コラム
ノシメマダラメイガはチューリップを食べるのか?
過去の研究報告を調べていると、時々新しい発見をして驚くことがあります。春の代表的な花であるチューリップと食品害虫の代表であるノシメマダラメイガの意外な関係もそのひとつです。新潟大学農学部の雨木・萩谷 両先生はチューリップの球根倉庫で、何かにかじられた跡のある球根を発見し、虫による被害ではないかと考えていました。しかし、いくら文献を調べてもそのような記録はありませんでした。
ところが、他の実験目的のために掘上時期の異なる球根を収穫し保管していたところ、8月上旬に球根を食べる幼虫を発見し、それがノシメマダラメイガであることがわかりました。ノシメマダラメイガはチューリップの球根を食べる害虫でもあったのです。
幼虫の球根の食べ方には次のような特徴がありました。保管された掘上時期の異なる球根について、ノシメマダラメイガの幼虫と成虫の発生数を調べました。すると、5月に掘上げた球根には多数の虫が発見されましたが、6月や7月に掘上げた球根にはほとんど発見されなかったのです(図参照)。いったい、これはどういうことなのでしょうか。
幼虫は球根の外皮だけを食べ、内部の鱗片には被害はありません。虫の発生数の差は外皮の質の変化と関係がありそうです。掘上時期ごとに外皮の厚さを計測してみると、5月では約0.1mmですが、6月、7月と徐々に薄くなり約0.03mmになりました(図参照)。
5月の外皮は未熟で白く厚いのですが、その後成熟して褐色に変化して薄くなるのです。幼虫は成熟が進み着色し始める頃の外皮では発育できないと考えられました。これを確かめるためには、球根外皮のみを使った幼虫の発育試験が必要ですが、まだ行われていないようです。
研究報告では、通常の時期(6月)に球根を掘上げたときは問題ないが、病気や生理障害等の影響で未熟な時期に掘上げた球根は、保管時にノシメマダラメイガの被害が発生する可能性があると指摘しています。
私は未熟な球根を見たことがないのでピンときませんが、未熟な球根を見逃さず利用するノシメマダラメイガ幼虫のしたたかさには脱帽の一言しかありません。
参考文献
- 雨木若橘・萩谷薫(1959)チューリップ球根の外皮を食害するノシメマダラメイガ 農業及び園芸 34(12): 99-100.
関連情報
- 図鑑:ノシメマダラメイガ
更新日:2019年02月19日