オーチャードグラスの病害 (1)


モザイク病(mosaic-byo) Mosaic
病原:Cocksfoot mottle virus (CfMV)、ウイルス
 関東、東北、北海道など広い地域で発生するウイルス病。典型的なモザイク症状となり、葉脈に沿って黄色〜白色のモザイクを葉全面に形成し、細長い条状になることもある。発生が軽微な場合はこの状態でとどまるが、激発すれば地上部全体の生育が大幅に悪化する。病原ウイルスはハムシ類によって伝播されるが、日本ではまだ未確認である。また、機械刈り等により汁液伝染する。人工接種すればエンバク、オオムギ、コムギ、ライムギにも感染する。


麦角病(bakkaku-byo) Ergot
病原菌:Claviceps purpurea (Fries) Tulasne、子のう菌
 穂に麦角(菌核)を形成し、これが家畜毒性を持つ。開花直後から穂にあめ色の蜜滴を形成し始め、蜜滴内に含まれる多量の胞子が風雨で飛散して伝播する。感染した穂には種子のかわりに表面白色、その下は黒紫色、牛の角状で、長さ2〜18mm、幅0.6〜2.4mmの麦角を形成する。麦角は地上に落ち、翌年に発芽して伝染源となる。病原菌は寄主範囲が広く、オーチャードグラス、チモシー、フェスクなどにも感染する。麦角中のアルカロイドはエルゴバリンなど毒性の強いものであり、家畜の流産などを引き起こす。


葉枯病(hagare-byo) Leaf blotch
病原菌:Stagonospora arenaria Saccardo、不完全菌
 北海道から九州まで広い地域で発生する斑点性の糸状菌病。初め褐色の小さな斑点が現れ、徐々に広がって淡褐色〜赤褐色、紡錘形〜楕円形病斑になり、内部からにぶい黄色またはわら色に色あせていく。病斑は長さ1〜2cmまで広がり、葉枯症状となる。古くなった病斑上には褐色の小粒が現れることがあるが、これは病原菌の柄子殻である。病原菌の寄生性等についてはまだあまり調べられていない。


葉腐病(hagusare-byo) Summer blight
病原菌:Rhizoctonia solani Kühn AG-1 TB, TA、担子菌
 全国で発生し、草地の夏枯の一因となる重要な糸状菌病。初め灰緑色、水浸状に葉が変色し、やがてゆでたように軟化していく。さらに病気が進むと、茎や葉が倒れて重なって腐り、これをつづり合わせるようにしてくもの巣状の菌糸が見られる。罹病植物上には、明褐色〜褐色、直径5mm程度の菌核が形成される。この時点で草地はつぼ状に枯れ、徐々に裸地化が進む。病原菌はほとんどのイネ科及びマメ科牧草を侵すきわめて多犯性の菌。TB菌およびTA菌が関与する。


斑点病(hanten-byo) Eye spot
病原菌:Mastigosporium rubricosum (Dearness et Bartholomew) Nannfeldt、不完全菌
 北海道で発生する糸状菌病。葉に楕円形から紡錘形、大きさ2-3×0.5-1mmの斑点を形成する。病斑は初め紫褐色であるが、後に中央部が灰色に枯れ、ここに白色綿毛状の菌糸を生じる。病斑表面に形成された分生胞子が飛散して、まん延する。


ひょう紋病(hyoumon-byo) Zonate leaf spot
病原菌:Gloeocercospora sorghi Bain et Edgerton ex Deighton、不完全菌
 暖地での発生が多く、葉に大型の斑点を生じる糸状菌病。初めは紡錘形、銅色の小斑点を葉に生じるが、やがて葉を横切る大きな病斑となり、銅色の不規則な豹紋状となる。後に病斑が融合して葉枯を引き起こす。病原菌はソルガムなどの菌と同種だが、寄生性は若干異なるとされる。


いもち病(imochi-byo) Blast(病名未登録)
病原菌:Pyricularia oryzae Cavara、不完全菌
 2007年9月、栃木県の温室内で発生したが、自然病徴は未確認である。病斑は短い紡錘形で、灰白色、周縁部は褐色となることが多い。大きさは長さ2-5mm程度である。病原菌はオーチャードグラスの他、ライグラス、ライムギ、エンバク等にも病原性を示すので、ライグラスいもち病菌と同一の菌系と考えられる。
  • 病徴
  • 接種病徴(イタリアンライグラスに接種、上:ライグラス菌、中:オーチャードグラス菌、下:ライムギ菌)
  • 文献 月星(2011d)


角斑病(kakuhan-byo) Stem speckle
病原菌:Pseudoseptoria stomaticola (Baeumler) Sutton、不完全菌
 冷涼地で発生し、採種栽培で問題になる糸状菌病。葉、葉鞘、稈、枝梗に発生し、病斑内部は灰白色、周縁部は褐色の細い縁状となり、長さ1ー2mm程度の角斑となる。病斑は葉脈で区切られ、境界のはっきりした明瞭なものとなる。病斑上に形成される柄子殻内の胞子が風雨で飛散してまん延する。


褐条べと病(katsujou-beto-byo, 病名未記載) Brown stripe downy mildew
病原菌:Sclerophthora sp.?、卵菌


黄さび病(kisabi-byo) Yellow rust
病原菌:Puccinia striiformoides M. Abbasi, Hedjar. & M. Scholler [= P. striiformis var. dactylidis Manners]、担子菌
 2004〜2005年にかけて北海道、岩手県、宮城県、福島県、栃木県で発生した新病害。病徴は黄∼橙黄色の夏胞子堆を葉脈に沿って縞状に生じる。病原菌の中間宿主は不明である。


小さび病(kosabi-byo) Rust
病原菌:Uromyces dactylidis Otth var. dactylidis、担子菌
 さび病の一つで、晩春から初夏にかけて多発することがある。葉、葉鞘および稈の表面に赤褐色、楕円形の腫れ物状の病斑を形成する。病斑は成熟すると表面が破れて夏胞子を飛散させる。冬胞子堆は葉では裏に生じることが多く、紫褐色、短線状の膨らみとなる。病原菌の中間宿主は日本では不明だが、海外では銹胞子世代がキンポウゲ属(Ranunculus)植物上で発見されている。


雲形病(kumogata-byo) Scald
病原菌:Rhynchosporium orthosporum Caldwell、不完全菌
 全国的に発生する重要な斑点性の糸状菌病。関東地方では春と秋に発生するが、北海道では年間を通して発生する。初め水浸状の小さな病斑であるが、やがて内部は淡橙色〜灰白色、周縁部は褐色で、長紡錘形〜レンズ形、長さ1-3cm、幅2-5mmの特徴的な病斑を形成する。病斑は徐々に融合し、『雲形』になっていく。葉は病斑部から裂けることが多く、すだれ状になることもある。激発した場合は、草地が坪状に枯れ、そこだけ白く見える。本病は冷涼多湿条件で多発する。また、種子伝染も起こり、幼苗で発生することもある。

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