大課題2 緩和技術 -地球温暖化の進行を緩和するための技術開発-
研究目的
1.森林生態系からの温室効果ガスの排出削減のための管理技術の開発
温暖化に伴う生育環境の劣化や自然リスクの影響が危惧される森林(高齢人工林・広葉樹混交林・冷温帯林)における自然攪乱や気象環境が炭素固定量へ及ぼす影響を定量的に評価し、炭素固定能力の維持のための森林管理手法を開発する。
2.農地生態系からの温室効果ガスの排出削減のための管理技術の開発
既存または新たな技術の活用による温室効果ガス(GHG)の排出削減、吸収源機能確保技術を開発し、その効果を検証するとともに、緩和ポテンシャルの広域評価を行う。具体的には、各実行課題において、畑地、草地、泥炭土農耕地における保全的耕耘と有機物管理、水田における田畑輪換管理、及び耕作放棄地管理について、各地での圃場実証試験を行い、GHG排出削減、吸収源機能確保技術としての有効性を定量する。また、汚水貯留・浄化処理施設からのGHG排出係数を算定し、その変動要因を解明する。さらに、農耕地の土壌―作物系の炭素・窒素循環を予測するプロセスモデル(DNDCモデル)を広域的に適用できるように改良し、広域推定を行う。
研究方法
1.森林生態系からの温室効果ガスの排出削減のための管理技術の開発
人工林の風害について、鹿児島地方における林齢・風速と被害割合等の関係から斜面方位別の林分の炭素固定量期待値をモデル化するとともに、大分県由布院地域を対象に強風の傾向をモデル化し、風況シミュレータを用いて10km四方区域内の強風リスクマップを作成する。広葉樹混交林では、北海道の落葉広葉樹林と九州の常緑広葉樹林で台風撹乱前後の現存量や純生産量の継続観測を行い、攪乱が炭素固定量に及ぼす影響を解析する。冷温帯林では、青森のヒバ択伐林でヒバ稚樹の光強度−光合成速度モデルを作成し、上木の開葉時期の違いが稚樹の成長に及ぼす影響を推定する。また、木曽のヒノキ成木葉の光合成モデル(Farquhar-type)を作成し、2001〜2050年の気象予測値に基づいて環境変動に伴う光合成量の変化を予測する。
2.農地生態系からの温室効果ガスの排出削減のための管理技術の開発
畑地、草地、泥炭土農耕地における保全的耕耘と有機物管理、水田における田畑輪換管理、及び耕作放棄地管理について、各地での圃場試験を設計し、栽培期間と非栽培期間全体でのGHG発生量と土壌炭素収支を定量調査する。計測方法として、メタン(CH4)及び一酸化二窒素(N2O)フラックスについてはクローズドチャンバー法、土壌炭素収支については土壌呼吸計測を含む生態学的手法により定量するとともに、試験開始前と後の数年間の土壌炭素存在量の変化を0-30 cmまでの等価土壌質量層について計測する。同時に、作物収量についても調査するとともに、一部の課題については作業や資材製造も含めたLCA評価を実施する。
具体的な緩和技術として、那須の草地飼料畑においては、乳牛ふん尿のスラリーを堆肥化して施用した場合の緩和効果を定量する。十勝の黒ボク土畑においては、耕起法、施肥、有機物投入について、作物生産と地球温暖化緩和の両立を可能とする畑地管理技術を検討する。北海道美唄の泥炭土農耕地においては、田畑輪換、施肥、残渣管理、耕起法の影響を調査する。福島ほかの東北地域畑圃場においては、ダイズ栽培におけるムギ類の不耕起カバークロップ栽培体系について調査する。つくば、山形、新潟、熊本の水田では、4年間の田畑輪換栽培がGHG総発生量に与える影響を水稲連作と比べて評価する。九州の畑圃場では、窒素付加牛ふん堆肥ペレットのN2O発生抑制効果を慣行堆肥ペレットと比較する。耕作放棄地については、中国地方の中山間地域を対象とした耕作放棄地の広域調査と、定点試験圃場における放棄前作物と放棄後の管理方法が炭素蓄積に及ぼす影響を調査する。
家畜ふん尿汚水貯留・浄化処理施設については、搾乳牛汚水貯留と牛舎及び豚舎汚水浄化処理起源のCH4及びN2O発生量について、大型チャンバー等の測定装置を用いて計測する。
DNDCモデルによる広域評価については、モデルを水田用に改良し(DNDC-Rice)、日本各地のCH4発生量実測データによって検証する。さらに、気象、土壌及び栽培管理に関するGISデータベースとDNDC-Riceモデルを用いて広域的なCH4発生量を推定する。一方、日本各地の畑地のN2O発生量実測データを収集し、DNDCモデルを検証し、非黒ボク土畑に堆肥と減肥を組み合わせた肥培管理を行った場合のGHG削減効果を評価する。
課題一覧
研究課題名 | 代表機関 | 担当者 | 期間 |
1.森林生態系からの温室効果ガスの排出削減のための管理技術の開発 | |||
間伐等の人工林管理や自然リスクの影響評価による最適な炭素固定技術の開発 | 森林総研 | 齊藤 哲 | H18〜21 |
広葉樹等異齢混交林による炭素固定の技術の開発 | 森林総研 | 佐藤 保 | H18〜21 |
冷温帯林の環境変動に対応する炭素固定技術の開発 | 森林総研 | 壁谷大介 | H18〜21 |
2.農地生態系からの温室効果ガスの排出削減のための管理技術の開発 | |||
草地におけるCH4、N2Oの排出削減のための有機物管理技術の開発 | 畜草研 | 森 昭憲 | H18〜21 |
家畜排せつ物管理における温室効果ガス発生量の評価 | 畜草研 | 長田 隆 | H19〜21 |
土壌の炭素蓄積を増加させる温暖化対策型畑作生産技術の開発とそのLCA評価 | 北農研 | 古賀伸久 | H18〜21 |
泥炭土農耕地における有機物保全・温室効果ガス発生削減技術の開発 | 北農研 | 永田 修 | H18〜21 |
寒冷地における不耕起カバークロップ体系の炭素吸収源としての機能を向上させる栽培技術の開発 | 東北農研 | 好野奈美子 | H18〜21 |
田畑輪換栽培による温室効果ガスの排出削減技術の開発 | 農環研 | 八木一行 | H18〜21 |
堆肥ペレット施用に伴う畑地での温室効果ガス発生機構の解明及び制御技術の開発 | 九沖農研 | 久保寺秀夫 | H20〜21 |
耕作放棄地の炭素蓄積能力を高める管理技術の開発 | 近中四農研 | 下田星児 | H18〜21 |
土壌-作物系物質循環モデルを活用した農耕地における効果的な温室効果ガスの排出削減技術の提示 | 農環研 | 麓 多門 | H18〜21 |
※代表機関の略称(表中、記載順) | |
森林総研 | :(独)森林総合研究所 |
畜草研 | :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 |
北農研 | :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター |
東北農研 | :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター |
農環研 | :(独)農業環境技術研究所 |
九沖農研 | :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター |
近中四農研 | :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター |