平成24年度 研究総括
Aチーム:草本系原料からのバイオエタノール生産統合化技術開発
・Aチーム(農研機構 食品総合研究所 Aチームリーダー 徳安 健)
農林水産省では、我が国における戦略的な草本系バイオエタノール原料として、農産廃棄物である稲わら及び麦わら、そして資源作物としてサトウキビ、スイートソルガム、バレイショ、カンショ及びテンサイの5種類を対象とした技術開発を行うこととした。
本プロジェクトでは、様々な原料に対する成分分析や工程開発等の分散化や重複を避け、これらの草本系原料に対応する変換プロセスを5年間で絞り込むため、(独)農研機構・食品総合研究所内に統合・集中型の変換技術研究拠点を構築した。
また、五炭糖発酵、廃棄物処理、副産物利用、セルロース構造解析、酵素生産微生物のオミクス解析、コスト・環境負荷評価等の要素技術開発をリードする他研究室・他機関との連携を図り、「バイオエタノール生産統合化技術の開発」チーム(Aチーム)としてプロセス開発を総合的に推進した。
各原料の特性に対応した変換技術の開発
単子葉系原料の細胞壁には、セルロースを構成する六炭糖(C6)のブドウ糖の他に、キシランの主成分として五炭糖(C5)のキシロースが存在する。C5利用工程導入の際には、キシラン回収を考慮した前処理、キシラン糖化酵素の供給、そしてC5発酵工程を追加導入することとなり、新たなコスト要因を生じる。
そこで、本研究では、C5存在率が高い原料に対してのみC6・C5発酵技術を適用することとした。各原料のC6/C5比は、通常の稲わらや麦わらでは1.7〜2.4程度の範囲に収まるが、稗部を中心として澱粉やショ糖等の易分解性糖質を蓄積した稲わら、サトウキビやスイートソルガムでは、4.2〜5.0程度となった。よって、通常の稲わらや麦わらに原料に限定してC5発酵技術の開発を行うこととし、易分解性糖質を著量蓄積した稲わら、サトウキビ、スイートソルガム、そして双子葉系原料については、原料からのC6のみの回収利用を軸とした研究開発を実施することとした。
Aチームにおける4つの変換プロセスの開発と周辺技術の開発・高度化
前記の考え方に基づき、Aチームでは、各原料に対応する4つの変換プロセスを開発した(A210〜A240番台)。また、各変換プロセスにおける要素技術を連結し、バイオエタノール製造実証試験ベンチプラントを用いてkg規模で試験することにより、プロセス全体を対象として変換効率、コスト・環境負荷等を含めて実用化に向けた問題点を抽出した(A260番台)。さらに、基幹技術となるセルラーゼ等糖化酵素の効率的生産・利用技術を総合的に開発した(A250番台)。
下記に各変換プロセスの特徴を概説する。
1)易分解性糖質蓄積稲わら原料の変換プロセス(DISCプロセス:A210)1)
稲わらの稗部に高濃度に存在する易分解性糖質(澱粉、β-1,3-1,4グルカン、ショ糖、果糖及びブドウ糖)を高度利用するため、酸・アルカリ等による苛酷な前処理を行わず、稗部の分離・粉砕後に直接酵素糖化処理を行う。その際には、セルロースの半量程度を糖化し、C6のみを通常の酵母で並行複発酵してエタノールを得る(DiSC:DirectSaccharificationofCulms)。
稲品種や栽培条件等によって稗部の質は大きく変化するが、最大値で8.8%(w/v)程の高濃度エタノールを含むもろみの製造が可能。
2)通常の稲わら・麦わら原料の変換プロセス(CaCCOプロセス:A220番台)2)
原料中の易分解性糖質の回収と繊維質中のC6・C5の効率的変換を両立させるため、水酸化カルシウム処理後、酵素糖化の前段に行う固液分離・洗浄や塩酸等によるPH調整を省き、炭酸ガスによる中和を行う。
その後、ワンバッチ反応により酵素糖化・発酵を行い、設備費及び水使用量を低減するとともに、遊離性のショ糖やキシラン等の利用性を向上。湿式貯蔵技術としての役割や多様な草本系原料への適用可能性が期待される(CaCCO:CalciumCapturingbyCarbonation)。
3)サトウキビ・スイートソルガム原料の変換プロセス(LTAプロセス:A230)3)
搾汁液と繊維質(バガス)に分離し、バガスを室温程度の温度で水酸化ナトリウム処理することにより、高度に脱リグニンされたセルロース繊維を回収し、これをセルラーゼにより酵素糖化し、C6を回収する。その後、セルロース糖化液と搾汁液と混合した液を調製し、通常の酵母で発酵してエタノールを得る。
原料中のC6のほぼ全量を回収できる利点を有する。水酸化ナトリウム処理後の廃液(黒液)を燃焼し、アルカリを回収・再利用する既存工程の利用を想定(LTA:Low Temperature Alkali)。
4)双子葉系原料の変換プロセス(CARVプロセス:A240番台)4)
双子葉系原料の有する澱粉またはショ糖を効率的に発酵工程に供するため、原料磨砕物の粘性を酵素処理等により低下し、スラリー全体を用いて糖化・発酵を行う方法を開発。加水を最低限に抑えた高濃度発酵及び粘性低下によって、蒸留残漬固形分の処理効率が向上すると期待(CARV:Conversion After Reductionof Viscosity)。
ラボデータを用いた試算によれば、上記プロセスでは、Lあたり100円台でのバイオエタノール製造が可能と期待される。
本研究の成果として主工程が4本に固定されたことから、今後は、本技術を軸とした革新要素技術の導入や、原料生産技術の開発等が加速するものと期待される。特に、原料収集・貯蔵、酵素生産や酵素糖化・発酵、副産物利用における技術革新については、100円/Lの目標達成に向けた鍵となると考えられる。
参考文献
- 1) Park, et al., Bioresour.Technol. 102, 6502-6507(2011)
- 2) Park, et al., Bioresour.Technol. 101, 6805-6811(2010)
- 3) Wu, et al., Bioresour.Technol. 102, 47934799(2011)
- 4) Srichuwong, et al.,Biomass Bioener. 33, 890-898(2009)