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農業と環境 No.121 (2010年5月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

ポジティブリスト制度:食品中の残留農薬を規制する
(常陽新聞連載「ふしぎを追って」)

人の性格について、ポジティブ (積極的) とかネガティブ (消極的) とか言いますが、農薬等の食品残留に関する制度にもポジティブとネガティブがあります。

それらが残留しても大丈夫という量 (残留基準) をリストしたのがポジティブリスト、その基準を超えて残留しては駄目というのがネガティブリストです。わが国では、以前はネガティブリスト制度で規制していましたが、食品衛生法の改正とともに、2006年5月29日からポジティブリスト制度が始まりました。では両者はどこが違うのでしょう?

現在、世界で使われている農薬や動物薬などは、約800あります。また、私たちが口にする生鮮食品や加工食品は多種多様です。そうすると、食品にこれらが残留する組み合わせは、1万を優に超えます。

ポジティブリスト制度でカバーしている範囲(説明図)

ネガティブリスト制度では、これらの組み合わせについて、国内で使われているものと、海外の情報を参考に残留基準を決めたもの (図中の青色) 以外は規制していませんでした。

一方、ポジティブリスト制度では、ネガティブリスト制度で規制しなかったもののうち、人の健康を損なわないことが明らかな一部の物質 (緑色) を規制の対象から除外して、それ以外 (赤色) は 0.01 ppm という極めて低い残留基準で規制します。

そこで生産現場で心配されるのが農薬のドリフト (飛散) と土壌残留です。ポジティブリスト制度では、ある作物に散布した農薬が周辺の別の作物に飛散したり、処理後の土壌に残留した農薬が次の作物に吸収されたりして、わずか 0.01 ppm 残留しただけでも、作物の流通や販売ができなくなることがあります。ですから、周辺に飛散しないように散布する、また時間を置いて土壌中の農薬が充分少なくなってから次の作物を栽培することが必要です。

最近、輸入食品から農薬などが検出されたという報道が後を絶ちませんが、ポジティブリスト制度を導入して、日本では使われていない農薬についても規制や監視を強化することで、食の安全を確保しているのです。

(農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域長 與語靖洋)

農業環境技術研究所は、一般読者向けの研究紹介記事「ふしぎを追って−研究室の扉を開く」を、24回にわたって常陽新聞に連載しました。上の記事は平成21年2月25日に掲載されたものです。

もっと知りたい方は・・・

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