土壌肥沃度に問題があると思った時は
土壌肥沃度に問題があると思った時の対応について
大豆に限らず、作物にとって土壌中の養分は大変重要ですが、気が付かない内に土壌中の養分が不足していたり、バランスが不良な条件となっていることがあり、これを元に戻すのには大変な労力と時間がかかります。
できる限り、定期的に土壌診断をすることをお薦めします。
①土壌診断をするにあたって
全ての圃場について土壌診断をするのは大変です。そこで土壌診断を優先して行う圃場を選んでみましょう。
まずは、その圃場のこれまでの大豆生育を振り返ってみます。
出芽は良好でしたか?
はい
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いいえ
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湿害、干ばつ害、病害、虫害や雑草害がありましたか?
はい
それぞれの対策を実施しましょう。項目別の目次へ
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いいえ
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出芽が良好で、生育期間中に湿害、干ばつ害、病虫害や雑草害が無かったにもかかわらず、その後の生育が不良な場合は、土壌に問題がある可能性があります。
上記の害がなかった場合は、生育不良の状況に当てはまる方を選んでください。
他の圃場と比較しながら、状況を確認してみましょう。
まずは開花期くらいまでの生育が不良な場合についてです。
次の写真の大豆は、播種日も品種も同じですが、写真奥と比べて手前の大豆は草高が低く、葉色が薄くなっています。
出芽は良好でも、開花期くらいまでの初期生育は不良でしたか?
はい
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施肥量を地域の指針と比べて減らしていますか?
はい
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施肥量を地域の指針通りに戻しましょう。
暖地では播種期の温度も高くなっており、主茎長が伸びやすく、主茎長で生育量の判断がしやすいです。ただし倒伏や青立ち1)の問題もありますので、播種時期や使用している品種などを考慮して判断しましょう。
開花期の葉色も問題がなく、施肥量も通常の指針通りに施用しても生育が改善されない場合は続けて下記の確認もしましょう。
開花期くらいまでの生育は問題ないが、その後の生育が不良な場合についてです。
次の2つの写真は播種日も品種も同じ隣接した圃場ですが、下の写真は早期に枯れ上がっています。
開花期くらいまでの生育は問題ないが、その後の生育が写真のように早く枯れ上がるような栄養凋落をしますか?
はい
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局所的な早期の枯れ上がりは病害や線虫害などの可能性もあります。病虫害の影響が認められず全体が早期に枯れ上がるような圃場は、優先的に土壌診断を実施してください。
特に大豆の作付比率が高くなると栄養凋落が生じやすいので、定期的に土壌診断をしましょう。
②貯めた養分を供給する能力が不足
養分を供給する能力をチェックしてみましょう。
下の写真では表面は同じように見えても・・・作土を取り除いてみると
![]() 地下排水が不良で水が溜まっている |
![]() 地下排水が良好で水が溜まってない |
鋤床上に水が溜まってると、施肥窒素や土壌有機物から供給された窒素が脱窒2)することにより吸収できなくなります。湿害がなくても排水対策を徹底しましょう。
粘土が多い土壌ですか?
*必ずしも正確でなくて結構です。
いいえ
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土性が粗い壌土(L)では、可給態窒素、いわゆる地力窒素の影響が大きいので注意しましょう。埴壌土(CL)や埴土(C)でも問題がある場合もあります。
このような圃場で、大豆の作付回数が多い圃場を優先的に土壌診断しましょう。
可給態窒素は、「畑土壌の可給態窒素の簡易・迅速評価法」3)により自分で測定することもできます。
可給態窒素の供給力を短期間に上げるのは簡単ではありませんが、有機物施用は最も有効な方法の一つです。
有機質資材の施用効果データベース4)を参考にしましょう。
次に養分を貯める力について診断してみましょう。
③養分を貯めておく能力が不足
いわゆる保肥力と呼ばれるものですが、粘土の量と土壌有機物の量が重要です。
粘土が多い土壌ですか?
*必ずしも正確でなくて結構です。
はい
粘土が多い土壌は保肥力が高いですが、排水不良となる場合が多いので、排水対策はしっかりと行いましょう。 |
いいえ
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他の圃場に比べて土の色が薄いですか?
はい
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土壌の色が黒い方が有機物が多く含まれて、保肥力が高いです。
このような圃場で栄養凋落するような場合は、保肥力が不足している可能性がありますので、優先的に土壌診断をしましょう。
保肥力が低いと養分不足や養分バランスの不良が生じやすくなります。また、保肥力が低い土壌はpHが低くなりやすい上、石灰資材なでの散布効果が不明瞭となります。
保肥力を増加させるには、CECの高い有機物を施用するのも有効です。
④養分不足、養分バランスの不良
養分不足や養分バランスの不良は見た目では分かりにくいので、土壌に問題があると思ったら土壌診断を実施してください。
土壌診断により養分が不足していたり、養分バランスが不良と判断された場合は、処方箋に従って対応しましょう。
リン酸、加里、石灰、苦土のような養分は資材の施用や有機物の施用により土壌中への補給ができます。
有機物施用による場合は養分バランスも考慮する必要があります。有識質資材の施用効果データベースを参考にしてください。
資材施用により養分が補給されても大豆生育がすぐに改善されるわけではありませんが、土壌診断結果に合わせて施用しましょう。
出芽不良の原因
①排水不良で播種作業が上手くできなかった。
排水対策は適正な条件で実施するとともに、土性が細かい粘土含量が高い土壌では練り返しをし易くなります。土壌水分が過多な条件でも土壌と種子が密着しないと下の写真のように乾燥害と同様の症状になります。
排水対策を検討し直しましょう。排水対策はこちらへ
このような条件を緩和するのには、有機物の施用も有効です。土壌の物理的条件を改善するのに有効な資材を選択して施用しましょう。
②播種後、雨が降らず、出芽が揃わなかった。
過乾燥による出芽不良については、干ばつ害対策を参考にしてください。
③病虫害により出芽・苗立が揃わなかった。
茎疫病などは排水対策が不十分だと被害が拡大します。排水対策を見直しましょう。排水対策はこちらへ
茎疫病については、黒根腐病対策の方にも一部記載がありますので参考にしてください。
病虫害により出芽が不良になる場合があります。種子消毒は重要な対策ですので、登録のある薬剤を選択して実施しましょう。
④雑草の繁茂により、播種作業に支障があった。
事前に雑草が繁茂していると播種深が不安定になったり、播種機の障害を引き起こします。圃場状態を見て除草を行いましょう。雑草対策はこちらへ
⑤播種機の調整が上手くできなかった。
播種機の取扱説明書をご確認いただくか、播種機の販売店にご相談ください。
⑥その他
前作の残渣が邪魔になったりして播種深が安定しないこともあります。モアやチョッパーによる残渣の裁断をしましょう。
出芽不良の原因が上記の①~⑥のいずれにも当てはまらない場合は、お近くの普及センター等にご相談ください。
脚注
1)青立ちとは
施肥窒素量が多かったり、可給態窒素が高い圃場だからといって必ずしも青立ちしやすくなるわけではありません。品種の播種適期より早い播種を行うと青立ちしやすくなります。
ただし、開花期頃の葉中窒素含量が高いと青立ち発生が増加する傾向にあるため、初期生育が悪い場合に増肥だけで対応するのは注意が必要です。
2)脱窒とは
微生物の働きで硝酸態窒素が亜硝酸態窒素を経て、窒素ガス、一部は一酸化二窒素として大気へ揮散する現象です。畑状態では施肥窒素も土壌から無機化した窒素も比較的速やかに硝酸態窒素になりますが、排水不良条件では脱窒されやすくなります。
3)可給態窒素の測定法
水田土壌であっても畑転換した場合は、水田用より畑用の測定法の方が適合します。下記をクリックすると「畑土壌可給態窒素の簡易・迅速評価法」のダウンロードが始まります。
4)有機質資材の施用効果データベース
有機質資材の施用効果データベースは農林水産省委託プロジェクト研究【収益力向上のための研究開発】における「課題名:生産コストの削減に向けた有機質資材の活用技術の開発」の協力を得て、「課題名:多収阻害要因の診断法及び対策技術の開発」で開発したものです。順次、拡大公開していきます。