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情報:農業と環境
No.16 2001.8.1

 
No.16

・第1回有機化学物質研究会

・第18回農薬環境動態研究会

・第1回環境化学分析センタ分析技術講習会の報告

・サイエンスキャンプ2001の開催

・人類によって促進された窒素循環の政策的意味

・環境状態を表す指標生物としての花粉媒介昆虫:

・本の紹介 50:世界の環境危機地帯を往く,マーク・ハーツガード著,

・本の紹介 51:稲のことは稲にきけ,近代農学の始祖:

・本の紹介 52:全予測,環境&ビジネス,三菱総合研究所,

・本の紹介 53:Environmental Restoration of Metals-Contaminated Soils,

・本の紹介 54:大気環境変化と植物の反応,野内 勇編著,養賢堂

・報告書の紹介:現代バイオテクノロジーと農産物市場


 

第1回有機化学物質研究会
農業に係わる内分泌かく乱物質(環境ホルモン)
研究の現状と課題−分布実態と生物影響を中心に−

 
 
趣  旨
 環境中の化学物質が人や野生生物の内分泌作用をかく乱し、最終的に生物の生存を脅かす恐れのあることが、コルボーンらの「奪われし未来」で紹介され大きな反響を与えた。内分泌かく乱作用が疑われるとしてリストアップされた化学物質には、ダイオキシン類、農薬、農業用の被覆資材中のフタル酸エステル、食品容器中のビスフェノールAなど、農業に深く係わっているものも多い。これらの化学物質の問題に対応するため、現在、農水省ミレニアムプロジェクト「環境ホルモン」において、内分泌かく乱作用の検定方法の開発、農作物への移行性、環境生物に対する影響、環境中における動態の解明や汚染物質の低減化に向けた分解・除去に関する基礎研究が実施されている。
 
 本研究会では、新「科学技術基本計画」で示された「人の健康や生態系に有害な化学物質のリスクを極小化する技術及び評価・管理する技術」に関連する研究推進に向け、内分泌かく乱作用が疑われる化学物質の分布実態と生物への影響に関するこれまでの研究成果を整理し問題点を摘出して、今後の試験研究の方向を展望する。
 
主  催 農業環境技術研究所
共  催 森林総合研究所、瀬戸内海区水産研究所
開催日時 平成13年9月6日(木)10:00〜17:10
開催場所 農業環境技術研究所大会議室
 
講  演
 

 
開会の挨拶
 
農業環境技術研究所理事長
 
陽 捷行
 
(10:00〜10:10)
 
1) 農業環境におけるダイオキシン類の分布実態

 

 
農業環境技術研究所
 
桑原雅彦
 
(10:10〜10:55)
 
2) 生態系におけるダイオキシン類等化学物質の濃縮実態

 

 
森林総合研究所
 
山田文雄
 
(10:55〜11:40)
 
3) 内分泌かく乱作用の検定法

 

 
農業環境技術研究所
 
堀尾 剛
 
(11:40〜12:25)
 
4) 水生生物の成熟・再生産に及ぼす化学物質の影響

 

 
瀬戸内海区水産研究所
 
藤井一則
 
(13:15〜14:00)
 
5) 家畜の生殖機能等に及ぼす化学物質の影響とそのメカニズム

 

 
動物衛生研究所
 
鈴木千恵
 
(14:00〜14:45)
 
6) 食品用容器包装高分子素材に由来する内分泌かく乱物質の分析と影響評価

 

 
星薬科大学
 
中澤裕之
 
(15:00〜15:45)
 
7) 内分泌かく乱物質の規制に関わる国際的な取り組み状況

 

 
(財)残留農薬研究所
 
青山博昭
 
(15:45〜16:30)
 
8) 総合討論 (16:30〜17:10)
 
 
参 集 範 囲
 

 
国公立・独立行政法人試験研究機関、大学、関係団体、行政部局等
問い合わせ先 農業環境技術研究所有機化学物質研究グループ 上路雅子
    〒305-8604 つくば市観音台3-1-3

 

 
TEL:0298-38-8301 ; FAX:0298-38-8199
E-mail:zueji@niaes.affrc.go.jp
 
 

第18回農薬環境動態研究会
 
 
趣  旨
 生産資材としての農薬の適正使用が、農作物の安全や生態系の保全にとって重要である。農薬のリスクを評価するためには、生物に対する毒性と暴露量の両者を解析しておくことが必須であり、その基礎的知見として、農薬の農作物、環境中での濃度分布、挙動に関するデータの蓄積が求められている。しかしながら、近年使用されている農薬は、化学構造が複雑になる傾向にあり、超微量での残留分析も容易でない。また、環境中での動態試験についても、多種多様な環境要因によって大きく変動するため解析が困難である。
 
 本研究会では、各県で実施されている残留農薬の分析法及び環境動態等に係わる研究成果を中心に、問題点を整理して議論を深めることによって、今後の研究推進の発展を図る。
 
主 催 農業環境技術研究所
日 時 平成13年9月7日(金)9:00〜14:00
場 所 農業環境技術研究所大会議室
 
検討事項 (1)作物残留農薬分析法と作物残留基準
    (2)環境における動態解析のための試験法
    (3)残留データの解析方法
    (4)その他
 
参集範囲 国公立・独立行政法人試験研究機関、関係行政部局等
問い合わせ先 農業環境技術研究所有機化学物質研究グループ 上路雅子
    〒305-8604 つくば市観音台3-1-3

 

 
TEL:0298-38-8301 ; FAX:0298-38-8199
E-mail:zueji@niaes.affrc.go.jp
 
 

第1回環境化学分析センタ分析技術講習会の報告
− 環境化学分析センタ
 −

 
 
1.はじめに
免疫化学測定法を応用した化学物質の測定法(ELISA)は、操作が簡便でしかも高感度測定が可能な機器分析法に匹敵する測定法として注目されており、欧米諸国では環境中の有害化学物質測定に広く実用化されている。わが国ではこの分野の研究が遅れていたが、最近になって関係学会で開発研究例が報告されるようになった。
 
農業環境技術研究所では、民間企業との共同研究によりこの分野の開発研究を行ってきた。共同研究を開始した当時は試薬キットの形態が整っていなかったが,その後の共同研究者の尽力により試薬キットが完成した。このたび、共同研究者から完成した試薬キットの試供品の提供を受けて、講習会の開催が可能となった。
 
以下に本講習会の次第ならびに実施概要を紹介する。なお、講習会を企画するに当たりご協力いただいた関係企業に対して厚く御礼申し上げる。
 
2.講習会次第
 
講習題目
 
免疫化学測定法による環境水中の残留農薬の測定法
 
開催日時
 
第1日目 平成13年7月25日(水)午後2時〜午後5時
    第2日目 平成13年7月26日(木)午前9時〜午後5時
 
開催場所
 
農業環境技術研究所環境化学物質分析施設1階実験室
 
    講習内容:
    第1日目 (1)免疫化学測定法の原理
      (2)免疫化学測定法による河川水中の残留農薬の測定法
      (3)免疫化学測定法のその他の応用例

 

 
第2日目
 
(4)技術講習(主としてスルホニル尿素系除草剤の測定)
 
3.講習会の具体的内容
 
(1)測定の原理
 
 ELISA操作手順の 流れ図(22KB)に示すように,マイクロタイタープレートの各ウェルの底に,測定しようとする農薬(抗原)と特異的に反応する抗体が固定化されている。そこに農薬を含む試料水と農薬・酵素複合体の混合液100μlを注入する。農薬と農薬・酵素複合体は競争して抗体に結合する。抗体に付着する割合はそれぞれの濃度に比例する。次に、ウェル内を蒸留水で洗浄して、未反応の抗原(農薬と農薬・酵素複合体)を取り除く。この段階でウェル内には(1)農薬・抗体−結合体、(2)農薬・酵素・抗体−結合体および(3)未結合抗体がある。そこへ酵素の基質を注入すると(2)の結合体の酵素により基質が変化を受け、無色であったウェル内の液の色が変る(青色)。この反応を一定時間行い、希硫酸を加えて酵素反応を停止さる。ウェル内の溶液のpHは弱アルカリ性から強酸性に変わり、溶液の色が黄色になる。反応停止後15分以内に450nmの波長で吸光度を測定する。
ELISA操作手順流れ図
この測定で使用する試薬キットおよび測定装置を写真1〜5に示した。
ELISAはEnzyme Linked Immuno Sorbent Assayの頭文字である。
 
 本講習会で用いた試薬キットの概観と測定操作の写真
写真1:ELISA試薬キット、マイクロピペットおよび測定装置
写真2:マイクロタイタープレートへ試薬溶液の分注操作
写真3:洗浄操作
写真4:発色操作(左側) → 反応停止(右側)
写真5:測定結果と測定装置の概観
 
写真1 写真2 写真3
写真または文字を
クリックすると,
拡 大 画 像
表示します。
写真4 写真5  
 
(2)ELISA試薬キットの特徴
 
今回使用したELISA試薬キットの用量反応曲線を下図に示す。この用量反応曲線はシグモイド曲線と言われる酵素反応に見られる独特な曲線である。
 
試薬キット用量反応曲線
 
[検量線]
 検量線は通常一次回帰式、すなわち
 
 
で表す。しかし、この用量反応は曲線のため直線化するために次の二つの方法がある。一つの方法は直線に近い部分を直線に近似させて検量線を作成する方法である。もう一つの方法は、数学的に直線に変換する方法である。前者の方法は相対吸光度の90〜80%から20〜10%の直線とみなせる範囲を用いる方法である。後者は相対吸光度をlogit変換する方法である。詳細は省略するが、このキットに検量線用の標準品が付いており、指示通り水に溶かすと、0.03〜0.9ppbの溶液を調製できる。各濃度での吸光度の試薬ブランクに対する相対吸光度を求め、付属のグラフ用紙に記入すると検量線を作成することができる。このグラフ用紙は横軸が対数目盛りで、縦軸がlogit変換された目盛りになっている。試料の相対吸光度から濃度を簡単に知ることができる。自分で検量線を描きたい方は、Excelを使用すれば簡単に回帰式を求めることができる。
 
[最小検出濃度]
 残留農薬分析では、分析法の性能を示すために回収率のほかに最小検出濃度(量)を示さなければならない。上述の検量線から定量限界は0.03ppbとしてもよいが、そこに問題がある。このキットで0.03ppbの相対吸光度は1.000に近づき、試薬ブランクの吸光度の変動範囲に入る可能性がある。そのことを検定するために2つの方法がある。一つは試薬ブランクの吸光度の信頼限界をt検定により求め、その範囲の外側の吸光度をもって最小検出濃度の吸光度とする方法である。これの難点は検量線を作成するたびに多数の試薬ブランクを必要とすることである。もう一つの方法は、検量線作成に用いた測定点の標準誤差から求める方法で、通常はこの方法により算出する。
 
◎試薬ブランクのt検定から求める方法
 
t検定から求める方法
 
 
ここで、Xは試薬ブランクの吸光度の平均値、sは標準偏差、Nは測定点数、αは信頼限界、μは平均値である。
 上記式の片側(左)により,求めた吸光度に対応する濃度を最小検出濃度とする。
 
◎標準誤差から求める方法
標準誤差から求める方法
 
本講習会には以下の19名の参加者(敬称略)があった。
上野 達(北海道中央農試)、増田幸保(青森農試)、伊藤美穂(岩手農研セ)、龍野暎子(宮城農業セ)、尾形正(福島農試),中村幸二、成田伊都美、鎌田淳(以上、埼玉農総研セ)、矢口直輝(長野農総試)、天野昭子(岐阜農技研)、三角正俊(熊本農研セ)、渡辺裕純(農工大),遠藤慶典(大塚化学)、秋本雅治、星野信広、山口優樹(以上、ヤトロン)、村井美貴、服部芙美(以上、筑波大)、石原悟(農環研)
 
4.問合せ先
 
 詳細は下記にお問い合わせください。
  農業環境技術研究所  
     環境化学分析センター  
         石井 康雄  
  所在地 〒305-8604 茨城県つくば市観音台3−1−3  
  電 話 0298-38-8430  
ファックス 0298-38-8199
  E-メール ishiiy@niaes.affrc.go.jp  
 
 
 

サイエンスキャンプ2001の開催
 
 
1.趣旨
  サイエンスキャンプは、科学技術創造立国にふさわしい創造性豊かな青少年を育ててゆくために、研究機関のもつ学習資源としてのポテンシャルを最大限に活用した「創造的科学技術体験合宿プログラム」である。この事業は(財)日本科学技術振興財団が主催し、関係研究機関が協力して平成7年から実施されている。本年度は25機関がそれぞれの研究機関の特徴を活かして、実習・実験を主体とした科学技術体験学習、研究者・技術者との対話、参加者同士の交流を行う。農林水産関係での受け入れは10機関である。農業環境技術研究所は,平成7年から毎年このキャンプを実施している。詳しくは,「サイエンスキャンプ2001」事務局のホームページ<http://ppd.jsf.or.jp/camp/>をご覧下さい。
 
2.農業環境技術研究所における実施内容
 農業環境技術研究所は、将来にわたって安全な食べ物を生産していくため、土・水・大気を健全な形で保全し、植物相や昆虫と共生する農業を目指した研究を行っている。今回の「サイエンスキャンプ2001」では、「農薬の水生生物への影響を測る」、「植物はどのようにして養分を獲得しているのか?」および「農耕地の温室効果ガスを測る」という3つのコースを準備した。これらのコースで,研究者がどのようにして問題解決に取り組んでいるかを青少年が体験する。
 
1)プログラム
(1)Aコース:「農薬の水生生物への影響を測る」
 病害虫・雑草の防除に農薬が使用されているが、環境中に広く拡散するため、生態系への影響が懸念されている。その影響は,環境中の農薬濃度と密接に関係しているので、環境中への拡散を低減する農薬の使用法が求められている。本コースでは次の観察・測定から、水生生物に対する農薬の影響を調べる。
a.ミジンコなど水生生物に与える農薬の影響を観察する。
b.水中の農薬濃度をガスクロマトグラフで測定する。
c.水生生物に影響を及ぼす濃度を解析する。
 
(2)Bコース:「植物はどのようにして養分を獲得しているのか?」
 植物が土壌中の養分を吸収するのは、単に水に溶けたミネラル(窒素、リン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウムなど)を吸収するのか?。植物の根からは様々な有機酸が放出され、根のまわりのpHを低下させ、土壌中の養分を溶かし出すことによって、積極的に養分を吸収している。本コースでは,イネやダイズを用いて下記の観察・測定から、植物の根はどのような働きをしているのかを調べる。
a.根のpHを測定する。
b.根のpHの変化が、どこで認められるかを調べる。
c.土壌の養分はpHによって、どのような影響を受けるかを調べる。
 
(3)Cコース:「農耕地の温室効果ガスを測る」
 近年の化石燃料の大量消費によって、大気中の二酸化炭素(CO)の濃度が上昇し、地球温暖化が憂慮されている。一方、COと同じ温室効果ガスであるメタン(CH)と亜酸化窒素(NO)の濃度も上昇している。このCHとNOは燃焼ばかりでなく、農業の生産活動によって水田や畑からも発生している。本コースでは下記の調査から、水田と畑でこれらの温室効果ガスの発生を測定し、その発生量を減らすためにはどうしたらよいかを一緒に考える。
a.水田のどこからメタンが発生するか調べる。
b.COは植物に吸収されるが、土壌からは放出されていることを確かめる。
c.畑から発生するNOの量を測定する。
 
2)各コースの講師
Aコース:遠藤正造、小原裕三、堀江剛、大津和久、石原悟(化学環境部有機化学物質研究グループ)
Bコース:阿江教治、荒尾和久、杉山恵、村上正治(化学環境部重金属研究グループ)
Cコース:野内勇、川島茂人、米村正一郎、井上聡、滝本卓治、鶴田治雄(地球環境部気象研究グループ、地球環境部温室効果ガスチーム)
 
3)参加者:女子学生3名、男子学生10名、合計13人
 
4)期日:平成12年8月8日(水)午後1時 〜 8月10日(金)午後3時 (2泊3日)
 
5)会場:農業環境技術研究所
 
6)問い合わせ先:
     住 所:〒305−8604 茨城県つくば市観音台3−1−3
     Tel:0298−38−8197(情報資料課広報係)
     Fax:0298−38−8191
     ホームページ:http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/rinfo/scamp/scamp01.html
 
 

人類によって促進された窒素循環の政策的意味
 
Policy implications of human-accelerated nitrogen cycling
Arvun R. Mosier et al., Biogeochemistry 52, 281-320 (2001)
 
要 約
 人類によって生物圏に導入される反応性窒素は、年間約150TgNで、将来も増加することが予想される。増加しつつある世界の人口に食料(〜125TgN)とエネルギー(〜25TgN)を提供するため、この傾向は今後も続く。反応性窒素の増加傾向は、例えば、NOx、NH3、N2OおよびNO3-の大気へ放出量の増加、さらには,NOyやNHxの大気からの降下を通して、社会に経済的な影響を与える。
 
 大気圏では、対流圏のオゾンと酸性降下物(NOyとNHx)が水系と土壌を酸性化し、森林や作物系の生産量を減少させている。硝酸性窒素の溶脱によって,水系の窒素濃度が高まるため、飲料水の質が低下したり、富栄養化などが起こって,水系植物の生物多様性が低下する。一方、生物が利用できる窒素の降下量が増加することで、森林のバイオマスが増加したり、植物や土壌に大気のCO2が貯蔵されたりするなど,炭素の吸収に寄与している面もある。最も重要なことは、窒素肥料の生産によって、過去50年の間に必要とされた食料生産を著しく増加させることができた。
 
 多くの反応性窒素の放出は食料とエネルギー生産に関係し、その上、ある種の窒素は大気や水系に広く移転するので、これらの窒素を制御するための政策を展開させるのは難しい。化石燃焼からの窒素の発生を制御する方法は数多くある。実際、過去の数十年間に多くの研究が行われてきた。窒素肥料の使用量を削減したり、切りつめたりすることは,食料の生産においても難しい。ここでの問題は、世界の食料生産に使われる窒素の大部分が、有用な生産物に変換されずに、むしろ余剰として生物圏に再び入るということである。農業における窒素の放出抑制に関する世界的な政策は、多くの国家が食料生産を栄養レベルに見合うように上昇させるか、増加する人口に見合う程度に増加させる必要があるため、きわめて困難である。そのためには、窒素肥料の使用量を増加させなければならないからである。窒素循環の促進は、地域でも世界規模でも起こっているが、政策が実行されて、はじめて国や県や州レベルで対策が実施される。環境への窒素の流出を抑制するためには、多くの国家の努力が必要であるが、これらの努力はそれぞれの国家間と政策当局者の約束が必要となる。
 
 

環境状態を表す指標生物としての花粉媒介昆虫:
その種類,活動性および多様性

 
Pollinators as bioindicators of the state of the environment:
species, activity and diversity
Peter G. Kevan, Agriculture, Ecosystems and Environment 74: 373-393 (1999)
 
 農業環境技術研究所は,農業生態系における生物群集の構造と機能を明らかにして生態系機能を十分に発揮させるとともに,侵入・導入生物の生態系への影響を解明することによって,生態系のかく乱防止,生物多様性の保全など生物環境の安全を図っていくことを重要な目的のひとつとしている。このため,農業生態系における生物環境の安全に関係する最新の文献情報を収集しているが,その一部を紹介する。
要 約
 花粉媒介昆虫(ポリネーター)は,農業生態系を含む陸上生態系が機能していくためにきわめて重要である。花粉媒介昆虫は植物の生殖による持続的生産の最前線にいるからである。
 
 花粉媒介昆虫は,農薬や生息場所の改変など化学的,物理的な要因や,競争者,病気,寄生者,捕食者の導入・侵入によって引き起こされる環境ストレスを監視する生物指標にもなる。また,花粉媒介昆虫の構成は,生態系の健全性を評価する新しい方法として利用できる。これは,種数とそれぞれの種の個体数の間に生態学的な原理と生態的地位(ニッチ)の理論から予測される関係があることから,環境ストレスによってその標準的な状態から変化することを利用する。
 
 ミツバチは有用な環境生物指標であり,大気汚染や他のタイプの汚染を評価するために使われてきた。ミツバチ以外のハチも,作物の花粉媒介昆虫として重要であることが認識されてきている。しかし花粉媒介昆虫の個体数は,殺虫剤,生息場所の破壊,病気と寄生者のまん延,導入・侵入した訪花昆虫との競合などの影響によって世界的に減少している。土着の花粉媒介昆虫の保護は重要であり,農業生態系の中に餌場や営巣の場所を用意してその個体数を増加させることが望ましい。繁殖場所としては,生け垣,畑の周縁部,河岸林,鉄道用地,路側,雑木林,連続した草むら,家ごとの庭園などが重要である。
 
 本文の項目は以下の通りである。
1.はじめに
2.花粉媒介,花粉媒介昆虫および訪花昆虫
3.花粉媒介昆虫とその減少
 3−1 農薬
 3−2 寄生者,病原および捕食者
 3−3 汚染
 3−4 生息場所の破壊と花粉媒介に関わる土地利用変化
 3−5 花粉媒介昆虫の導入と競争関係
4.生態系のストレスと健全性
5.おわりに
 
 花粉媒介昆虫は,世界中の陸上における持続的生産の鍵となっている。彼らは,個体および個体群として環境ストレスに対して警鐘を鳴らす役割を果たす。さらに,個体群および多様性は,多くの環境状態およびその豊穣さの生物指標として役に立つ。ヨーロッパの養蜂は寄生性ダニのために衰退の瀬戸際にあり,アメリカやアジアでは,寄生性ダニに対するミツバチの抵抗性や耐性を目指した育種,合成や天然の農薬を用いたミツバチの防疫および管理技術についての研究を強化している。確かに,農業はミツバチがいなくては十分に機能しないし,その属内の多様化した種類の潜在力は大きい。
 
 作物の花粉媒介昆虫として,ミツバチ以外のハチも重要であるという認識が深まりつつある。それにもかかわらず,花粉媒介昆虫の個体群は,農薬,生息場所の破壊,疾病と寄生者の拡大,および導入された訪花昆虫との競争の影響によって世界的に減少しつつある。在来の花粉媒介昆虫の保護は,危急である。農業生態系に在来花粉媒介昆虫のための保護区を設け,その保全のために食餌や営巣場所を提供することによって,個体群を増加させることは賢明である。在来花粉媒介昆虫が繁殖できる場所として,生け垣,圃場周縁,河岸林,鉄道用地,道ばた,雑木林,連続的な草むら,家の庭などの重要性が論議されている。幾冊かの最近の出版物によって,一般社会,政策の策定・計画者,および政治家は,花粉媒介や花粉媒介昆虫の重要性,その衰退の重大性,及びその保全に対する緊急性を理解するように変わってきた。
 
 

本の紹介 50:世界の環境危機地帯を往く
マーク・ハーツガード著,忠平美幸訳,草思社
(2001) 2800円 ISBN4-7942-1034-5

 
 
 原題は,Earth Odyssey(地球の長い冒険の旅)である。人は,この21世紀に現代の環境問題を乗り越えられるのか。この疑問から著者は、6年をかけて19カ国へ冒険の旅に出た。そこで出会った圧倒的な現実に、著者も読者もため息をつく。
 
 往復の通勤が5時間もかかるという、バンコクの恐るべき交通渋滞。工場からの排ガスで街がかすむ中国。霧とスモッグが最悪の日には,「顔の正面で腕を伸ばしても,自分の指が見えない」重慶。放射線の平均被爆量が,チェルノブイリの被爆の4倍もあったマヤーク災害。1950年代に起こった核爆発事故で汚染された水を,今でも飲んでいるロシアの町のひとびと。
 
 これらの環境問題の多くが突発的事件と違い、あまりにも日常的であるから、非政府組織(NGO)にもメディアにも忘れられたひとびとの姿がそこに描かれている。だがそこに住むひとびとの多くは,排ガスは経済成長のあかしであると思い込み、砂漠化しようがしまいが生活のために木を切り、道路が渋滞しようともステータスのために車を買うのである。先進国も途上国も「環境政策は経済成長を抑える」との神話を信じて何も手を打たない現実に、出口がない絶望感を抱く。
 
 だが、著者はこの“神話”をきっぱりと否定する。「環境保護こそ経済を振興させ、多くの雇用を生むのだ」と。NGOに語られがちな環境終末論に収束することなく、どんなに厳しい状況下でも立ち上がれる人間の力を著者はここで示している。内容は,以下の通りである。
 
序章  ・・・ 魔法つかいの弟子を演じる
第1章 ・・・ 「・・・われわれはまだここにいるのです」
第2章 ・・・ 自動車が欲しくてたまらない
第3章 ・・・ 核の灯台へ
第4章 ・・・ 「腹の皮がつっぱっているんだね」
第5章 ・・・ 人口はどれほど問題なのか?
第6章 ・・・ 「持続可能な開発」と資本主義の勝利
第7章 ・・・ 希望を抱いて
終章  ・・・ 別の時代から来た使者
 
 

本の紹介 51:稲のことは稲にきけ
近代農学の始祖:横井時敬,金沢夏樹・松田藤四郎編著
家の光協会
(1996) 1553円 ISBN4-259-54472-1

 
 
 横井時敬(よこいときよし)は,多くの「言葉」を残している。「一国の元気は中産階級にあり」,「農民たる者は国民の模範的階級たるべきものと心得,武士道の相続性を以って自ら任じ,自重の心掛け肝要のこと」,「人物を畑に還す」,「農学栄えて農業亡ぶ」,「稲のことは稲に聞け,農業のことは農民に聞け」。とくに最後の二つの「言葉」は,多くの農業関係者の知るところである。
 
 横井時敬は,万延元年(1860)肥後国熊本城下の藩士横井久右衛門時教の四男として生まれた。明治13年(1880)東京駒場農学校農学本科を卒業する。その後,兵庫県植物園長兼農業通信員となる。明治18年(1885)から福岡県農学校教諭となり,この間に「種籾の塩水選種法」を考案した。明治27年(1894)に東京帝国大学農科大学教授,明治44年(1911)から昭和2年(1927)まで東京農業大学学長を務める。また,大正11年(1922)に東京帝国大学を定年で退職する。
 
 この間,作物学および農業経済学の泰斗ととして活躍するのみならず,農業教育者および社会啓蒙家として日本の社会のために大きく寄与した。特に,氏の言う「実学思想」は,冒頭の「言葉」によく表れている。
 
 本書は横井時敬の姿が8人の農業関係の学者によって書かれている。目次は以下の通りである。第1章は金沢夏樹・山羊宏典・和田照男,第2章は竹村篤,第3章は安田健,第4章は梶井巧,第5章は松田藤四郎,第6章は工藤健一,第7章は竹村篤,第8章は金沢夏樹氏である。
 
 なお,横井時敬は雅号を「虚遊」と称し,書道の大家でもあった。当研究所にも横井の以下のような達筆な書がある。
 
えいかじしん
 
はしがき
第1章 日本の農学こと始め
 1 近代農業教育の揺籃
 2 明治農学の流れと形成
 3 東京帝国大学農科大学農学第一講座
第2章 実学思想と科学開眼
 1 熊本横井家の系譜
 2 横井小楠と実学党の影響
 3 熊本洋学校に学ぶ―L・L・ジェーンズとの出会い―
 4 駒場農学校の麒麟児
 5 学校生活と学位授与
第3章 アグロノミスト横井時敬
 1 画期的な稲作技術「塩水撰種法」
 2 我が国初の遺伝育種論
 3 『栽培汎論』に見る総合技術
 4 在来農法と欧米農学のかけ橋
第4章 農業党の先鋒者
 1 農政論者としてのスタート……『興農論策』起案者としての横井
 2 横井「農業経済学」の形成
 3 農業党の先鋒者……農政論者としての横井時敬
第5章 農業教育への情熱
 1 東京農業大学育ての親
 2 農家五訓と農民像
 3『小説模範町村』
第6章 社会的啓蒙への情熱
 1 大日本農会の誕生と福岡支会
 2 大日本農会の活動路線
 3 大日本農会に期待するもの
第7章 八面六臂の男
 1 快刀乱麻を断つ
 2 火を吐く筆鋒
 3 書家虚遊
 4 軍隊農事講習
 5 人間横井時敬
第8章 横井時敬と新渡戸稲造……二人の農学者と現代
 1 二人の農学者
 2 合理的精神……肥後実学党とキリスト教
 3 横井と新渡戸の「農業と農学」
 4 おわりに……日本を相対化する
横井時敬略年表
 
 

本の紹介 52:全予測,環境&ビジネス,三菱総合研究所
ダイアモンド社
(2001) 1800円 ISBN4-478-23115X

 
 
 環境問題は,時代とともに焦点が移り変わる。1960年代は「公害」から始まった。工場から排出される有害物質がひとびとの健康を害した。カドミウムによるイタイイタイ病や有機水銀による水俣病が代表的な例である。いわば,点的汚染である。1970年代になると,環境問題は面的汚染へと広がる。窒素やリンによる流域の富栄養化現象がその例である。1980年代末なると,環境問題は空間へと拡大する。全球的規模での温暖化,酸性雨,オゾン層の破壊などがこれに当たる。
 
 1990年代後半になると,点・面・空間を経た環境問題は,「環境ホルモン」という言葉で代表される微量有害化学物質に焦点が注がれはじめた。急性毒性よりも内分泌系や生殖系への影響を通じて,次世代に影響を与える問題が指摘された。環境問題は時空を超えてしまった。
 
 まず現在の環境問題を,「21世紀の環境問題」という章でまとめている。内容は,地球温暖化・環境ホルモン・ごみ・食糧危機・枯渇する水資源・生物多様性の危機・原発・エイズ・深海・情報化の影・遺伝子組換え技術・環境科学技術への期待として整理されている。
 
 これらの問題を,「環境破壊型成長から環境共存型成長への転換」,「拡大する環境ビジネス」および「先端環境技術で環境立国を実現」という章の括りで展開していく。この本は,三菱総合研究所の60人のスタッフによって書かれたものである。本書のリーダーである高橋弘氏は,地球環境研究センター長であるとともに農業環境技術研究所の監事でもある。各章は,次のような構成である。
 
目次・はじめに・プロローグ
 
第1章 21世紀の環境問題
1 加速する地球温暖化
2 多様化する環境ホルモン・微量有害化学物質問題
3 「ごみ」を通してみる身近な環境問題
4 世界の食料危機がきたとき、日本は飢えないのか
5 枯渇する水資源、世界中で砂漠化が拡大
6 生物多様性の危機、積み残された地球環境問題の行方
7 原発・ダム……巨大技術老朽化がもたす環境問題
8 エコロジー破壊の恐怖。エイズ・エボラ・狂牛病の次は?
9 深海・宇宙で待ち受ける新たな環境問題
10 情報化の影の部分
11 遺伝子組換え技術の危惧を克服する安全評価技術
12 環境科学技術への期待
 
第2章 環境破壊型成長から環境共存成長への転換
1 ライフスタイルを変える環境価値の見直しが始まる
2 社会的規範として定着した汚染者負担原則
3 環境効率を高める環境会計
4 事後対策側から予知的・予防的対策への大転換
5 不確実性を克服するリスクコミュニケーション
6 20世紀からの負の遺産PCBの解消
7 環境と経済の統合政策の展開
8 社会のすみずみまで浸透する環境投資
9 必須科目になる環境教育・環境学習
10 環境施策における科学技術の役割が増大する
11 人類参加による持続可能な地球社会づくり
12 変化する国際環境協力とグローバルネットワークの台頭
 
第3章 ここまできた環境法制度の整備
1 見直された環境基本計画とその展望
2 歩み始めた循環型社会推進基本法とその効果
3 循環の輪をつなぐグリーン購入法
4 計画決定との統合が期待される戦略的環境アセスメント
5 強化される廃棄物処理への対応
6 トップランナー方式を取り入れた省エネルギー対策
7 緊急を要する自動車公害への対応
8 流域レベルでの健全な水循環の形成
9 徹底した管理が求められる有害化学物質
10 さまざまな手法を駆使した国内の地球温暖化対策
11 自由貿易と環境保護の調整ルールづくりはまとまるのか
12 企業で進む環境マネジメント
 
第4章 拡大する環境ビジネス市場
1 循環型社会の構築と環境ビジネス
2 拡がる環境ビジネスのグローバル化
3 循環型社会を支える3R産業
4 環境調和型製品の台頭
5 循環型生産が製造業を変える
6 動脈・静脈を融合する物流革命
7 企業経営の根幹へ――環境コンサルティングビジネス
8 急激に注目されだしたクリーンエネルギー
9 期待が高まるバイオマスエネルギー
10 クリーンエネルギーのエースになる燃料電池自動車
11 分散型発電がエネルギーに貢献する
12 新たなビジネス形態、ESCO事業,PFI事業
 
第5章 先端環境技術で環境立国を実現
1 バイオテクノロジーで新資源創造と環境浄化、省エネルギーに貢献
2 さまざまな環境浄化に貢献する環境触媒、超臨界流体技術
3 オゾン層破壊・地球温暖化防止に貢献――脱フロン化技術の展望
4 IT革命で省エネに貢献する次世代DSM,ITS
5 電力系統に大革命をもたらす超電導技術
6 夢の素材――カーボンナノチューブ
7 水素経済への橋渡し――ボーダレスなエネルギーシステム
8 究極の高効率火力発電プラントを目指すコ・プロダクト技術
9 クリーンな新燃料――クリーンコールテクノロジー、メタンハイドレート
10 COの分離、回収、隔離技術は究極の地球温暖化対策
11 宇宙から無限のエネルギーを得る宇宙太陽発電システム
エピローグ・索引・執筆者一覧
 
 

本の紹介 53:Environmental Restoration of
Metals-Contaminated Soils,
Ed. I.K. Iskandar, Lewis Publishers

(2001) ISBN 1-56670-457-X

 
 
 最近の数十年間に、生物学、生態学、健康および環境地球科学などのいくつかの分野で、土壌の重金属の研究に関して目を見張るような進歩があった。1960年代以前は、特定の重金属や微量元素の土壌から植物への吸収や可給性についての研究に焦点が向けられていた。さらに最近では、水系や陸域を含むすべての生態系に影響する環境中での重金属汚染に視点が向けられている。
 
 最近、多くの場所で重金属の濃度が高まったので、危険で利用できない土地として認知されている。ある場所では、健康へ影響する可能性がある重金属による地下水の汚染も発見されている。表層土壌の重金属の量が多ければ、地下水への重金属の移動の量も多いが,土壌の環境特性や土壌の物理・化学・生化学的プロセスも土壌の重金属の挙動の重要な要因となる。生物処理や焼却のような技術によって分解できる有機物と違って、重金属は分解できない。重金属は一度汚染すると、取り除くか固定するかしなければ、いつまでも環境に対する脅威として残留することになる。
 
 この本は、このような重金属の最近の問題点をもとに、1997年にバークレーで開催された「第4回微量元素の生物地球化学国際会議」の成果の一部をまとめたものである。本書は14の課題で構成されている。最初の8課題は、土壌修復のための物理・化学的手法とそのプロセスについて書かれている。後の6課題は、修復のための生物学的手法とそのプロセスに焦点をあてている。
 
 

本の紹介 54:大気環境変化と植物の反応
野内 勇編著,養賢堂
(2001) 5000円 ISBN4-8425-0079-4

 
 
 わが国の大気環境問題は、1950〜1970年代に最も激しかった局地的・地域的な産業公害としての大気汚染から、1980年代末に顕在化したオゾン層破壊や地球温暖化のような地球規模の問題に拡大してきている。イオウ酸化物汚染は,発生源の排出規制により過去のものとなった。しかし,光化学オキシダント汚染は,頻度は減少したもののまだ散発的に発生しており、社会的関心が薄れてはいるが,まだ警戒が必要である。一方、地球規模の大気環境変化は、局地的・地域的な大気汚染に比べ、その影響を受ける範囲が桁違いに大きい。本書は、古典的な大気汚染と地球規模の大気環境変化が植物の整理生態に及ぼす影響と作物生産への影響を解説している。目次は次の通りである。
 
第1章 大気汚染による植物被害の変遷
第2章 大気汚染物質と大気質の変化
第3章 二酸化イオウによる植物被害
第4章 光化学オキシダントによる植物被害
第5章 窒素酸化物による植物被害
第6章 大気環境の悪化を警告する指標植物
第7章 酸性雨による農作物被害
第8章 森林衰退
第9章 地球温暖化の植物への影響予測
第10章 紫外線(UV-B)増加に対する植物の反応
第11章 大気−植生−土壌系におけるCO2交換
第12章 水田・湿地からのメタン発生
第13章 植物の持つ大気浄化機能
 
 内容を紹介する。わが国における大気汚染による植物被害の歴史的変遷を振り返るというプロローグから始まる。2章では,大気汚染の現状と最近の大気質の変化から地球環境に至る大気環境問題が概説される。3章から7章では,指標植物を用いた大気環境モニタリング調査から、今なお、大気汚染(特に、光化学オキシダント)が過去のものではないことが解説される。大気汚染物質として主要な二酸化イオウ、光化学オキシダント(オゾンとPAN)、窒素酸化物、酸性雨がどのような仕組みで植物に障害を与えるのか、また、植物はそれらの大気汚染物質に対し、どのように自らを防御しているのかを生理生化学的な面から解説している。なかでも、光化学オキシダントにページの多くが割かれている。
 
 さらに、環境科学者や生態学者ばかりでなく、社会的にも関心が強い森林衰退の現状と原因が8章で解説される。そこでは、酸性雨の影響を否定することはできないとしながら、むしろ光化学オキシダント(オゾン)の影響が強いことも示唆されている。
 
 10章では、大気大循環モデルから予想される温暖化シナリオから、将来予想される大気環境変化による植物への影響予測、オゾン層破壊に伴う紫外線増加が引き起こす農作物の生育・収量影響や陸上生態系への影響など,地球環境変化がもたらす植物への影響についてまとめている。
 
 さらに,温暖化をもたらす温室効果ガスであるCO2およびメタンと植物との係わりが11章で取り上げられる。ここでは,大気−植生−土壌の間をめぐるCO2の交換過程を解説するとともに、その過程を記述する数学モデルを詳しく紹介している。12章では,水田や湿地から発生するメタンが解説される。湿地や水田などの嫌気的な状態の土壌からメタン生成菌によって生成されるメタンは、大部分が水生植物の体内を通して大気へ放出されるが、この水生植物によるメタン放出機構が解説される。
 
 最後の13章では,植物の持つ大気浄化機能が解説される。植物がCO2を吸収し光合成を行う際に、大気汚染物質を同時に取り込むことになるが、この植物による大気の浄化能を植物生産力から評価する方法が解説される。
 
 編著者の野内 勇は,当所の地球環境部気象研究グループ長で,執筆を分担している清野 豁は,当所の企画調整部長、横沢正幸は当所の地球環境部食料生産予測チーム主任研究官である。
 
 

報告書の紹介:現代バイオテクノロジーと農産物市場
 
Modern Biotechnology and Agricultural Markets: A Discussion of Selected Issues
OECD Directorate for Food, Agriculture and Fisheries AGR/CA/APM(2000)5/FINAL.
20-Dec-2000
 
 この報告書(http://www.oecd.org/officialdocuments/displaydocument/?cote=AGR/CA/APM(2000)5/FINAL&docLanguage=En (最新のURLに修正しました。2010年12月))は,バイオテクノロジーの農業的利用について,OECD国内およびOECD国間で論議されている問題,とくに農産物市場に影響する可能性がある問題を数多くの引用文献に基づいて考察したものであり,その概要を紹介する。記述は次の要領で行った。
 1)概要の目次とそのタイトル名は原文と対応させた。
 2)原文の内容の中から重要と思われる部分を抜粋し,意訳した。このため,原文の内容を正確に表現していない場合もあるので,詳細は原文で確認いただきたい。概要と原文の照合を可能にするため,概要の各パラグラフの先頭の[ ]内に,原文中の各パラグラフの数字を示した。
 3)概要を理解するにための参考となる資料を適宜,脚注に記した。
 4)遺伝子組換え作物関連の国際会議の情報は, 情報:農業と環境,No.15の“遺伝子組換え作物に関する海外情報 補足資料を参照されたい。
 
 
目  次
A.緒言
B.パート1.現代農業バイオテクノロジー
 1.一般的問題
 2.遺伝子組換え品種・系統の採用
 3.遺伝子組換え技術から農業生産者が得る利益の評価
  1)除草剤耐性品種
  2)害虫抵抗性品種
  3)遺伝子組換え牛成長ホルモン(rBGH ,または rBST)
C.パート2 市場問題
 1.消費者反応の側面
 2.表示制度
  1)基本的問題
  2)義務的か,自主的か
  3)含むことを表示するのか,含まないことを表示するのか
  4)表示コスト
  5)その他の外部経済
  6)政府および民間セクターの反応
  7)分離コスト
  8)表示の国際的な側面
 3.市場の概況
D.パート3.結論
E.引用文献
F.ボックス
 ボックス1 現代農業バイオテクノロジーと途上国の食料需要
 ボックス2 商品化途中の遺伝子組換え作物
 ボックス3 知的所有権と研究開発:経済的問題
 ボックス4 途上国向けのバイオテクノロジーと微量栄養素
 ボックス5 遺伝子組換え作物の経済的福利厚生の影響
 ボックス6 除草剤耐性品種採用が圃場レベルに及ぼす影響の定量的分析
 
 本報告書で使用する用語を下記のように定義している。
現代農業バイオテクノロジー(Modern agricultural biotechnology):さまざまな農業生産プロセスや生産物に対して細胞・分子生物学を応用する技術。この新しい農業バイオテクノロジーの重要な点は,遺伝子工学的手法によって,新しい植物品種や特殊の微生物を育種することにある。
遺伝子組換え技術(Genetic engineering):ある機能を持った遺伝子を種の境界を超えて人工的に移動させたり,同一種内で機能している遺伝子を人工的に抑制または向上させたりする技術セット。
害虫抵抗性Bt作物(Insect resistant-Bt crops):土壌細菌のBacillis thringiensis のゆうするある種の害虫に特異的な有毒な遺伝子を含有するように遺伝子組換えを行った作物。
除草剤抵抗性HR作物(Herbicide resistant-HR-crops)とは,特定の除草剤に抵抗性となるように遺伝子組換えを行った作物。
遺伝子組換え牛成長ホルモンrBST(Recombinant bovine somatotropin-rBST):泌乳を促進する自然界に存在するホルモンを遺伝子組換えによって生産したもの。
 
 
A.緒言
[3]:農業バイオテクノロジーに関する消費者の関心は,人間や家畜の健康への悪影響,長期的な環境への影響などである。遺伝子組換え食品が人間の健康に害を及ぼすことを示す専門家の審査を受けた科学論文は,これまでのところみあたらない。しかし,健康に対する長期的な遺伝子組換え食品の影響の可能性については,不確実な点があると報告されている(OECD, 2000)。
 
[3]:種子企業や農薬企業では市場の集中化が進み,関連食品産業さえコントロールし始めている。多くのOECD加盟国の農業者グループは,このような産業活動を懸念している。農業バイオテクノロジーの研究開発(R&D)が一部の企業に集中してきたことが,OECD諸国および非OECD諸国の生産者と消費者の関心事となり,問題にもなっている。特許は研究や技術革新にインセンティブを与えるばかりでなく,長期的には知識の普及に役に立つ。しかし,遺伝子組換え製品にかかわる知的所有権は,国際貿易の枠組みに関する解決が難しい政治的問題も生んでいる。
 
[4]:農業バイオテクノロジーは,農薬使用量を削減し,減収割合の削減,家畜生産性の向上を可能にする技術として期待されている。また,この技術によって,栄養成分や病気に対する抵抗性の改善を目的とした形質をもった食品の開発もされつつある。さらに,世界の人口が急激に増加し続けており,2050年には90〜100億人に達すると予想され,この人口の90%は途上国の人々と予測される(Federoff and Cohen, 1999)。この技術は途上国の食料需要の増加を満たすのに役立つと思われる(Everson,1999, Ruttan, 1999)。
 
[5]:本報告書では,遺伝子組換え技術で作出されたトウモロコシ,ダイズ,ワタおよびウシの組換え成長ホルモン(rBST)について,農業者がこれらの技術を採用する判断基準や利益評価の問題に焦点を当てて考察した。その他,パート2では消費者の関心事項や表示問題などの需要サイドの問題についてまとめを行い,パート3では結論を述べる。
 
B.パート1.現代農業バイオテクノロジー
1.一般的問題
[6]:世界の市場に出荷されている主な遺伝子組換え作物は,ダイズ,トウモロコシ,ワタ,カノーラ(ナタネの一品種),バレイショである*。トウモロコシ,ワタおよびバレイショでは,害虫抵抗性の遺伝形質を導入したもの,ダイズやカノーラでは除草剤耐性のものが多い。トウモロコシとワタの品種では両者の遺伝形質を導入したものもある。その他,ウイルス抵抗性の形質を導入したタバコ,トマト,バレイショがある。
 
[6]:乳牛の泌乳を促進させるためのウシの成長ホルモン(rBST)が遺伝子を細菌に移植することにより,低コストで生産されている。
 

*:農林水産省−海外農業情報−米国;世界の農業・食料生産におけるGMO〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照

 
[7]:第1世代の遺伝子組換え生物の導入形質は,有害生物(病気,雑草,害虫)による作物の減収の防止,農薬使用量の削減,および泌乳量の向上を目的したものである。これらの遺伝子組換え生物は遺伝子組換え農畜産物の価格が低下しなければ,農業者に利益をもたらすことが期待される。また,農薬の使用量が減り,環境への負荷を低減させることも期待できるので,こうした環境面の外部経済は,社会的にも利益をもたらすと考えられる。とくに,途上国においては,有害生物による被害が50%以上にもなるため,遺伝子組換え作物導入による利益は大きいことが予想される(ボックス1参照)(Oerke et al. 1995;Yudelman et al.1998)*。
 
[8]:第1世代の遺伝子組換え作物は従来品種と比較して,消費者に対して明らかな利益をもたらさないといわれている。今後は先進国の消費者や開発途上国の人々に利益をもたらす形質を導入した遺伝子組換え作物の開発が進むと予想される(ボックス2参照)。しかし,これらの作物のいずれを利用するかは,利益予測,適切な利益還元をもたらす政策などによって異なると考えられる。
 
[8]:知的所有権(Intellectual Property Rights: IPR)あるいは特許権を所有していない者は,一定期間(20年間),無断でその特許を使った商業目的の遺伝子組換え生物の生産,使用,提供,輸入を行うことはできない。この規制は研究への経済的見返りであり,技術革新の動機となっている。しかし,特許権有効期間後は特許権の与えられた情報を公衆が利用できる(ボックス3参照)。
 
[9]:企業が遺伝子組換え作物を開発しても十分な利益が得られない場合に,公的な研究資金を投入して研究開発が行われている。とくに,途上国では食用作物用の微量要素の成分の改善や生産性向上を目的とした研究が行われている(ボックス4参照)。
 
2.遺伝子組換え品種・系統の採用
[10]:1996年以降,遺伝子組換え作物の作付け面積が急速に増加している。とくに,USAとラテンアメリカで著しく,1999年のUSAの作付け面積は全世界の72%を占める。アルゼンチンではダイズの全作付け面積の70%以上,トウモロコシでは20〜25%が遺伝子組換え作物と推定されている。カナダでは栽培されたカノーラの約50%が除草剤耐性品種である。
 
[11]:NASSのObjective Yield Survey(OYS)によると,1999年におけるUSAのダイズの収穫面積の約57%は,除草剤耐性(HR)ダイズが占め,トウモロコシの全収穫面積の約30%は害虫抵抗性(Bt)トウモロコシ,8%は除草剤耐性トウモロコシであった。Btワタは全作付け面積の27%,HRワタは38%と推定した。
 

*:農林水産省−海外農業情報−米国;GMOと開発途上国〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照

 
[12]:USAの2000年作物年度における遺伝子組換え作物の作付け面積はダイズでは54%,トウモロコシでは25%,ワタでは56%であった。
 
[13]:世界の遺伝子組換え作物の収穫面積の経年変化を形質別にみると,1996年のウイルス抵抗性作物(中国のタバコ生産)が40%を占めたが,1998年には0.1%以下となり,これに替わって除草剤耐性作物が増加し,1999年には除草剤耐性が形質全体の60%以上を占めるようになった。
 
[14]:農業者が遺伝子組換え作物を採用する重要な決め手は期待される利益である。しかし,農場の規模,人口構成,農場経営者の教育水準などの要因も重要である。また,管理技能の習得程度や技術革新に対する考え方も関係している(Ghadim et al. 1999)。農業者が遺伝子組換え種子を使う理由を調査した報告によると,害虫駆除の改善による収量の増加(54〜76%)と農薬コストの削減(19〜42%)が主な理由である(Fernandez-Cornejo and McBride, 2000)。
 
[15]:この技術によって生み出される利益の大部分は,遺伝子組換え作物を開発した企業に帰属するが,生産者や消費者も利益を得る(Falck-Zapede et al. 1999; Moschini et al. 1999)。 また,採用に伴う福利厚生利益の配分は,他の国への波及効果を考慮すると大きく異なってくる(ボックス5参照,Moschini et al. 1999)。
 
 
3.遺伝子組換え技術から農業生産者が得る利益の評価
[16]:USAは遺伝子組換え農産物の主たる生産国であり,また,酪農におけるrBSTの主要利用国であるので,USAのデータを中心に論議する。
 
[17]:USAにおける遺伝子組換えダイズ,カノーラ,トウモロコシの農薬使用量コストに関する情報,rBSTに関する情報を利用して,これらの遺伝子組換え農畜産物が経済に及ぼす影響を次に検討する。ただし,遺伝子組換え品種と従来品種を厳密に比較した文献がないので,本報告書における両者の経済的評価は普遍化できる段階ではない。
 

*:農林水産省−海外農業情報−米国;ゴールデンライスを巡る論議〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照
*:農林水産省−海外農業情報−米国;GMコメの特許の開放〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照
*:農林水産省−海外農業情報−EU;新たなGM作物製品群が登場〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照

 
 
1)除草剤耐性品種
[18]:1988〜90年の雑草害による作物の潜在的損失は,約84億ドルに達し,有害生物の中で雑草が最も重要である(Oerke et al. 1994)。従来品種を栽培する場合には,雑草の種類に応じて,数種類の除草剤を数回施用しなければならない。これに対して,除草剤耐性品種では,1回のグリホサート散布で全ての雑草を抑制することができる。しかし,除草剤抵抗性雑草が出現しないように総合的雑草管理や除草剤の種類の選択が重要である(Pratley et al. 1999; Peng et al. 1999; Doll, 1999; Owen, 1998)。
 
[19]:遺伝子組換え品種は,技術料が種子代に付加されるので,従来品種の種子価格よりも高い。この料金は企業が特許を元に品種開発するために要した資金を回収するために必要な経費である。
 
 次に,遺伝子組換え品種における農薬使用量,収量,収益性に関する主要な研究の結果を要約する。
 
(1)ダイズ
a.除草剤使用量
[20]:モンサントの調査によると,ラウンドアップ耐性品種(RR品種)圃場では,除草剤の散布が1回だけの農業者は70〜77%,2回が22〜29%,3回が1%であり,従来品種の栽培と比較して散布回数並びに散布量はいずれも少なかった。USDAの「農業資源管理調査」(ARMS)の分析によると,除草剤耐性品種を栽培すると,除草剤の使用量はダイズでは有意に減少し,ワタでは多少減少した(ボックス6参照)。
 
b.収量
[22]:ウィスコンシン大学農学部の調査によると,RR品種の収量は従来品種に比べて平均4%ほど低かった(Oplinger et al. 1999)。その他の調査では,従来品種とRR品種の収量は,ほぼ等しかった(Breitenbach and Hoverstad, 1999)。
 
[23]:USDAが推計した全米のダイズ収量とモンサントの栽培調査データを比較すると,RR品種の収量は4.5 ブッシェル/エーカ(0.3トン/ha)高い(Carpenter and Gianessi, 2000)。雑草防除試験では,ラウンドアップを散布した圃場の収量は従来品種よりも5.3 ブッシェル/エーカ(0.36トン/ha)高いと思われる。
 
c.収益
[24]:RR品種と従来品種間の収量に差がない場合における除草剤費用削減による農業者の経済利益は,6.0ドル/エーカー(14.82ドル/ha)と推定された。この計算式は次のように示される(Marra et al. 1998)。
[技術料5.0ドル(12ドル/ha)]+[ラウンドアップ除草剤施用料13.0ドル(32.12ドル/ha)]−[除草剤コストの削減分24.0ドル(59.3ドル/ha)]
同様に,除草剤耐性品種について,予想される収益増加を類似の計算で行った結果では,10.0〜6.0ドル/エーカー(24.71〜14.83ドル/ha)の間としている(Furman and Selz, 1998)。
 
[25]:慣行の除草剤処理には約25.0ドル/エーカー(61.77ドル/ha)を要するが,ラウンドアップのコストは技術料を含め,16.5ドル(40.77ドル)である。したがって,1回のラウンドアップ散布だけで雑草の防除が可能であれば,経費削減効果は大きい。RR品種と従来品種に収量に差がなければ,雑草防除に係わる両者のコスト差が収益になる。しかし,雑草の生育が旺盛な南部では,1回以上の施用が必要と思われる。また,RR品種を長期に栽培すれば,ラウンドアップだけでは十分に雑草を防除することができないので,他の除草剤を追加散布することが必要である(Hartzler, 1998a,1999b)。
 
[26]:アイオワ州の農業者800人の調査から次のような結果が得られた。慣行のダイズと除草剤耐性ダイズの純収益はほぼ等しかった。この結果は,除草剤耐性品種での投入経費は低かったものの,収量も低かったことが起因している(Duffy, 1999)。
 
[26]:USDA-ARMS調査では,純益が除草剤耐性ダイズを採用する決定因子とする統計的な有意性は認められなかった(この要約はボックス6を参照,Fernandez-Cornejo and McBride, 2000)。
 
(2)カノーラ
[27]:カナダの一連の見本園試験の結果によると,一部の地域では除草剤耐性カノーラ2品種が従来品種よりも優れていることが認められた。実際の農場調査における除草剤耐性カノーラの収益性を分析した結果,除草剤耐性品種の収量が従来品種よりも低く,除草剤耐性品種栽培による経費削減は減収分を補填できない可能性がある(Fulton and Keyowski, 1999)。ところが,収益が従来品種よりも多くなくても,除草剤耐性品種の栽培が急速に伸びている。この理由は,除草剤耐性品種は保全的なミニマムティレジ栽培が可能なためである。
 
(3)ワタ
[28]:1997年のARMSのワタの経済調査によると,除草剤耐性ワタを栽培しても除草剤の使用量は減少しない(Klotz-Ingram et al. 1999)。1998年に2つの州で行った調査によると,収量と収益データではどちらの防除方法が有利であるかは明らかでなかった(Carpenter and Gianessi, 2000b)。
 
2)害虫抵抗性品種
 
(1)トウモロコシ
[29]:世界的にみると,栽培による作物損失の15〜20%は害虫による食害であり,とくに途上国ではその被害が明らかに高い。USAにおけるアワノメイガ(European Corn Borer)によるトウモロコシ生産の被害は全生産額の約5%に達する(Hyde et al. 2000)。
 
[30]:Btトウモロコシの有利性は,これまで防除が困難であった害虫を防除することができる点にある。アワノメイガによる食害の程度は地域差があるので,Bt品種栽培による収益も地域によって変動する。このため,農業者がBt品種を栽培するか否かの判断は,除草剤耐性作物導入の場合よりもはるかに複雑である。例えば,Bt品種を使用したとしても生育期間中に数種の害虫によって被害を受ける場合には,その他の殺虫剤の散布が必要になるからである。
 
a.収量
[31]:多くの大学で行った調査では,Btトウモロコシの栽培によってアワノメイガが防除され,増収効果が認められた(U. of Illinois, 1998; U. of Minnesota, 1998; Iowa State U. 1997)。また,Btトウモロコシ栽培では,従来品種で使用する殺虫剤を使わずに済んだ。
 
b.収益性
[32]:Bt品種を用いることによって,アワノメイガを効果的に防除できれば,収量は4〜8%増加する(Marra et al. 1998)。Bt品種を採用するかしないかは,Bt種子購入に要する追加コスト,農薬コストの削減分,予想される作物の食害,収量等とのバランスによって決まる。農業者がBt品種を採用することが経済的に見あうかどうかの経済的閾値は,トウモロコシの平均収量,食害の程度や市場価格によって異なる。食害が大きい年のBtトウモロコシの収量は,従来品種よりも約11.7ブッシェル/エーカー(0.73トン/ha)増加することが試算されている。しかし,食害が少なければ,従来品種との差は4.2ブッシェル/エーカーに減少する。トウモロコシ価格を2.2ドル/ブッシェル(86.6ドル/トン)とすると,経済的利益は,3.0〜16.0/エーカー(7.41〜39.5/ha)の範囲になる。
 
[33]:Btトウモロコシ種子に要する追加コストは,1997年は10.0ドル/エーカー(24.71ドル/ha),1998年は8.00ドル/エーカー(19.77ドル/ha)であった。トウモロコシのブッシェル当たりの価格を,1997年が2.43ドル(95.66ドル/トン),1998年が1.95ドル(76.77ドル/トン)と仮定し,実際の食害率で所得の増減を単純計算すると,アワノメイガの食害率の高かった1997年では+18.0ドル/エーカー(44.48ドル/ha)であった。しかし,食害率が低かった1998年では−1.81ドル/エーカー(−4.55ドル/ha)であった。
 
(2)ワタ
[34]:ワタのBt品種は,ワタの主要害虫であるオオタバコガ(cotton bollworm)とメキシコワタノミゾウムシ(boll weevil)を防除する。Btワタは,Btトウモロコシと同様に農薬使用量や作物被害を少なくして,農業者の収益を向上することが期待されている。また,収益性は食害率の年次変動によって異なる。
 
[34]:1996年にUSA南東部の農業者300人を調査した結果によると,Btワタの採用によって,農薬散布量は70%減少し,収量は11%増加した。この結果,収益が50.0ドル/エーカー増加した(Marra et al. 1999)。USA南部の100か所以上で行った調査によると,全体的に従来品種圃場よりもBt圃場で収量は高く,農薬使用コストは低く,収益が約40ドル/エーカー高まった(Mulin, 1999)。1997年のARMSによるワタのデータについて行った調査によると,Btワタの採用によって農薬散布量が有意に減少し,収益が有意に増加した(Fernandez-Cornejo and McBride, 2000)。
 
a.技術的制約と収益性の関係
[35]:Bt作物を栽培し続けると,アワノメイガのBt抵抗性生物型が出現する(Alstad and Andow, 1995; Andow, 1999; Benbrook, 1999; Beringer, 1999; Sears and Schaasfma, 1999,EPA and USDA, 1999)。このため,EPA,科学者および産業界は抵抗性害虫が非抵抗性害虫と交配できる保護区(refuge area)を設けるように指導している(保護区には非遺伝子組換え品種を栽培する)*。USA北部の州やカナダにおける保護区の割合は,農薬を散布しない場合には約20%,農薬を散布する場合には30〜40%である。これに対して,南部のワタを栽培している州の保護区の割合は50%である。
 
[36]:経済モデルから,20〜30%の保護区を設け,通常の栽培条件で10〜15年の栽培を計画した場合,Bt技術によって農業者は最も多くの収益を上げることができると試算された。しかし,保護区率を下げれば,生物学的および遺伝的な不確実性が高まる。
 
[36]:リスク分析によると,保護区を10から20%に増加した場合の,Bt作物栽培による価値の減少は1%以下であるが,抵抗性発生の確率は37%から1%以下に減少する。他方,保護区を10%から5%に減らすと,抵抗性の発生確率は37%から74%に増加する。このように,多めの保護区を設けることは,保護区を少なくするよりも,結果的に低コストになる(Sears and Schaafsma, 1999)。
 

*:農林水産省−海外農業情報−米国;Btコーンの作付け制限の実施状況〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照
*:農林水産省−海外農業情報−米国;Btコーンの作付け規制〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照

 
[37]:ミネソタ大学は農薬を散布しない場合の保護区を20〜30%,散布する場合のそれを40%設けることによって,抵抗性害虫の出現を最小にすることができると試算した。しかし,抵抗性害虫の出現リスクを減らすために農薬を頻繁に散布することは,散布コストを増加させるので,Btトウモロコシを栽培するメリットがなくなる。最近,一部の生産者団体は害虫抵抗性生物型の出現率の程度によって,設ける保護区の割合を変えるべきであると主張している。このため,南部の多くの州では要求されている保護区が50%であるのに対して,USA北部の州では約20%となっている(Hurley et al. 1999).
 
3)遺伝子組換え牛成長ホルモン(rBGH または rBST)
(1)酪農
[38]:乳牛の脳下垂体で生産される牛成長ホルモンを別の乳牛に投与すると,投与されたウシの泌乳量が増加することが1930年代初期に明らかになった。1970年代後半には牛成長ホルモン遺伝子を細菌に移植し,低コストで生産することが可能になった(Dobson 1996; Butler, 1996d)。牛成長ホルモンを搾乳ウシに投与すると,泌乳量を最大で20%増加し,飼料効率が5〜15%も増加する。長期にわたる牛成長ホルモン投与実験でも泌入量が全泌乳期間で平均15%(標準誤差8%)増加することが認められた。
 
[39]:飼養管理の質や飼料成分がrBSTによる泌乳の増加程度や期間に影響する。このため,給与する飼料が良質なほど,rBSTの泌乳効果は高かまる。この技術は経営規模の大きさに関係なく利益が得られると考えられてきたが,実際には近代的な管理や給餌システムを採用している大規模な農場ほど利益が大きい。しかし,rBST投与牛の牛乳が人間の健康に影響を及ぼすことが科学的に立証されていないが,USAを除くOECD諸国ではrBSTの使用が凍結されている。
 
a.収益性(試算値)
[40]:Butler(1996b)はrBST投与による収益性を次のように試算した。rBST投与によって乳牛1頭当たり泌乳量が8ポンド(3.62kg)増え,乳価が100ポンド(cwt)当たり12.0ドル(0.26ドル/kg)と仮定すると,1日1頭当たりの収益増加分は0.96ドルとなる。したがって,泌乳期間(245日/年)における粗収入は235.2ドルとなる。rBSTのコストは,0.42ドル/頭/日で,14日間投与のコストは5.50ドルとなる。これに,飼料コストが余分にかかり,1日当たり泌乳量が8ポンド(3.63kg)増加すると仮定した場合,飼料コストは牛乳1ポンド当たり約0.05ドル(0.11ドル/kg),1頭1日当たり0.4ドルが余分に必要になる。rBST利用に伴う追加コストは1日1頭当たり約0.82ドルとなる。この結果,純益は1日1頭当たり0.14ドル,全泌乳期間では34.3ドルとなる。
 
b.rBSTの採用
[41]:Yonkers(1992)の事前調査によると,rBST投与が解禁になるほぼ10年前(1984年)は,農業者の60〜77%がrBSTを採用すると考えられた。しかし,1986〜1988年の調査では採用するとした酪農家は42〜62%にとどまった。最大の牛乳生産州であるカリフォルニアにおいて,rBSTの市販前,数年間の調査では,rBST技術を取り入れるとした酪農家の割合は45%に近かった。
 
[41]:しかし,1980年代後期と1990年代初期に行われた調査では,rBSTの乳牛の健康に及ぼす影響や消費者のrBST牛乳への反発に対する酪農家の関心が高まり,解禁1年後に行われた調査では,この技術を取り入れる農家の割合は直後の予想よりもさらに低下した(Zepeda, 1990)。
 
[42]:カリフォルニアにおいて,rBSTを乳牛に投与した酪農家の割合は約20%であったが,解禁1年後にはrBSTの処置を受けた乳牛はたった8%に過ぎなかった。
 
[42]:ウィスコンシンの酪農家の5.5%がrBSTを使用したが,rBSTで処置された乳牛は約1%だけであった。さらに,酪農家の54%がrBSTを絶対使用しないとし,36%は将来rBSTを使用しないと答えている。一般的にrBST採用者は非採用者に比較して若く,より高い教育を受け,最新の管理技術を既に実施している者であった(Butler, 1999bc)。
 
[43]:解禁5年後の1999年に行われた調査では,ウィスコンシンの酪農家の約15%がrBSTを使用しており,1995年の採用者比率の2倍以上となった。しかし,採用率は飼養頭数によって異なり,200頭以上の酪農家では71%がrBSTを使用し,50頭未満の酪農家では4%しか使用していなかった。
 
[43]:ウィスコンシンの調査では,牛群の48%の乳牛しかrBSTを投与していないため,乳牛の約15%がrBSTの投与を受けている。カリフォルニアの調査では酪農家の約25%が牛群の30%にrBSTを投与しているので,rBST投与されている乳牛は10%以下となる。また,モンサントによると,全国の乳牛の約30%でrBSTが使用されているが,投与されている牛群は最大でも50%であるから,USAの酪農家の約21%がrBSTを使用している計算になる(Lesser et al. 1999)。
 
[44]:遺伝子組換え作物を栽培すると,収益性が変わりやすく,不確実であるにもかかわらず,この技術の採用が広範かつ急速に進んだ。これに対してrBSTの技術を採用すると,収益が確実に増加するにもかかわらず,採用率が低い。その理由は,rBSTによる収益増加が現実的には予想より少なかったためと考えられる。
 
[44]:最近の酪農家の調査によると,処置した乳牛1頭当たりの泌乳量は増加するが,収益への効果は有意でなかった(Stefanides and Tauer, 1999)。また,泌乳量が増加しても,必ずしも収益が増加していないことも指摘されている(Butler, 1999b; Lesser et al. 1999)。遺伝子組換え作物の場合は,多くの関係者が利益の分配を受けていることが指摘されているが(Moschini et al. 1999; Falck-Zapeda et al. 1999),rBST技術の採用率が低いことの理由は,酪農家が消費者の反応や家畜の健康を懸念していることに起因していると考えられる。
 
(2)パート1の要約
[45]:遺伝子組換え作物の経済的効果について,現時点では明確な結論は引き出せない。遺伝子組換え品種を栽培するか,しないかの判断は,予想される利益の要因が大きい。しかし,遺伝子組換え作物を導入する判断基準は利益のみではない。遺伝子組換え作物,とくに遺伝子組換えダイズは非常に広範に採用されている。除草剤耐性品種の収量は非除草剤耐性品種に比べて一般的に高いとはいえないが,急速に採用率を高めた要因は,農業者が栽培しやすいことと,農場全体の管理に関して自由度が高まるためと考えられる。
 
[45]:Btトウモロコシを採用した農業者の収量は,非採用農業者よりも高い傾向にあるが,収益性に対する影響は,食害率と関係するので,確実ではない。また,除草剤ダイズの場合と同様,Btトウモロコシの栽培は容易であり,アワノメイガの防除作業も省略できる。しかし,抵抗性害虫の出現に対する強い懸念がある。このため,EPAは栽培面積の20〜50%に非Btトウモロコシを栽培する保護区の設定を農業者に要請している。
 
[45]:Btワタを栽培した農業者では,地域的に違いがあるものの,収益は増加している。一般に除草剤耐性ワタでは,慣行システムに比べて収益が大きくないが,除草剤使用量は明らかに減少している。
 
[45]:酪農でrBSTを泌乳牛に投与するすることによって増益が期待できる。しかし,USAにおけるこの技術の採用率は低く,rBSTが投与されている乳牛は30%以下と推計されている。この理由としては,高レベルの管理技能を必要とすること,動物福祉に対する関心や,消費者の需要応答に関係していることが指摘されている。しかし,この技術が実用化されてから日が浅いので,厳密な評価を行うには時期尚早と思われる。
 
 
C.パート2 市場問題
[46]:市場は将来どのような経済決定を行うかの情報やシグナルを提供している。バイオテクノロジー製品に関しては,生産者の反応だけでなく,消費者の反応も考慮する必要がある。このセクションでは,食料生産への現代バイオテクノロジーの導入が農産物市場にもたらす需要者側の問題について論議する。
 
1.消費者反応の側面
[47]消費者が遺伝子組換え食品を選択するかどうかは,複雑な相互に関連する要因に依存する。消費者の反応を決定する要因としては,遺伝子組換え食品が人間の健康や環境に及ぼすリスクと利益についての考え方,遺伝子組換え技術に対する消費者の倫理的スタンス,リスクアセスメントやリスク管理に関する政府の規制に対する消費者の信頼あるいは期待などが上げられる。消費者の反応を決めるこれらの要因の重要度は国によって大きく異なるであろう。
 
[48]:世論調査の結果は,消費者の遺伝子組換え食品に対する態度についての判断材料となるが,それを利用する際には注意が必要である。このような調査は市場における消費者の実際の行動を予測させるものではなく,消費者の感情傾向を示すのである。
 
[48]:ギャラップの調査によると,USAでは48%が食品や農業生産へのバイオテクノロジーの利用を支持し,41%が反対している(Gallup, 2000)。しかし,「国際食品情報協議会」(International Food Information Council)の調査によると,バイオテクノロジーが個人的には利益になるだろうとする者が60%に達している(IFIC, 2000)。他方,EUでは食品生産への現代バイオテクノロジーの利用が役に立つとするのは約43%で,37%は倫理的に受け入れられるとし,推進すべきであると考える者は31%に過ぎなかった。
 
[49]:遺伝子組換え技術の様々な側面について,公聴会を開き,公衆の意見を調べる方法がオーストラリア,フランス,ニュージーランド,スイス,フランス,USAで行われている。
 
[49]:OECDは社会のニーズに応えるために,1つは,「食品の安全性に関するバイオテクノロジーとその他のその他の側面についての非政府組織(NGOs)とのOECD公聴会」を開催し,バイオテクノロジーと農業/食品についての見解を述べてもらうために50を超えるNGOsを招聘した。もう1つは,「遺伝子組換え食品の科学的および健康側面に関するOECDエディンバラ会議」*で様々なバックグランドを有する者を招聘した(OECD, 2000)。これらの会合の要約は< (対応するURLが見つかりません。2010年5月) >に掲示してある.
 
[50]:こうした一般市民との討論から,遺伝子組換え食品に関する情報の解釈には大きな違いがあることが明らかになった。一般市民は農業および食品への遺伝子組換え技術の利用によって,環境や人間および家畜の健康に潜在的な利益があることを認めていながらも,多数の懸念も表明されている。また,人間の健康に長期的に悪影響を及ぼす可能性,抵抗性害虫の発生,予想できない性質を持った生物の出現を懸念している。倫理的には,生命の尊厳,種の壁を超えた遺伝子の導入を懸念している。
 
2.表示制度
1)基本的問題
[51]:遺伝子組換え製品に対する個々の消費者の嗜好が異なるため,遺伝子組換え製品と非遺伝子組換え製品を選別して購入したいという要求が生まれた。消費者の選択問題は,どの食品が遺伝子組換え製品を含み,どの食品が含まないかを区別できる表示の要求へと発展した。多くのOECD加盟国の調査では,消費者は遺伝子組換え食品に対して表示することを希望している*。
 
[52]:多くのOECD加盟国では,一部の食品製造業者は,遺伝子組換え食品とそうでない食品を消費者が選択できるようにしている。しかし,食品ラインを区別することによってコストが高くなる。こうした食品ラインの区別方式が国内ばかりでなく国際的にも多数派となるか,あるいは少数派となるかによって,市場へのインパクトが異なってくる。
 

*:農林水産省−海外農業情報−米国;FDA,GM作物表示のガイドライン案を発表〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照
 
*:農林水産省−海外農業情報−EU;GMラベル表示の欧州委員会案〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照
 
*:農林水産省−海外農業情報−EU;バイオ技術を巡る混乱〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照

 
[53]:遺伝子組換え技術で生産された食品の多くは,視覚・感覚的に非遺伝子組換え食品と区別できない。消費者が消費する前でも後でもその特性を確かめることができないため,このような商品は信用商品(credence goods)と呼ばれる(Darby and Karni, 1972; Caswell and Mojduszka, 1996)。信用商品では情報の不整合性(informational asymmetry)を伴うことが多い。製品に遺伝子組換え農畜産物が食材に使われていることえを知っている生産者と,それを知らない消費者の間に情報の不一致があると,市場原理が働かなくなる。
 
[53]:この改善方策の一つに表示制度がある。これによって,購入者が選択するための情報を提供して,情報の不整合性を是正するものとして提案されている(Caswell, 1998b; Caswell and Mojduszka, 1996; Hadden, 1986; Shapiro, 1983; Beales et al. 1981)。その他の方策としては,製品の規制や最低の製品基準の設定が考えられる。
 
[54]:表示に関する下記のような政策上の問題がある。
 a.遺伝子組換え食品の表示を義務とするのか自主的とするのか。
 b.遺伝子組換え素材を含むものに表示するのか,含まないと表示するのか。
 c.表示は内容物だけに限るのか,製造プロセスも含むのか。
 d.非遺伝子組換え食品と表示するときの遺伝子組換え素材の混入水準をどこに置くのか。
 e.誰が検査を行うのか。
 f.誰が検査や表示手順を監視して,表示が正しくまぎらわしくないことを保証するのか。
 g.誰が表示コストを支払うのか。
 h.表示することによってどの程度,有効な情報が消費者に伝わるか。
   これらの問題の内,経済に関与する部分を以下で検討する。
 
2)義務的か,自主的か
[55]:消費者が製品に遺伝子組換え食材が含まれているかどうかだけを知りたいのであれば,義務的表示,自主的表示いずれでも生産者と消費者間の情報の不整合性を修復できる。義務的表示の場合は政府が法的拘束力のある規制によって,販売者に製品の内容物を示すように義務づけることになり,消費者への情報問題は解決される。自主的表示の場合は,表示を付けることが経済的インセンティブを与えるか否かは市場に依存する。
 
[55]:表示を義務化するのか,自主的なものとするかは,政策上の問題である。義務的表示は一般に品質属性によって製品を単に差別するのではなく,健康や安全性のため,あるいは公衆の利益が脅かされている場合に主張される。義務的表示は全ての生産者を監視するコストや,そのための管理コストが高くつく。これらのコストは一括税によってまかなわれるか,製品を購入する消費者に転嫁されることになる。
 
[56]:製品の品質や特長を示すことが販売のために必要な場合には,自主的表示が良いとされている。自主的表示が情報問題を解決するのに十分であり,より効果的であるとする意見もある。しかし,ある市場条件では,義務的表示を行わなければならない場合もある(Caswell, 1998b; Hussain, 1999)。また,政府が関与して表示が特定の基準や条件を満たしていることを認定することが必要なケースもありうる(Beales et al. 1981;Blandford and Fulponi, 1999)。さらに,国際標準化機構(ISO)のような第三者機関や,認証して製品の品質基準を施行する国の認証組織による実施が適切な場合もある。
 
3)含むことを表示するのか,含まないことを表示するか
[57]:遺伝子組換え製品の表示はプラスとマイナスのいずれで行うべきか。義務的表示の場合に「遺伝子組換え成分を含む」というプラスの表示を行うことは,それが書かれていない場合には,「含まない」ことを意味する。マイナス表示の場合はこの逆になる。いずれの場合でも,表示によって元々の情報の不整合が是正され,消費者の福利厚生(welfare)は向上する。
 
[57]:しかし,遺伝子組換え技術は複雑であり,感覚器官で確実に識別できないため,表示があっても的確な情報を伝えていないこともありうる(Golan and Kuchler, 2000)。工業化の進んだ国では,利用可能な加工食品の約60%に遺伝子組換えの食材が含まれているから,遺伝子組換え食品を避けたいと願う消費者にとっては,量の明記のない単純なプラス表示だけでは必ずしも購入を決定することには役立たないであろう(Kinsey, 1999)。「含まない」ということが明確に定義できれば,「遺伝子組換え成分を含まない」というマイナス表示の方が,特に遺伝子組換え食品を消費したくないという人にとっては,より有益な情報を提供するであろうという意見もある(Runge and Jackson, 2000)。
 
4)表示コスト
[58]:表示コストは,表示の対象となっている遺伝子組換え素材の混入レベル,必要な検査手続きおよび食品流通全体でこれらの手続きが正しく行われていることを監視するコストの関数になるであろう。これらの手続きが公的又は第3者の認証事業で行われるにせよ,管理コストも必要になる*。
 

*:農林水産省−海外農業情報−EU;非GM供給ライン問題に関する見解〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照

 
[58]:表示や試験方法が正しいことを認証するためには,利用者に料金が課せられることが多い。誰が表示コストを負担するのかは,採用したシステム,当該産業の市場構造,消費者需要の弾力性によって決まる。品質を示す自主的表示システムでは,こうしたコストは消費者に転嫁される。義務的表示システムあるいは義務的な公的認証システムでは,公的資金がコストを負担するか,あるいは,消費者,生産者と政府でコストを分担することになる。
 
5)その他の外部経済
[59]:遺伝子組換え品種の栽培と生産は,非遺伝子組換え品種の生産者に外部経済コストを課している。例えば,害虫抵抗性作物栽培によって生じる抵抗性害虫の発生問題,遺伝子組換え作物が非組換え作物と交雑する問題がある。非遺伝子組換え品種の農業者は,自らの生産物が非遺伝子組換え特性を保持していることを確保するために要する追加コストを支払わなければならない(Golan and Kuchler, 2000)。
 
[59]:非遺伝子組換え製品を好む消費者の割合があまり多くない場合には,表示しても消費者の福利厚生は増加しないことが利益の効果評価モデルによる簡単な計算で示される。さらに,遺伝子組換え食品に対する社会的な懸念の理由として環境問題にまで及ぶことがある。このように,農業におけるバイオテクノロジーの利用に関する規制政策と密接に絡んだ問題は表示だけでは解決できない。こうした外部経済に対処するためには特別な施策が必要である。
 
6)政府および民間セクターの反応
[60]:表示は,消費者に選択機会を与え,市場がより効率的に機能できるように応答する標準的方法である。多くのOECD加盟国では,遺伝子組換え食品に対する特別な遺伝子組換えに関する義務的表示規制が承認されているか,策定途中である。遺伝子組換え製品について表示規制を作成中または施行している国は,EUの15ヶ国,ハンガリー,日本,韓国,メキシコ,ニュージーランド,ノルウェーおよびスイスである。
 
[61]:遺伝子組換え食品と非遺伝子組換え食品とを区別するために,加盟国の進めている義務的表示方法の多くは,一定の混入または許容レベルを超える遺伝子組換え食材の存在を示す方法を採用している。決められた許容レベル以下の製品の場合には,表示は要求されない。
 
[62]:加工食品について民間セクターで実施されている自主的表示事業の多くは,製品には遺伝子組換え成分が含まれない,あるいは,遺伝子組換え作物から製造されたものでないと表示している。これによって,遺伝子組換え食品を避けたいと望んでいる消費者に選択情報が提供される。しかし,これによって消費者に情報コスト負担の義務が課せられている。
 
7)分離コスト
[63]:表示は一般に小売段階あるいは最終製品レベルに適用されるのに対し,分離は農業者や種子生産者レベルから始まる食品加工の様々なレベルに適用される。遺伝子組換え食品と表示することは,食品流通全体にわたって他の作物との分離がなされていることを意味する。表示を使用する際に信用できる製品分離の追跡あるいは認証を行うには,「素性保全システム」(Identity Preservation (IP) system)が必要となる。
 
[64]:IPシステムは製品分離のなかでも基本的に厳しい形態のものである。IPシステムは,製品の追跡性など,分離よりも多くの便益を提供する。IPシステムは,製品の販売や取引を容易にする作物の分離や等級分けを可能にするので,多数の作物および畜産物で既に広範に使用されている。
 
[64]:高油脂トウモロコシ,高タンパク質コムギなどの価値の高い作物や,オーガニック農産物のような特殊製品は,IPシステムによって流通している。一般にIPはコストを上回る付加価値のある高価値製品について実施されている。USAでは農産物の約8〜10%がIPシステムで流通している(EC, 2000)。
 
[65]:作物の分離は種子の生産・流通レベルから始まり,農場レベルでも続けられ,作物生産や農場での貯蔵も分離しなければならない。分離は作物が最終目的地に到着するまで,輸送・貯蔵・船積み段階を通じて維持されなければならない。作物を輸出する場合には別のコンテナを使用しなければならない。
 
[65]:非遺伝子組換え作物の場合,許容レベルとは,「非遺伝子組換え」表示として許容できる遺伝子組換え作物の量,または,プラスの「遺伝子組換え」表示で求められている以上の量を意味する。許容レベルを設定しなければならない理由は,実際のどんな食品加工・流通チェーンにおいても,製品の絶対的純粋性を確保することが実際的に不可能なためである(Buckwell et al. 1998)。
 
[66]:最近のUSDAの調査によると,高油脂トウモロコシでの作物分離では,穀物取扱業者の追加コストは約0.22ドル/ブッシェル(8.66ドル/トン),または1999/2000年価格の12%とされている。高油脂ダイズでは,約0.18ドル/ブッシェル(7.09ドル/トン),または1999/2000年価格の4%とされている(Lin and Harwood, 2000)。IPシステムのコストは,穀物の種類や採用したIPシステムによって,5〜25ユーロ/トンの幅がある。これは農場価格の約6〜17%に相当する(EC, 2000)。
 
[68]:表示に要するコストを誰が負担するのか。
そのコストは投入資材の供給者,農業者,加工業者,小売業者,消費者および政府で分担することになるであろう。作物を分離するためにコストを誰が負担するかは,遺伝子組換え作物と非遺伝子組換え作物の需給状況や市場の構造によって異なってくる。食品流通の統制が厳しく,垂直的に統合されているほど,農業者と消費者がコストのかなりの部分を負担するようになる
 
8)表示の国際的な側面
[69]:貿易対象の商品を各国の規制システムに適合させる表示の手続,要件,許容レベルが国によって違っているため,表示問題が国際問題としてクローズアップされてきている。
 
[69]:「衛生植物検疫措置の適用に関する協定」(Sanitary and Phytosanitary Agreement: SPS),「貿易の技術的障害に関する協定」(Technical Barriers to Trade: TBT),(Codex Alimentarius),カルタヘナ議定書などが,遺伝子組換え農産物の貿易手続の解釈について論議している*。とくにSPSとTBTとは,国際貿易における製品の表示について違った側面を扱っている。SPSは動物・植物・人間の健康にかかわる問題を扱っており,TBTはSPSでカバーされていない問題を扱っている.両協定とも国際基準を使用することを奨励しており,SPSは食品の安全性についてはCodexの基準を参考にすることを明示している。
 
[69]:しかし,Codexはバイオテクノロジー由来の食品の表示について特別のガイドラインをまだ設けていない。表示問題について多様な意見があり,貿易上も重要であるため,Codexの食品表示に関する委員会が現在バイオテクノロジー由来の食品についての表示要件を策定しているところである。この種の食品について基準,ガイドライン又は勧告を策定するために,Codex委員会によってアドホック政府間特別部会も設けられている。
 

*:農林水産省−海外農業情報−米国;バイオセフティ議定書の合意〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照
*:農林水産省−海外農業情報−EU;WTOでのバイオテクノロジー論議〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照
*:農林水産省−海外農業情報−EU;WTO交渉におけるGM問題〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照
*:農林水産省WTO農業交渉コーナー(2001):〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照
*外務省〈http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/ko_2000/documents/commu.html〉参照
*FAO本部プレスリリース〈 (対応するURLが見つかりません。2010年5月) 〉参照

 
[69]:生物多様性保護のための多国間環境協定である「生物多様性条約にかかわるバイオセフティに関するカルタヘナ議定書」も,遺伝子組換え作物の貿易にかかわっている。第1条によると,「本議定書の目的は,人間の健康に対するリスクを考慮し,かつ国境を越えた移動に特に焦点を当てつつ,生物多様性の保全と持続可能な利用に悪影響を与える恐れのある現代バイオテクノロジーによって生ずる改変された生物体の安全な移動,取扱および利用の分野において,適切な保護レベルを確保できるように貢献することに置く」と規定されている。とくに第18条には,改変された生きた生物体の取扱・輸送・梱包・確認について,協定の実行の仕方について異なる意見がある。
 
3.市場の概況
[70]:食品用についての現代バイオテクノロジーが有力な農業バイオテクノロジー企業が描いているように特別な形質の農産物を供給する形で,発展し続けるとすると,分離やIPシステムの役割はますます大切となり,主要農産物の生産・流通・価格設定に大きな変化をもたらす可能性が大いに考えられる。例えば,USAでは特別作物の70%が契約栽培されている。このことは,投入資材供給業者,農業者,川下企業の間に違ったタイプの関係が生じて,農業に構造的な影響をもたらす可能性があることを意味する(Coaldrake, 1999).
 
[71]:モンサントとカーギル農業部門のCEOによると,10年以内に全穀物生産の1/4は品質形質やインプット形質向けになるという。多くの食品企業のCEOも,より特殊化した作物によって農業者の収益が向上するだろうとしている。
 
[72]:消費者と食品産業の行動や政府の規制が急速に変わっている段階であり,現時点で遺伝子組換え製品および非遺伝子組換え製品に対する需要が市場にどのように影響するかを評価することは難しい。同じ製品であっても生産過程や由来で差別すれば,その影響として,市場は分割され,価格差が生るだろう(Miranowski et al. 1999)。
 
[72]市場は遺伝子組換え製品と非遺伝子組換え製品に対する相対的需要/供給の比率を反映し,遺伝子組換え製品に対する割引率を規定することになるであろう(Winsor, 1999)。USAの一部地域において1999年に非遺伝子組換え作物に対するプレミアムが提案された。その額はトウモロコシで3.9〜5.9ドル/トン(市場価格96ドル/トンの4〜6%),ダイズで1.8〜12.8ドル/トン(市場価格 188ドル/トンの1〜6%)といわれる。
 
[73]:遺伝子組換え産物に対する消費者の反応が油糧種子と穀物(コメとコムギを除く)世界貿易パターンに及ぼすインパクトが定量的に試算された。その結果,かなりの貿易転換とそれに合わせて市場調整が起こり,価格差がかなりのものになるという(Neilsen et al. 2000)。
 
[74]:需要サイドでは,多くのOECD加盟国の消費者の懸念から,遺伝子組換え品種の市場や将来の開発路線について,不確実性が生まれている。これらの懸念がどの程度消費行動に影響し,さらには遺伝子組換え作物および非遺伝子組換え作物に対する市場の発展に影響するかはほとんど分かっていない。
 
[74]:多くの政府は消費者の抱いている不確実性のいく分かを静め,表明された製品情報への要求を満たすために,遺伝子組換え成分を含む製品に表示を行うことを決めた。多くのOECD加盟国ではこれまで遺伝子組換え製品の表示に関する政策を急速に変更してきている。
 
[74]:これに加え,食品産業は,非遺伝子組換え食品ラインを増やし,自主的な表示の採用を行うなど,消費者の懸念に先取り的に対応していると考えられる。製品の由来を追跡可能にするIPシステムは,取り引きされる主要製品について設けられてきている。
 
D.パート3.結論
 
[75]:遺伝子組換え作物栽培における収益,収量および農薬使用量は,地域,作物の種類,栽培年によって結果が異なる。
 1)害虫の食害程度によってBtトウモロコシの収益性は異なる。食害の程度は栽培年によって違う。しかし,Btワタの栽培では,より高い収量や収益が得られている。
 2)除草剤耐性ダイズ品種(ラウンドアップレディー)を栽培することによって,除草剤使用量が有意に減少し,収量が若干増加した。しかし,栽培農家の収益性には非組換えダイズ栽培の場合と比較して差が認められなかった。同様な結果が除草剤耐性ワタでも得られている。
 3)USAにおいて,遺伝子組換え牛成長ホルモン(rBST)を積極的に乳牛に投与する酪農家は少なく,処置された乳牛は30%以下である。また,収益が有意に増加したとの証拠もない。
 
[76]:USAでは遺伝子組換え作物を導入することによって,栽培管理が単純化するので,農場全体の管理作業の自由度が高まると報告されている。このことから,遺伝子組換え作物を栽培する農家は経済的側面よりも非経済的面の有利性を認めていると思われる。
 1) 遺伝子組換え技術は農場の規模や家畜の飼養規模とは無関係と考えられていたが,実際には,規模の大きな農家がこの技術を導入する可能性が高く,彼らは若く,高い教育を受け,高度の農業技術を使って経営している者である。
 2)しかし,農業者の反応や遺伝子組換え技術の経済的利益や収量に対する影響を適切に評価するのは,まだ時期尚早である。
 3)害虫抵抗性作物を長期的に栽培することによって,抵抗性害虫の出現が懸念される。このため,害虫抵抗性品種の開発においては,経済評価に影響を及ぼす危険性があることを考慮しておく必要がある。
 4)圃場試験や実際の農場において栽培を行い,長期的調査を行わない限り,これら作物の経済的インパクト全体を評価することはできない。
 
[77]:多くの消費者の懸念は,遺伝子組換え食品の健康への長期的な影響,遺伝子組換え作物の環境への影響,遺伝子組換えに関する倫理的考えに集中している。このため,多くの国では遺伝子組換え技術で作られた製品にに対する表示の要求が発生した。これは遺伝子組換え製品を消費するか,しないかを選択したいという欲求を反映したものである。 
 
[78]:国によって消費者の嗜好が大きく異なるため,国内と国際市場においても不確実性が生じている。このため,OECD加盟国の政治的姿勢を大幅に変えなければ,各国の遺伝子組換え食品に対する規制システムの違いを調整することは難しいであろう。
 1)表示によって,遺伝子組換え製品とそうでない製品を消費者が選択することが可能になろう。義務的表示と自主的表示のいずれであっても,表示政策は市場にインパクトを及ぼす。
 2)効果的な表示事業に必要な分離やその他の手続に要するコスト増加を誰が負担するのか,プラス表示とマイナス表示のいずれを使用するかも,大きな影響を与えるであろう。
 
 
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F.ボックス
ボックス1 今日の農業バイオテクノロジーと途上国の食料需要
 世界の人口増加のほとんどは途上国で生じており,今後,これらの国々の食料需要の増加が農業生態系に影響を与えるであろう(Federoff and Cohen 1999, McCalla and Brown 2000)。2025年には穀物に対する需要は30億トンに達し,平均単収を現在の約3トン/haから約4トン/haに高める必要がある(Dyson, 1999)。
 
 一方,実際の農場収量と遺伝的潜在生産力とのギャップは縮まっており,作物の潜在的生産力の伸びは,予想される食料需要の伸びよりも段々低くなっている。こうした課題を突破するために,植物生理学,土壌科学や農業生態学に基づく科学的打開方策が必要である(Cassman, 1999)。伝統的な育種法に比べて,農業バイオテクノロジーは特定の特性を有する作物品種の開発に要する時間を約40から50%短縮できる。これに加えて,農業バイオテクノロジーは,従来の育種技術では不可能であった他の種からの望ましい形質を導入することが可能である(Ruttan 1999, Cassman 1999)。
 しかし,遺伝子組換え技術の利用が途上国における食料需要を満たす上で重要な高収量や有害生物抵抗性の作物を開発するのに,唯一または主たる方法というわけではなく,従来の農業技術を途上国に移転して食料生産を向上させる方法にも十分な余地が残されている(Ruttan, 1999)。
 今日のバイオテクノロジーに関して,ほとんど全ての民間セクターで進歩しているが,財政的インセンティブがないため,途上国の農業システムのニーズに適合しない。これは知的所有権の国際的な保証が弱いことと,途上国における購買力が低いためである。こうした状況は,公的な研究開発(R&D)資金を確立できないことによる市場の失敗を示している(Segageldin, 1999; Conway, 1998)。
 
 しかし,途上国は可能な限り自国政府による基金を投入して,バイオテクノロジーの研究開発能力を高めてきている(Persley and Lantin, 2000)。とくに,害虫および病気に対する抵抗性の向上させることによって,農業生産性を増強する技術としてのバイオテクノロジー研究に焦点を当てている(ISAAA, 2000)。
 
ボックス2 商品化途中の遺伝子組換え作物
 第2世代の遺伝子組換え作物の多くは,既に開発されているが,まだ市場に出ていない。これらの作物は食料生産システムにおいて使用価値を高めたり,最終利用または品質特性を向上させる等,いろいろな農業形質に焦点を当てている。例えば,タンパク質やアミノ酸の含量を高め,飼料の栄養価を改善したダイズ,高ステアリン酸カノーラ,低フィチン酸トウモロコシのように油脂やでん粉などを改善して加工適性や消化性を向上させた作物が将来の生産物として用意されている。
 
 工業的側面では,化学染料を使用しないで済む有色ワタの開発がある。その他,植物体内に医薬品や栄養剤を生産するような遺伝子組換えを行った作物である「栄養補助食品」(nutraceutical),または「機能性食品」(functional foods)のような,最終消費者にとっての品質を高めた形質を有する作物も開発されようとしている。たとえば,ベータカロチンカノラやビタミンA強化コメなど伝統食品によって病気に対する免疫性を高めたり,健全性への効果を向上させることが可能になると考えられる。また,窒素固定力が高い植物,干ばつ,洪水や極端な温度に耐性を持つ植物,さらには生物学的修復(bioremediation)に使える植物なども将来の開発が期待されている(Riley and Hoffman, 1999)。
 
ボックス3 知的所有権とR&D:経済的問題
 農業バイオテクノロジー産業は基本的には知識基盤産業であり,技術革新や商品開発が企業成長のキーとなっている。政府が発明に対して知的所有権(特許,登録商標,版権)を与える主な理由は,知的所有権の価値の違いとその創出に伴う社会的コストの差が最大になるようなインセンティブを生み出させる点にある(Besen and Raskind, 1991)。特許権の所有者は,別の者が一定の期間にわたって当該発明を使用し,販売用に提供し,当該国で販売又は輸入することを排除できる。また,特許権を売って,使用料を受け取ること,あるいはそうしないことができる(Katz and Shapiro, 1985).
 
 大部分のOECD加盟国はバイオテクノロジー分野において知的所有権を保護する法的フレームワークを有している(OECD, 1999a)。植物および動物における技術革新にかかわる法的構造が変更されると,企業におけるR&Dの経済的インセンティブが劇的に変わる。新しい生物体の保護については,国によってかなりの違いが残っている。
 
 WTO加盟国は「知的所有権の貿易関連側面に関する1994年協定」の条項27(3)に従って,植物の品種・系統を保護する特許または「独自」のシステムを用意していなければならない。「独自」システムの開発については,知的所有権協定の基本的原則が満たされている限りにおいて,その内容や構造にかなりの自由度が与えられている(Seiler, 1998; Leskein and Flitner, 1998)。知的所有権協定では,自然に存在する遺伝資源は特許対象にならず,条項27(2)に規定された,発明によって創出されたものだけを対象にしている。
 
ボックス4 途上国向けのバイオテクノロジーと微量栄養素
 FAOによると,途上国の約5人に1人が慢性的栄養不良であり,約20億人が微量栄養素欠乏症にかかっている。なかでも最も重要なのが鉄とビタミンAの欠乏である(Levin et al. 1995)。世界銀行(1994)の推計によると,ビタミンA,ヨウ素および鉄の欠乏によって南アジアではGDPの5%が失われ,これに対処するにはGDPの1%の1/3以下で済むという。インドでは鉄欠乏がGDPの1.25%に相当すると評価されている。
 
 微量栄養素欠乏症を減らすには,栄養補助食品と,補助栄養を組み込んだ作物の育種という2つのオプションがある。両者のいずれを選択するかは,対費用効果が高く,公衆に受け入れ易いか否かで決まる。栄養補助食品は毎年繰り返す必要があり,国別にしか適用できず,波及効果がない。これに対して,作物育種の場合は,投資コストに対する利益比は高く,その利益は多数の国に波及し,初期投資後に消失することはない(Bouis, 2000)。
 
 新しい品種を作る場合,現代バイオテクノロジーと伝統的育種手法のどちらが高いコスト効果を有するのかは,対象とする栄養分が何であるか,そして開発しようとする作物に関する既存の研究蓄積によって違ってくる(Bouis, 2000)。IFPRIが鉄,ビタミンA,亜鉛について調査した結果,鉄と亜鉛については慣行的な育種手法の方が優れている(Bouis, 2000)。これに対して,ベーターカロチン強化米,通称「ゴールデンライス」の場合には,ビタミンA(ベータカロチン)生成を促進する遺伝コードを転移させるために遺伝子組換え技術が必要である。
 
 途上国向けの微量栄養素問題を解決する際にバランスの取れたアプローチは,特定の欠乏症と作物について費用−利益分析を行って,ふさわしい研究戦略を採用することにある。
 
ボックス5 遺伝子組換え作物の経済的福利厚生の影響(Economic Welfare Effects)
 バイオテクノロジーの技術革新によって利益を得るのは,農業者,消費者,開発したバイテク産業の誰なのか? バイテク企業がその知的所有権を有している遺伝子組換え作物について,国際貿易における企業の利益とともに消費者と生産者の利益を調査して,採用のインパクトを定量的評価する研究が行われた。
 
 両者とも多国籍企業が知的所有権を持っているとした場合の発明採用のインパクトを計量するために,BtワタとRRダイズを採用した際のインパクトが検討された(Moschini and Lapan, 1999; Moschini et al. 1999)。
 
 Btトウモロコシ
 従来品種および遺伝子組換え品種の限界コストを一定とすると,Btトウモロコシ導入によって,世界全体の経済余剰は2億4000万ドル増加する。このうち,最大の配分を受け取るのがUSAの農業者で59%,発明者のモンサントが21%,USAの消費者が9%,USA以外の国々が6%,生殖質提供者のDelta and Pinelandが5%を受け取ると推定された。この結果では発明者の利益配分は大きくない.
 
 RR ダイズ
 RRダイズ採用の生産,価格および福利厚生に及ぼす影響が,ダイズ全体を対象に,USA,南アメリカ,その他の国に分けて検討された(Moschini et al. 1999)。モデルによると,USAが発明者の最大利益を得るという原則に従って,福利厚生について最大シェアをうる。世界全体の福利厚生の増加額は約8億400万ドルとなる。その約45%を発明者が獲得し,USAの生産者が約20%,その他の国々の消費者が約25%を獲得し,その他の国々の生産者は約7%を失うと推定された。
 
ボックス6 除草剤耐性品種採用が圃場レベルに及ぼす影響の定量的分析
 全国規模で1997年に行った除草剤耐性ダイズの農場レベルにおける経済的影響の推計では,除草剤ダイズを採用することによって,除草剤の全使用量が減少し,収量もやや有意に増加したことが認められた。
 
 この分析では,除草剤耐性ダイズを採用に至った際の決定因子に加え,除草剤使用量,収量および収益に及ぼした採用のインパクトも検討している。除草剤は有効性成分によって,Glyphosate(除草剤耐性品種に出芽後除草剤として使用),Acetamides(出芽前除草剤),その他の合成除草剤にカテゴリーが分けられている。
 調査の結果,その他の合成除草剤使用量は,除草剤耐性ダイズ採用と負の相関を有して,弾性値は−0.14であったのに対して,Glyophospahte使用量は除草剤耐性品種採用と正の相関を有して,弾性値は0.43であり,両者とも1%レベルで有意であった。このことは,除草剤耐性品種の採用が10%増加すると,Glyophoshateの使用量が4.3%増加することを意味する。Acetamide除草剤の使用量も除草剤耐性品種採用と負の相関を有したが,弾性値は有意でなかった。
 収量も除草剤耐性品種の採用と正の相関がある。除草剤耐性ダイズを採用することによって,収益には影響を与えていない。
 
Source: Farm-Level Effects of Adopting Herbicide Tolerant Soybeans in the U.S.A., J.Fernandez-Cornejo, C. Klotz-Ingram and S. Jans. Selected paper presented to the American Agricultural Economics Association meetings, August 1999.
 
 
 なお,この概要書は筑波大学農林工学系 西尾道徳教授が全訳されたOECD報告書を基にとりまとめたものである。資料を御提供いただいた西尾教授に厚くお礼申し上げます。
 
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