前の記事 目次 研究所 次の記事 (since 2000.05.01)
情報:農業と環境 No.73 (2006.5)
独立行政法人農業環境技術研究所

インベントリー展示館に肥料・煙害展示室がオープンした

展示室内の写真

昨年(2005年)4月にオープンしたインベントリー展示館(情報:農業と環境No.61インベントリー展示館が公開された」 を参照)内に、「肥料・煙害展示室」が新設され、4月19日の研究所一般公開に合わせて公開されました。

この展示室では、おもに次の3つの標本・資料を展示しています。

肥料の分析台帳と試料

分析台帳と肥料の展示

室の西側には、明治34年(1901年)から昭和29年(1954年)にかけて農業環境技術研究所の前身である農事試験場と農業技術研究所時代に作成された、肥料の依頼分析(一般からの依頼による分析)と請求分析(公的機関からの依頼による分析)の台帳と分析試料とを展示しています(詳細については、情報:農業と環境No.57,「農業環境技術研究所案内(15):残された遺産−農事試験場における肥料依頼分析の記録−」 を参照)。

分析台帳には供試品名、生産地、依頼期日、分析結果、分析者などが記載され、冊子で489冊(約8万件)が農環研に保管されています。そのうち明治34年の依頼分析と明治35年の請求分析の台帳や英語の証明書の控えなどをガラスケース内に展示しています。

また、分析に供した試料として保存されている約700点のガラスびんに入った肥料のうち、醤油(しょうゆ)かす、焼酎(しょうちゅう)かす、香川県産オリーブ油かす、テングサやツノマタなどの海藻など植物質肥料25点、ニシンやイワシかす、ザリガニ、ヤドカリ、幼蚕かす、塩虫(ワラジムシ)、タニシ、ヒトデ、ウニ、鯨骨、獣肉、獣毛、乾血など動物質肥料16点、チリ硝石、モロッコ・ラサ島・大東島産リン鉱石、セメントダスト、トーマスリン肥、過リン酸石灰、化成肥料の試作品など無機質肥料13点を展示しています。肥料として使えそうなものは何でも利用しようとした先人の苦心が偲(しの)ばれるとともに、科学的データに基づく品質保証の要求とそれに対応するシステムの存在に驚かされます。

化成肥料や配合肥料

室の東側には、第二次大戦後、日本の肥料会社が製造したり農業技術研究所が試作したりした、所内に保存されている肥料標本約1000点のうち、250点を展示しています。おもな内訳は、窒素、リン酸およびカリなどの成分の異なるさまざまな化成肥料104点、作物ごとに肥料成分を調製し有機質を混合した配合肥料60点、単肥とその原料であるグアノ(海鳥糞)、リン鉱石や塩化カリウム鉱石など58点、緩効性肥料で粒の大きさやコーティング資材の異なる被覆肥料28点である。肥料の形、色、大きさ、成分や機能のちがいなどの多彩さを見ていただきたいと思います。

煙害植物試料と関係資料

煙害植物試料と関係資料の展示

室の北側には、明治41年(1908年)から昭和12年(1937年)にかけて調査・研究した際に得られた、亜硫酸ガスなどの被害を受けた植物標本とそのスケッチ画や関連する写真など2300点をこえる資料のうち、約60点を展示しています(詳細については、情報:農業と環境No.54「農業環境技術研究所案内(14):残された遺産−96年前からの公害汚染植物−」 を参照)。

その内容は、愛媛県別子銅山四阪島製錬所周辺の煙害を受けたサクラ、カボチャ、ダイズなどの植物乾燥標本とフキやアザミなどの彩色スケッチ画、亜硫酸ガスの曝露(ばくろ)実験で使われ、葉や茎が脱色したハダカムギの彩色スケッチ画とガラスに焼き付けられたネガおよび乾燥標本など11点、四阪島製錬所とその煙の発生状況を示す写真、足尾銅山付近のフィールドノートと調査報告書、地図、気象データ、四阪島や足尾周辺の被害状況の報告に関する古在由直第2代農事試験場長(情報:農業と環境No.53「わが国の環境を心したひとびと(9):古在由直」 を参照)と農務局長や鉱山局長との往復書簡などの資料34点を展示しています。乾燥植物標本の葉が現在でも脱色したままになっている被害の生々しい状況とカラー写真のない時代に研究者が状況を忠実に絵で表現する技術を有していたことが印象的です。

以上のほかに、展示室にはパソコンが置かれており、肥料分析帳簿、肥料標本インベントリーおよび煙害標本について詳しい情報を得ることができます。

インベントリーとしての利用

これらの資・試料は、農業環境研究の歴史を知る上で貴重な証拠であるばかりでなく、時間を超えた環境試料としての価値を有しています。たとえば、窒素、リン酸、カリ以外の肥料由来のさまざまな元素の農地への蓄積を知る上で、保存されている肥料の元素濃度測定は欠かせません。また、当時は不可能であった肥料や植物体の同位体分析を行うことなどによって、思いもかけない環境状況が把握できるかもしれません。これらの試料を農業環境インベントリーとして保存・整理した上で、将来どのように有効に活用していくかを考えていきたいと思います。

見学について

インベントリー展示館の見学を希望される方は、事前に当研究所の広報情報室広報グループ(電話029−838−8191)にご連絡ください。

前の記事 ページの先頭へ 次の記事