平成24年度 研究総括
C3チーム:バイオマス変換要素技術の高度化(3)
エタノール変換工程に適した発酵微生物及びその利用利術の開発
食糧と競合しないリグノセルロース系バイオマス原料を用いた効率的エタノール変換技術の構築が求められている。エタノール発酵工程はバイオマスエタノール変換の重要な工程であり、その工程の効率化は、実用的エタノール変換技術の構築達成に極めて重要な課題である。エタノール変換においては、セルロースの糖化で生じるグルコースが主要な発酵原料となるが、バイオマス原料にはセルロース以外にキシラン等ヘミセルロースをかなりの割合で含まれており、ヘミセルロースの糖化によって生じるキシロースなどの5炭糖の発酵も重要である。しかし、一般的に利用されている Saccharomyces cerevisiae はキシロース発酵能を有していないことから、バイオマスの効率的利用の点で問題を有している。また、バイオエタノール生産のコストを下げるためには、糖化と発酵をワンポットで一度に進行する併行複発酵(SSF)が望ましいが、50℃付近での糖化処理が望ましいのに対して、Saccharomyces cerevisiae の生育温度は30℃近傍が適当である。したがって、40℃で生育できる酵母の開発はSSFの達成に極めて重要な課題である。さらに、発酵工程は、バイオマス原料が有する成分や、前処理工程及び糖化工程により新たに生じる各種成分・条件を通じた系に酵母を接種して実施することから、雑菌汚染の可能性や、酵母の生育・代謝を抑制する物質の蓄積が発酵活性に大きく影響する可能性が高い。
したがって、以上のような様々な過酷ともいえる条件で高い発酵活性を有する酵母の開発及び発酵条件の適切な制御技術の開発が求められている。
有用酵母の分離・育成及び作出と、発酵工程の制御技術の開発
Saccharomyces cerevisiaeにキシロース代謝にかかわる遺伝子を導入し、キシロース発酵能を有する株を作出する。また、培地中にグルコースとキシロースが共存する際には、グルコースの取り込みが優先されキシロースが使われるまで発酵時間が長くなりコスト高になるという問題があったため、異なる酵母のキシローストランスポーター遺伝子の導入により、同時発行を可能にして発酵時間の短縮を図る。
糖化工程より以前の段階で持ち込まれた種々の発酵阻害因子に対して耐性を示す酵母の分離や育種を行う。また糖化は50℃程度で行うのに対し、発酵工程は30℃程度であり、発酵工程における雑菌汚染の防御が重要である。そこで、雑菌の増殖を抑制する技術を開発する。さらにコスト削減のため酵母のリサイクル利用を可能にする固定化酵母の開発を行う。
有用酵母の分離・育成及び作出と、発酵工程の制御技術の開発
バイオマス糖化液の発酵に乳酸を添加することで、雑菌の増殖を抑制できることが明らかとなった。また、酵母を固定化し、部分糖化した20%稲わらを用いてSSFを行った結果、少なくとも5回の連続的SSFが可能であることが確認された。
また、土壌や不朽木等から集積培養により、発酵阻害物質耐性や高温発酵性などすぐれた特性を有する酵母株のスクリーニングを行い、高温耐性及びキシロース資化性を有する株を短離し、Candida shehatae であると同定した。各種前処理稲わらを用いて同酵母によるSSFを行ったところ、35℃で高効率の発酵が観察され実用化の可能性が示唆された。
Saccharomyces cerevisiae に Pichia stipites キシロースリダクターゼ遺伝子、Pichia stipites キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子、S. cerevisiae キシルロキナーゼ遺伝子を導入したKOM818A株を作成した結果、キシロースからのエタノール生産が可能となった。杉糖化液を用いてKOM818A株の発酵能を調べたところ、グルコースとキシロースを糖源として加えた場合と同様な発酵活性が確認された。さらに、Candida guilliermondii のCGUG_05859がグルコース耐性キシローストランスポーター遺伝子であることを明らかにし、その遺伝子をプラスミド上にクローニングし、KOM818A株に導入したところ、導入株のキシロース取り込み活性がグルコースで阻害されないことが確認された。
今後、稲わら糖化液を用いて、グルコースによる影響を確認する予定である。