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バイオ燃料変換技術研究開発

農研機構
バイオマス研究センター
食品総合研究所

平成23年度 研究成果報告

バイオエタノール生産統合化技術の開発

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・Aチーム(農研機構 食品総合研究所 糖質素材ユニット長 徳安 健)
 平成23年度のAチームでは、対象となるバイオマス原料を稲わら等の農産廃棄物に絞り込んで、対応可能な2つのプロセス、 DiSC法とCaCCO法の開発を集中的に行っています。平成21年より食総研内で稼働中のバイオエタノール製造実証試験ベンチプラント を活用しつつ、前処理・糖化及び発酵という基本要素工程を高度化しつつ、連結試験を実施しています。各課題では、「低コスト 変換技術開発」、「酵素のオンサイト生産技術開発」、「コスト、エネルギー収支、環境負荷の評価」、「ラボから先に進む際の 問題抽出・解決」、「原料特性の最大活用」及び「残渣処理・副産物利用技術の開発」について連携しつつ取り組んでいます。

易分解性糖質蓄積稲わら変換技術の統合・最適化

稲わら稈部から高濃度エタノール製造技術の開発

  

・A210(独)農研機構 食品総合研究所 徳安 健、ユン ミンスウ
 A210では、易分解性糖質を多量含む稲わら稈部の分離と粉砕、そして易分解性糖質の高効率回収と繊維質セルロースの直接糖化 による六炭糖の回収を軸にした、DiSC (Direct saccharification of culms) 法を最適化し、高濃度のエタノール製造技術を開発 しています。今年度は、並行複発酵工程直前に繊維質糖化工程を導入することにより、流動性を確保した高濃度バイオエタノール 製造技術を開発しました。この技術を利用してリーフスター稈部10kgスケールの連結試験を行ったところ、微粉砕物(0.5 mm以下) の場合、8.8%(w/v)程の高濃度エタノール製造に成功しました。現在は、酵素使用方法及び使用量の最適化を行っており、一層高 効率的かつ低コストでのバイオエタノール製造技術の開発を目指しています。      

     

通常稲わら・麦わらの変換技術の統合・最適化

CaCCO法を軸とした室温前処理・湿式貯蔵法の開発

・A220(独)農研機構 食品総合研究所 徳安 健、城間 力、池 正和、荒金 光弘、武 龍、関 笛、張 穎
 本研究では、これまで開発してきたCaCCO法の標準的条件である120℃・1時間の加熱処理に加えて、湿式貯蔵を兼ねた室温処理の RT-CaCCO法、水使用量を抑えたSD-CaCCO法、RTおよびSDを組み合わせたRTSD-CaCCO法を開発しました。稲わらをRTSD-CaCCO処理後、 酵素糖化を行い、糖回収率を分析した結果、CaCCO法の標準条件(120℃、1時間加熱)と変わらない事が分かりました。このことから 、収集した稲わらの乾燥工程を省略し、湿式貯蔵しながら前処理も行う事が可能となり、効率的なエタノール生産が可能となる事が 期待されます。      

 遺伝子組換え酵母によるグルコース・キシロースの効率的発酵技術の開発

・A220-2 (独)農研機構 食品総合研究所 榊原 祥清、王 暁輝、徳安 健
CaCCOプロセスに最適な酵母を遺伝子工学的手法を用いて開発
 糖化と発酵を同時に行う「並行複発酵」には、糖化酵素による糖化に適した温度(50℃程度)と酵母による発酵に適した温度 (30℃程度)とが、大きく異なるという問題点があります。また、糖化によって、グルコースだけでなくキシロースやセロビオース といった糖が稲わら等のバイオマスから生じてきますが、通常の酵母はグルコース以外の糖を発酵することができません。そこで 本研究では、並行複発酵の最適化のために、通常の酵母よりも高い温度でエタノール発酵可能な酵母(NFRI3163)を、遺伝子組換 え技術を用いて改良し、酵素活性の低下が比較的少ない40℃で、種々の糖からエタノールを生産できる酵母を開発しています。研 究の実施にあたっては、各課題担当者と連携し、プロセスの最適化に必要な酵母の形質を抽出し、開発した酵母はバイオエタノール 製造実証試験ベンチプラント等での連結試験に供することにより、更なる酵母の問題点の検討や改良を行っています。

 稲わら変換工程における副産物の飼料利用可能性の評価

・A220-3 (独)国際農林水産業研究センター 生産環境 畜産領域 蔡 義民
CaCCOプロセスに最適な酵母を遺伝子工学的手法を用いて開発
 稲わら(品種:リーフスター)の稈部、節部、葉身部、葉鞘部の化学成分は部位により異なり、非繊維性炭水化物含量は稈部がほか の部位より著しく高かった。また、稲わらエタノール抽出後も、タンパク質と繊維類などの栄養成分が多く含まれている。
 わらバイオエタノール抽出残さのサイレージ発酵試験では、乳酸菌製剤「畜草1号」の添加により、乳酸が高く、pH が低い良質な サイレージが調製された。また長期貯蔵しても安定に品質を保持した(図1)。
 稲わら抽出残渣の発酵TMR飼料は良質で調製され、一部の乾草を代替できる反芻家畜の飼料として充分に利用できる。

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草本系原料の糖化技術総合研究

可溶性の糖質を原料とした連続フィード培養法による高効率酵素生産プラットフォームを構築

・A250(独)農研機構 食品総合研究所 池 正和、徳安 健、ユン ミンスウ、武 龍、城間 力
 A250では各変換プロセスで使用する糖化酵素について、生産や利用技術に関する研究を行っています。既に取得している糖化酵素 高生産変異株Trichoderma reesei M2-1株を用い、可溶性糖質を原料とした連続フィード培養法 による糖化酵素生産システムを構築しました。本システムでは、糖化酵素の高効率生産が可能であると共に、供給する可溶性糖質の 種類や量をコントロールすることで、生産酵素中の酵素比率を改変することができます。図に示したように、フィード様式BやCで 生産した糖化酵素は、Aと比較してヘミセルロース分解酵素の活性が高く、A210(DiSC法)やA220(CaCCO法)の糖化反応に有効です 。培養条件の検討・最適化や高度化、菌株の改良などを進めていくことで、多様な変換プロセスに対応した糖化酵素群の効率的な生産 が期待できます。

微生物による糖化酵素生産条件最適化のための網羅的解析

セルラーゼ高生産菌Trichoderma reesei のゲノム情報を利用した未知タンパク質の探索と機能解析

・A251 東京大学大学院 鮫島 正浩
 A251では、セルラーゼ高生産菌Trichoderma reesei によるバイオマス糖化酵素の生産条件を 最適化するために,菌体外タンパク質の網羅的解析を行うとともに,24時間で糖化率80%となる条件の探索,さらにセルラーゼの生産 性を向上させる培養条件などを検討しています。これまで,二次元電気泳動装置によって菌体外酵素を分離し同定を行うことで,培養 系が各酵素生産性に与える影響を調べるとともに,本菌によるセルラーゼの生産性を向上させる化合物の探索を行い,50μM程度の 添加でセルラーゼの生産を向上させる化合物を同定しました。また,A250で開発された変異株(M2-1,M3-1)を用いて生産された糖化 酵素の性能評価を行い,糖化目標値を達成する条件を明らかにするとともに, A250,A253と連携してそれぞれの変異株による セルラーゼ生産能の違いを明らかにするために全転写産物(トランスクリプトーム)の解析にも挑んでいます。

結晶性セルロースの効率的糖化技術の開発

アルカリ前処理によるバイオマスセルロースの酵素糖化率向上

・A252 東京大学大学院 和田 昌久
 バイオマス中のセルロースは強固な結晶構造(セルロースI型)をとっており、酵素糖化の際の反応時間が長いことが実用上の 大きな問題となっている。そこで、セルロースの結晶構造を改変して酵素糖化効率を向上させる技術開発に取り組んだ。
 水和型セルロースは、乾燥によって不可逆にセルロースIIへ転移する。水熱処理をするとセルロースIIに転移するので、低温の 水に保管する方が良い。しかし、50℃では48時間保持しても水和構造が幾分維持されている。したがって、50℃での酵素糖化は 37℃や25℃よりも高効率であった。

微生物機能改良効率化のための網羅的遺伝子解析

糸状菌Trichoderma reesei 変異株におけるバイオマス分解酵素遺伝子群の網羅的発現解析

・A253 長岡技術科学大学 小笠原渉
 最適セロビオース濃度は 0.05 mg/mL であり、その条件下での限界グルコース濃度はM2-1株については 100 mg/mL、M3-1株について は 20 mg/mL であることを明らかにしました。
 開発された変異株は、それぞれ遺伝子の発現パターンが異なっていることが明らかとなりました。特に、M2-1 は植物バイオマス 分解に有効だと考えられる酵素遺伝子(egl4, egl7, xyn1, xyn2 )の発現比率が大きく上昇 していることを明らかにしました。この菌株は、バイオマス分解に大きな力を発揮することが予想されます。


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草本系原料の変換工程解析・評価総合研究

稲わらを構成する各部位における繊維質中セルロースの直接酵素糖化特性を解明

・A260(独)農研機構 食品総合研究所 徳安 健、城間 力、伊藤 聖子、荒金 光弘、武龍、ユン ミンスウ、池 正和
 稲わらは、葉鞘、葉身、稈部及び節に分画することができますが、部位ごとに成分特性や酵素糖化特性を解析することによって、 諸特性が大きく異なることを確認しました。本研究から、稈部が澱粉等の非繊維性炭水化物などの六炭糖(C6)の蓄積量が多く、直接 酵素糖化に適した部位であることを確認し、DiSC法(A210成果)の開発に繋げました。
 稲わらの各部位の直接酵素糖化率は、殆どの部位で25%前後でしたが、第2〜5稈部での糖化率は大きく向上しており、この画分が セルロースの直接糖化に適していることを確認しました。
 稈部(C-2〜C-5)にはC6が多く含まれ、その酵素糖化性も高いことが確認されました。また、葉鞘部のC6量も比較的多いのに対して 、酵素糖化性が低いことが明らかとなりました。直接糖化技術を改良し、稈部と葉鞘部で繊維質中のC6回収率が向上することが重要 と考えられます。

コスト、エネルギーおよび環境負荷に関する評価の高度化

・A260-2(独)農研機構 食品総合研究所 椎名 武夫、Poritosh ROY、許 晴怡
 A260-2では、Aチーム各課題と連携して最新の実験データを用いつつ、不足する情報については公表された論文、資料などの情報を 活用して、主として稲わらからのエタノール生産に関わるコスト、エネルギー収支、CO2排出量について解析を行っています。 これまで、バイオマスの種類、前処理方法の違い、酵素生産効率の違いの影響を含めて、プロセス全体のコスト、エネルギー収支、 CO2排出量に関する解析、評価を実施してきました。ここで紹介するのは、H23年度の研究成果の1つで、新技術の導入を含む新たな シナリオに基づくCO2排出量の削減、コスト縮減効果を示したものです。シナリオS3により、コスト100円/L以下、CO2排出量の削減 (対ガソリン40%程度)の達成が可能であることを示しました。

バイオエタノール製造工程におけるコスト・エネルギー評価と重要要因の解析

感度分析手法を用いたバイオエタノール生産システムにおける経済性の重要要因の解析

・A261(株)三菱総合研究所 小島 浩司
 セルロース系バイオエタノールの実用化を目指した検討においては、 個別の要素技術のコスト評価のみならず、原料の選択から 前処理、 糖化・発酵、 廃棄物の処理・利用に至る生産システム全体での経済性を評価し、最適なシステム化を検討することが重要 です。 A261では、セルロース系バイオエタノールを対象に、感度分析手法を活用した生産システムの経済性評価手法の構築を 行いました。トルネード分析によるバイオエタノール生産システムでの経済性(NPV:正味現在価値)に関する感度分析により、 各要因について、経済性への影響度合いを比較し、重要要因を明らかにしました〔図1は、分析対象予測値は エタノール生産システムでのNPVの変化(横軸)であり、分析対象予測値に対する各種変数は,縦軸に示された項目です。 変数ごとに基準値からプラス・マイナスに変動させた場合の変化が棒グラフとして示されています〕。 感度分析を行うことで、 各要因の重要度を定量的に把握することが可能となり、一連のシステムでの最適化を検討する上で、 有効な手法となります。

バイオエタノール製造工程における統合プロセスの解析

ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を用いたプロセス評価

・A262 宮城大学 折笠 貴寛
 本年度は、CaCCO法とDiSC法によりバイオエタノールを製造した際のCO2排出量について、稲わら生産工程やプラント建設に伴う CO2排出量の影響も加味したライフサイクルCO2の解析を行いました。その結果、CaCCO法およびDiSC法によるCO2削減率 (土地利用変化なし)は、41%および59%となり、一定のCO2削減効果を有する可能性を示唆しました。 その中でも特に熱や電力の投入が大きいプロセス(酵素生産、蒸留)のCO2排出量が大きいことが明らかになり、 酵素生産効率や精製エタノール濃度の向上に向けた技術開発が必要であることを示しました。また、 稲わらの水田外への持ち出しによりメタン由来のCO2排出量が4.5〜6.1g-CO2/MJ程度低減することから、 稲わらをバイオエタノール生産に用いる事により、水田から排出されるCO2排出量が削減される可能性を示しました。 本課題により得られた成果は、スケールアップ時や実証事業への展開に必要な評価データとなると考えられます。

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