【豆知識】

コラム

果実内部のミバエ幼虫をどう殺すのか?

2016.02.15 宮ノ下明大

 

ウリ類や熱帯果樹の果実内部を食害する害虫に、ミバエ類が知られています。ミバエとは「果実蠅」の意味です。日本の農業に大きな被害を与える植物検疫上重要な害虫として、侵入が警戒されています。例えば、海外からマンゴウを日本に輸出するには、ミバエ類の卵、幼虫を完全に殺虫できなければ許可されません。ミバエの成虫は果実内部に産卵します。孵化した幼虫は内部を食べて成長すると果実の外へ脱出し、土中へ潜り蛹になります。その後、羽化した成虫は地上へ出てきます。

ミカンコミバエの生活史

温湯処理と蒸熱処理

殺虫の対象は果実内の卵や幼虫です。農薬を散布しても果実内部の幼虫までは十分に浸透できないので、大きな殺虫効果は望めません。そこで使われる方法のひとつは、高温を用いて殺す方法です。ミバエ類の幼虫を完全に殺虫するためには、通常は47℃で20分間程の処理が必要になります。果実内部をこの温度に上昇させるためには、「お湯に入れる」温湯(おんとう)処理と「熱い蒸気にさらす」蒸熱処理の2種類があります。実際の処理には、果実の中心温度を計測し、十分な温度に達しているかを確認して行います。日本の植物検疫では、約3万匹の完全殺虫が輸入解禁の目安になっています。

温湯処理と蒸熱処理
温湯処理と蒸熱処理

熱耐性の違い

ミバエの幼虫は同じ発育段階であっても、熱に対する強さが異なることが報告されています。兼行ら(2014)は、ミカンコミバエの1齢幼虫の、孵化後2-4時間齢、12-14時間齢、22-24時間齢の3段階に対して、45℃を処理して熱耐性を調べました。最も強いのは、12-14時間齢の致死時間は51分で、最も弱いのは22-24時間齢で26分でした(表)。同じ1齢幼虫の中でも大きく違う理由は、発育に伴う内部組織の変化(脱皮前)があるのではと考えられています。

幼虫の異なる齢期に対する耐熱性

生果実の形と殺虫率

生果実の形や重量は品種によって異なります。Omura et al., (2014)は、形や重量が異なるマンゴウ3品種に、ミカンコミバエの卵を寄生させて、蒸熱処理(45.5℃)を行いました。その結果、重量が大きい品種ほど45.5℃到達までの時間が長くなり、殺虫率が高くなりました。さらに、重量が同じで、扁平な品種と卵形の品種を比較すると、卵形の品種は温度上昇が遅く、処理後の温度低下も遅く、殺虫率が高いことがわかりました。果実の重さや形は殺虫率に影響を与えるのです。

生果実の形と殺虫率
生果実の形と殺虫率

果実は大丈夫か?

果実を50℃近くの高温で処理して品質に影響はないのかと思われるでしょう。私もそう思いました。品種による若干の差はありますが、一般に熱帯性の果実は高温に強く、その品質に大きな影響はないそうです。

【上にもどる↑】 

参考文献

  • 兼行賢人・安達博之・菊川華織・宮崎 勲(2014)ミカンコミバエ幼虫の1齢期内における熱感受性の比較.植物防疫所調査研究報告 50: 79-81.
  • Omura, K., T. Dohino, M. Tanno, I. Miyazaki and N. Suzuki(2014)Vapor heat mortality tests on the eggs of Oriental fruit fly, Bactrocea dorsalis, infesting different shape of fresh mango. Res. Bull. Pl. Prot. Japan 50: 1-8.
【上にもどる↑】 

更新日:2019年02月19日