コラム
脳から摘出されたノシメマダラメイガ
「事実は小説よりも奇なり」。食品害虫のノシメマダラメイガの生きた幼虫が動物の脳や皮膚下組織から摘出された信じられない3つの事例を、2001年に発表された論文から紹介しましょう。
まずは、つがいで飼っていた鳥類体内への侵入例です。脱水症状の雄のインコ(ワカケホンセイインコ)が治療の甲斐なく死亡しました。このインコを解剖したところ、脳の下側の表面に生きた幼虫が1匹発見されました。体長は8mmで、シルク状の物質で覆われていました。幼虫はウイスコンシン大学に送られ同定された結果、ノシメマダラメイガの終齢(4齢)幼虫だったのです。多数の臓器の組織学的分析から、インコはポリオーマウイルス(Polyoma virus)に感染していたことがわかりました。
著者らは、どのように幼虫が鳥体内に侵入、組織内を移動し脳に到達したかは不明であり、さらに、どのように4齢に脱皮し、シルク状の繊維を作れたのかもわからないとしています。しかし、インコの組織学的な損傷や死亡原因は、幼虫によるものではなく、ポリオーマウイルスの感染であると推定しました。幼虫は鳥の餌に発生したと思われますが、飼い主の家では発見されていません。
次の2例は飼いネコです。10歳のネコは、右眼付近が腫れた状態で、耳や頭にもかさぶたが観察されました。飼い主はネコが夜に外出した際に虫に刺されたのではないかと考えていました。皮膚や眼の状態はなかなか改善されず、体全体がむくみ、アレルギー症状が現れました。このネコの右のほほの皮膚下にノシメマダラメイガの終齢幼虫の侵入が発見されました。さらに、同じ家で飼われていた5歳のネコでも、首の後ろにかさぶたがみられ、その皮膚下に終齢幼虫の侵入が発見されました。
著者らは、ネコの皮膚のひっかき傷は、幼虫が皮膚下を移動したことで起こるアレルギー反応の結果と考えています。ネコには、顔をこする行動、喉の腫れ、体全体のむくみ、くしゃみといったアレルギー反応がみられたからです。飼い主の家のカーペットや鳥の餌からは2匹のノシメマダラメイガ幼虫が後日発見されました。このことは、ネコに対する幼虫の付着や、皮膚下への侵入を許すことになったと説明しています。しかし、どのようにしてなぜ幼虫が体内に侵入し皮膚下組織で生き残ったのかはわかっていません。
ノシメマダラメイガ幼虫の鳥類やほ乳類の体内への侵入事例は、現時点で本論文だけであり、侵入は非常に希なことと考えられます。著者らは、今回のガの幼虫が引き起こした症状は、ハエの幼虫が動物に寄生するハエウジ症と類似するものではないかと述べています。ガの幼虫の例としては、牛の涙腺分泌物を食べる幼虫(ヤガ科)があるそうです。
参考文献
- Pinckney, R. D., K. Kanton, C. N. Foster, H, Steinberg, and P. Pellitteri (2001) Infestation of a bird and two cats by larvae of Plodia interpunctella (Lepidoptera; Pyralidae) J. Med. Entomol. 38(5): 725-727.
関連情報
更新日:2019年02月19日