国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

農研機構 > 農業環境研究部門 > 夏季の農業気象(高温に関する指標)

研究資料
令和5年3月31日
農研機構 農業環境研究部門

2022年夏季の農業気象 (高温に関する指標)

はじめに

近年、夏季の高温による農作物の被害が多発しています。ここでは、水稲の生育に影響を与える2022年夏季の農業気象の概況を整理しました。具体的には、猛暑日と熱帯夜、ならびに水稲の登熟期間の平均気温の地域的な特徴を示し、気象データに基づく穂温の推定結果についても紹介します。

概要

1.1kmメッシュの気温分布 5) (注1) を使用した解析によると、2022年の猛暑日(日最高気温35℃以上)の記録回数は、1978年以降の45年間で東日本が6番目、西日本が10番目の順位でした。また、熱帯夜(日最低気温25℃以上)の記録回数は、東日本が5番目、西日本では1番目の順位となり、特に西日本における最低気温が高い傾向でした。

2.登熟前半の平均気温が26℃を超えると、品質の低下リスクが増加します。出穂日から20日間 (登熟前半) の平均気温が26℃を超える地域は、関東以西の標高が低い平坦地に広範囲に分布し、関東東部、北陸、東海、近畿地方などを中心に、28℃以上の高温の地域が認められました。分布のパターンは2018年8)や2019年9)と類似していました。

3.穂温モデルを用いた解析から、8月前半の穂温が関東や西日本で高くなり、特に四国や九州南部では、記録的な猛暑であった2018年を上回る高温の地域があった可能性が示されました。一方で7月後半の穂温は関東~東海でやや高めに推移し、8月下旬の穂温は全国的にほぼ平年並みと推定されました。

(注1) アメダス地点の日最高気温と日最低気温の定義は年代によって変化し、そのままでは長期の気候変動解析には利用できません。本解析では、時別の気温観測データを用いて各地点の日平均/日最高/日最低気温を算定し、それらのデータに基づき長期解析用の1kmメッシュの気温分布を算定しました。前年度までに公表した資料(「2013年夏季の農業気象」 7) から「2021年度夏季の農業気象」 11) まで) でも、同様な方法で作成した1kmメッシュの気温分布を利用しています。

内容

1.猛暑日と熱帯夜

2022年の猛暑日(日最高気温35℃以上)の記録回数は、1978年以降の45年間で東日本が6番目、西日本が10番目の順位でした (図1) 。また熱帯夜 (日最低気温25℃以上) の記録回数は、東日本が5番目、西日本では1番目(過去最高)の順位となりました (図1)。猛暑日と熱帯夜の記録日数は過去45年間で増加傾向にあり、東日本では猛暑日と熱帯夜とも2018年が最多、西日本では猛暑日が1994年、熱帯夜は2022年(昨年)がそれぞれ最多となっています (図1)。2022年夏(6~8月)の平均気温は全国的に高く、西日本では1946年の統計開始以来の1位タイの高温となりました4)。とりわけ6月下旬から7月上旬にかけて全国的に多照ならびに異常高温となり、東・西日本(6月下旬)と北日本(7月上旬)における平均気温が、統計開始以降1位の記録を更新しました4)。特に7月1日は、アメダス6地点で日最高気温が40℃以上に達しました4)。7月中旬は低日照で気温は平年並みに推移しましたが(沖縄・奄美は除く)、7月下旬から8月上旬にかけて気温は平年よりかなり高くなり、日照時間も一部地域を除いて平年並み以上に回復しました4)。一方、西日本の一部の地域などを除き、8月は日照時間が平年より少なく、降水量も平年よりかなり多くなりました4)

次に猛暑日と熱帯夜の発生程度を表す日中と夜間の高温指標3)を用いて、気温分布の特徴を調べました(図2)。2022年は、埼玉県から群馬・栃木県南部にかけての関東内陸と、山梨県、東海、京都府の平野部に猛暑日の発生程度が高い地域が見られました(図2)。特に関東内陸では猛暑日の発生程度が高い地域が広域に分布し、東日本を中心に歴代1位の猛暑年であった2018年8)に匹敵する広がりを持っていました(図2図A1)。また熱帯夜の発生程度が高い地域は、関東南部、東海、近畿、九州北西部・南部の平野部と、瀬戸内沿岸や北陸地方の一部に分布し、特に2018年8)や2019年9)、2020年10)などの近年の猛暑年の分布パターンと高い類似性が見られました(図2図A2)。

2.登熟期間の平均気温と暑熱指数

出穂日から20日間(登熟前半)の平均気温が26℃を超えると、水稲の白未熟粒の発生が増大し、品質の低下リスクが生じるとされています13)。2018年はそのような地域が関東以西の標高が低い平坦地に広範囲に分布し、関東東部、北陸、東海、近畿地方などを中心に、28℃以上の高温の地域が認められました (図3)。出穂日から20日間の平均気温が26℃を超える地域は、この期間の暑熱指数 HD_m26 が高い地域にほぼ対応し、平均気温が28℃を超える地域での HD_m26 は、概ね40℃×day以上となっています(図3)。出穂日から20日間の平均気温と暑熱指数HD_m26が高い地域の分布は、2018年8)や2019年9)における分布パターンと類似し、登熟期間の平均気温や暑熱指数は2018年 < 2022年 < 2019年の順に高くなっていました(図A3図A4)。出穂日は農林水産省統計資料に基づき、作柄表示地帯別に与えています。

3.日中における推定穂温

高温不稔は温暖化によって増加が懸念される水稲の高温障害の一つであり、出穂・開花時の穂温が高温になると高温不稔発生のリスクが増加します15)。前年の2021年の7月後半(7/16-31)は、全国的に推定穂温が高くなり、特に北海道、東北で顕著な高温となりました11)。2022年7月後半の推定穂温は関東~東海でやや穂温が高めに推移しましたが、北陸や西日本では平年並みでした(図4上段)。8月前半(8/1-15)は関東と西日本で推定穂温が高くなり、特に四国や九州南部では、記録的な猛暑であった2018年を上回る高温の地域がありました(図4中段)。一方で8月下旬(8/16-31)の推定穂温は全国的にほぼ平年並みでした(図4下段)。

出穂日前後7日間と前後5日間の日中(10~15時)における平均穂温の推定値の分布を見ると、猛暑であった2020年までの3年間(2018~2020年8) 9) 10))ほどのレベルでないものの、北陸地方の一部(福井県や富山県)や関東地方東部(茨城県)に33℃以上の高穂温の地域が存在し、東海地方以西の地域にもやや高穂温の地域が点在していました(図5)。北日本においては、2019年9)や2021年11)に見られたような高穂温の地域は認められませんでした(図5図A5図A6)。

(補足)気温の季節内変化

近年、北日本や東日本では、気温の季節内変化が大きく、同じ猛暑年においても高温となるタイミングは年によって異なります(図6)。関東地方では、2007年は8月16日、2018年は7月23日を中心に顕著な高温となり(図6中段)、この時期に出穂期を迎えた品種で、通常より高い割合の不稔発生が認められました1) 15)。2022年は関東地方では6月下旬、北海道・東北地方では7月上旬に顕著な高温を記録しましたが、前年の2021年は北海道・東北地方で7月下旬~8月上旬の期間に顕著な高温となりました(図6上段、中段)。これらの夏の早い時期の顕著な高温は、作物の初期生育に影響を及ぼしている可能性があります。一方、西日本では、北日本や東日本と比べると気温の季節内変化が小さく、年々変動も小さくなっています(図6下段)。

引用文献

1) Hasegawa, T., Ishimaru T., Kondo M., Kuwagata T., Yoshimoto M., and Fukuoka M. (2011) Spikelet sterility of rice observed in the record hot summer of 2007 and the factors associated with its variation, J. Agric. Meteorol., 67(4): 225-232.

2) Ishigooka Y., Fukui S., Hasegawa T., Kuwagata T., Nishimori M., and Kondo M. (2017) Large-scale evaluation of the effects of adaptation to climate change by shifting transplanting date on rice production and quality in Japan, J. Agric. Meteorol., 73(4): 156-173.

3) Ishigooka Y., Kuwagata T., Mishimori M., Hasegawa T., and Ohno H. (2011) Spatial characterization of recent hot summers in Japan with agro-climatic indices related to rice production, J. Agric. Meteorol., 67(4): 209-224.

4) 気象庁 (2022) 夏 (6~8月) の天候. https://www.jma.go.jp/jma/press/2209/01b/tenko220608.html

5) Kuwagata T., Yoshimoto M., Ishigooka Y., Hasegawa T., Utsumi M., Nishimori M. Masaki Y., and Saito O. (2011) MeteoCrop DB: an agro-meteorological database coupled with crop models for studying climate change impacts on rice in Japan, J. Agric. Meteorol., 67(4): 297-306.

6) 清野 豁 (1993) アメダスデータのメッシュ化について.農業気象,48(4): 379-383.

7) 農業環境技術研究所 (2014) 2013年夏季の農業気象 (高温に関する指標) .研究資料,https://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/agromet/2013.html

8) 農研機構 農業環境変動研究センター (2019) 2018年夏季の農業気象 (高温に関する指標) .研究資料,https://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/agromet/2018.html

9) 農研機構 農業環境変動研究センター (2020) 2019年夏季の農業気象 (高温に関する指標) .研究資料,https://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/agromet/2019.html

10) 農研機構 農業環境研究部門 (2021) 2020年夏季の農業気象 (高温に関する指標) .研究資料,https://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/agromet/2020.html

11) 農研機構 農業環境研究部門 (2022) 2021年夏季の農業気象 (高温に関する指標) .研究資料,https://www.naro.affrc.go.jp/org/niaes/agromet/2021.html

12) 西森基貴, 石郷岡康史, 若月ひとみ, 桑形恒男, 長谷川利拡, 吉田ひろえ, 滝本貴弘, 近藤始彦 (2020) 作況基準筆データを用いた近年の日本のコメ品質に対する気候影響の統計解析. 生物と気象, 20: 1-8. https://doi.org/10.2480/cib.J-20-054

13) 森田 敏 (2008) イネの高温登熟障害の克服に向けて.日本作物学会紀事, 77(1): 1-12.

14) Yoshimoto, M., Fukuoka M., Hasegawa T., Utsumi M., Ishigooka Y., and Kuwagata T. (2011) Integrated micrometeorology model for panicle and canopy temperature (IM2PACT) for rice heat stress studies under climate change, J. Agric. Meteorol., 67(4): 233-247.

15) Yoshimoto M., Sakai H., Ishigooka Y., Kuwagata T., Ishimaru T., Nakagawa H., Maruyama A., Ogiwara H., and Nagata K. (2021) Field survey on rice spikelet sterility in an extremely hot summer of 2018 in Japan, J. Agric. Meteorol., 77: 262-269.

担当研究者

農研機構 農業環境研究部門 気候変動適応策研究領域

桑形 恒男
吉本真由美
長谷川利拡
西森 基貴
滝本 貴弘

農研機構 北海道農業研究センター芽室研究拠点 寒地畑作研究領域

石郷岡康史

データ提供について

1978年以降の各年における夏季の高温指標に関する画像データ (PSファイル) を提供します。詳細はこちらをご覧ください。

過去の記事

2013年から2022年までの過去記事はこちらより参照できます

問い合わせ先

研究担当者:

農研機構 農業環境研究部門 気候変動適応策研究領域長

長谷川利拡
TEL 029-838-8204

広報担当者:

農研機構 農業環境研究部門 研究推進室 (兼本部広報部)

杉山 恵
TEL 029-838-8191 (6979)
電子メール niaes_kouhou@ml.affrc.go.jp

日最高気温が35度以上になった回数と日最低気温が25℃以上になった回数を東日本と西日本に分けて表示 (グラフ)

図1.日最高気温が35℃以上になった回数 (左図) と日最低気温が25℃以上になった回数 (右図) の年々変化 (1978-2022年の過去45年間)

1981-2000年の20年平均値を100とした時の相対値。1kmメッシュの気温分布 6) (長期の気候変動解析用(注1) )に基づき算定。ここで、東日本は中部地方より東の地域に対応し、西日本は近畿地方より西の地域が対応する (ただし北海道と沖縄は含まず) 。

(全国マップ)
(全国マップ)

図2.日中の高温指標 HD_x35 (℃×day) (上図) と夜間の高温指標 HD_n25 (℃×day) (下図) の分布 (2022年)

1kmメッシュの気温分布 6) (注1) に基づき算定。

2つの高温指標は次式で定義され 3)、それぞれ猛暑日と熱帯夜の発生程度を表している。

HD_x35 (℃×day) = ∑[max(Tmax-35, 0)]

:日最高気温 Tmax が 35 ℃以上の日 (猛暑日) の気温超過量を毎日積算する。

HD_n25 (℃×day) = ∑[max(Tmin-25, 0)]

:日最低気温 Tmin が 25 ℃以上の日 (熱帯夜) の気温超過量を毎日積算する。

過去45年間における日中と夜間の高温指標の分布 (1978~2022年) を、参考資料として 図A1 および 図A2 に示した。

(全国マップ)
(全国マップ)

図3.水稲の出穂日から20日間の平均気温 (上図) と暑熱指数 HD_m26 (℃×day) (下図) の分布 (2022年)

1kmメッシュの気温分布 6) (注1) に基づき算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。

水稲の出穂日から20日間の暑熱指数 HD_m26 は次式で定義され 2) 3)、この値がおよそ20(℃×day) を越えると、品質低下のリスクが増すことが示されている 12)

HD_m26 (℃×day) = ∑[max(T-26, 0)]

(出穂日から20日間の期間で、日平均気温Tが26℃以上の日の気温超過量を積算)

過去45年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温と暑熱指数 HD_m26 の分布(1978~2022年)を、参考資料として 図A3 および 図A4 に示した。

48の気象台 (旭川、札幌、・・・、鹿児島、宮崎) の気象データをもとにしたグラフ

図4.7月後半(7/16-31)、8月前半(8/1-15)ならびに 8月後半(8/16-31)における、全国各地の開花時刻(10~12時)の平均穂温の推定値の分布

出穂・開花期においては、10~12時は開花時刻にほぼ対応する。エラーバーは日々の標準偏差を示す。
2022年と 2021、2018年の結果、ならびに1991-2020年の30年間の平均値。「モデル結合型作物気象データベース」 (MeteoCropDB) 5) で提供される全国の気象台48地点の気象データと穂温モデル 14) より算定。

(全国マップ)
(全国マップ)

図5.水稲の出穂日前後7日間 (上図) ならびに出穂日前後5日間 (下図) の日中 (10~15時) における平均穂温 (℃) の推定値の分布 (2022年)。

1km メッシュの気象分布のデータと穂温モデル 14) により算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得。穂温の計算には1kmメッシュの気温分布 6)(注1) 以外にも、風速、日射量、相対湿度などの1kmメッシュの気象分布のデータが必要となる。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。
これまでの現地調査によって、出穂日前後5日間の日中 (10~15時) の推定穂温は、高温不稔の発生率との関係性が高いことが確認されている15)。ここでは出穂日の地域的なばらつきを考慮して、出穂日前後7日間の日中 (10~15時) の推定穂温の分布も掲載している。
過去45年間における水稲の出穂日前後7日間と出穂日前後5日間の日中 (10~15時) における平均穂温 (℃) の推定値の分布 (1978~2022年) を、参考資料として 図A5 および 図A6 に示した。

(全国マップ)

図6.札幌(北海道)、熊谷(関東地方)、高知(四国地方)における日最高気温(7日間移動平均)の季節内変化。

2022年に加えて、比較のために2007、2018、2021年のデータも表示した。各地点のデータは、「モデル結合型作物気象データベース」(MeteoCropDB)5)より入手。

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A1.過去45年間における日中の高温指標 HD_x35 (℃×day) の分布 (1978~2022年)

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A2.過去45年間における夜間の高温指標 HD_n25 (℃×day) の分布 (1978~2022年)

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A3.過去45年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温分布 (1978~2022年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A4.過去45年間における水稲の出穂日から20日間の暑熱指数 HD_m26 (℃×day) の分布 (1978~2022年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。2006年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A5.過去45年間における水稲の出穂日前後7日間の日中 (10~15時) における平均穂温 (℃) の推定値の分布 (1978~2022年)

穂温モデル 14) により算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。2006 年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。

(全国メッシュマップ25枚)
(全国メッシュマップ25枚)

図A6.過去45年間における水稲の出穂日前後5日間の日中 (10~15時) における平均穂温 (℃) の推定値の分布 (1978~2022年)

穂温モデル 14) により算定。出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。2006 年時点で水田が存在していなかったメッシュは、灰色で示している。

NARO 農研機構
法人番号 7050005005207
(C) 2001-2022 National Agriculture and Food Research Organization All Rights Reserved.