大課題1 炭素循環 -農林水産生態系の炭素循環の解明と炭素循環モデルの開発-
研究目的
農林水産系における炭素循環のモニタリングを踏まえ、森林、農地及び藻場における炭素循環モデルを構築する。 炭素循環モデルは、 生態学的なプロセスモデルを基盤とし、フルカーボンアカウンティングに対応したものであり、地理的分布を考慮しながら、2050年までの環境変動に応じた炭素収支の予測が可能なものとする。
森林については、樹木から土壌までを対象とした炭素循環メカニズムを解明するとともに、モニタリングによる初期値、パラメータの取得を通じて、木材生産とその流通も含めたフルカーボンアカウンティングモデルを開発する。
農地については、これまで実施された土壌環境基礎調査等のデータを用いて土壌炭素の時系列的変動を解明するとともに、モニタリングによる初期値、パラメータの取得を通じて、草地や果樹園等にも対応できる日本の農耕地土壞向けのRothCをベースとした炭素循環モデルを開発する。
藻場については、広大な海草藻場が存在する北海道厚岸湾と健全な藻場が多数維持されている瀬戸内海をそれぞれ寒海域、暖海域のモデル海域とし、湾外への炭素の輸送や枯死後の藻体の分解・堆積を含む各モデル海域での炭素循環過程の実態を把握し、藻場生態系における炭素の循環過程を定量的に評価することが可能な藻場生態系・炭素循環モデルを開発する。
研究方法
1.森林生態系の炭素循環の解明と炭素循環モデルの開発
森林生態系純生産量のタワー観測を実施し、群落微気象モデルの適用によりパラメータの改良と純生産量の試算を行う。森林分類図作成のため、高頻度衛星MODIS画像を用いて、日本全国の森林タイプ図を作成するとともに、開葉・落葉期のマッピングを行う。生産力推定のため、主要樹種について林分構造パラメータの全国規模のメッシュ地図を作成する。土壌炭素蓄積量と地形特性値との関係をモデル化し、広域マッピングを行う。温室効果ガス観測地の土壌の化学性を調べ、温室効果ガス発生吸収量に及ぼす土壌要因の影響を明らかにする。
群落及び土壌サブモデルについてモデルの改良を進め、統合モデルの開発を支援する。林業サブモデルとして、伐採面積・素材生産量を予測する手法を構築し、長期予測を行う。木材サブモデルについて、木材の輸送距離や排出低減効果の推計等を行うとともにモデルの拡張を検討する。統合モデルに土壌サブモデル及び林業サブモデルを組み込み、森林炭素収支の広域・長期シミュレーションを試行する。
2.農地生態系の炭素循環の解明と炭素循環モデルの開発
水田や果樹園等で渦相関法やチャンバー法によりCO2フラックスデータを収集する。また、既存の土壌調査データを用いて日本の農耕地や草地における土壌炭素賦存量の分布図を作成する。さらに、流域スケール及び市町村レベルでの土地利用・土壌等について温室効果ガス発生量算出に必要な原単位を収集し、流域、市町村別の炭素収支を推定する。そのうえで、全国の農地土壌における土壌特性に関するデータや土壌の種類別の時系列的土壌炭素変動データを収集・解析し、対策シナリオを導入した場合の土壌炭素賦存量の変動予測を土壌炭素動態モデルによって行う。
3.水産生態系の炭素循環の解明と炭素循環モデルの開発
既存のデータを用いて、日本沿岸域の藻場における海草・海藻類の炭素現存量及び年間生産量の分布図を作成する。また、衛星画像を用いて、アマモ群落の面積や現存量を推定する手法を確立する。さらに、アマモ及びノコギリモクについて、光合成速度と光量子量との関係を明らかにするとともに、アマモの輸送やノコギリモク枯死藻体の分解に関するデータを収集・解析し、各過程の定量化を行う。並行して、厚岸湖のアマモ場及び瀬戸内海のガラモ場を対象とした藻場炭素循環モデルを構築し、モデルの改良を進めるとともに、各海域における炭素収支を推定する。
課題一覧
研究課題名 | 代表機関 | 担当者 | 期間 |
1.森林生態系の炭素循環の解明を炭素循環モデルの開発 | |||
微気象学的方法による森林生態系純生産量の評価 |
森林総研北海道支所 |
山野井克己 | H18〜21 |
広域森林タイプ図の作成手法の開発 |
森林総研九州支所 |
齋藤英樹 | H18〜21 |
森林資源調査データによる林分構造の広域モニタリング手法の開発 | 森林総研 | 家原敏郎 | H18〜21 |
流域スケールにおける数値地形情報を用いた森林土壊炭素蓄積量推定法の開発 | 森林総研 | 吉永秀一朗 | H18〜21 |
森林土壌における温室効果ガス吸収・排出量の広域評価 | 森林総研 | 三浦 覚 | H18〜21 |
森林群落動態と炭素収支モデルの植生レベルへのスケールアップ技術の開発 | 森林総研 | 千葉幸弘 | H18〜21 |
森林土壌炭素の蓄積・放出プロセスのモデル化 | 森林総研 | 石塚成宏 | H18〜21 |
森林施業に係る炭素収支モデルの開発 | 森林総研 | 岡 裕泰 | H18〜21 |
伐採木材の利用に係る炭素収支モデルの開発 | 森林総研 | 外崎真理雄 | H18〜21 |
森林・林業・木材を続合した炭素循環モデルの構築 | 森林総研 | 松本光朗 | H18〜21 |
2.農地生態系の炭素循環の解明と炭素循環モデルの開発 | |||
作付方式(単作田と二毛作田)の違いが水田の炭素収支に及ぼす影響の解明 | 農環研 | 宮田 明 | H18〜21 |
果樹園生態系における炭素収支の解明 | 果樹研 | 杉浦裕義 | H18〜21 |
草地における土壌炭素賦存量及びその地理的分布の解明 | 畜草研 | 松浦庄司 | H18〜21 |
農耕地土壌の炭素蓄積量の変動の解明 | 農環研 | 大倉利明 | H18〜21 |
農耕地土壌の種類や肥培管理形態が土壌炭素含量に及ぼす動態の解明 | 中央農研 | 太田 健 | H18〜21 |
肥培管理法・気象条件の変化に伴う地域別炭素循環のLCA評価 | 東京農工大 | 木村園子ドロテア | H18〜21 |
農耕地土壌における炭素循環モデルの開発 | 農環研 | 白戸康人 | H18〜21 |
3.水産生態系の炭素循環の解明と炭素循環モデルの開発 | |||
寒海域の藻場生態系における炭素循環の実態解明とモデル開発 | 水研セ北海道区水研 | 坂西芳彦 | H18〜21 |
暖海域の藻場生態系における炭素循環の実態解明とモデル開発 | 水研セ瀬戸内海区水研 | 樽谷賢治 | H18〜21 |
※代表機関の略称(表中、記載順) | |
森林総研 | :(独)森林総合研究所 |
農環研 | :(独)農業環境技術研究所 |
果樹研 | :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 |
畜草研 | :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 |
中央農研 | :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター |
水研セ北海道区水研 | :(独)水産総合研究センター北海道区水産研究所 |
水研セ瀬戸内海区水研 | :(独)水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所 |