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バイオ燃料変換技術研究開発

農研機構
バイオマス研究センター
食品総合研究所

平成24年度 研究総括

C2チーム:バイオマス変換要素技術の高度化(2)

バイオエタノール生産のコスト削減を目的とした糖化酵素生産技術及び糖化技術の開発

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PDF:バイオマス変換要素技術の高度化(2)
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・C2チーム(矢部希見子、春見隆文、浅野行蔵、小杉昭彦、森 隆)

 バイオ燃料製造では、食糧と競合しないリグノセルロース系原料からの低価格のエタノール生産が望まれている。バイオマスーエタノール変換は、主として@バイオマス原料の前処理、Aセルラーゼやヘミセルラーゼによる糖化、B酵母を利用した発酵、の3要素から構成されるが、リグノセルロース系の変換で、最大の課題はAで用いる糖化酵素のコストであり、安価な糖化酵素の生産及びその使用量の削減が可能となる技術開発が求められている1)。糖化酵素であるセルラーゼやヘミセルラーゼは、種々の微生物が生産するセルロースやヘミセルロースの加水分解機能を有する酵素の総称であり、それぞれ異なる性質を有している。 また、種々のバイオマス中のセルロースやヘミセルロースは様々な修飾を受けた誘導体で強固な構造体として存在しており、効率的な糖化を達成するには、それぞれの構造に適した糖化酵素の組成が必要であることが明らかとなっている。従って、安価かつ効率的な糖化酵素の生産を目指すには、各種バイオマスに適した糖化酵素の生産や種々の酵素群の配合が必要と予想される。 そこで、現在一般的に利用されているセルラーゼ生産菌トリコデルマリーセイが生産する糖化酵素について、その生産条件の最適化や同株の変異株作出による量産化、酵素のリサイクル利用を目指すとともに、他の菌株が生産する糖化酵素または糖化をサポートする新規酵素の探索を行った。

効率的糖化システムの構築を目指した技術

 安価かつ稲わら糖化に適した糖化酵素の生産を目的として、稲わらを炭素源としたトリコデルマリーセイの糖化酵素生産条件を検討した。また、トリコデルマリーセイの糖化酵素生産性を飛躍的に向上することを目指し、高い確率での変異導入が可能である不均衡変異導入法を用いて、各種バイオマスに適した糖化酵素群を生産する菌株を作出する。
 また、高熱性嫌気性細菌が生産するセルロソーム(酵素複合体)は多種類の酵素ドメインを有する極めて高効率な糖化活性を示す高分子構造体であり、60℃程度の高温域に至適温度があるため雑菌汚染が回避でき、また安定であるため繰り返し利用が可能であるなど多くの利点があった。しかし、糖化酵素の生産量がトリコデルマに比べて極めて少ないためその利用には限界が指摘されていた。そこで、糖化活性の高い細菌を自然界からスクリーニングするとともに、生産する糖化酵素の利用方法を検討することで実用化につながる技術開発を目指した。
 さらに、バイオマスを糖化酵素により処理した際には未消化成分として残湾が生じ、それがエタノール生産量の低下、また環境負荷の増大につながると予想される。そこで、植物内に進入するために種々の分解酵素を生産することが知られている植物内生菌に着目し、糖化酵素の効果を増強し、糖化処理残渣の効率糖化を可能とする菌の選抜及び当該菌が生産する酵素の検索を行う。

各種糖化酵素の生産と糖化システムの構築における成果

 安価かつ稲わらに適した糖化酵素の誘導条件を検討した結果、アンモニア処理及び硫酸中和を施したイナワラを炭素源とすることで、トリコデルマリーセイのセルラーゼ生産性の向上が可能になるとともに、ヘミセルラーゼ生産菌Humicola insolens について酵素生産性を改善する培養条件が確立できた。また、不均衡変異導入法によってトリコデルマリーセイのセルラーゼ糖化酵素生産の向上が確認できた。
 セルロソーム(酵素複合体)生産については、自然界から高い糖化活性を有するセルロソーム生産菌Clostridium thermocellum S14株を取得し、またセルロソームによる糖化ではセロビオース(二糖)が生じ、これはセルロソームに対して強力な生産物阻害を示すが、高熱性嫌気性菌 Thermoanaerobacter Brockii 由来のβグルコシダーゼが共存すればセロビオースの分解により、効率的にセルロースがグルコースまで糖化されることが確認された。 セルロソームはセルロース結合性を有するが当該βグルコシダーゼは可溶性酵素であることから、セルロソーム結合ドメインを同酵素に遺伝子工学的に付加することで、グルコースまで糖化するのに必要な2種の酵素をセルロソームに結合させることによって回収することに成功した。 これによって、糖化酵素のリサイクルシステムが開発でき、糖化コストの低減が可能になると期待される。
 トリコデルマリーセイ糖化酵素処理による残滴の低減を目的として、前処理イナワラにトリコデルマリーセイ糖化酵素及び植物内生菌が生産する酵素抽出液を当時に添加・反応させることにより、顕著に高い糖化活性を示す菌株が得られた。菌株を同定に成功したことから、今後、この株が生産する酵素の性状検討を行うとともに、酵素の大量調整を目指す予定である。



引用文献

  1. 1) バイオマス燃料技術革新計画、平成20年3月、バイオ燃料技術革新協議会

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