メッセージ

求む、女性(あなた)の視点

(独)農業環境技術研究所 理事長
佐藤 洋平

食の安心・安全に対する社会の関心が高いなか、安全な食料を生産するための農業環境を維持することが農環研のミッションです。このミッション達成のために、安心・安全に対するセンシビリティーが高い  「女性のセンス」  がとても大事だと考えています。
近年、生物の多様性が注目されていますが、研究者の集団でも多様性が大切です。「異なる人たちの集まりの方が、どんな一人の専門家よりもはるかにいい答えを出す」ことが科学的にわかってきました。これは視点が違うためです。専門が違うと見方が違います。さまざまな異なる見方をすることによって新しい解の方向、アプローチの方向が見つかるのです。農環研は、幸いにして色々な専門分野の研究者がいます。女性を増やし、さらに多様な人たちで議論して研究に取り組んでほしいと思っています。 
研究者は、指導者に恵まれれば育つものです。このプログラムでは、指導される若手研究者と、指導者としての女性研究者双方のスキルアップをめざします。活力ある女性研究者が増えることにより、農業環境研究の成果が上がり、国内のみならず海外における環境の改善に貢献できれば幸せです。

さらに聞きました

  1. 女性研究者のスキルアップを図ることが、女性研究者を増やすことにつながるのですか?
  2. 「双方向」にスキルアップするとは?
  3. 農環研の女性研究者の仕事ぶりについてどう思いますか?
  4. 多様性な研究者を生かすために何か気をつけていますか?
  5. 農環研の研究環境について、どう思いますか?
  6. ご自身の研究者生活を振り返って、大切なことは何だと思いますか?
  7. 研究者を続けてこられて良かったですか?
  8. ご自身は研究中心でこられたそうですが、研究と家庭の両立は可能でしょうか?
  9. 研究者を目指す若い人にアドバイスはありますか?
女性研究者のスキルアップを図ることが、女性研究者を増やすことにつながるのですか?[戻る]

研究所の女性研究者の割合は現在12%で、それを30%まであげることが最終的な目標ですが、ポスドクの女性比率はすでに3割越えており、そういう意味ではすでに目標を達成しています。けれども、正職員を採用する時には、応募する女性が少なく、応募があっても競争的条件で女性の採用が増えないのが現状です。この状況を打ち破るために、ポスドクの女性研究者にも、正規の女性職員と同じようにスキルアップのためのチャンスを与えようというのがこの双方向プログラムです。女性職員とポスドクが一緒に研究しながら、指導する側と指導される側の両者が能力アップを図り、結果として、女性が正規職員として採用される可能性が高まればいいと考えています。

「双方向」にスキルアップするとは?[戻る]

研究所の女性研究者がメンターとして、ポスドクなどの支援研究員を指導する立場になります。支援研究員は、メンターが研究する時に何を考え、どのように行動するかを、見よう見まねで把握し、「ものの見方や考え方」を学びます。メンターは、自分はモデルにならなくてはいけないという意識を持って、それぞれのスタイルで研究する。その時の基礎は、自分はこういうことをやって行くという志です。それが、自然に伝わるような研究環境だと、若い人たちも育ち、ぐっと良くなります。指導される側が学ぶのはもちろん、指導する側も指導しながら自らが学ぶ、そのような意味で「双方向キャリア形成プログラム農環研モデル」と名付けました。

農環研の女性研究者の仕事ぶりについてどう思いますか?[戻る]

とてもアクティブです。若い世代では文部科学大臣表彰をもらえるような非常にいい仕事している女性もいます。前の理事は女性でした。現在は管理職の女性がいないのが残念ですが、優秀な人たちがたくさんいますから、当然いずれは管理職につくと思っています。

多様性な研究者を生かすために何か気をつけていますか?[戻る]

不幸にして人間というものは、同じような意見の仲間が集まるのは非常に居心地がいいですよね。放っておくと同じ意見の仲間が集まってしまう。そこで私の立場としては、「それではダメだよ!」と言わなくてはなりません。そうしないと、せっかく多様であるにもかかわらず、いつのまにか同じ者が集まってしまう。研究所では、多様性が力を発揮することをみんなが理解できるよう、実際にそういう体制を作っています。お互いの意見を出し合い、お互いに理解しあい進めて行く、人とのコミュニケーションやつきあい方が大事になります。

農環研の研究環境について、どう思いますか?[戻る]

私は大学の若い研究者達に会うと、必ず「君!業績あげたければうちにおいで!!」と言います。研究をしたければ、大学よりもここの方がはるかに環境がいいですよ。研究費はきちんと用意され、研究スペースもあり、設備もいいです。大学では若い人は、雑用でこき使われてしまいますが、ここは若い人に雑用を与えたりしません。管理職は忙しいけれど、それ以外は研究だけやればいいのです。5年いれば、絶対にこちらの方が業績があがります。業績をあげて大学へ戻ればいいのです。

ご自身の研究者生活を振り返って、大切なことは何だと思いますか?[戻る]

研究者に限らないと思いますが、一番大事なのは志を高く持つということです。志を低くしてしまうと、研究なんていい成果は出ないと思いますし、難しい問題は避けてしまいます。
誰でも職業を選択した時には、それなりの志があったと思います。たとえば、「私はこんな研究者になりたい」、「科学の進歩に役立ちたい」、「人類を救いたい」など、研究者としての道を選んだ時に持っている根拠みたいなものです。私だったら「世の中の問題を解決したい」です。そのような非常に漠然としたものですが、それを忘れてしまうと、イージーゴーイングになり、低い所で満足してしまいます。

研究者を続けてこられて良かったですか?[戻る]

良かったと思います。私は、大学を卒業する時に自分が研究者になる能力があるかと迷い、指導教官に相談しました。「君、能力があるかないかは5年やってみないとわからないよ」と言われ、それでドクターまで進み、結果としてこういう職業になりました。 研究といっても大きく分けて二つあります。ひとつは、「これが知りたい!」、「これはどうして?」という興味や好奇心でやる研究です。私の研究は、もうひとつの問題解決型で、「君、世の中の抱えている問題を解決しないといけないよ」、「問題解決するのが君の仕事だ」と教えられてきました。問題が解決できると世の中は良くできましたと手をたたいてくれるわけです。それで私自身は役立ったと嬉しくなります。問題解決できないと落ち込んでしまいますが、難しければよしやろうとチャレンジする。 そういうことの繰り返しで楽しく研究を続けてきました。

ご自身は研究中心でこられたそうですが、研究と家庭の両立は可能でしょうか?[戻る]

研究テーマによるのではないでしょうか。実験系で時間かかる有機化学や生命科学は、難しいでしょうか。いろいろな研究のパターンがあり、共通にこうすればいいというものはないでしょう。
勤務時間という概念は、研究者にはありません。研究所にいないから勤務時間じゃないかといえばそうでもないですよね。365日頭の中は動いていて、とんでもない時にアイデアが浮かんだりします。それはその事をいつも考えているからです。ここも早く裁量労働制にしたいと思っています。子育て期間中に自宅で働く、在宅勤務も取り入れたいですね。女性が持っているハンディはなんとか軽くしたと思います。

研究者を目指す若い人にアドバイスはありますか?[戻る]

やっぱり、基礎力が第一です。研究者になるまでの過程で、いかに自分の取り組もうとする分野に関して、専門基礎的なことをきちんと身に付けるとかということが大切です。
それ以外の能力では、考え方や現象を見る見方が非常に大事です。それは、本を読めば身につくわけでもなく、教えられてもなかなか身につくものではありません。非常に重要だけど、身につける方法は決まっていない。これらは、先輩研究者から学ぶしかないです。私は幸いに、非常にいい先生に恵まれたと思っています。先生は、物の考え方や現象のとらえ方というものを、ゼミや教室ではなく、カウンターでお酒を飲んで、雑多な話をしながら教えてくれました。先生と接する中で学んでいったわけです。

(取材日2010年2月、広報情報室)