根を深くする遺伝子で、干ばつに強いイネを開発
2014年11月17日
なぜ、干ばつに強いイネが必要なのか?
干ばつは、飢餓をもたらす主な原因の一つです。国連は2025年には27億人が深刻な水不足とそれに伴う食料不足に直面すると予測しており、それまでに干ばつ地域での作物生産を40%以上増やすことが求められています。でも、多くの日本人の方は、「イネは水田で栽培されるから、干ばつなんて関係ない」と思われるでしょう。しかし、海外に目を向けると、灌漑設備がないため雨水に頼ってイネを栽培する天水田はアジア・アフリカを中心に多く存在し、日本の作付け面積の十数倍にもなります。これらの地域では雨が降らないと干ばつが起こり、イネは枯れます。干ばつ地域でお米を増産しようと思えば、干ばつに強いイネの開発が必要となるわけです。そこで、我々の研究グループでは根を深くする遺伝子を用いて干ばつに強いイネの品種改良を進めています。
どうやって、干ばつに強くする?
一般に、水田で栽培される「水稲」は、畑作物に比べると根の張り方が浅く、干ばつになると土壌の乾燥により枯れてしまいます。一方で、焼畑や天水田などの比較的乾燥した土地で栽培される「陸稲」は、根が深くまで張り、干ばつ時にも土壌深層の水を吸収できるため、水稲より干ばつに強いです。ただし、陸稲は一般に低収量のため、世界的に見ても広く栽培されていません。そこで、私たちは、陸稲の「根を深くする遺伝子」を水稲に導入すれば、干ばつに強い水稲が作れるのではないかと考えました。
最初に、我々は干ばつに強く深根の陸稲品種「Kinandang Patong」から、ゲノム情報を利用して根を深くする遺伝子「DRO1」を同定しました。つぎに、DNAマーカーを用いた交配育種により、陸稲由来のDRO1を干ばつに弱く浅根の水稲品種「IR64」に導入しました。DRO1を導入した系統は、IR64と比べ根の深さが2倍になりました(図1)。また、Kinandang Patong はDRO1が機能することで深根になり、IR64はDRO1が機能しないため浅根になることも分かりました。
つぎに、本当に根が深くなると干ばつに強くなるのか調べました。DRO1を導入した系統は、IR64では収量が半減するような中程度の干ばつ条件で栽培してもほとんど収量が落ちませんでした。さらに、IR64が枯れてしまうような厳しい干ばつ条件で栽培しても枯れずに、干ばつのない条件の30%程度のお米が収穫できました(図2)。
今後の展開
DRO1により根張りが深くなると、イネは干ばつに強くなることが分かりました。今回研究に用いたIR64は熱帯アジアで広く栽培されている品種の1つです。そこで、現在フィリピンにある国際イネ研究所と共同で、DRO1を導入したIR64がアジアの天水田で実際に役立つか、評価しています。また、南米のコロンビアではDRO1を含む複数の根系関連遺伝子をコロンビア品種に導入し、水の少ない稲作地域でも高い生産性を発揮できる品種の開発を進めています。今回の成果を干ばつが問題となっている現場で生かせるように研究を発展させることが今後重要であると考えています。
成果論文
Uga Y et al. (2013) "Control of root system architecture by DEEPER ROOTING 1 increases rice yield under drought conditions." Nature Genetics 45: 1097-1102

宇賀 優作 (うが ゆうさく)
香川県出身、東京農大卒業。筑波大にて博士号取得。博士課程中に国際イネ研究所に博士奨学生として2年在籍。農業生物資源研究所で博士研究員、任期付研究員を経て、現在、同所農業生物先端ゲノム研究センター・イネゲノム育種研究ユニット主任研究員。