コラム
ノシメマダラメイガがチョコレートの害虫になった理由
チョコレートを食べる昆虫がいるなんてと驚かれる方も多いかも知れませんがノシメマダラメイガはチョコレート製品への混入害虫として古くから知られています。しかし、私たちが購入する製品に混入することは滅多にありません。チョコレートの生地は高温で処理されますし、製造工場は異物の混入に驚くほど気を使っているからです。
チョコレートの害虫と呼ばれるには理由があるはずです。通常は、ノシメマダラメイガにとって、チョコレートは食物として適しているので害虫となったと考えます。それを確かめるために、アーモンドが入ったミルクチョコレートとアーモンドなしのミルクチョコレート上に、孵化して24時間以内の幼虫を放して25℃で飼育してみました。約30gの板チョコに5頭の幼虫を使いました。その結果、ミルクチョコレートでは発育が大幅に遅れ、成虫になるまで平均して145日程度で、羽化率も8%と低いものでした。玄米の場合の28日程度,羽化率80%と比べると、チョコレートそのものは幼虫の食物として決して適したものではないのです。アーモンドチョコレートでは、成虫まで平均68日であり、栄養価の高いアーモンドを食べた分だけ速く発育するようで、羽化率も50%でした。幼虫にとってアーモンドの有無は発育に大きく影響することがわかりました。飼育温度を30℃にすると発育期間は短縮され、チョコレートそのものでは成虫まで平均92日程度、羽化率も22%になりました。
チョコレートの害虫と呼ばれる理由を考えるヒントとして、過去の論文に気になる報告があります。ノシメマダラメイガの成虫はチョコレート臭に強く誘引されるのです。幼虫の食物として向かないチョコレートにどうして成虫が引き寄せられるのかは依然としてなぞですが、将来このなぞが解けるときがくることに期待しましょう。
さて、現時点では次のように私は考えます。ノシメマダラメイガの成虫はチョコレート臭に強く誘引され、チョコレートの周辺に産卵します。孵化した幼虫はおそらく臭いに反応して、食品包装の隙間や穴から侵入してチョコレートに到達するのでしょう。幼虫にとってチョコレートは決して良い食物ではなく、発育に時間がかかります。このことは幼虫がチョコレートに長期間混入していることを意味します。結果としてチョコレートに幼虫を発見する頻度が高くなるため、害虫と呼ばれるようになったのではないか。チョコレートが食物として適していないことが害虫化の理由だとすれば、食品混入害虫に特有の現象と呼べるかもしれません。
ノシメマダラメイガなんて見たことがないと思う方もいるでしょう。性フェロモンを用いたトラップ調査によると、5月から10月までであれば市街地に普通にいることがわかっています。あなたの周りにもいるはずです。
参考文献
- 宮ノ下明大・今村太郎(2011)チョコレート製品でのノシメマダラメイガ Plodia interpunctella 幼虫の発育 ペストロジー 26(2): 53-57.
関連情報
- 図鑑:ノシメマダラメイガ
更新日:2019年02月19日