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カイコ(Silkworm)
【用語説明】  カイコ(蚕)はチョウ目(鱗翅目)・カイコガ科に属する昆虫で、学名はBombyx mori。 正式和名はカイコガで、カイコは本来この幼虫の名称。クワ(桑)を食草とし、絹糸の素になる繭(まゆ)を作る。
 カイコはきわめて高度に家畜された昆虫で、幼虫は餌がなくなっても逃げ出さないなど、人間による管理なしでは生存が不可能である。成虫(蛾)は翅を有し、この翅を羽ばたかせるが飛ぶことは全くできない。
 カイコの祖先は中国に生息するクワコ(Bombyx mandarina)であり、中国で家畜化されたと考えられている。カイコとクワコは交配可能で、その子孫は生殖能力をもち、飼育環境下で生存・繁殖できることが知られているが、日本の野外で交雑個体が見出された記録はない。
階層化ショットガン法(Clone-by-Clone Shotgun Sequencing)
【用語説明】  ゲノムの長鎖DNAの塩基配列決定法の一つ。
 DNAを断片的に切断し、複数の制限酵素による切断部位の位置を決定して、ゲノムDNAの物理地図を作成する。これらのDNA断片をさらに細かくして配列を決定する。
 解読するスピードでは、ホールゲノム・ショットガン法より遅く、労力もかかるが、解読の精度は高く、最近ではヒトゲノム解析、イネゲノム解析に用いられている。
核移植(Nuclear Transfer)
【用語説明】  核を除去あるいは不活性化した細胞に、他の細胞から取り出した核を移植すること。例えば、未受精卵子の核を除去し、他の細胞核を移植することにより、同じ遺伝情報をもつクローン動物を作ることができる。
核酸(Nucleic Acid)
【用語説明】  生物の体を作りあげている細胞の中心部分にある核に大量に存在し、酸性の高分子物質であることから「核酸」と名付けられた。
 核酸には、遺伝情報の伝達において機能するDNA(デオキシリボ核酸)とタンパク質合成において機能するRNA(リボ核酸)の2種類がある。この2つの核酸(DNA、RNA)は、塩基・糖・リン酸の3種類の化学物質からなり、この塩基・糖・リン酸が1つずつ結合した化合物が、連鎖状に、何千、何万にもつながっている。
完全長cDNA(Full-lengh Complementary DNA, Full-lengh Complementary Deoxyribonucleic Acid)
【用語説明】  ゲノムから取り出したmRNAの塩基配列情報を完全に写し取った相補鎖DNAのこと。
 遺伝子はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4つの塩基が連なったDNAからできているが、この中で遺伝子として働くのはごく一部(約5%)である。
 タンパク質合成においてDNAの遺伝子として働く部分(情報)だけを写し取ったmRNAが現れ、この情報をもとにタンパク質が作られる。つまり、mRNAの情報があれば人工的にタンパク質合成ができる可能性があるが、実験上このmRNAは不安定で取り扱いにくい。そのためmRNAに逆転写酵素を加えることにより配列情報を逆転写し、相補的な一本鎖DNAを作り出した。この、人工的に作られたDNAはcDNAと呼ばれ、実験的な取り扱いが容易であるため遺伝子を調べる際に用いられるようになった。
 完全長cDNAは、mRNAの全長を反映したcDNAのことで、断片的なcDNAと異なり、全長のタンパク質を合成するための設計情報を有しているため、完全な長さのタンパク質を合成することができる。
QTL(QTL; quantitative trait locus)
【用語説明】  背丈や体重といった、数値で表される表現形質を量的形質(quantitative trait)といい、その形質に関与する遺伝子座(locus)をQTLと呼ぶ。量的形質の多くは複数の遺伝子の効果の組合せにより決定され、さらにその遺伝子間での相互作用もあるなど、従来は遺伝子座の決定や遺伝子の単離は困難であった。近年、多数のDNAマーカーの開発と統計遺伝学的手法により、量的形質に関与する遺伝子の特定やその遺伝子を応用した品種開発が進展するようになった。
グアニン(Guanine)
【用語説明】  DNAはリン酸、糖(D-デオキシリボース)、塩基から成るヌクレオチドがいくつもつながり形作られる。その塩基の成分にはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類が存在するがグアニン(G)は、そのうちの1つである。
 DNAの二重らせんのなかではシトシン(C)と結合し、遺伝子設計図の化学物質の1つを担っている。
組換えDNA(Recombinant DNA, Recombinant Deoxyribonucleic Acid)
【用語説明】  生細胞内で複製可能なDNA(RNAその他の遺伝物質を含む)と異種のDNAを、試験管内で結合させることにより作製されたDNAのこと。
組換え体の環境放出(Environmental Release of Recombinant Organism)
【用語説明】  遺伝子組換え生物などを環境中で拡散防止措置なしに使用する場合をいうが、組換え作物を一般ほ場で栽培するなどの意図的な環境放出と組換え微生物を培養中に装置が破損して漏れ出すなどの非意図的な環境放出がある。
クワコ(wild mulberry silkmoth, wild mulberry silkworm)
【用語説明】  カイコの祖先種。学名はBombyx mandarina。日本、中国、朝鮮半島など東アジアに生息する。
 カイコは中国のクワコから家畜されたと考えられており両者は遺伝的に近い関係にあるが、日本のクワコとは染色体数が違うなど遺伝的な違いが大きい。日本で養蚕が盛んだった地域を中心に行われたクワコの調査の結果、カイコとクワコが交雑した痕跡は認められていない。
ゲノム(Genome)
【用語説明】  べての生物を構成している細胞のDNAと、それに書き込まれた遺伝情報のこと。例えば、ヒトゲノムというのは私たちヒトのすべての遺伝情報を指すことになる。このように、生物はそれぞれのゲノムを持っているが、生物の多様性はこのゲノムの違いによって引き起こされている。  
 細胞の核の中にある染色体は、遺伝情報を含み、DNA分子とタンパク質からなる。さらにDNA分子を形成する塩基にはアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4種類ある。いわば遺伝情報はこれら4つの文字(A、T、G、C)で書かれた文章にあたる。ヒトの遺伝情報は文章にすると、約30億の文字からなるが、これらは23対の染色体に分けられる。そして、それぞれの細胞が約30億の文字(つまりDNAの塩基対)を書き込んだゲノムをもっていることになる。
ゲノム編集(genome editing)
【用語説明】  人工ヌクレアーゼ(部位特異的ヌクレアーゼ)を用いて、ゲノム上の特定の場所を切断することにより突然変異を誘発する技術。放射線などによるランダムな突然変異誘発とは異なり、部位を特定して突然変異を誘発することができる。新しい育種技術の一種。
原核細胞(Prokaryote)
【用語説明】  細胞の一種。
 細胞には原核細胞と真核細胞の2種類がある。  
 原核細胞の方が簡単な作りで、真核細胞にはあっても原核細胞にはない内部構造が多くある。原核細胞は植物のように細胞壁と細胞膜を持つが、核膜は持たない。DNA自体も真核細胞では大きく、形状も多様であるのに比べ、原核細胞は1個の環状の分子を形成している。原核細胞にはミトコンドリアや小胞体、葉緑体、ゴルジ体などの器官もなく、細胞質の内部には膜構造が一切見られない。原核細胞からなりたつ原核生物にはラン藻類などがある。
絹糸腺(Silk gland)
【用語説明】  種々の昆虫やクモにあり、絹糸を作る器官。カイコ幼虫では左右に1本ずつある。形状は細長い管で、最前部は吐糸口という開口部につながっている。絹糸腺に蓄えられた絹タンパク質を吐糸口から出すことで、繭を作る。尾部側の後部絹糸腺で、絹糸の成分になるフィブロインを合成する。その前にある中部絹糸腺はセリシンを合成し、合成済みのフィブロインとともに貯留する。絹糸腺細胞は大量のタンパク質を急速に合成するという特殊な性質を持っている。  
 絹糸腺は孵化前に形成され、その後、細胞分裂を行うことなく成長する。絹糸腺細胞では染色体の倍加のみが繰り返されるので、フィブロインを盛んに合成する時期には染色体は通常の50万倍程度になるといわれており、細胞は1mm前後の大きさになる。
コーデックス委員会(Codex Alimentarius Commission)
【略語・別称】Codex委員会
【用語説明】  1962年に、消費者の健康の保護、食品の公正な取引の確保等を目的として、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)により設置された国際的な政府間組織。国際食品規格(コーデックス規格)の作成等を行っており、我が国は1966年に加盟した(2009年3月現在、179カ国1機関(欧州共同体)が加盟)。
 組織は、食品の規格等の最終的な決定を行う総会のほか、その総会に対して各種勧告等を行う執行委員会や、個別の課題について検討を行う下部機関(一般問題部会、個別食品部会、特別部会、地域調整部会)から構成されている。
ゴールデンライス(Golden Rice)
【用語説明】  スイス連邦工科大学(ETH)のIngo Potrykus教授とドイツのフライブルグ大学のPeter Beyer教授が開発した遺伝子組換えイネ。
 スイセンの遺伝子を組み込んでβ-カロチン(体内でビタミンAに変換する物質)を産出するように作られた遺伝子組換えイネで、コメが黄金色をしていることから「ゴールデンライス」と名づけられた。次に、スイセンの遺伝子にかわってトウモロコシの遺伝子を用いてベータカロチンをさらに多く含む新しいゴールデンライスが開発されている。
 ビタミンA不足による疾病が解消されると期待されており、現在、フィリピンにある国際イネ研究所(IRRI)において、アジアで栽培されているイネの品種に、その性質を付与する開発が行われている。
抗生物質抵抗性マーカー(Antibiotics-resistant Marker)
【用語説明】  遺伝子組換えを行うに当たり、目的遺伝子が組み込まれたかを確認するために目印として用いられる、抗生物質に耐性をもつ遺伝子のこと。
 目的遺伝子と一緒に、カナマイシン、ハイグロマイシンなどの抗生物質に耐性をもつ遺伝子を組み込む。もし、組換えが成功した場合は、抗生物質を含んだ培地でカルスなどが育ってくるが、失敗した場合は生育しないので簡単に組換え体を選ぶことができる。
 最近では抗生物質抵抗性遺伝子の利用は少なく除草剤耐性遺伝子の利用や他の選択方法の研究も進められている。