ライグラスの病害 (1)


かさ枯病(kasagare-byo) Halo blight
病原菌:Pseudomonas syringae pv.atropurpurea (Reddy and Godkin 1923) Young, Dye and Wilkie 1978、バクテリア
 温暖地での発生が多い葉枯性のバクテリア病。葉では初め水浸状の斑点が現れるが、後にチョコレ−ト色の楕円形、紡錘形または不定形病斑となり、病斑周囲は黄色いハロー(かさ)で囲まれる特徴がある。病勢が進むと病斑が縦に伸び条状になり、最終的には枝梗や種子も侵されることがある。病原菌はフェスクかさ枯病菌と同種である。


赤かび病(akakabi-byo) Fusarium blight
病原菌:Gibberella zeae (Schweinitz) Petch、子のう菌
 穂での発生が問題になる糸状菌病。穎花が赤〜褐色となり、穎の合わせ目などにピンク色のかびが生える。葉でも発生し、米粒大程度の同心輪紋を持つ楕円形病斑を形成する。病原菌は土壌中でも長く生存し、これが一次伝染源となる。他にイネ、麦類など多くの穀類で発生する。


網斑病(amihan-byo) Net blotch
病原菌:Drechslera andersenii Lam (=D. dictyoides Drechsler f.sp. perennis (Braverman et Graham) Shoem.)、不完全菌
 斑点性の糸状菌病で、特に東北以北での発生が多い。発生初期は長さ1〜2cm、幅1〜5mmの網目状病斑であるが、後期には長さ1〜3cm、幅5〜8mmの褐色または黒褐色条斑になる。病斑が大型化した場合には葉枯れ状態となることが多い。病斑は比較的見分けやすいが、他の病害とまとめて斑点性病害として扱われていることが多い。病原菌はフェスク網斑病菌と同属だが、別種。


麦角病(bakkaku-byo) Ergot
病原菌:Claviceps purpurea (Fries) Tulasne、子のう菌
 穂に麦角(菌核)を形成し、これが家畜毒性を持つ。開花直後から穂にあめ色の蜜滴を形成し始め、蜜滴内に含まれる多量の胞子が風雨で飛散して伝播する。感染した穂には種子のかわりに表面白色、その下は黒紫色、牛の角状で、長さ2〜18mm、幅0.6〜2.4mmの麦角を形成する。麦角は地上に落ち、翌年に発芽して伝染源となる。病原菌は寄主範囲が広く、オーチャードグラス、チモシー、フェスクなどにも感染する。麦角中のアルカロイドはエルゴバリンなど毒性の強いものであり、家畜の流産などを引き起こす。


葉腐病(hagusare-byo) Summer blight
病原菌:Rhizoctonia solani Kühn AG-1 TB、TA、担子菌
 全国で発生し、草地の夏枯の一因となる重要な糸状菌病。初め灰緑色、水浸状に葉が変色し、やがてゆでたように軟化していく。さらに病気が進むと、茎や葉が倒れて重なって腐り、これをつづり合わせるようにしてくもの巣状の菌糸が見られる。罹病植物上には、明褐色〜褐色、直径5mm程度の菌核が形成される。この時点で草地はつぼ状に枯れ、徐々に裸地化が進む。病原菌はほとんどのイネ科及びマメ科牧草を侵すきわめて多犯性の菌。培養型TBおよびTA菌が関与する。


斑点病(hanten-byo) Leaf spot
病原菌:Pyrenophora lolii Dovaston (=Drechslera siccans (Drechsler) Shoemaker)、子のう菌
 全国で発生する斑点性の糸状菌病。病斑は黒褐色、楕円形〜円形、周囲がしばしば黄化し、長さ5〜15mm 、幅3〜7mmとなるのが典型であるが、実際は病斑は融合して不定形になることが多く、何となく斑点が出ているような感じになることもある。このため病斑が区別しにくく、抵抗性育種などの対応が遅れている。


縁枯病(fuchigare-byo) Leaf blight
病原菌:Drechslera noblea McKenzie et Matthews、不完全菌
 春から夏にかけて発生する斑点性の糸状菌病。病斑は葉縁に形成されることが多く、褐色、半楕円形で、周縁部はしばしば不鮮明になる。出穂後に発生すると葉の基部が侵されて、葉全体が枯れ、脱落することが多い。病原菌はフェスク縁枯病菌と同種。


ひょう紋病(hyoumon-byo, 病名未記載) Zonate spot
病原菌:不明糸状菌


いもち病(imochi-byo) Blast
病原菌:Magnaporthe oryzae B. Couch [=Pyricularia oryzae Cavara]、子のう菌
 暖地で発生が多い斑点性の糸状菌病。病斑は短い紡錘形で、灰白色、周縁部は褐色となることが多い。大きさは長さ2-5mm程度であるが、激発すると病斑が融合し、葉全体を枯らして立枯症状を引き起こす。病原菌はイネいもち病菌と同種であるが、寄生性については一部の菌がイネとライグラスの両方を侵すとされる。抵抗性品種が育成されている。


蛇紋病(jamon-byo) Ascochyta leaf spot
病原菌:Ascochyta desmazieri Cavara、不完全菌
 病斑が特徴的な斑点性の糸状菌病。梅雨時から発生し、初めは褐色の斑点であるが、徐々に拡大して不鮮明な同心円状の病斑となる。これが葉身などに多数発生すると相互に融合して蛇紋状となる。特に葉身基部や葉鞘を侵されると、葉が枯れて被害が大きくなる。病斑が古くなると、表面に黒色の小粒(柄子殻)を生じる。


株腐病(kabugusare-byo) Foot rot
病原菌:Rhizoctonia cerealis v.d. Hoeven in Boereme et Verhoeven (AG-D)、担子菌
 株枯れを引き起こす糸状菌病。冬から春にかけて発生し、水分欠乏のような症状を呈し、罹病個体は圃場で赤っぽく見える特徴がある。病斑は茎で目立ち、イネ紋枯病に似た不整形で、白色の菌糸に覆われる。病斑上には茶褐色、大きさ1mm程度の菌核が形成される。病状が進むと、茎内部にも菌糸が侵入し、下葉から枯れ上がって株腐症状となる。多湿条件で多発する。病原菌は二核リゾクトニアの一種で、オオムギ株腐病菌と同一と考えられている。

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