コラム
昆虫を食料・飼料資源として捉えた新産業の可能性
国際連合食糧農業機関(FAO)による2013年5月13日のプレスリリースに、「『昆虫は、森林がもたらしてくれるひとつの資源であり、食料、そして特に飼料としてポテンシャルの高い、低利用の資源である』と、ミューラー部長は述べた。」という文章が出ていました。その文の直後には、『たとえばチャイロコメノゴミムシダマシなどは、既に商品化の段階で生産が行われている。これは、ペットフード、動物園、娯楽釣りなどの隙間産業で利用されているからである。』という記述がありました。食料・飼料の資源としての昆虫の価値が高く、有望であることを、FAOは強く認識しているようです。将来、昆虫を資源とした産業が成長していくのでしょうか。
日本食品成分表には「いなごのつくだ煮」と「はちの子缶詰」が肉類に分類されて掲載されています。これによると、いなごのつくだ煮100 gあたり、エネルギー247 kcal、タンパク質26.3 g、鉄4.7 mg、ビタミンB2 1.00 mg、脂質1.4 gとなっています。ちなみに、ぶた(ロース、脂身つき、生)では、エネルギー263 kcal、タンパク質19.3 g、鉄0.3 mg、ビタミンB2 0.15 mg、脂質22.6 gで、確かに肉の代わりに食べても問題なさそうです。脂質が少ないので、かえって健康食として喜ぶ人もいるかもしれません。

しかし、現代日本では一般に昆虫食はゲテモノとして見られています。長野ではお土産としていなご、ザザムシ、はち等が売られていますが、毎日食卓に出てくるようなものではありません。特殊な人が特殊な状況で食べるだけです。このような状況では、昆虫を資源とした食品産業が成立するとは思えません。
ところが、時代と場所を変えると、人類にとって昆虫食は普通どころか、不可欠なほど密接に関わっているそうです。FAO報告書では世界各地の昆虫食文化を紹介していますし、私たちは発酵食品研究者の権威として認識している小泉武夫先生の最近の著書「小泉武夫のミラクル食文化論」は昆虫食から始まっています。また、梅谷献二氏によるエッセイ「虫を食べる話」は、ウェブで読める昆虫食の古典だと思います。

これらに共通するのは、昆虫食は特殊なことではなく、人類の長い歴史の中で、広い地球の各地で、普遍的に見られるという点です。逆に現代日本の昆虫食に対する捉え方が特殊だとすると、何かのきっかけがあれば日本でも昆虫食文化が開花する可能性があります。FAOが考えているように、昆虫を資源とする食料・飼料産業が発展するかもしれません。そのときのために新しい昆虫食文化を支える知識と技術を、日本でも準備しておければいいですよね。公的機関では安全技術を、民間ではおいしさを追及していってほしいです。
参考文献
- FAOプレスリリース「森林の産出物は飢餓との闘いに重要-特に昆虫」2013年5月13日
- 日本食品標準成分表2010
- FAO Forestry Paper 171 “Edible insects ? Future prospects for food and feed security”
- 公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会「虫を食べる話」
- 「小泉武夫のミラクル食文化論」小泉武夫(亜紀書房)ISBN978-4-7505-1308-9
関連情報
- コラム:食品に混入する昆虫たち
- コラム:台所に住む貯穀害虫
- コラム:貯穀害虫の飼い方
- コラム:花に集まる貯穀害虫
- コラム:外来の貯穀害虫について
更新日:2019年02月19日