寒くても発芽できるイネの遺伝子を発見!
2009年8月7日
熱帯うまれの作物であるイネを寒い北海道で栽培する場合、低温に強い性質を与える事が必要不可欠です。特に、田植えを省いて直接田んぼに種をまく、直播栽培をするうえで、種まきの時期である5月上旬の低温により、発芽や苗立ちが不安定になることが大きな問題となっています。直播栽培は、農家の負担を減らすことのできる低コスト・省力化技術で、稲作の栽培規模を広げることや、春先の労働力を分散して複合的な農業を営むことができるようになります。現在、農業に従事する人口は減り、高齢化も進んでいます。そのため、食料を将来的に安定して供給し続けるためにも、北海道でも安定した直播栽培を実現させなければなりません。私たちは、直播栽培に適した品種の育成を目標として研究を進めてきましたが、今回、低温でも発芽しやすくする(低温発芽性)遺伝子を発見することに成功しました。
北海道の直播栽培では、種をまく時期の気温は15℃と低温です。このとき、従来の品種では、7日目でようやく発芽が始まり、ほとんどの種子が発芽するにはさらに3日が必要。発芽までの期間が長いと、後の成育が遅れてしまいます。一方、イタリアうまれのイネ「Italica Livorno」(イタリカ・リボルノ)は、生長が盛んな品種で(下図)、この条件でも3日目に発芽が始まり、4日目にはほとんどの種子が発芽しました。この、低温でも非常に発芽しやすい性質に注目して、その原因となる遺伝子をゲノムから探したところ、低温発芽性遺伝子qLTG3-1 を発見することができたのです。
さらに、実際にDNAマーカー選抜の手法を用いて、「イタリカ・リボルノ」からqLTG3-1 を北海道のイネに導入したところ、作出したqLTG3-1 を持つイネ(下図の新系統)は、qLTG3-1 を持たない従来のイネと比べて、明らかに低温でも発芽しやすくなりました。
この研究で発見した低温発芽性遺伝子qLTG3-1 は効果が大きく、低温発芽性を改良するうえで役に立つ遺伝子です。今後、苗立ちを安定させる遺伝子も見つけ出し、qLTG3-1 とともに、DNAマーカーを利用した品種改良方法の開発に取り組みます。

藤野 賢治 (ふじの けんじ)
1968年生。1994年ホクレン農業協同組合連合会入会。