平成23年度 研究成果報告
木質バイオマス変換総合技術の開発
(独)森林総合研究所
・B2チーム 森林総合研究所 研究コーディネータ 大原誠資
B2チームはスギ等の林地残材を原料として、その輸送・保管、アルカリ蒸解前処理、酵素のオンサイト生産、糖化、発酵工程の技術開発に取り組んでいます。林地残材は嵩高いため、トラックには少量しか積載できません。そこで、簡易圧縮装置をトラックの荷台に装着することで、積載量を1.1〜1.3倍に増加できました。また、1800円/m3以下で収集可能な森林の面域が数倍に増大しました。前処理工程では、アルカリ蒸解・多段酸素漂白・アルカリ抽出による易糖化性パルプを製造しました。酵素生産では、トリコデルマとアスペルギルスUV変異株の固体培養液を混合した酵素液(6.92mgタンパク量/kg)を培地資材費3.79円のコストで製造しました。得られた固体培養酵素液を用いてスギ漂白パルプの糖化発酵を行うことにより、酵素タンパク質5mg/gパルプの酵素使用量で0.21L/kgスギチップのエタノールが製造できました。
概要
木質バイオマスの効率的輸送保管のための減容化技術の開発
・B030(陣川雅樹)
木質バイオマスの低コスト供給を実現するためには、輸送車両への積載量の増加と輸送システムの効率化が必要となる。そこで、圧縮により積載量を1.1〜1.3倍に増加することができる簡易圧縮装置を開発するとともに、輸送コスト試算ツールをGISに適用することによりトラックの走行経路・積荷・トラック種別について最適な条件を選択し、この時の輸送コスト、収集可能面域を算出することが可能となった。これらを実際の地域に適用し低コスト輸送システムを評価した結果、10t箱車トラックが2,500円/m3で収集可能な面域と簡易圧縮装置を装着した4tトラックが1,800円/m3で収集可能な面域が同等であることが明らかとなった。これら簡易圧縮装置と試算ツールの開発により、目標である木質バイオマスを1,800円/m3以下で供給することが可能となった。
低コストアルカリ処理による木質系バイオマスの酵素糖化前処理法の開発
・B050(真柄謙吾)
国内に最も多く存在する樹木であるスギを原料に酵素法でバイオエタノールを生産する場合、その材中のリグニンを如何に効率良く取り除くかが重要となる。本課題では、紙を製造する技術の一つであるアルカリ蒸解法を用いてスギ材中のリグニンを取り除くとともにパルプ化し、酵素セルラーゼでの糖化を容易にした。しかし、100円/Lでエタノールを製造しようとすると、使用する酵素のコストの削減が大きな課題となる。そこで、アルカリ蒸解したスギパルプをさらに酸素漂白し、リグニン量を削減して少量の酵素でも十分な糖化率が得られるようにした。ところで、酸素漂白はパルプ中のリグニンのフェノール性水酸基を持つ構造としか反応できないという欠点があるため、パルプ中のリグニンの50%程度しか削減することはできない。そこで、酸素漂白の前にアルカリ蒸解でパルプ中のリグニンをさらに削減するため、蒸解中に蒸解液を循環させ、必要アルカリ量と蒸解後のリグニン量の低減を達成した。
セルラーゼ生産菌培養液を用いたバイオエタノール生産技術の開発
・B080(野尻昌信)
スギからのエタノール生産技術開発にとって生産コストの削減が重要であり、低コストでも活性の高い酵素生産が課題となっていた。トリコデルマの生産酵素に少ないβ-グルコシダーゼを強化することで酵素糖化性が相乗的に向上することから、β-グルコシダーゼを高生産する菌株を森林総合研究所所有の菌株から選抜し、さらにUV光を照射し、より生産性の高い変異株を取得した。この変異株の培養液中には、元の菌株の1.4倍のβ-グルコシダーゼ活性があり、酵素コストを大幅に減らすことができた。これにより、1Lのエタノールを生産するのに要する酵素コストは18.5円まで削減することができた。また、これまでの5年間の研究成果に基づいて、スギのチップ化からアルカリ前処理、酵素生産、酵素糖化、発酵、蒸留、脱水までの想定される全工程の工程図を作成し、実証プラントの仕様を策定した。