研究って楽しくないといけない



阿部 薫さん

土壌環境研究領域
主任研究員

農作物中のカドミウムを簡単測定

現在どんな研究をしているのですか?

大きく分けて2つあります。1つ目は、カドミウムで汚染された作物が流通しないよう、作物に含まれるカドミウムの濃度を簡単に測る方法を研究しています。
今までカドミウムの濃度は大がかりな施設でないと測定できませんでしたが、インフルエンザの検査キットのように、すぐに大体の濃度が分かる手法を開発しました。現在、農家や農協の方がそれを使って自分で検査できるように検討を続けています。

ビオトープによる水質浄化

もうひとつの研究は、ビオトープによる水質浄化です。
下水道のないところでは合併浄化槽というもので生活排水を処理していますが、よごれの大部分である有機物は微生物で比較的よく処理できますが、水質を悪化させる窒素やリンの化合物は水に溶けたまま出て行ってしまいます。そこで、その排水を人工湿地で浄化する実験をしています。

前に勤めていた研究所でも、イネや飼料作物、花などの植物による水質浄化を研究していました。水路に特殊な石を敷き詰めて植物を植え、低い水位で汚れた水を流します。すると植物は窒素やリンを吸収して成長し、同時に、自然に石に住み着いた微生物も汚れを分解します。

研究テーマを変えなくてはいけないとき

ずっと水質についての研究をしてきたのですか?

前に勤めていた研究所で12年ほど水質の研究をしていましたが、「同じ研究テーマを続けたいなら地方へ異動、つくばで勤めたいなら別の研究テーマに移る」の二者択一を迫られ、当時は結婚して子供もいたので後者を選んで、飼料イネの研究に関わりました。その後、農環研に移動になりました。

農環研に異動されたときも、カドミウムという新しい研究をまかされたのですよね?

研究者は皆、仕事を変えなくてはいけないときがあると思います。最初は戸惑いもありますし、カドミウムのような重金属の分析は初めてで本当に困りました。最初の1年は同僚に弟子入りですね。後について回って「言う通りにします」 という感じで(笑)。2年目に、水質の研究も始めました。

「宇宙飛行士」にあこがれて

研究者をめざしたのはいつですか?

小学生の時にロケットの打ち上げを見て「宇宙飛行士になりたい!」と思いました。夏休みの研究のような理科も好きでしたね。中学生になって自分にはサイエンスがいいと思い、「サイエンス=博士」という感じで科学者になろうと考えました。高校時代は生物が好きで、大学の環境保護学科に進みました。
大学卒業後、公務員試験を受けて農水省の検査機関に入りましたが、研究をさせてもらえなかったため、上級職の公務員試験を受け直して、希望していた水質研究に配属されました。

子どもが8回も入院

女性として苦労されたことはありましたか?

昔は管理職になるのは大変だったようですが、私は駆け出しでしたし、差別というのは感じませんでした。
けれども、子育ては大変でした。産休は2カ月半だけで、生後8週目から保育園に子供を預けて職場復帰しました。子どもたちが病気がちだったのも大変で、下の子は8回くらい入院しました。近くの病院に入院した時には泊って看病して、病院から出勤したこともありましたね。研究者である夫やお互いの両親にも協力してもらいました。

成果を社会に伝えていきたい

研究における夢はなんですか?

植物を使って水質を浄化するという研究を通して、農業環境と水質の関わりをライフワークにしていきたいと考えています。
また、環境に関する研究というのは社会的な意味合いも強いので、開発した技術の普及にも興味が出てきました。もっと社会に対して語りかけて、皆さんに理解してもらうことも大切ではないかと考えています。

研究って楽しくないといけない

女性研究者 阿部 薫さん

研究者を目指す人へのメッセージをお願いします。

研究ってルーチンの仕事ばかりではなく、自分の創意工夫や発想で好きなように進められる部分が大きいので、やりがいがあると思います。研究者は、今までに他人がやってないことに挑戦することが大事ではないでしょうか。そのためには、自分の研究分野が好きで面白いと思い、やる気が出ることが重要です。研究って楽しくないといけないと思うので、自分の意志とは別に研究テーマを変えなくてはいけないときも、降ってきた仕事をなんとか自分の土俵に引き入れて楽しくし、なんとか自分の周りにその環境を作ることが大切ですね。

(取材日2009年9月、広報情報室)