プロジェクト研究:農林水産高度化事業イノシシ
  • 2003(H15)〜2006(H18)年度に実施した、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業「イノシシの生態解明と農作物被害防止技術の開発」の成果を紹介するページです。
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イノシシの生態解明と農作物被害防止技術の開発
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III. 参考資料

3. イノシシの被害防除の基本


イノシシの被害防除の基本は
  1. 環境整備
  2. 物理的防除
  3. 脅しおよび忌避剤
  4. 個体数管理
が挙げられる。下記にその具体的内容を示す。
環境整備 環境整備としての農地および生息地管理は重要な課題である。
  • 野生動物の存在を念頭に置いた「獣害に強い農地管理」「作物栽培法」などを検討し、作物への誘引や食害を防止する。作物の取り残しや放棄にも注意する(井上2002、江口2003)。
  • 耕作放棄地の除草に努める。また、耕作放棄地を放牧等により管理する(上田2003、千田2005、山中2005)。
  • 江戸時代の焼き畑などでは、イノシシが嫌う有芒品種(芒(のぎ)の長い品種)のイネやヒエを選んで栽培していたことが報告されている(矢ヶ崎2001)。
  • こうした穀物やお茶、タバコなどイノシシに被害を受けにくい作物や林地へ転換する方法も考えられる(小寺2004)。
  • 集落の周辺に植えられているが、収穫しなくなったカキやクリ、ヤマモモなどの伐採も野生動物対策として行われつつある(農林水産技術会議ら2003)。
  • 被害の多い地域では、耕作放棄地と農地がモザイク状にならんでいる。農地をなるべく近いところに集めて人の活動性を高めるなど、農地の再配置等も検討したい(江口2003、農林水産技術会議ら2003)。
  • 野生動物の生息地である森林の整備も欠かせない。
物理的防除 ネットやフェンス等の防護柵などによって動物の侵入を防ぐ方法。
  • トタン柵や電気柵がよく使われ、一定の防除効果も認められている。トタン柵では、押し倒す、隙間を持ち上げるなどして侵入される(島根県1997、江口2003)。
  • 高さ1m、幅2m、10cm格子、線径4mmの溶接金網を用い、その上部30cmを外側に20-30度折り返すことで飛び越し侵入を防ぐことができる(竹内・江口2005)
  • 電気柵の効果には定評があるが、漏電しないように、除草しておくことが肝心である(江口ら2002、江口2003)。
  • 電気柵は2段と3段のものが多いが、効果は3段の方が高いという(島根県1997)。
  • 防除効果を高めるためには、複数タイプの柵を併用するのもよい(江口2003)。
  • いずれの柵でも、共同で広域に設置すると費用が軽減される。
脅しおよび
忌避剤
絶対的な防除にならないこと、慣れが生じやすいことに注意。
  • 爆音機やライト、また各種化学物質(肉食動物の糞尿等も)などが用いられているが、効果は長続きしないことも多い(朝日1976、島根県1997、江口ら2002、江口2003)。設置後に見られる効果は、まわりの環境変化への警戒によるもので、早晩、慣れが生じやすい
  • イヌはイノシシを警戒し、吠え続ける習性があるため、イヌを利用した防御や追い払いが期待できる(石川ら2001)。
個体数管理 長期的視野にたってイノシシの個体数を適正な数に。
  • 有害鳥獣駆除特定鳥獣保護管理計画などの捕獲により被害軽減を行う。
  • 場当たり的で闇雲な捕獲は野生動物の社会を混乱させ、分散を加速する。このため、かえって被害を拡大させる可能性もあり、注意が要る。
  • 山奥のイノシシよりも、里で加害しているイノシシを駆除することが大切である(江口2003)。
  • 高い捕獲圧がかかり、平均寿命が1.5歳に満たない地域でも、個体数は減少しない(神崎2001)。
  • 近年、狩猟者の減少と高齢化が進んでいるため、今後、駆除や狩猟による個体数の調整は難しくなることが予想される。

引用文献
著者 タイトル 出版社 ページ
朝日稔 1976 イノシシ 「追われる「けもの」たち」 築地書館 94-113p.
江口祐輔・三浦慎悟・藤岡正博 2002 「鳥獣害対策の手引き」 日本植物防疫協会 156p.
江口祐輔 2003 「イノシシから田畑を守る」 農文教 149p.
井上雅央 2002 「山の畑をサルから守る」 農文教 117p.
石川圭介・江口祐輔・植竹勝治・田中智夫 2001 イノシシとの対面時におけるイヌの行動−イノシシに対する嫌悪刺激としてのイヌの有効性. 日本畜産学会報 72 J49-J55.
小寺祐二 2004 イノシシの生態と防除対策 農耕と園芸 59(8) 164-167p.
農林水産技術会議ら 2003 農林業における野生獣類の被害対策基礎知識 農林水産技術会議・森林総研・農業・生物系特定産業技術研究機構 63p.
千田雅之 2005

里山・里地放牧 里で牛を放牧して野生獣を防止

現代農業別冊「鳥害・獣害こうして防ぐ」 農文教 154-161p.
島根県 1997 島根県におけるイノシシに関する調査(1) 島根県農林水産部森林整備課 37p.
竹内正彦・江口祐輔 2005 イノシシから農地を守る「金網忍び返し柵」 農耕と園芸 61(1) 56-58p.
上田栄一 2003 放牧ゾーニングによる獣害回避対策 「滋賀の獣たち」 サンライズ出版 132-157p.
矢ヶ崎孝雄 2001 猪垣にみるイノシシとの攻防−近世日本における諸相 「イノシシと人間」 古今書院 122-170.
山中成元 2005 耕作放棄地に牛を放牧して獣害対策 「共生をめざした鳥獣害対策」 農林水産技術情報協会 181p.