大課題3 影響評価 -地球温暖化が農林水産業に与える影響評価-

 研究目的

1.地球温暖化が土地利用型作物に与える影響評価 
 土地利用型作物については、地球温暖化により、収量の変化、品質の低下、病害虫被害の増加などが懸念されることから、収量、品質に及ぼす温暖化影響を総合的に考慮した温暖化影響予測モデルを構築し、気候シナリオと組み合わせた将来予測を行い、地球温暖化の進行に適切に対応するための農業生産技術の開発に貢献する。
2.地球温暖化が水産業に与える影響評価
 地球温暖化により、水産資源生物の分布・生産量などへの影響が懸念されていることから、水域環境の変化が餌料分布や魚類の成長、再生産などに及ぼす影響を解明するとともに、将来予測を行い、水産業に与える影響を評価し、地球温暖化の進行に適切に対応するための技術開発に貢献する。
3.地球温暖化が園芸作物に与える影響評価
 温暖化に対して脆弱な作物の果樹や、産地のリレー出荷体制を維持する必要がある野菜において、過去の栽培記録を分析して温暖化の影響の実態を明確にするとともに、栽培適地の変動予測や将来の気象にも適用可能な生育予測モデルを開発する。
4.地球温暖化が水資源や低平農地に与える影響評価
 水資源や低平農地の分野は、農業生産の基礎的資源である農地・水資源の観点から、農地水利用、淡水レンズ、高潮や沿岸農地の3課題に分ける。農地水利用では、流域レベルの農地水利用を考慮した水循環モデルを構築するとともに、灌漑用水量と洪水を考慮した水循環変動メカニズムを明らかにしてその予測手法を開発する。さらに、淡水レンズを持つモデル調査地におけるレンズ形状及び賦存量を明らかにする。淡水レンズ賦存量の推定手法を確立するとともに、淡水レンズ保全手法を評価する。また、低平農地において、水路網などの農業水利施設を適切にモデル化した詳細な氾濫解析を行い、海面上昇及び台風勢力の増強に伴う沿岸農地及び農業水利施設への影響を評価する。

研究方法

1.地球温暖化が土地利用型作物に与える影響評価 
 土地利用型作物に与える影響評価では、長期間の作況試験データと気象観測データ及び作物モデルを活用して明らかにする。水稲では、寒冷地における冷害リスクの変化、暖地における気象災害、病虫害といった作況変動要因の分類、解析に基づき、温暖化影響の実態解明を行う。小麦については、収量・品質の形成過程に対する気象の影響を解析することにより、気温上昇が作柄に及ぼしている影響を明らかにする。大豆では、作況変動や収量の地域的変異に関するデータ解析と、温度勾配型チャンバーを用いた実験的な温暖化影響の解明を組み合わせて、生産に及ぼす影響の実態把握と、将来の作況への影響を明らかする。また、水稲の作付時期移動実験を行い、食用・飼料用・原料用など多用途な水稲の作期条件を解明するとともに、作期条件に及ぼす温暖化の影響を評価する。さらに、これまでに開発した土壌−作物系の物質代謝を取り入れた作物モデルを、環境操作実験や過去の作況試験データを用いて検証・改良し、将来環境に適用することによって、今世紀半ば頃までを見通した温暖化、大気CO2の増加が水稲の成長、収量、品質に及ぼす影響を定量的に評価する。
2.地球温暖化が水産業に与える影響評価
 水産業については、漁業生産に重要な3つの海域において、定線観測を継続し、既存のデータと併せて各海域の物理化学データ、動植物プランクトンデータ等を整備し、漁業生産を支える低次生態系の構造と変動特性を明らかにする。モデル開発では、これらのモニタリングデータを基に低次生態系モデルの改良を行い、海洋の高解像度3次元モデルにその結果を取り込み、我が国周辺海域の低次生態系の変化を精度良く予測するシステムを構築する。さらに小型浮魚類の生産にかかわる産卵場・生物特性データなどの解析により魚類生産モデルの開発を進め、低次生態系モデルにより与えられる餌料環境予測と組み合わせることにより、温暖化の進行が魚類生産に与える影響を定量的に評価する。
 魚類について、ニシンでは、飼育実験で卵・仔魚の高温下での生理的影響を把握し、さらに水温条件の異なる2つの海域で放流実験を実施し、初期生残過程及び産卵回帰生態を比較する。マツカワでは、高温馴致飼育の効果を評価し、給餌手法や餌料成分等に改良を加える。日本海を回遊するブリ・スルメイカでは、海況の温暖化予測実験を行い、餌料環境や分布・回遊の変化を予測する。さらに既存産地の漁獲物の商品価値の変化についても解析を行う。日本系サケでは、水温上昇に対する生理・生態的反応を飼育実験により解明し、温暖化による生息海域の環境変化予測に基づき、影響を評価する。
 内水面においては、全国の湖沼の水温と気象及び湖沼形態との関係を既存データにより把握し、水温変化の類型化を行うとともに、水深の異なる二つの湖沼(諏訪湖と琵琶湖)において動物プランクトンと魚類を中心とした生物生産と漁業生産を飼育実験と資料解析により詳細に調査し、これらを統合した湖沼における影響評価モデルを開発する。
3.地球温暖化が園芸作物に与える影響評価
 15県の各公立試験研究機関に蓄積されてきた生態情報から温暖化が果樹生育に影響を与える気象条件の解析を行う。農環研作成の気候変化シナリオに従ってミカンの適地移動マップを作成する。キャベツ、レタス、ハクサイの作期移動圃場試験等を実施し、データの解析を行うとともに、青果物市況情報等をデータベース化し、気象が収穫期・収量に及ぼす影響を解析する。
4.地球温暖化が水資源や低平農地に与える影響評価
 地球温暖化が水資源や低平農地に与える影響評価では、研究課題を下記の3課題に分けて連携させながら研究を進める。農地水利用では、灌漑主体流域を対象に、農業水配分、積雪・融雪、ダム管理等の要素を組み込んだ分布型水循環モデルを開発する。さらに、上記モデルにより、必要灌漑用水量や利用可能水量の温暖化に伴う変動を分析する。淡水レンズに関しては、モデル調査地における地下水中の電気伝導度鉛直分布及び地盤の導電率から淡水レンズの形状及び賦存量を求めるとともに、塩淡境界深度と地盤の見かけ導電率の関係ならびに遮水壁による淡水レンズ増強効果を検証する。沿岸農地では、主要国営干拓地を対象に、排水施設能力と水路内水位が評価でき、水路・道路・排水樋門等も考慮した高潮氾濫解析モデルを作成する。また、対象沿岸域における高潮脆弱性要因の分析及び現状の海岸堤防の高潮災害危険性を評価する。

課題一覧

研究課題名 代表機関 担当者 期間
1.地球温暖化が土地利用型作物に与える影響評価
地球温暖化による夏季の気温変動に対応した水稲冷害リスクの評価 東北農研 神田英司 H20〜21
近年の温暖化が暖地における水稲の収量・品質変動に与えている影響の実態解明 九沖農研 丸山篤志 H20〜21
小麦作に対する温暖化の影響解明と評価法の開発 中央農研 中園 江 H20〜21
ダイズ生産に及ぼす温暖化の影響評価 東北農研 鮫島良次 H20〜21
温暖化が多用途な水稲の作期条件に及ぼす影響評価 中央農研 松村 修 H20〜21
温暖化・高CO2環境がイネ生産過程に及ぼす複合的影響の解明 農環研 長谷川利拡 H18〜21
温暖化・大気CO2濃度の上昇が水稲の収量・品質に及ぼす影響のモデル評価 農環研 桑形恒男 H20〜21
2.地球温暖化が水産業に与える影響評価
親潮域・混合域における海洋環境と低次生態系のモニタリングと影響評価 水研セ北海道区水研 小埜恒夫 H18〜21
黒潮域・黒潮続流域における海洋環境と低次生態系のモニタリングと影響評価 水研セ中央水研 杉崎宏哉 H18〜21
東シナ海域における海洋環境と低次生態系のモニタリングと影響評価 水研セ西海区水研 長谷川徹 H18〜21
沖合域における海洋生態系モデルの高度化と水産業への温暖化影響評価技術の開発 水研セ東北区水研 伊藤進一 H18〜21
ニシン及びマツカワを代表種とした寒海性魚類の地球温暖化の影響評価と増養殖技術の開発 水研セ北海道区水研 安藤 忠 H18〜21
温暖化が与える日本海の主要回遊性魚類の既存産地への影響予測 水研セ日本海区水研 木所英昭 H20〜21
季節的な水温変動の変化が湖沼漁業生産に与える影響の評価 水研セ中央水研 坂野博之 H20〜21
地球温暖化が日本系サケ資源に及ぼす影響の評価 水研セさけますセンター 伴 真俊 H20〜21
3.地球温暖化が園芸作物に与える影響評価
過去のデータベースの解析による果樹の温暖化影響の解明と温暖化影響データベースの開発 果樹研 杉浦俊彦 H20〜21
気温、生態反応などを考慮した果樹の栽培適地移動予測 果樹研 杉浦俊彦 H20〜21
葉菜類の収量・品質の予測(1)長日・炭酸ガス濃度上昇条件下における葉菜類の生態特性の定性的評価 野茶研 岡田邦彦 H20〜21
葉菜類の収量・品質の予測(2)長日・炭酸ガス濃度上昇条件下における定性的生態特性の定式化とモデル化 野茶研 岡田邦彦 H20〜21
統計解析による野菜の温暖化影響予測(1)主要葉根菜類の収穫期・収量予測モデルの作成と遭遇気象環境領域の調査 中央農研 大原源二 H18〜21
統計解析による野菜の温暖化影響予測(2)温暖化が葉根菜類の収量、品質に及ぼす影響評価と作期・栽培適地の移動・産地間連携評価システムの構築 中央農研 大原源二 H18〜21
4.地球温暖化が水資源や低平農地に与える影響評価
農地水利用解析に基づく灌漑用水量と洪水への温暖化影響評価と将来予測 農工研 増本隆夫 H20〜21
地球温暖化に起因する離島の淡水レンズ地下水資源への影響評価と将来予測 農工研 石田 聡 H20〜21
詳細な氾濫解析に基づく沿岸農地への温暖化影響の予測 農工研 桐 博英 H20〜21
※代表機関の略称(表中、記載順)
東北農研 :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター
九沖農研 :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
中央農研 :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター
東北農研 :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター
農環研 :(独)農業環境技術研究所
水研セ北海道区水研 :(独)水産総合研究センター北海道区水産研究所
水研セ中央水研 :(独)水産総合研究センター中央水産研究所
水研セ西海区水研 :(独)水産総合研究センター西海区水産研究所
水研セ東北区水研 :(独)水産総合研究センター東北区水産研究所
水研セ日本海区水研 :(独)水産総合研究センター日本海区水産研究所
水研セさけますセンター :(独)水産総合研究センターさけますセンター
果樹研 :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所
野茶研 :(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所
農工研
:(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所

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