複雑な生態系の中に単純な仕組みをさがす



大浦 典子 さん

物質循環研究領域
主任研究員

農地管理と土壌から出る温室効果ガス

現在、どんな研究をしていますか?

農業現場では収穫後の植物体やたい肥を畑にすき込む農地管理が行われますが、 管理方法によって、農地から大気中へ出る温室効果ガスがどう変わるかを、物質循環の考えから調べています。

植物体やたい肥などの有機物には炭素や窒素が含まれ、すき込むことで土壌に入ります。 土壌に入った有機物は微生物により分解され、炭素は二酸化炭素(CO2)として大気中に放出されたり、 完全には分解されずに土壌中に残ったりします。一方、窒素は根から植物に吸収されますが、 一部は温室効果の高い亜酸化窒素(N2O)となり、大気中に出てしまいます。 私は、畑から出るCO2やN2Oなどの温室効果ガスを測定し、それを削減できるような農地の管理方法を探っています。

実は、私が農耕地で温室効果ガスの測定を始めたのはつい最近で、それまでは、森林で窒素の循環を研究していました。 都市近郊の雨には、化石燃料の燃焼などによってできた窒素酸化物が多く含まれています。 そのような窒素の濃い雨が森林に降り続けると、畑と同じようにN2Oが出たり、 森林が吸収できない窒素が地下水に流れ出たりすることがあります。


何が起こっているのかを科学的に調べたい

研究者になったきっかけは?

大学時代は理学部の生物学科で、展葉や落葉など、植物の季節による反応について、 生態学的な観点から調べていました。 その頃、環境問題を取り上げたテレビ番組に影響を受けて、 卒業後は環境問題に取り組む公務員になりたいと思いました。 行政職も考えましたが、問題解決のためには、 何が起こっているのかを科学的に調べることが大切だと思い、研究職を選びました。

農林水産省に入ったのはなぜですか?

当時、肥料のやり過ぎで地下水を汚染したり、 収奪的な農業で農地が荒廃したりすることが問題になっていました。 農耕地は人工的な環境ですが、多くの生きものが相互に影響しながら生息する生態系です。 問題解決のためには、農耕地でも自然の機能を生かすことが重要だと考え、 理学部で生態学を学んだ自分が農林水産省に入る意味を感じました。

複雑な生態系の中に単純な仕組みをさがす

思いをかなえて農環研に就職したのですね。

はい。もともと、社会のために役に立つ仕事をしたい気持ちがあったので、 その時々に与えられた仕事をこなしてきました。 そんな中で、自分が研究に取り組む視点は、いつも変わらないことに気づいてきました。

生態系はとても複雑です。そこには、効率の悪そうな生物が生き残っていたり、 いつもは弱いのに環境が変化すると目立つものがいたりと、 多くの生きものがお互いに影響し合いながら変動しています。 それでいて、生態系はいつも一つのまとまりを持って機能し、存在している。 本当に不思議です。少しでも理解したいと考えるとき、私の関心はいつも、 生きものの営みの背景にある物質の循環に向けられます。 複雑な中に単純な仕組みをさがす視点は、昔から変わらないですね。

そこに研究の魅力がある?

はい、研究していると、いろいろな発見があります。 モヤモヤしていたことが、ちょっとでもはっきりすると、楽しいですね。 私はどちらかというと、こつこつとデータを取るのが好きです。 見ているだけではわからなかったことも、測ってみるとわかる。 精度良いデータが集まると、ある程度のことがわかり、そしてまた違うことを調べる。 それらが、つながって理解できたときはとてもうれしいです。

研究に行き詰まったときは?

ずっと考える、それでもわからなければ置いておきます。 すると、違う方向からのアプローチが出てくることがあるんですね。 わからないことは、強引に結論づけないで、頭のどこかに置いておくことも大切だと思います。

農環研モデル(女性研究者支援事業)の担当者になって

大浦さんは、農環研モデルの事務局を担当されましたが、担当して良かったことやうれしかったことを教えてください。

この事業で様々な支援方法が試され、多くの女性研究者が活用してくれました。そしてなかには、大きな予算を獲得したり、賞を受けたりする方もいました。これが事業の成果とは言いませんが、女性って、応援されるとよりがんばれるのかなあとは思いました。支援がなくてもがんばっている人はいますが、支援があることで子育ての時期などをうまく乗り切れれば、女性が活躍する場面が増えると思います。

子育て中には、支援研究員制度などは助けになるでしょうね。

そうですね。私の場合は子育て時期が早かったので、研究が忙しい時期と重なりませんでしたが、今は、出産が遅くなっており、責任ある部門を担当しながら出産・子育てということになりがちです。そうなると、やはり切実だと思います。時間の制限がある中で、実験もマネジメントもやらなきゃいけない、支援研究員が実験をしてくれることで、少しでも、落ち着いて考える時間が増えればよいと思います。

他に良かったことはありますか。

サイエンスカフェや出前授業の事前練習で、事務局や広報の担当者が一緒にプレゼンの仕方を検討したことは、よい経験になりました。研究者は、みんなで一つのプレゼンを作る機会があまりありません。わかりやすく伝えるためにどうすればよいかを、他の人と一緒に検討するのは勉強になりました。研究者は自分の研究の世界に入り込んでいるので、一般向けのプレゼンをすると視野が広がります。

事務局の仕事に熱心に取り組んでおられましたね。

自分が子育てをしているときは、身近に子育て中の研究者がいなかったので、取り残されているような気持ちもありました。そんな気持ちを整理したいと思い、この仕事に取り組みました。仕事をする中で、若い女性の意識が変わってきていることを実感します。仕事か家庭かではなく、仕事も、結婚や子育ても、両立したいという人が多いです。がんばってもらいたいし、それが選択できる職場環境に近づけるため、私たちがやらなければならないことは多いと改めて思いました。

私自身は子育てが終わり、今は多くの時間があります。子育て時期の経験をプラスに変えられるよう仕事に取り組みたいと思います。

(取材日2011年11月、広報情報室)