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農業と環境 No.156 (2013年4月1日)
独立行政法人農業環境技術研究所

第30回 土・水研究会「流域の環境負荷低減のための物質動態モデルの開発と活用」(2月20日) 開催報告

独立行政法人農業環境技術研究所は、平成25年2月20日(水曜日)、つくば農林ホール(茨城県つくば市)において、第30回 土・水研究会 「流域の環境負荷低減のための物質動態モデルの開発と活用」 を開催しました。

農地などの非特定汚染源からの負荷低減や地下水汚染の未然防止に関する取組みが続けられる中、環境負荷の少ない持続的かつ安定的な農業生産を行うため、農業生態系における物質循環機能を解明するとともに、肥料や農薬等の農業生産活動に由来する化学物質が生態系に与える影響を流域レベルで解明することが求められています。

こうした問題に対応するには、環境中における農業生産由来の化学物質の動態予測技術・影響評価手法を開発することが不可欠であり、農業環境における硝酸性窒素やリンなどの栄養塩類、農薬などの有機化学物質の動態を理解し予測するために、数理モデルの利用が期待されています。

これまで、土・水研究会では、土壌の持つさまざまな環境保全機能や養分循環の解明、窒素やリンの環境影響とその削減対策、温暖化緩和策と土・水圏の物質循環研究の接点といった観点から問題に取り組んできました(*)

今回は、流域での環境負荷低減をめざして取り組んできた土壌−水圏における水や化学物質の動態に関するモデル開発の成果や、世界的に活用が進む SWAT モデルの水田優占域への適用を目的とした改良の現状について議論と情報交換を行い、これらのモデルの活用について展望しました。

開催日時: 2013年2月20日(水曜日) 10時−17時

開催場所: つくば農林ホール (農林水産技術会事務局筑波事務所)

主催: 独立行政法人 農業環境技術研究所

参加者数: 170名
(内訳: 地方自治体・公設研究機関 77名、 大学・民間 32名、 国・独法研究機関 30名、 農環研 31名)

主なプログラム
(クリックすると講演要旨の PDF ファイルをダウンロードできます)

1. 基調講演: 流域環境負荷低減における物質動態モデルの役割と開発の現状

北海道大学 波多野隆介

2. 琵琶湖流域を対象とした水物質循環モデルの構築と行政施策への活用

滋賀県琵琶湖環境科学研究センター 佐藤 祐一

3. 農薬の流域動態解明のための SWAT モデル

東京農工大学 渡邉 裕純

4. 水田域での栄養塩類動態への適用をめざした SWAT モデルの改良

農業環境技術研究所 江口 定夫

5. 水田地域の土地・水管理支援を目指した物質動態モデルの開発

総合地球環境学研究所 今川 智絵

6. 流域レベルで地下水の硝酸汚染リスクを評価するモデル

農業環境技術研究所 板橋  直

7. 流域環境負荷の現状と物質動態モデルへの期待

愛知県農業総合試験場 糟谷 真宏

総合討論

会場のようす(第30回土・水研究会)(写真)

写真1 会場のようす

総合討論(第30回土・水研究会):ステージ上に講演者全員が並んで座り、参加者からの質問に答えたりした(写真)

写真2 総合討論

SWAT モデルに関連して、栄養塩類動態への適用について波多野教授、農薬動態への適用について渡邉教授、水田への適用を可能にするモデルの改変について江口主任研究員が講演し、このモデルの特徴と優位性などを議論しました。

また、佐藤研究員が琵琶湖流域水物質循環モデルを、板橋主任研究員がLEACHM、MacT、RealNモデルを、それぞれシナリオ分析に適用した事例を含めて講演するとともに、今川研究員が農地と排水路に着目した地域水環境モデルを紹介し、他流域での活用などモデルの汎用性などが議論されました。糟谷環境安全研究室長は、モデルへの期待として環境保全への取組み効果の見える化の必要性などを指摘しました。

総合討論では、予測の精度とキャリブレーション期間の関係など、各モデルに共通する問題点などが話題となりました。

(参考) 土・水研究会の歩み (第1回 〜 第30回)

 開催年度テーマ
第1回S58土壌の機能・保全研究会 (1)耕草林地における物質循環に係わる土壌機能の特性と制御、(2)有用土壌微生物の生態と機能、(3)環境の保全に係わる測定法
第2回S59(土・水・資材研究会2)「土・水・廃棄物資源の評価」研究会
第3回S601) 粗放化土壌管理に伴う資源的価値変動と予測、2) 集約農業における窒素の動態に関する計測法とその実測例
第4回S61農業用排水域等の底質土・植生の物質浄化機能とその処理利用をめぐる諸問題について
第5回S62生物環境の計測とその適用〜土壌生態系の構造と機能の視点から〜
第6回S63土壌・水環境及び水質の計測とその応用
第7回H1土壌・水環境における特異機能物質
第8回H2広域農耕林地における三次元的物質移動のアプローチ手法
第9回H3深層土の資源的評価と機能の活用
第10回H4農耕地がもつ環境保全的機能の資源勘定的評価
第11回H5農業域の有する窒素浄化機能の特性と評価方法
第12回H6暖地農業における養分循環の問題点と技術的展望(九州農業試験研究推進会議と合同で環境保全型農業シンポとして)
第13回H7土壌環境の保全・修復技術
第14回H8土壌・水系における有機物の動態と影響評価
第15回H9環境モニタリングの新段階
第16回H10環境モニタリングの新段階(パート2)〜農業地域における窒素負荷の現状と軽減対策
第17回H11持続性の高い農業生産方式の導入促進と新しい土・水研究の展開方向
第18回H12窒素・リン等の総量規制及び環境基準に係る動向と研究問題
第19回H13作物によるカドミウムの吸収とその抑制技術〜コーデックスの動向と我が国の現状〜
第20回H14懸濁負荷物質の農耕地から水域への流出
第21回H15農耕地における重金属汚染土壌の修復技術の現状と展望
第22回H16有機質資源リサイクルとその環境への影響評価
第23回H17農作物による有機化学物質の吸収とそのリスク管理
第24回H18物質循環の基盤としての土壌〜炭素循環における役割〜
第25回H19土・水の研究と私たちの健康な生活
第26回H20窒素・リンによる環境負荷の削減に向けた取り組み
第27回H21食の安全、農業環境問題におけるトレードオフを克服する
第28回H22温暖化緩和策と土・水圏の物質循環研究の接点
第29回H23福島第一原子力発電所事故による農業環境の放射能汚染〜この一年の調査・研究と今後の展望〜
第30回H24流域の環境負荷低減のための物質動態モデルの開発と利用
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