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ここに注目 - イネゲノムと未来 - 未来を切り拓くお米のチカラ - 新農業展開ゲノムプロジェクト

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ここに注目

イネの免疫システムをかいくぐる、イネいもち病菌の「ステルス作戦」

2009年10月9日

葉いもちイネいもち病菌はイネに感染して大きな被害をもたらす病気を起こすカビです。イネにもカビの侵入を防ぐ免疫の働きがあり、カビの侵入は、キチンやβ-1,3-グルカンなどのカビの細胞壁の成分に結合するセンサーで発見できるようになっています。イネはカビの侵入を見つけだすと、カビの細胞壁を分解するキチン分解酵素やβ-1,3-グルカン分解酵素を出し、カビを攻撃します。興味深いことに、イネいもち病菌の細胞壁にもキチンがあるにもかかわらず、なぜかイネの免疫システムには認識されません。

今回、私たちは、イネいもち病菌が、キチンなどの細胞壁の成分を何らかの方法で隠して、イネの攻撃をかわす仕組みを持っていると考え、イネ細胞に侵入しているイネいもち病菌の細胞壁について調べました。その結果、イネ細胞に侵入しているイネいもち病菌では、1)細胞壁の表面にイネにとっては分解しにくいα-1,3-グルカンがあり、細胞壁のβ-1,3-グルカンやキチンを隠している、2)α-1,3-グルカンを被った菌糸はキチン分解酵素でも分解されにくくなる、ことが明らかになりました(図1)。また、イネいもち病菌は植物ワックスがあるとα-1,3-グルカンを作る働きが活発になって、菌糸の細胞表面にα-1,3-グルカンを蓄積させるという興味深い事実も明らかになりました。

イネ細胞中のいもち病菌菌糸の細胞壁成分の蛍光染色

これらの結果をあわせて考えると、イネいもち病菌は胞子が発芽する時に植物ワックスを見つけると、細胞壁の表面をイネが分解できないα-1,3-グルカンで覆うことにより、細胞壁のβ-1,3-グルカンやキチンを保護し、イネの自然免疫システムに見つけられることなく感染するという「ステルス作戦」をとっていると考えられます。

α-1,3-グルカンを利用した免疫システムからの攻撃をかわす仕組みはヒトに感染するカビでも見つかっており、病気を起こすカビに共通の仕組みであると考えられます。このことを利用し、α-1,3-グルカンの分解ができる植物を作り出したり、菌のα-1,3-グルカンの合成を阻む薬などを開発したりすれば、病害カビの「ステルス作戦」の裏をかくことができます(図2)。このような方法で植物の自然免疫を高めることにより、病害カビ全般に対して強い抵抗性を植物に与えることができると考えています。

↓図をクリックすると、新しいウィンドウで大きな図が開きます


この成果は、生研センター異分野融合研究支援事業(H17-H21)で得られた研究成果を基に発展させたものです。

西村 麻里江

西村 麻里江 (にしむら まりえ)

東京大学農学部農芸化学科卒、同大学院(農学)応用生命工学修士課程修了後、農業生物資源研究所。平成11−13年 米国Purdue大学客員研究員。

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