【豆知識】

コラム

家の周りのコクゾウムシ

2016.11.11 宮ノ下明大

 

毎年、大学3年生に貯穀害虫について講義する機会があります。「コクゾウムシを見たことがある人は手を上げてください」と、今年も質問してみました。そのとき、35名の学生の中で手を上げた人はいませんでした。若い世代には縁のない昆虫なのです。

コクゾウムシ
コクゾウムシ

以前コラムで紹介したように、玄米貯蔵庫にはコクゾウムシが多数発生しています。しかし、現在では、精米して袋詰めする際に、色彩選別機で成虫は取り除かれ、その混入は著しく減少しました。一方、私たちの家の周りにはいないのでしょうか?過去に住宅地で調査をした事例は見当たりません。おそらく、コクゾウムシはお米が大量にある場所にしかいないと思われていたのでしょう。

家の周りでトラップ調査

最近、コクゾウムシの集合フェロモンを誘引源としたトラップ(図1:「トリオス」)が開発されました。集合フェロモンは、成虫の雄と雌の両方を誘引できます。このトラップを使えば、捕獲調査ができると考えました。

コクゾウムシ用フェロモントラップ
図1 コクゾウムシ用フェロモントラップ
コクゾウムシ用フェロモントラップの断面模式図
床置き式フェロモントラップの断面模式図

2015年の春(4~7月)と秋(10~11月)に法政大学の学生に協力をお願いし、一般住宅地のマンションのベランダや一戸建ての庭にトラップを置いて、コクゾウムシの捕獲を試みました(宮ノ下・佐野,2016)。

関東で春に活動する成虫

東京都7地点、埼玉県1地点、千葉県1地点、茨城県4地点の合計13地点で調査した結果、東京都府中市で5月と6月に1匹ずつ、茨城県つくば市で6月に1匹が捕獲されました。10~11月には全く捕獲されませんでした。この結果は、頻度は低いですが、春に一般住宅地でもコクゾウムシが活動することを示しています。春にコクゾウムシが花や麦畑に飛来することは、大阪、奈良、三重で確認されていましたが、関東地方で活動が確認されたのは初めてでした。

コクゾウムシは公園にいる

玄米貯蔵庫が近くにない一般住宅地の周囲で活動するコクゾウムシは、いったいどこから来たのでしょうか?それは公園に落ちているドングリではないかと私は思っています。コクゾウムシは公園に植栽されたスダジイやコナラの種子を食べて繁殖できます(宮ノ下ら,2010)。今回の調査でコクゾウムシが捕獲された地点(つくば市)から、50m程離れた公園で、ドングリに付いているコクゾウムシの成虫を発見しています。ここから飛来した成虫がトラップに捕獲された可能性があります。私たちの家の周囲には、お米と関係なくコクゾウムシが発生している場合がありそうです。

ドングリって、食べられるよね

備考

コクゾウムシは外果皮が無傷の場合は産卵できないが、穴や割れ目があると産卵可能で、堅果を利用できる(宮ノ下ら,2010)

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参考文献

  • 宮ノ下明大・佐野俊夫(2016)一般住宅地の屋外に設置されたフェロモントラップに捕獲されたコクゾウムシの記録.ペストロジー,31:61-64.
  • 宮ノ下明大・小畑弘己・真邉彩・今村太郎(2010)堅果類で発育するコクゾウムシ.家屋害虫,32:59-63.
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関連情報

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更新日:2019年02月19日