飼料作物病害図鑑

トウモロコシ 根腐病 リスク評価スコア3.0 (3,3,3)

病徴(全体) 病徴(根部、左:健全、右:罹病) 病徴(稈内部) 圃場接種病徴
病原菌(P. graminicolaの遊走子のう) 病原菌(P. graminicolaの造卵器) 病原菌(P. arrhenomanes の造卵器)

病徴:全国的に発生し、株が黄熟期に萎凋する重要な糸状菌病。当初は茎腐症として報告されたが(佐藤ら 1984, 井上ら 1984)、後に正式病名が根腐病となった(橋本ら 1985)。初め根が褐変し、黄熟期を過ぎると一気に枯れ上がり、植物体全体が黄色くなる。また、雌穂が垂れ下がるのが特徴の一つ。稈内部は空洞化し、軟化するため機械でうまく刈れなくなる。

病原菌:Pythium arrhenomanes Drechsler, Pythium graminicola Subramanian、卵菌
当初P. graminicolaが病原として報告されたが(島貫ら 1987)、2010年代からイネ苗立枯病やサトウキビ根腐病を引き起こすP. arrhenomanesも病原として報告されるようになった(月星ら 2011b, 2012c, Tsukiboshi et al. 2014)。P. ultimum var. ultimum, P. heterothallicumおよびP. inflatumも罹病植物から分離されるが、病原性は弱い(月星ら 2016)。卵菌類で、遊走子のうから形成される遊走子が鞭毛により水中を泳いでまん延する。罹病植物組織内には厚い細胞壁を持つ造卵器が形成され、これが耐久器官として土壌中で生存・越冬する。両種とも様々なイネ科の作物及び雑草に寄生するとされ、これらがトウモロコシの罹病残渣とともに伝染源となっていると考えられる。また、P. graminicolaはトウモロコシの苗立枯症も引き起こすことが明らかになっており(菅原ら 2010, 2010b, 2011c)ライグラス苗立枯病菌であるP. periilum Drechslerに分類されることもある(微生物ジーンバンク)。病原の簡易凍結保存が試みられている(菅原ら 2018)

生理・生態:本病の発生には降雨および気温が係わっていることが知られ、経験的に9〜10月の高温時、特に降雨の直後に突然枯れ上がるとされる(橋爪 2001)。本病の発生は現在では北海道から九州までほぼ全国に及び、神奈川県では発生地域や条件に関する詳細な調査がされている(島貫ら 1985)。発生年次によっては8月が比較的低温でも多雨なら多発し、気温よりも降水量が発病に影響することが報告されている(三ツ橋ら 2013a)。本病の発生は収穫物の栄養価にも影響し、発病程度の高い品種では乾物収量および茎葉部の粗蛋白質が減少する(井上ら 1990)。サイレージとした場合もTDN含量およびデンプン含量が顕著に低くなり、発酵品質が低下する(古川ら 2013b)。トウモロコシ葉にP. arrhenomanesの卵胞子を接種する方法で、抵抗性および罹病性品種の反応の違いが確認されている(増中ら 2013a)。罹病性品種へのサリチル酸の前処理で抵抗性が誘導され、発現遺伝子が解析されている(増中ら 2014)

防除法:本病に対してはトウモロコシ品種間で抵抗性差異があり、菌を培養したつまようじの穿刺による抵抗性検定法が開発され、この方法により市販品種の抵抗性が判定されている(島貫ら 1987, 根本ら1987, 黄川田ら 2012, 2019, 三ツ橋ら 2013a, 2013b, 2014, 2015, Mitsuhashi et al. 2015, 古川ら 2013a, 2013c)。トウモロコシ自殖系統およひそのF1組合せでの発病個体率に大きな差があり(伊東ら 2009)、麦粒接種法等による抵抗性検定が行われている(菅原ら2011a, 2011b)。播種期を遅くし、生牛糞を投入すると発生が助長される傾向があり、早播き、施肥法および抵抗性品種を組み合わせた総合防除法が提案されている(根本ら 1987, 高橋 2011, 佐藤 2020)。黄熟期に達した段階で遅れないように刈り取ることにより、被害を軽減できる (佐藤 2012, 北海道技術普及課 2010, p.61)。サイレージ調製の際にプロピオン酸添加あるいはTMR調製後にラップなどの方法が、サイレージ品質保持に効果があると報告されている (佐藤 2012, 早田ら 2013a)。発生予察が取り組まれ、発生初期段階での茎の基部の褐変程度により病害の進行度が推定でき、早期収穫の目安となる (早田ら 2013b)。

総論:島貫ら(1984), 月星(2009, 2011c, 2012d, 2019), 菅原(2019)


畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本 なし

(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)


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