約1万年もの間安定していた大気中の二酸化炭素濃度は、18世紀半ばの産業革命の開始とともに上昇し始めました。人間活動がさらに活発になった現在では、過去にない速さで大気中の二酸化炭素濃度が上昇しており、21世紀末には産業革命以前の約2倍に達すると予測されています。
植物は、二酸化炭素と水を材料にして光合成を行うことによって生きています。材料となる二酸化炭素の濃度が上昇すると光合成が活発になるため、植物の成長量は増えると考えられます。それでは二酸化炭素濃度が高まると、作物の成長や収量も増加するのでしょうか?
温室や人工気象室を使ってこれまでに行われたさまざまな作物の実験結果を平均すると、二酸化炭素濃度が2倍になると収量は約33%増加することが分かりました。けれども、実際の水田でどのくらいの増収があるかは不明でした。
そこで私たちは、温室ではなく実際の農家水田の一画に、囲いのない条件で二酸化炭素を水田に吹き込み、二酸化炭素濃度を周囲よりも 200 ppm 増加させてイネを栽培してみました。3年間の実験の結果、イネの収量は平均で、14%程度増加することが分かりました。
この結果は、他の作物の増収効果と比較すると必ずしも高くありませんでした。さらに実験から分かったことは、イネの成長量に及ぼす二酸化炭素濃度増加の効果は、イネが若い時期には30%程度と大きいのに、成長が進むにつれてその効果が次第に小さくなっていくということです。このような増加効果の低下をなんとか小さくすることができれば、二酸化炭素濃度の増加による増収効果をさらに高めることができるはずです。
大気二酸化炭素濃度の上昇は、同時に温暖化をもたらします。温暖化はイネの生育期間を短くしたり、高温ストレスを与えたりすることによって収量を減少させると考えられています。二酸化炭素濃度の上昇によってイネの収量が増加する程度が、温暖化によって減少する程度よりも高ければ、将来のコメの生産量は増やすことができます。
農業環境技術研究所では、高二酸化炭素濃度・温暖化環境に適した稲作を研究し続けています。
(農業環境技術研究所 大気環境研究領域 酒井英光)
農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は平成21年2月4日に掲載されたものです。
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