日本のおコメを大きくした遺伝子を発見!世界のコメの収穫量向上の可能性も
2009年8月7日
普段、我々が食べているおコメは、約1万年前に、野山に自生していた野生のイネが古代人によって栽培され始め、作物へと変化し、新しい種になったと考えられています。このような変化を栽培化、その時に突然変異した遺伝子のグループを栽培化遺伝子と呼びます。野生種の持つ脱粒性を失って刈り取りやすくなったり、おコメや稲穂の大きさを大きくしたりするなど作物として好ましい変化の原因となった遺伝子です。農業生物資源研究所では、STAFF研究所や富山県農業試験場と共同で、おコメの大きさを決める遺伝子の一つである、qSW5 遺伝子を発見し(図1)、
1.qSW5 遺伝子の変化が日本のイネの栽培化で大きな役割を果たしたこと。
2.栽培化遺伝子の違いから見て、世界の主流であるイネ(インディカ種)と日本のイネ(ジャポニカ種)の祖先は異なること。
3.日本のイネが生まれる過程、つまり栽培化されていく過程で、qSW5 が壊れることで籾の外側が大きくなり、その結果、日本のおコメがたくさんとれるようになった可能性が高いこと
を明らかにしました。
日本晴という品種は、日本のおコメで、この遺伝子は既に壊れてその機能をなくしているのですが、別の品種から機能しているqSW5 を交配で導入して、田んぼで栽培してその収穫量を比べると、約15%収穫量が減ることがわかりました(表1)。逆に、世界で主に栽培されているインディカ種に、このqSW5 の違いを交配で品種改良に利用すると、収穫量を15%以上増やせる可能性があるため、この遺伝子を使った品種改良が始まりつつあります。日本でも収穫量を増やすことが求められている飼料(エサ)米やバイオエタノール用米の開発に利用できると考えられます。
最近、穀物の供給は不安定で、価格は大きく乱高下しています。今後もこの傾向は続くと考えられ、たくさんとれるイネの品種を求める国際社会のニーズが高まっています。また、日本の食料自給率は約40%と先進国の中で最低だということも考えなければなりません。qSW5 のジャポニカイネでの欠失を利用すれば、インディカイネの収穫量を上げられるよう現実的な品種改良を行うことができるなど、イネ科植物のゲノム情報が充実することで、世界の食料供給への大きな貢献が期待できます。
この成果は、農水省の受託研究である、「ミュータントパネル」(H10〜H15)(MP1113)「多様性ゲノム」(H18〜H19)(GD2008)「QTL解析」(H20〜)(QTL5001)で進められてきた研究からの成果です。

井澤 毅 (いざわ たけし)
東大理学部物理学科卒、東大大学院修士課程修了。(株)植物工学研究所、米ロックフェラー大学客員研究員、奈良先端科学技術大学院大学助手を経て、2001年農業生物資源研究所に入所。2008年より(独)農業生物資源研究所 上級研究員。