)を目指している。これは総合的戦略のための提案である。すなわち、その種々の要素が相互に依存し、また相互に補強しあっている。

この戦略の実施のためには、首尾一貫した、信頼できる政策(第6節)を展開するために、開かれた、協調的な、継続的手続きが必要である。委員会は、補完の原則を尊重した、他の公的および私的な関係者への勧告だけでなく、委員会と欧州共同体による具体的な対策のための行動計画も提案する。
 







 






 
benefit:以降では文脈に応じて、「恩恵」あるいは「便益」と訳す。

**ガバナンス(governance):統治、自治、管理などとも訳されるが、専門分野ではカタカナ英語で表記されることが多い、信夫隆司編:環境開発の国際政治(南窓社、1999)と下記のウェブページを参照、
(対応するURLが見つかりません。2010年5月)

 
     
    2.ライフサイエンスとバイオテクノロジーの可能性
     
現実の問題への新たな解決法





























































 
































































 
ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、今後、数十年間で最も有望な先端技術の一つであると広く考えられている。ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、実現可能な技術(enabling technologies)であり、情報技術のように、個人と公衆の利益になる広範囲な目的に応用されると考えられる。近年の科学の躍進による、生物システムに関する知識の爆発的な増大は、新たな応用の絶え間ない流れをもたらし始めている。

人口の高齢化と貧しい国の要求を満たすための、新たな革新的な取り組みは、世界中の医療において非常に大きな需要がある。世界の疾病の半分は治療法が判っておらず、さらに処置に対して耐性を獲得し、抗生物質の効果がなくなってきた治療法さえある。バイオテクノロジーは、新しい医薬と医療はもちろん従来の医薬と医療についても、多くの数をより安く、安全で、より倫理的な生産をすでに可能にしている(たとえば、クロイツフェルト−ヤコブ病の危険性のないヒト成長ホルモン、AIDSとC型肝炎ウイルスの心配のない無制限の凝固因子成分による血友病の治療、ヒト・インシュリン、B型肝炎や狂犬病に対するワクチンなど)。バイオテクノロジーは、遺伝的な体質、目標を定めた検診、診断、および革新的な薬物治療に基づいた、個人別あるいは予防医学への疾病管理のパラダイム・シフト(技術革新)が背景にある。医薬の設計、発見、開発のためにヒトゲノムの情報を応用する薬理ゲノム科学は、この根本的な変化をさらに進めるだろう。幹細胞研究と動物臓器移植によって、脳卒中、アルツハイマー病やパーキンソン病、火傷とせき髄損傷による退行性の疾病と傷害を治療するための、組織や器官の交換の可能性が期待されている。

農作物分野では、バイオテクノロジーは品種改良された作物によって食品の品質の向上と環境への恩恵をもたらす可能性がある。1998年以降、世界の遺伝子組換え(GM)作物の栽培面積は、2001年にはほぼ2倍の面積になり約5000万ヘクタールとなった(欧州では約12000ヘクタール)。食品と飼料の品質は、疾病の予防と健康リスクの低減に関連していると思われる。品質を強化した食品(「機能性食品」)は、生活様式の一部あるいは栄養的な恩恵として重要性が増加しているようである。FAIRの研究プロジェクトで実施された植物ゲノム解析は、欧州の伝統的穀物(いわゆるスペルト麦)に高いタンパク質含有量(18%)の遺伝子改良をもたらし、これは家畜飼料用タンパク質の代替資源として使用可能と思われる(3)。農薬の使用量が相当に低減できることが抵抗性遺伝子を導入した作物で示された。動植物の病気やストレスに対する自然の抵抗性を強化することによって、農薬、化学肥料と薬剤の使用を削減し、保全型耕起法を増加させ、これによって、土壌侵食を減少させ、環境に優しい、より持続的な農業活動をもたらすことが可能になる。ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、環境影響を軽減しながら、飢えと栄養失調と戦い、そして増加する人口を現在の農耕地面積で養うための重要な手段の一つになると思われる。

バイオテクノロジーは、工業用原料、あるいは、生分解性プラスチックのような新しい素材として、作物を食料品以外の利用に改良する可能性もある。植物を基にした素材は、分子の基本要素とさらに複雑な分子とを、製造業エネルギー産業医薬産業に提供することができる。開発中の遺伝子改変は、炭水化物、油、脂肪およびタンパク質、繊維と新しい高分子の生産などが含まれる。適切な経済と財政の条件のもとで、バイオマスは、バイオ脱硫化のような工程はもちろん、バイオディーゼル、バイオエタノールのような液体と固体の両方の生物燃料にも代替エネルギーとして役立つと思われる。植物ゲノミックスも、DNAマーカー・補助選抜法(MAS)の使用によって従来法の改良にも役に立つ。

環境を保全し、改善する新しい方法が、よりきれいな工業製品と、その工程の開発(たとえば、酵素(生体触媒)の利用を基礎にして)はもちろん、汚染された空気、土、水と廃棄物の生物的修復も含めて、バイオテクノロジーによって提供される。
     
    3.潜在力を手に入れる
     
経済面の規模








 










 
ライフサイエンスとバイオテクノロジーの潜在力は、ますます速度を増しながら開発されており、また、富と専門技術の仕事の創出によって、新しい経済が生まれそうである。しかし、この開発の時間的プロファイルと方向づけ、および欧州が十分に参画するかどうかは不確実である。

ある推定では、2005年までに、欧州のバイオテクノロジー市場は1000億ユーロ以上の価値になるとされている。2010年までにライフサイエンスとバイオテクノロジーは新たな応用技術の主要部分を構成し、この分野を含めた世界市場は、2兆ユーロ以上に達するかもしれない。
 

    (3) (対応するURLが見つかりません。2010年5月) .

 

 

 
ライフサイエンスとバイオテクノロジーの
直接・間接的市場の潜在的規模(1)
     


 


 
産業

 
持続可能な産業と環境技術(一部分のみバイテク)の2010年の世界市場は、1兆5000億ユーロで、このうち環境技術は900〜1200億ユーロと推定される(2)
       

 

 
医薬
 
2004年における世界市場は5060億ユーロ(一定の増加と仮定すると、2010年には 8180億ユーロ)(3)
       




 




 
農業



 
遺伝子組換え作物の作付け面積は安定して増加しているが、非組換え飼料の市場の発展の可能性に依存すると考えられるので、今後の市場価値の予測は困難である。
全世界の遺伝子組換え作物の作付け面積の推移(100万ヘクタール単位(4)
       
        1998 1999 2000 2001  
        28 40 44 53  
       















 















 
さまざまな情報源からの推定値の不確実性を見込んでも、上記の数字は、その新たな技術の大部分と全テクノロジーのかなりの部分がバイオテクノロジー企業に由来する分野において、全世界の市場規模(農業を除く)が2010年に2兆ユーロ以上になることを意味している。


(1)引用された数値以外には、バイオテクノロジーにおける国際競争力について比較できるデータを示すことは困難である:主な価値の要素は知識であるが、取引高/売上高/輸出額についての通常の統計データは、知的所有権に関する価値がどこで付け加えられたかは明らかではない。
(2)英国政府のデータ:通商産業省は、1999年にバイオ・ワイズプログラムを開始した:経済協力開発機構:2000年4月、終了報告136。
(3)IMS Health( (対応するURLが見つかりません。2010年5月) )。
(4)ISAAA:国際農業バイオ技術事業団。


     






 






 
欧州の人々は消費者と公益のための生産物とサービスの形態で、あるいは生産システムを介して、ライフサイエンスとバイオテクノロジーによってもたらされる主な受益者になるであろう。しかし、この開発を管理し、われわれに選択肢を与え、国際的に我々の価値基準と政策の選択を反映し、そして新しく生まれた経済の利益を得るために、欧州は知識基盤と、新たな製品や工程、そしてサービスへの知識基盤の移転を統制しなければならない。
     
    3.1. 知識基盤
     
知識基盤を取得する:





 







 
ライフサイエンスの革命は、研究のなかで生まれ、また保育、育成されている。公共の研究所と大学は科学基盤の中心であり、企業研究やほかの民間組織の研究とも相互に連携している。

知識基盤経済が成功するかどうかは、新知見の生成、普及と応用とにかかっている。そのため、研究・開発、教育・養成および新しい管理手法への投資は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーが生み出した課題に対処する際の重要な鍵となる。
     
−効果的、革新的な研究によって


























 





























 
欧州の主な強みの1つは、その科学基盤である;特定の技術に関する中核的研究拠点が存在し、分野ごとのバイオテクノロジー開発集団の中心となっている。しかし、欧州の研究開発への投資総額は、米国に比べると、遅れをとっている。さらに、欧州では、公的な研究支援の分断と、いくつかの加盟国のさまざまな分野の会社や研究所の間での分野間の研究開発協力の水準が低いのに苦しんでいる。

委員会は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの研究において欧州のリーダーシップを取り戻すことを目指している。研究、技術開発およびデモンストレーションのための第6次欧州共同体枠組み計画(2002年〜2006年)は、この領域を最優先事項とし、EU加盟国と共同して、欧州研究地域を建設するためのしっかりした綱領を与えようとしている。この計画は、研究開発の能力を強化し、現在の研究政策と努力の分断を克服するのに役立つだろう。協力を最大にし、重複を最小にして、欧州の人々が共に行動すれば、増大し続けるデータと情報の取り扱いや、世界的な科学的構想への全面的な参画などの重大な取り組むべき課題にうまく対処することができる。

さらに、欧州の研究の努力を、学際的研究によって開かれる新しい展望に集中させなければならない。生物学の研究が、情報工学、化学、プロセス工学など、他の科学や専門分野と連携して実施される場合に、新しい発見がもっとも生まれやすい。たとえば、「グルテン・アレルギー」についてのヒトゲノム解析は、最終的に低アレルゲン穀物の開発をもたらすだろう。十分に統合した最初の欧州共同体プロジェクトが最近、開始され、バイオテクノロジーによって人間と家畜の疾病の革新的な治療法がもたらされているゲノムと医薬の接点での主導権を確実にしようとしている。
     
−社会の要求に応じた研究







 










 
ライフサイエンスに関する欧州の研究計画は、欧州の市民の必要性に基づき、われわれの特定の要件に合ったものでなければならない。これには、欧州社会が提示した必要性と機会とを積極的に検討し、革新的研究をとおして、それらを扱うようにする取り組みが必要である。われわれは、健康と安全のための法的規制の科学的根拠など、研究と他の欧州共同体政策との間の連携をさらに強化しなければならない。同じ論理で、社会の合意形成においては、科学者と研究者ができるだけ密接にかかわることがきわめて重要である。有望な技術と今後の発展の基礎となる潜在的な生物多様性とを十分に利用するために、先進国と開発途上国の間の新しい研究協力を促進する必要がある。
     
    3.2. 科学的・技術的解決をもたらす欧州の能力
     
科学を応用に変換する










 












 
ライフサイエンスとバイオテクノロジーの応用の可能性は、その多くが高度の熟練を必要とする仕事を創出し、将来の研究への投資に対する新しい機会につながる将来の富の創造の供給源になりそうである。

欧州がこれからの恩恵を受けようとしても、科学基盤が十分に卓越していない:知識を新たな製品、加工技術やサービスに転換する能力をもつことが必須であり、これは、社会への恩恵、熟練を要する仕事ならびに繁栄を次々と生み出すであろう。新しい能力の開発は、研究者を引きつけ、養成し、投資と資源を引きつけ、そしてバランスが良く、信頼できる法律、規制や政策の枠組みを供給することで、研究と革新のプロセス全体を促進させることを意味する。
     
脆弱な欧州のバイオテクノロジー産業



 







 
1980年代を通じて、欧州のバイオテクノロジーは、主に大企業によって開発されたが、米国とは異なり、小規模の企業部門はほとんど停滞していた。医薬と化学の分野では大企業が革新的な製品を供給するための技術開発を続けているが、欧州では、最近、小規模の企業部門で急速な拡大がみられた。現在では、バイオテクノロジー企業の数は、アメリカ合衆国(1273)より欧州(1570)の方が多くなっている。これは、欧州の企業家的な潜在能力の活気の表れの一つである。
 
     
    米国と欧州のバイオテクノロジー産業の比較   












 












 











 

 

 
注:2000年と2001年の欧州のデータは、スイスのバイテク企業であるセロノ(Serono)を入れて調整してある。
 
















 
















 
だが、欧州の中小企業は比較的小さな会社であり、これに対して早くから開始した米国のバイオテクノロジー産業は、欧州の3倍以上の収益を作りだし、はるかに多くの人々を雇用し(61000に対して162000)、はるかに強力に投資され、とくに、はるかに多くの製品を生産している。

競争力についての委員会の2001年報告(第5章)では、最近の欧州連合の産業の商業的開発がバイオテクノロジー分野において米国に遅れをとっている原因を詳細に分析した。知的所有権が、考慮に入れなければならない関連要因の一つであることが明らかになった。

構造的に、バイオテクノロジー中小企業は非常に資本集約的であり、投資金の回収期間が長い。リスク資本の資金調達が次第に入手可能になっているが、長期にわたる企業の発展過程のすべての段階に十分であるとは考えられない。熟練した人材の供給不足は、産業発展に対する重要な制約要件になるかもしれない。
     
    雇用の比較     












 












 












 
 
欧州のバイオテクノロジー産業のための行動



























 































 
このような障害を取り除くことは、必要な原動力を創出する革新と経済的リスクを受け入れることに対して十分な奨励策で企業家的な欧州を育てることも同様に重要である。欧州の競争力は、行動のための3つの主な柱、すなわち資源基盤、ネットワーク、および公共機関の先を見越した役割によって強化しなければならない。

● 資源基盤の強化は、この知識を基盤とした産業のために最も重要である;これには、何よりもまず、ライフサイエンス教育(科学者のための生涯学習、公共についての総合的自覚)を強化することが必要である。バイオテクノロジーの中に情報と通信技術を取り込む可能性など、学問分野や専門分野を横断した訓練が必要である;新しいアイデアは、専門分野の接点に出現しやすい。科学的・工学的知識は、会社の事業をうまく進めるための企業家的な管理技術に見合ったものでなければならない。この行動の柱は、欧州の教育(4)と雇用(5)の目標に、直接に貢献する。包括的で、最新の、公開された無料で利用できる生命情報科学のデータは、バイオテクノロジーの進歩の基盤である。会社が繁栄するためには、質の高い公共および民間のデータベースや手段をアクセスする必要がある。公的研究を強く進めると同時に、公的支援と知的所有権の規則によって、資源を集中的に投入し、革新を支援するための協力、とくに官民の協力を促進しなければならない。研究と応用との境界領域では、知識を活用するための条件、とくに、よく管理されたリスク資本と欧州で統一された知的所有権の規則は、非常に重要である。バイオテクノロジー発明の法的保護に関する欧州議会と理事会の指令98/44/ECを完全に実施することによって、産業にとっての法律の確実性がかなり改善されるであろう。欧州共同体内における法的環境を明快に説明することは、革新的企業が研究への投資を継続し、あるいは増資の動機にさえもつバイオテクノロジーのさまざまな産業の中に参入してゆくだろう。さらに、欧州の統一特許が採用されれば、欧州共同体内の会社の競争力が向上するだろう。
 



 


 
(4)教育と生涯学習における10ヶ年目標。
(5)2002年雇用政策ガイドライン:雇用可能性の改善;起業精神と雇用創出の開発;企業とその被雇用者の適応能力の促進。

 



















 



















 
● われわれは、知識、技能と最良の実践への開かれたアクセスを行い、バイオテクノロジーに関連する関係者と機関との親密な共同体を作るために、欧州のバイオテクノロジー集団をネットワーク化する必要がある。欧州全体にわたる知的所有権の保護を完成し、技術移転と協力のための適切な基盤を用意しなければならない。大学の領域と産業の領域の間の提携を強化する必要がある。地域や加盟国の間の研究協力と技術移転を促進する必要がある。現在の分断を打開するために、種々の形態のネットワーク化と結合とを奨励・助長する必要がある。ベンチマーキングは、優れた事例(たとえば、企業の集団化と企業の育成支援)についての知識の共有化を可能にする。多様な情報をうまく管理することによって、特定の技術に特化した地域集団のネットワーク化の恩恵を利用できるだろう。

● バイオテクノロジーを早急に開発し、広範囲の応用を可能にするには、従来の政策枠組みの競争力への影響を監視し、生じようとしている問題を予想して、政策を積極的に適合させていくための先見性のある役割が公的当局に必要である。これには情報交換とネットワーク化をとおして、公的な意思決定機関が利用できる知識を共同管理する必要がある。
     

 

 
4.責任ある政策のための重要な要素:ライフサイエンスとバイオテクノロジーのガバナンス
     
技術革命には、ガバナンスが必要である














 


















 
このライフサイエンスとバイオテクノロジー、さらに基本的価値基準への影響についての開かれた討議は、これらの動きの速い技術を管理するための責任ある一貫した政策が必要であることを明らかにしている。主要な利害関係者はいずれもガバンナンス、すなわち公的当局が政策や行動を準備し、決定し、実施し、説明する方法への配慮の重要性を強調している。

委員会は、5つの主な行動方針に沿って、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの最高水準のガバンナンスを実施することを提案する。

● 社会の対話と綿密な調査を実施し、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの発達を導く
● ライフサイエンスとバイオテクノロジーを、倫理的評価および社会の目標と調和した、責任のある方法で発展させる
● 情報に基づく選択によって、需要に基づく応用を促進する
● 科学に基づいた規制監督によって、住民の信頼を高める
● 基本的な規制の原則と法的義務を、欧州共同体の単一市場と国際的な義務を守るために尊重する
     
    4.1. 社会の綿密な調査と対話
     
包括的な、詳しい情報と組み立てられた対話



























 































 
ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、公衆のかなり注目と議論を引き起こした。委員会は市民の責任とかかわりあいの表れとして、この公衆の討論を歓迎する。ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、今後も社会との対話を伴い、それによって、方向付けられることを継続すべきである。

われわれの民主主義社会における対話は、包括的、総合的で、詳しい情報に基づいた、組み立てられたものでなければならない。建設的対話には、革新的に取り組くんでいる関係者と時間との間の相互を大切にする必要がある。対話は、たとえば、よりよい情報と意思疎通の条件について前進させるために、利害関係者との同意を組み立てるべきである。経験は、対話が国際的にはもちろん、地方と国家レベルでも行われることが如何に重要であるかを示しており、委員会は、適切な新計画を必要とする加盟国と地方の関係者に、同様な取組みを求めている。

対話は、すべての利害関係者に対して開かれていなければならな
い。公的当局は、資源が限られた利害関係者も参加できるようにしなければならない。科学者集団だけではなく、経済的利害関係をもつ経済事業者、産業経営者およびユーザーは、積極的に参加することに対して、とくにこの責任をそれぞれ持っている。委員会は、たとえば、それらの未来像、政策および倫理規範をわかりやすくすることによって、公衆の懸念に応えることを、関係者に意見を求めている。

関連する公的な情報伝達は、実りの多い対話にとって不可欠であ
る。そのためには焦点を定めた、先を見越した努力が要求される。広範な公衆によってまとめられた情報ニーズについて真剣に検討し、対応することは、とくに重要である。われわれの行動を必要とする現実の問題と、誤った要求とを区別して、バランスがとれた、合理的な取り組みをとるように努力しなければならない。
     

 

 
4.2. 倫理的価値基準および社会の目標と調和するライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発
     
−損失に対して恩恵を釣り合わせる



























 































 
広範な公衆の同意と支援がなければ、欧州におけるライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発と利用は論議を呼び、恩恵を受けることが遅れ、また、競争力に関して損害を被ることになると思われる。

委員会によって行われた討論と公衆への諮問(6)では、欧州の公衆が、基本的価値基準に基づいて、損失に対する恩恵の複雑な重みづけの中に入ることに、十分に準備ができ、そして可能であることを示している。時々、対立はするが、公衆の討論は、まとまろうとしている意見が多くの箇所でみられる。

世論は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの目に見える恩恵に、決定的に左右される。ユーロバロメーター(EU世論調査)の調査では、医療の進歩を除くバイオテクノロジーへの公衆の期待が中程度であることを明らかにしている。また、いくつかの応用については、多くの公衆が疑問を持っており、それらの流通への影響とリスクを嫌っている。

手引きとなる価値基準と目標の多くが幅広く支持されている。それらのなかで、研究の自由、新しい知識の本質的価値、疾病や飢えの緩和に貢献するための道徳的義務などは、これらの新技術の開発と応用に有利に働きやすい。このほかは、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発と応用についての基準や前提条件、とくに、倫理的、社会的なかかわりあいを考慮に入れる必要性、政策決定における透明性、説明責任の重要性、リスクの最小化、および選択の自由などを明らかにするのに役に立つ。

したがって、公衆と利害関係者がこれらの複雑な問題をよく理解し、識別することを助けるために、また社会のいろいろな部分への影響を含む、不利やリスクに対する恩恵の評価を行うための方法や基準を開発するために、情報伝達と対話を支援することが重要な鍵である。
 


 

 
(6)委員会はこれらのコメントをインターネット上で公開する予定である

 












 












 
われわれの民主主義社会は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発と応用が、とくに人の生命と尊厳に対する敬意を確認することで、基本権憲章において欧州連合が承認した基本的価値基準を尊重しながら進められることを保証するために、必要な保護対策を提供しなければならない。欧州共同体は、また、ヒトの生殖型クローニングのための研究への資金調達を禁止している。ヒトの生殖型クローニングの禁止に関する世界条約の提案を国連に提出した「仏−独イニシアティブ」を支持すべきである。幹細胞研究のような他の問題については、注意となお一層の議論が明らかに必要である。また欧州はGM食品に関して、経済事業者だけでなく、消費者にとっても選択の自由が重要であるという立場を明確にしており、欧州の農業活動を保護する必要性について、幅広い社会的合意が確立している。
 


 

 
ヒト胚性幹細胞研究と倫理問題については次のウェブページが参考になる。
(< (対応するURLが見つかりません。2010年5月)

 





























 





























 
けれども、科学技術の進歩は、新たな倫理的あるいは社会的なかかわり合いをもたらし続けるだろう。委員会は、現在と将来の世代、あるいは欧州以外の世界に対する道徳的義務を考慮して、これらの問題に幅広い観点から率先して取り組むべきであると考える。われわれの基本的価値基準からはずれた時だけ、防御的に行動することで満足すべきではない。

これらの問題を、規制製品の承認という狭い範囲だけで、十分に取り扱うことはできず、より柔軟で、先を見通した取り組みが必要である。欧州は、優先事項を決める複雑なプロセスに公衆が関与できるように、恩恵と不利の両方に焦点を合わせた実情調査とともに、公衆との継続した活発な対話が必要である。「科学と社会」新計画(7)の中で、委員会は科学と新技術における倫理的側面を強化するための一連の行動をすでに提案している。

開発の最先端にいるためには、欧州は、洞察と予見解析のための能力を持ち、政策立案者と公衆に対して、しばしば複雑な問題を解明することに役立ち、また、それらの科学的および社会経済学的状況の中に、それらの問題を位置づけるために必要な専門知識についての能力を持つべきである。委員会は、1990年代初期の創設以降、科学と新技術の倫理に関する欧州グループが果した重要な役割を歓迎し、この戦略の一部として、その役割を強化し、各国の倫理関係組織との間の、あるいは組織間のネットワークを増強することを提案する。これによって、このほかの欧州共同体の組織への目標を絞った協議を追加することが期待できる。

さらに、透明度、説明責任と、公共の政策立案における参加型の取り組みとを増強する必要がある。これらの目的は、欧州ガバナンスに関する委員会の白書(8)の目的と一致しており、また、その中で提案されている行動によって遂行されることになる。
     
    4.3. 情報に基づく選択をとおした需要に応じた応用
     
−消費者と経営者に十分な情報に基づいた選択の機会を提供する

 







 
ライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発と利用に適用される規制的監督は、社会的選択の現れである。規制や他の政策措置によって規則と条件が設けられ、ライフサイエンスとバイオテクノロジーはその下で開発、応用される。したがって、規制は市場メカニズムが、定められた目的の達成のために効果的に機能することを保証しなければならない。義務的表示の欧州政策の目的は、消費者の選択が生産者に対して供給を合わせるという動機に変わるようにすることを狙っている。
 


 

 
(7) 2001年12月4日のCOM(2001) 714
(8) 2001年7月25日のCOM(2001) 428 final

 
























 
























 
1990年という早い時期に始まった長い議論の後に、欧州共同体は、遺伝子組換え生物(GMO)のすべての商業的利用について、すべての応用、環境放出、市場出荷の前に、事前の公的検査と個別の基準による安全性承認を義務付けるという、科学的規制の取り組みを選択した。この取り組みの結果、GMOに関する修正された枠組みの法案が採択され、2002年10月に施行される。新しい法律は、新しい製品を許可が、現在、停止されている状態を解消するための、しっかりした根拠となる。

出荷前の承認が要求される分野の欧州共同体の規制の取り組みでは、承認は、考慮中の問題に応じたほかの要因を考慮に入れ、その製品が人間と家畜の健康や環境に及ぼすリスクを科学的に評価した後に与えられる。この取り組みの論理では、製品が存続するかどうかを決定するのは市場である。しかし、消費者が選択権を行使して供給者に明瞭なシグナルを送れるように、市場メカニズムが効果的に働くことを保証することが重要である。最近の5年間で、欧州は表示制度によって情報に基づいた消費者の選択を保証するための解決策を開拓した。これらを早急に完成し、応用に移す必要がある。

経済関係者にとっての選択の自由の原則を十分に適用し、欧州における農業の持続性と多様性を守るためには、公的当局は農民や他の民間関係者と協力して、遺伝子組換え作物(GM作物)を除外せずにいろいろな農業活動の共存を促進するための農業的な、あるいは他の対策を開発する必要がある。
     
    4.4. 科学に基づいた規制監督に対する信頼
     
科学と規則に対する公衆の信頼を育てる























 



























 
安全性が問題となっている場合、欧州共同体法は科学に基づいており、特定の決定に対する適用は予防原則(9)に従う。欧州医薬品庁は、高い水準の科学的なアドバイスと効果的リスク・コミュニケーションを設定することに成功した例である。欧州食品安全機関(EFSA)の創設によって、すでに優れた水準に加えて、この分野の科学的な助言の独立性と透明性がさらに得られ、新たな重点は、リスク・コミュニケーションにおかれるだろう。EFSAは、GMOとGM食品・飼料の環境への影響と、人間と家畜の健康への影響の科学的アセスメントに責任を持ち、また、それらが農業・食料生産におけるバイオテクノロジーの応用から生じるかもしれないものを含めて、新たなリスクを見極めることに積極的な責任がある。これらは、新しい応用だけでなく、既存の食物と医薬品についても、安全性のための規制監督の科学的根拠に対する公衆の信頼に重要な役割を果たす。公衆の信用と理解を築くことは、不変の関心事でなければならない。

● 我々の社会における科学の役割についての、公衆の信頼を高める一般的ニーズがある。委員会は、科学文化を増進し、科学政策の策定の際に公的ニーズによりよく配慮し、そして科学を欧州政策の中心に置くために、科学と社会に関する行動計画を提案した。公的当局、経済事業者と科学者集団は、関連する知識を積極的に公開し、また、科学知識は常に進歩しているため、われわれの基準点を定期的に改善することを含めて、重要な問題についての理解を促進する必要がある。さらに、たとえば、新しい病気や薬剤耐性を持つ病気の発生に対して、あるいは現行の農業活動が持続的でない地域の進展に対して行動を起こさないことのリスクを評価することも、社会の理解と政策の立案の過程の重要な部分である。
 


 

 
(9) 予防原則に関する委員会文書(2000年2月2日 COM(2000) 1 final)と、ニース欧州理事会の結論

 




































 




































 
● バイオテクノロジーにおける発明には、大きな設備投資、長期の開発サイクルと広範囲の規制承認が必要である。実効性のある特許権保護は、研究開発と革新への重要な誘因であり、投資に対する収益を保証する必須の手段である。さらに、特許の発表による情報開示は、バイオテクノロジー全体の発展のための重要な要素である。急速な科学の進歩からみれば、知的所有権に関する法律を、よく注意して監視する必要がある。特許制度が研究者や会社の必要を満たしているかどうかについて定期的に評価する必要がある。この点で、欧州共同体と加盟国は、ライフサイエンスの分野での新規性、発明と有用性についての基本的基準の解釈を裁判所と特許庁だけに任せないようにする必要がある。国際的な立場では、先進工業国における特許保護について公平な競争の場を実現するための作業が必要である。この問題では国際的対話を増進する視点からの取り組みが必要である。

● これらの新技術についての欧州共同体規則の原則は、より透明でわかりやすいものでなければならない。たとえば、われわれは規制機関がどのようにリスクを扱うかについて、もっと明確にすべきである。これには、潜在的リスク、科学的不確実性(たとえばゼロ・リスクがあり得ないこと、予防原則の適用)、相対リスクの比較、リスクアナリシスの各段階の役割、監視と保護のようなリスクマネージメント手法の役割、そしてリスクとそれらの均衡がある。さらに、法律上の確実性と予測可能性が重要であると同時に、規制の判断は正当な理由があれば、撤回されうることを強調する必要がある。またリスクアナリシスの方法の国際的な収束と予測的なリスクアナリシス法の開発に関する作業が進行していることを強調する必要がある。規制監督を支援している公的資金による研究は、公共の信頼のために、とくに重要である。

● 欧州ガバナンスに関する委員会の白書で提案された各イニシアティブは、公共の信頼の強化、とくに、リスクガバナンスと専門知識の利用における公開性と説明責任の計画的改善のために重要である。

● われわれの規制監督に対する信頼は、公的当局の責任であるが、バイオテクノロジー産業、経済事業者、科学者団体、NGOやメディアなど他の利害関係者の責任ある参加が必要である。
     
    4.5. 規制の原則
     
−ライフサイエンスの規制における政策目標を一致させること









































 















































 
欧州共同体規則は、バイオテクノロジー発明の特許取得、医薬品の認可、遺伝子組換え微生物の封じ込め利用、食品・飼料・種子などGMOを含む、あるいはGMOに由来する製品の放出と上市などのようなさまざまな面を、現在、統治している。この規制の枠組みは、この25年にわたって徐々に進展したが、この数年で大きく発展した。

欧州共同体規則の一貫性、透明性および効率性を改善するため、委員会は、欧州共同体規則の活動が次の原則を重視することを提案する:

● リスクのガバンナンスと生産物の認可:バイオテクノロジーの生産物は、人間と動植物の生命と健康、および環境に対して安全であることが確認された場合には、確立された規制の原則と枠組みに従って、包括的な科学的リスクアセスメントに基づいて許可される。科学的証拠が不十分、未確定、あるいは不確実である場合や、起こりうるリスクが受け入れがたいと判断される場合には、リスクマネージメントの対策は、予防原則に基づかなければならない。リスクマネージメントにおいては、決められた保護水準を達成するために、検討中の問題に対するリスクアセスメントの結果と他の関連要素を考慮しなければならない。認可の手続きは透明でなければならず、リスクアセスメントは公表し、認可手続きの一部として公衆のコメントを役立たせなければならない。情報の伝達は、リスクアセスメントとリスクマネージメントの活動の不可欠な部分にならなければならない。

● 域内市場を保護すること:域内市場が機能し、法律の確実性を保証するために、欧州共同体の法規を立案し、定期的に見直すことによって、その実行可能性と、強制力を含め、一貫性と効率性を確保しなければならない。欧州共同体法の実施と遵守にあたっては、注意深い監視が必要であり、遵守にかかわる問題については、関係者が、透明性のある予測できる方法で既存の手続きに従って取組み、解決しなければならない。

● 釣り合いと消費者の選択:欧州共同体規制の要件は、確認されたリスクの大きさと釣合っていなければならず、また欧州共同体の国際的義務に一致していなければならない。委員会によって提案されたように、欧州共同体法は、ある食品、飼料、あるいは種子が遺伝子組換えであるか、または遺伝子組換え生物に由来するものである場合は、消費者あるいは利用者に確実に知らされることによって、消費者が選択できるようにしなければならない。

● 予測可能性、最新化と影響評価:委員会は見直す必要のある規制の作業計画(第6節参照)を定期的に公表して、規制の予測可能性、透明性と規則の水準を高めなければならない。規則は、影響評価と現在の原則を一致させるため、科学技術の進歩にあわせて、定期的に再検討し続けなければならない。
     
    5.世界の中の欧州地球規模の課題への対応
     
地球規模の現実









 











 
ライフサイエンスとバイオテクノロジーにおける革命は、地球規模である。研究は、基本的に国際的である。すなわち知識と専門家は、世界中、至る所をめぐる。積極的にバイオテクノロジーを追求する国は増え続けており、その生産物とサービスは、最初の革新者へのプレミアムととともに、世界市場でますます取引されるようになるだろう。

新たな生産物とサービスを開発し、規制し、そして応用する能力に関して、国や地域によるさまざまな違いが存在することも明らかである。これらの新技術の開発、使用への取組みや選択を左右する優先度や社会的価値基準については、もっと大きな違いが明らかになるかもしれない。
     
それは、われわれの政策や優先度に反映されなければならない







 













 
欧州の政策は、他と独立して開発されるべきではない。われわれは、欧州にとっての大きな課題と機会の両方を形作っている幅広い国際的状況に取り組まなければならず、また世界的レベルの責任ある先を見越した政策で対応する必要がある。一つの大きな目標は、欧州連合が米国や日本のような主要工業先進国に対する競争力を維持できるように保証する必要がある。欧州がライフサイエンスとバイオテクノロジーに関してどのような政策を決定したとしても、その政策は、重要な国際的影響を、とくに開発途上国に対して与えることになる。これらの国の恩恵にも考慮する必要がある。われわれは、関係するすべての政策の中に国際的な面を組み込れる必要があり、また、世界規模の、かたよりのない、責任ある政策を、とくに発展途上地域に対して増進するための、われわれの基本的価値基準と長期目標に基づいた、国際協定案を開発する必要がある。
     
    5.1. 国際協力のための欧州アジェンダ
     
国際的多様性の管理




































 






































 
ライフサイエンスとバイオテクノロジーによって生じる新たな問題と、それらの応用に対してさまざまな国や地域の能力や政策の多様性を管理するために、国際的な協力が必要である。

生産物とサービスの貿易は、生産物の承認の割合が異なることによる影響をすでに受けている。国や地域が異なった規制の枠組みを採用することによっても、国際貿易の摩擦が生じるであろう。さまざまな国における規制の進展の基礎となる基本原則や価値基準を相互に理解するために、規制の問題点についての国際的な対話が必要である。

欧州共同体は、開かれた、多国間のルールに基づいた貿易システムを設ける責任がある。したがって、われわれは現行の国際協定の尊重と実施に務めなければならない。ライフサイエンスとバイオテクノロジーによって特別な問題が生じた場合には、欧州共同体は以下のようにして、国際レベルでの解決と対話を推進しなければならない:

● 関連する国際協定間の相互支援、とくにWTO(世界貿易機関)協定とバイオセイフティ議定書との間の相互支援を確保する。

 それぞれの専門知識(FAO、UNEP、CBD、WTO、WHO、UNCTADを含めて(10))の重複を避け、また最もよく利用するために、関連する国際的フォーラムにまたがるバイオテクノロジーに対して、首尾一貫した、総合的、効果的、透明性のある包括的な取り組みを支持する。現代のバイオテクノロジーに由来する生産物のリスクアナリシス、表示制度、およびトレーサビリティーに関して、これらの組織内で調整された指針の開発と、定期的に再検討を行うために、欧州は、OECDとCodex Alimentarius(国際食品規格委員会)、とくにバイオテクノロジーに関する政府間特別部会において、全面的に役割を果たし続けなければならない。国際議論への欧州連合の参加の役割と有効性を、先進国および開発途上国と議論することを含めて、高めるべきである。2000年12月に最終報告を発表した欧州連合/米国バイオテクノロジー・フォーラム(11)のように、対話によって異なる国や地域の懸念と目標についての相互理解を促進しなければならない。来るべき法規について、早期に政策対話を行うことによって、国際的な摩擦の可能性を減らすことができる。
 

    :バイオテクノロジー応用食品特別部会

 
     
    5.2. 発展途上地域に対する欧州の責任
     
発展途上地域の差し迫った要求を果たすための可能性









 














 
ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、発展途上地域が直面する食料と健康のための基本的要求のいくつかを満たす見込みがある。UNDP(国連開発計画)は、人間開発報告2001の中で、開発途上国地域に対するバイオテクノロジーの可能性を強調している(12)。中国、インド、メキシコなどの経済発展中の国々は、すでに意欲的な国家発展プログラムを開始している。

ライフサイエンスとバイオテクノロジーは万能ではなく、発展途上地域の分配問題を解決しないが、重要な手段の一つにはなるだろう。この新たな能力は、発展途上国が収量の増加、自然資源の持続可能な使用、経済の効率性、および社会的受容性を同時に実現させることに役立つにちがいない。潜在的な応用は、環境の安全性の問題と、貧困を減らし、食糧の確保と栄養状態の改善を望む人々の要求の両方を十分に考慮して、適切な調査と評価を受けなければならない。
 





 




 
(10)国連食糧農業機関、国連環境計画、生物多様性条約、世界貿易機関、世界保健機関、国連貿易開発会議。
(11) (対応するURLが見つかりません。2010年5月)
(12)http://hdr.undp.org/en/content/human-development-report-2001
(最新のURLに修正しました。2014年8月)

 
欧州の能力を発展途上国への貢献に使う








































 












































 
ライフサイエンスとテクノロジーにおける主要な関係者として、欧州は、開発途上地域がリスク、課題や機会を扱うことを援助したり、地球規模のレベルでこれらのテクノロジーの、安全で秩序ある発展を促進する、特別な責任がある。欧州は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーに関する国際的な協議において、すでに影響力のある立場にある。われわれの戦略目標を達成し、発展途上国におけるライフサイエンスとバイオテクノロジーの安全で効果的な利用を可能にする責任ある政策によって、この立場をさらに推進する必要がある。

● 欧州は、生物多様性の保護と、遺伝子組換え生物の国際貿易についてのバイオセイフティ議定書の実施とを促進し続けなければならない。さらに、欧州は、生物多様性条約やFAOの植物遺伝資源についての国際的事業など、協議による多国間枠組みを支持し続けなければならない。これらの国際的な協定は、バイオテクノロジーの発明に使われた遺伝資源の起源の中心地と、伝統的知識の保有者に代償を提供する観点で、遺伝資源のアクセスと、その使用から生じる恩恵の配分を規定する。欧州共同体は、知的所有権の収入を含む、バイオテクノロジーの発明によって生じた恩恵が、遺伝資源や伝統的知識の供給者に適切に配分されることを確実にすることに貢献しなければならない。

● 欧州は、国際的な協定と基準、とくにリスクガバンナンスについて交渉し、実施することに参加するため、また、開発途上国が望むなら、これらの新技術を安全に開発し、応用できるように、技術協力、能力形成と技術移転に貢献しなければならない。欧州は、相手国の官民の利害関係者や市民社会におけるバイオテクノロジーについての対話への地域の新計画を支援しなければならない。

● 欧州は、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの需要から導かれた応用のために、公正でバランスのとれた南北の協力関係公衆の調査を促進しなければならない。

● ライフサイエンスとバイオテクノロジーに関する域内の欧州政策は、発展途上国に重大な影響をもたらさざるを得ない。欧州連合の食品の安全性や消費者情報の政策を危うくしない限り、われわれの政策が、発展途上国が望む恩恵を得ることを無意識に妨げてしまうことがないように、技術協力と能力形成を提供しなければならない。とくに、現在の貿易が混乱していることや、発展途上国が自らの希望とペースで、ライフサイエンスとバイオテクノロジーを
発展させることから、事実上、妨げることによって、われわれは、工業国地域のみが扱いやすく、発展途上国地域には達成できないと思われる規制要件に対して警戒しなければならない。
     
    6.政策、分野と関係者を横断する実施と一貫性
     
協力によって責任の分散を乗り越える






 










 
欧州のライフサイエンスとバイオテクノロジーに対する政策は単一ではなく、国際的レベル、欧州共同体レベル、加盟国レベル、そして地方レベルでの多くの産業分野あるいは横断的政策のもとでの特定の規制の寄せ集めである。欧州が非常に多くの関係者や関連政策を持ちながら、うまくライフサイエンスとバイオテクノロジーを管理し、社会のための恩恵を得ようとするなら、われわれは、協調的な取り組みのための共通した見方に基づいて、また総合的な責任と管理の欠落を補うためのメカニズムを効果的に実施して、進まなければならない。そのようなメカニズムがないと、ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、不決断、あるいは、先を見ない局所的な解決に苦しむおそれがある。
     
以下のことによる実施
 
委員会は、この戦略とこの中の行動計画の実施を以下の手段によって構築し、支持することを提案する:
     
モニタリング


 




 
● 政策の立案とその根拠の経過を監視し、この急速に発展する分野における新たな問題点を先取りしながら、委員会は法制化のための中間段階の作業計画を含むライフサイエンスとバイオテクノロジー報告書を2002年から2010年まで定期的に提出する予定である。
     
−欧州連合政策の一貫性













 
















 
● われわれは、ライフサイエンスとバイオテクノロジーの開発と応用を直接に規制し、あるいは間接的に影響する欧州共同体法規と政策にまたがる一貫性を確保する必要がある。委員会は、ライフサイエンスとバイオテクノロジー報告書の一部として、ライフサイエンスとバイオテクノロジーに影響する欧州共同体の政策と法規の一貫性を再検討し、必要に応じて新計画と提案を行う。ライフサイエンスとバイオテクノロジーに関する規制が、適切にわれわれの国際的な目的を統合し、革新や国際競争力を促進し、欧州共同体の研究が欧州共同体の目的に一貫性して効果的に貢献し、あるいは欧州共同体の他の政策と目的が(たとえば、環境、公衆衛生と消費者保護、教育、雇用、農業、貿易および開発政策において)ライフサイエンスとバイオテクノロジーの長期的な地球規模の重要性を適切に反映することを保証するために、特別な注意がはらわれるだろう。委員会は、現在の国際的フォーラムや二国間の対話が十分に有効なものであって、情報が適切に流れているか、また国内の協調メカニズムが改善できるかを評価する予定である。
     
−協調とベンチマーク








 










 
● さまざまなレベルの権限を適用する場合、その戦略は、さまざまな関係者(欧州共同体、国や地方所管官庁、経済事業者、科学者団体、その他)の間の協力に関するものでなければならない。リスボン戦略の一部として、ライフサイエンスとバイオテクノロジーのための首尾一貫した行動が、協調とベンチマークの確立した方法をとおして追求されなければならない。さらに、利害関係者間の新しい形態の協調と協力が促進されなければならない。加盟国と共に、委員会は、欧州条約に従って、欧州共同体の権限を強化する必要があるかどうかの再評価を含め、現在の権限のパターンと協調のメカニズムによって戦略的な目的の効果的達成が可能かどうかを評価する予定である。
     
−政治的な配慮









 











 
● 委員会は、全ての機関と公的関係者に、より一貫性のある行動を取るように努力することを求める。委員会としては、自らの行動、あるいは他の関係者への勧告や助言によって、この戦略を確実に実施するために、警戒と促進政策を提供することに務める。委員会は、上記のライフサイエンスとバイオテクノロジー報告書を採択すると同時に、定期的なこの促進政策討論会をもっと開催する予定である。

● ライフサイエンスとバイオテクノロジーについて、提案された戦略の一層の発展と実施することに向けて、わかりやすく、建設的な対話を促進するために、委員会は、加盟予定国と他の国の代表者を含む広範囲の利害関係者のフォーラムを組織する。
     
    7.対話と行動のための枠組み
     
当面の行動と将来の行動の発展のための枠組み






















 



























 
欧州が直面する戦略的な機会と課題を明らかにする時である。ライフサイエンスとバイオテクノロジーは、世界的現実であり、活力ある革新的な知識に基づいた経済を発展させる目的のために必須である。長期的な課題に対して短期的解決、また地球規模の課題に対して局部的な解決をはかろうとするような思わぬ危険を回避するために、われわれは、難問に立ち向かい、戦略的な目標を明らかにしなければならない。

ライフサイエンスとバイオテクノロジーにおいて、特有の問題が生じていることを認識し、委員会は戦略と具体的な行動を提案することを約束した。一貫した協調と、不断の努力の新計画をここに示す。

この新計画は、欧州のバイオテクノロジーの強さと弱さの徹底的な分析(13)と、2001年9月に委員会が開始した幅広い公衆討論と特定の公衆諮問に基づいている。このイニシアティブは、今度はそれ自体がいっそうの対話をもたらすだろう。添付した行動計画は、この文書のうちの第3章から第6章までに提示された方向に従って、幅広い範囲の対策を提案している。いくつかの行動は、短期に進めることが可能であるが、中・長期の行動計画は、加盟国や利害関係者と協力して、なおいっそうの発展が提案されるという構成の枠組みである。

現在、委員会は、効果的な一貫した欧州バイオテクノロジー政策への決定的な第一歩として、短期と中期の行動のもとでの詳細な対策と、それらの達成タイムスケジュールを明確にすることによって、提案された戦略の改良と実施に貢献することを、欧州共同体の機関と団体、加盟国、指導者および公衆に求めている。
 



 


 
(13)欧州競争力報告書2001(ルクセンブルク2001);
「欧州のバイオテクノロジーにおける革新と競争力」
(Enterprise Papers No 7)2002(欧州委員会):

 
 

本の紹介 83: Climate Change; Implications for the
Hydrological Cycle and for Water Management
Ed. Martin Beniston
Kluwer Academic Publishers (2002)
ISBN 1-4020-0444-3

 
 
 人口の増加と気候変動、それに伴う水不足が穀物生産に大きな影響を与えている。「貧困」に対処するとともに「持続的発展」に取り組むためには、「環境対策」、たとえば水資源の確保、適切な水循環や水の安全性の確保が不可欠である。
 
 気候変動と水不足は関連しあっている。気温が高くなれば蒸発量も増え、ある場所では干ばつも増える。これから先、はたして京都議定書でよかったのか、もっと前向きに協定するべきでなかったのかという危惧の念が生じるかもしれない。
 
 たとえば中国の穀物生産量は、この2年間下降している。50年代から99年までは増加し続けたけれども、2000年から生産量が落ちている。2002年もこの傾向は変わらない。様々な要因が関係しているが、水不足が大きな原因の一つである。
 
 本書は、気候変動にともなう水循環と水管理のための関わりを述べたものである。ヨーロッパ、カナダ、カナリア諸島、アルプス、スカンジナビア、スウェーデン、スペイン、ドイツ、スイス、イスラエル、ライン、オーストラリア、アフリカ、中国、中東などの水の問題を個別に詳しく紹介している。
 
 21世紀は、多くの国が水問題でなんらかの対策をとらなければならないであろう。新しい問題なので、どの国も経験が乏しい。今後の水問題を考えるうえで、貴重な書である。目次は以下の通りである。
 
List of contributors
Preface
M. Beniston, E. Wiegandt, and H. Hoff
 
Changes in the mean and extremes of the hydrological cycle in Europe under enhanced greenh ousegas conditions in a global time-slice experiment
W. May, R. Voss, and E. Roeckner
 
Investigation of the hydrologic cycle simulated by the Canadian Regional Climate Model over the Quebec/Labrador territory
A. Frigon, D. Caya, M. Slivitzky, and D. Tremblay
 
Major influences on precipitation in the Canary Islands
D. Gallego Puyol, R. Garcia Herrera, E. Hernandez Martin, L. Gimeno Presa, and P. Ribera Rodrigez
 
High resolution simulations of precipitation over the Alps with the perspective of coupling tohydrological models
O. Brasseur, H. Gallee, J. D. Creutin, T. Lebel, and P. Marbaix
 
Heavy precipitation occurrence in Scandinavia investigated with a Regional Climate Model
O. Bossing Christensen, J. Hesselbjerg Christensen, and M. Botzet
 
Testing of NAO and ENSO signals in the precipitation field in Europe
C. Mares, I. Mares, and M. Mihailescu
 
Water vapor vertical profile by Raman lidar in the free troposphere from the Jungfraujoch Alpine Station
I. Balin, G. Larcheveque, P. Quaglia, V. Simeonov, H. van den Bergh, and B. Calpini
 
A qualitative assessment of the sources of uncertainty in climate change impacts assessment studies
D. Viner
 
The GLOWA Volta project: Integrates assessment of feedback mechanisms between climate, landuse, and hydrology
N. van de Giesen, H. Kunstmann, G. Jung, J. Liebe, M. Andreini, and P. L. G. Vlek
 
Glowa Danube: A research concept to develop integrative techniques, scenarios and strategies regarding global changes of the water cycle
W. Mauser and R. Ludwig
 
Climate change and water resources in Sweden - analysis of uncertainties
M. Gardelin, S. Bergstrom, B. Carlsson, L. P. Graham, and G. Lindstrom
 
Hydrological cycle changes in China's large river basin: The Yellow River drained dry
C. Liu and H. Zheng
 
Floods in the context of climate change and variability
Z. W. Kundzewicz
 
Climate change impacts on river flooding: A modelling study of three meso-scale catchments
L. Menzel, D. Niehoff, G. Burger, and A. Bronstert
 
Impact of climate change and higher CO2 on hydrological processes and crop productivity in the state of Brandenburg, Germany
V. Krysanova and F. Wechsung
 
Local climate and water availability changes due to landscape modifications: A numerical experiment in Southeastern Spain
N. Hasler, I. Iorgulescu, A. Martilli, G. E. Liston, and R. Schlaepfer
 
Trends in drought in Swiss forested ecosystems
B. Zierl and H. Lischke
 
Feedback between structured vegetation and soil water in a changing climate: A simulation study
H. Lischke and B. Zierl
 
Water control and property rights: An analysis of the Middle Eastern situation
U. Luterbacher and E. Wiegandt
 
Exploratory economic assessments of climate change impacts in Israel: Agriculture
M. Shechter and N. Yehoshua
 
Changing climate and increasing costs: Implications for liability and insurance
L. M. Bouwer and P. Vellinga
 
Scenario analyses in global change assessment for water management in the lower Rhine delta
H. Middelkoop, J.C.J. Kwadijk, W.P.A. van Deursen, and M.B.A. van Asselt
 
Climate change and water resources in an arid continent: Managing uncertainty and risk in Australia
R.N. Jones and A.B. Pittock
 
 

資料の紹介:「インベントリー」第1号
(独)農業環境技術研究所・農業環境インベントリーセンター刊
(2002)No.1, ISSN 1347-5665

 
 
 (独)農業環境技術研究所・農業環境インベントリーセンターは、年刊誌「インベントリー」第1号を発刊した。これは、農業環境インベントリーの構築と利用を促進するためのものである。内容は、「巻頭言」、「付録」、「報文」、「インベントリー」、「研究トピックス」および「研究標本館」から構成されている。「巻頭言」と「付録」を除く報文・記事については、当センター以外の者でも投稿できるシステムになっている。本書の目次は以下の通りである。
 
 なお、当研究所の農業環境インベントリーに関する考え方や活用についての詳細は、「情報:農業と環境 No.12」「平成12年度農業環境研究推進合同会議:重要検討事項、農業環境資源インベントリーの構築と利用」および「情報:農業と環境 No.19」の「平成13年度専門技術員研究開催される、土壌インベントリーとその土壌管理への利用」を参照されたい。
 
巻頭言  
年刊誌「インベントリー」の発刊にあたって 浜崎忠雄
   
報文  
イネ科植物寄生性 Bipolaris, Curvularia, Exaserohilum 属菌のオフィオボリン毒素産生性
月星隆雄・森脇丈治・吉田重信
   
研究トピックス  
ヤガ科害虫4グループ類似種の幼生期の識別法 吉松慎一
健全イネでの常在が明らかになった Pseudomonas huttiensis の再分類
藤原弘亮・對馬誠也・月星隆雄・吉田重信・西山幸司・門田育生
   
インベントリー  
自然植生の純一次生産力と農業気候資源の分布図 清野 豁
 
エコシステムデータベース 宮田 明・小野圭介
土壌モノリスデータベース 小原 洋・中井 信・戸上和樹
土壌モノリス作製法改訂版 中井 信・小原 洋
土壌分類検索プログラム 中井 信
マメハモグリバエ寄生蜂の図解検索 小西和彦
日本産オオアブラムシ属のチェックリストおよび種の検索表
宮崎昌久・安田耕司
植物細菌病の診断と病原細菌の同定に関する情報 西山幸司
 
農業環境モニタリングマニュアル 浜崎忠雄・永谷 泉
確率分布カリキュレータ 三輪哲久
全国市町村名日本語表記−ローマ字表記対照ファイル 荒城雅昭
 
農業環境用語事典 浜崎忠雄・永谷 泉
   
研究標本館  
土壌モノリス館 小原 洋・中井 信・戸上和樹
昆虫標本館 安田耕司
微生物標本館
對馬誠也・月星隆雄・吉田重信・篠原弘亮
地質調査所および農事試験場で発刊された土性図目録 浜崎忠雄・中井 信
 
 
付 録
平成13年度NRICセミナー講演要旨
研究課題一覧
研究成果の発表
研究協力・交流
在識者とその動き
 
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