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ここに注目 - イネゲノムと未来 - 未来を切り拓くお米のチカラ - 新農業展開ゲノムプロジェクト

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ここに注目

イネは日の長さを測るための正確な体内時計を持っていた!
-イネの出穂期制御につながる成果-

2010年10月22日

イネのような作物では、開花期がその収量に大きな影響を与えるため、その制御の機構を解明することは生物学的にも、農業上でも重要な課題です。
日本で栽培されているイネの品種の多くは夏から秋にかけて花を咲かせます。このように日が短くなる季節に花を咲かせる植物を一般に短日植物と呼び、一定の時間よりも日の長さ(日長)が短くなると花が咲きます。短日植物の中には特定の日の長さになると花が咲くといった、日長の変化に対する認識が非常に正確な種類も存在します(この特定の日の長さを限界日長と呼びます)。
イネでは、今まで限界日長に対して厳密な制御が行われているか分かっていませんでした。そこでこの研究ではイネでも限界日長に対して、厳密に反応して花を咲かせることを明らかにし、またそのメカニズムを分子レベルで明らかにしました。

植物の開花(花芽の形成)はフロリゲンというホルモンによって誘導されます。イネのフロリゲン遺伝子(Hd3a)は10時間の日長条件(短日条件)では働いて花芽の形成を促進しますが、14時間の日長条件(長日条件)では働かないことが分かっています。また、フロリゲンの生産を増やす開花促進遺伝子(Ehd1)の働きは光やイネの体内時計の状態に影響を受けることも分かっています。
長日条件で栽培したイネに対して、10時間から16時間の異なる日長で4日間栽培した後、翌朝にHd3aEhd1のmRNA量を測定しました(図1)。通常はmRNA量が多いと遺伝子は強く働いていると考えられます。その結果、13時間と13.5時間の30分間の日長の違いでHd3aの働きが大きく変化し、Ehd1は13.5時間を超過する日長ではほとんど働いていないことも明らかになりました。この結果からイネにも厳密な限界日長が存在し、フロリゲン遺伝子の働きを制御することが明らかとなりました。

さらにイネの多くの突然変異体を調べた結果、日長を認識する機構には開花を抑制する遺伝子(Ghd7)と体内時計が重要な働きを行っていることを明らかにしました。我々はこれらの結果からイネが日長を正確に計る仕組みを説明する、2つの異なる門を持つモデルを作りました(図2)。
第1の門は、Ehd1の働きを決めています。この門は日の長さに関係なく朝に開き、青色光を認識します(図2a 青色破線)。つまり朝に太陽光(もしくは青色光)を受けると、門は開いているのでEhd1が働き、その結果、Hd3aが働いて花芽をつけます(図2b 左)。しかし、午後や夜中に光があたっても門が閉じているため、Ehd1が働くことはありません。また、Ehd1は、前の日のGhd7の量に応じて、その働きが抑えられます。つまり、前の日にGhd7が多く存在するとその働きで、Ehd1 mRNAができず花芽は形成されません(図2c)。
Ghd7の働きは、第2の門により制御を受けています。この門は赤色光を認識し、日長により開く時刻が異なります。長日条件では朝方に(図2a 左、赤色破線)、短日条件では夜中に門が開きます(図2a 右、赤色破線)。従って、長日条件で生育しているイネは、朝の光でGhd7が強く働き、その結果翌朝のEhd1の働きを抑えるため、Hd3aは働くことができず花芽形成が抑えられます(図2c)。しかし、季節が変化し日長が短くなると、Ghd7の門が開く時刻が夜にシフトし、その効果で朝の光によるGhd7の働きが弱くなり、次の日にEhd1が働きはじめます(図2b 左)。その効果によりHd3aが働き、その結果花芽が形成されます。
また、今回示したモデルから、短日条件で成長しているイネは、夜中の赤い光に敏感で花芽形成の抑制を受けるというこれまでに分かっている実験結果も説明できます (図2b 右)。

今回の成果は、作物としてのイネの開花期(出穂期)の微妙な調整を可能にし、品種ごとで栽培に適した地域を拡大する育種につながる成果であり、将来、人工的にイネの開花期を調節する技術を開発するための基盤となると考えられます。

伊藤 博紀

伊藤 博紀 (いとう ひろのり)

1974年生。長野県出身。名古屋大学大学院生命農学研究科博士課程修了(博士学位取得)。日本学術振興会海外特別研究員を経て、2007年4月より農業生物資源研究所、光環境応答研究ユニット任期付研究員。

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