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ここに注目 - イネゲノムと未来 - 未来を切り拓くお米のチカラ - 新農業展開ゲノムプロジェクト

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ここに注目

穂発芽しにくくする遺伝子の特定
−降雨による品質低下を防ぐ−

2010年6月24日

植物の種子は環境が生存に適した状態になると、発芽します。イネの場合であれば春に発芽し、秋には種子を稔らせる必要があります。稔った種子が誤って冬を前に発芽してしまわないように発芽を止める仕組みがあり、これを種子休眠と呼びます。種子休眠性が強ければ、雨などにより収穫前に発芽することで品質が下がってしまう「穂発芽」という現象を防ぐことができるため、独立行政法人農業生物資源研究所は作物研究所、名古屋大学および理化学研究所と共に穂発芽をしにくくする遺伝子の特定とその機能解析に取り組みました。

私たちは種子休眠性が強く、穂発芽を起こしにくいインディカのKasalath (A)から穂発芽をしにくくする遺伝子Sdr4の特定に取り組みました。DNAマーカーをもちいた解析の結果、第7染色体の非常に狭い部分まで、遺伝子が存在すると考えられる領域を狭めることができました (B)。さらに遺伝子を含むと予測されるDNA断片を穂発芽しやすい日本晴に遺伝子導入した結果、穂発芽耐性を獲得させることに成功しました (C)。Sdr4はイネの成熟やストレス耐性を制御するOsVP1という遺伝子の制御を受ける遺伝子ですが、ストレス耐性のシグナルとは独立して種子休眠を特異的に制御していました (D)。これにより、ストレス耐性に影響を与えずに、穂発芽耐性のみを与えることが出来ると考えられます。

穂発芽しやすい日本晴型のSdr4-n は、野生のイネを作物にする過程で生じたSdr4-k の働きが適度に弱くなった遺伝子だと考えられます。この変化により、人が作物として利用する上で良好な発芽性が得られたと考えられます。良好な発芽性を示すことから、日本晴が含まれる日本稲で生まれたSdr4-n が後に栽培化されてきたインド稲に広まったのではないかと考えています。

栽培される環境の温度や湿度によって発芽の良いSdr4-n が適している場合もあれば、穂発芽耐性のSdr4-k が適している場合もあると考えています。Sdr4-n をもつ日本のイネ品種の穂発芽耐性をSdr4-k で強めることにより、日本の環境が現在より温暖化して雨が多くなった場合でも穂発芽の発生を防ぐことが出来ると考えています。

穂発芽に対して比較的強いコシヒカリにSdr4 を導入した結果、水没して10日目であっても穂発芽しないほどの強い穂発芽耐性を付与することが出来ました (E)。キヌヒカリやモチ品種など穂発芽耐性の弱い品種の改良や穂発芽がより深刻なコムギの改良に貢献できることが期待されます。

杉本 和彦

杉本 和彦 (すぎもと かずひこ)

東京農工大農学研究科修了、平成元年より農業生物資源研究所に所属、広島大学大学院先端物質科学研究科より学位を授与され、2005年よりQTLゲノム育種研究センター 主任研究員

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