研究者へと導いた「林」との出会い



浦川 梨恵子さん

物質循環研究領域
農環研特別研究員(ポスドク)

農業が霞ヶ浦を汚染する危険

現在、どんな研究をしていますか?

農業で使う肥料が霞ヶ浦を汚染する危険がどのくらいあるかを 調べています。
田んぼや畑でまいた肥料は、水に溶けて土の中を移動しますが、水の流れは土の種類や気候によって変わります。それをモデルを使って予測し、肥料の流れやすさを示す地図を作ろうとしています。

日々の研究の様子

ほとんどが部屋でパソコンをいじっています。データを集めるのが半分、モデルを動かすのが半分です。モデルはだいたいアメリカなど外国でできたもので、日本とは土壌が違うため、計算がうまくいかず途中でパタッと止まることもあるんです。それがどうしてかを探して微調整するのがけっこう大変です。

やっては修正やっては修正というふうに、少しずつ進めるんですね?

ええそうですね。その都度、ああそうか、ああここかっていうことがあって。実は、去年までは森林の研究をしていて、山に入って試料を取って分析してといった仕事でした。こういう仕事は初めてで、ちょっと新鮮な空気を味わっています。

森林の研究から転向

ドクター論文では、渓流や土壌中の水質が、森林伐採後どう変わるかを研究していました。
同じ水でも、渓流の水と土壌の浅いところの水では性質が全然違っていて、表層の水は窒素が多く酸性ですが、川の水は中性に近く水質はいつも一定です。地下にしみ込んだ水がきれいになることは分かっていても、土の中で何がどのくらい起こっているかは全然わかりません。それを知るためにモデルを使おうと思い、今の上司と知り合い、ここに来ることになりました。出会いがあったんだなって思いますね。

「林」との出会い

研究者をめざしたきっかけは?

やりたいことをやらせてもらえる環境があって、続けてきたらここに来たという感じですね。
中学・高校時代に草や花を育てるのに夢中になりました。ちょうど環境問題が話題になっていて、「CO2を固定するのは森林だ」と思って森林学科をめざし、人工林の栽培方法を研究する研究室に入りました。
森林で起こることは時間が必要で、木が一本大きくなるのに50年くらいかかります。
ちょうど私が研究室に入ったときに、長いあいだ調査していた林を伐採することになり、私は、水質、他の同級生は、土の微生物やCO2の発生について、切る前の状態を調べるところから研究が始まりました。

「伐採に当った」のがひとつの転機だったんですね。

それが「林」との出会いでした。切るのにはタイミングがある。私は、そのタイミングにうまく立ち会えたんですね。
森林を切ると、葉っぱに覆われていた土が日差しにさらされるようになりますから、起こる変化は大きい。ところが渓流の水質は、伐採して1年経っても2年経っても3年経っても変わらない、特徴が現れるまでに5年くらい必要でした。それを学部からドクターまで見てきたら、「ああ、こういうことだったんだ」とようやく分かった。そうやって続けてきたら、研究者の卵と言われる人になっていました。
「林」を流れる時間の遅さ、ゆったりしたところにあこがれたんでしょうね。

壁にぶつかったとき

先輩として後輩にアドバイスはありますか?

思い返すと、とにかく地道にやることが重要だったと思います。壁にぶつかったときに、これさえやれば大丈夫という解決策は少なくて、とにかくコツコツとやることが重要だった気がします。地道にやることが最終的には一番良い解決策で、最初はちょっと時間がかかるかなと思うかも知れないけれど、振り返ってみれば、それだけの時間が必要だったとわかる。それに、それがその後の自分の自信や技術の蓄積になるわけですから。

壁にぶつかったときには何をすればいいか分からないですよね。

どうしようもなくて私がやったのは、今まである教科書を全部読んでみたことです。図書室で土壌学の本を隅から隅まで。そうすると、土壌一般からすると些細なことだけど、日本の土壌では特徴的なことに気づいたんですね。それを証明するために文献や教科書を読んで、必要な実験をして・・・。そういったステップを積んでいくことが、具体的な地道な作業です。
すごく大きな壁だと思ったんですが、振り返ってみれば、乗り越えられたことが大きな自信になっています。

森林の大切さを根拠のある数字で示したい

夢を教えてください。

山が好きです。特に川の水って、ちょっとやそっといじっても本当に変わらないんですよ。その懐の深さというか、緩衝力の強さがどうやって発揮されているのか知りたいですね。畑や田んぼの研究は山よりもレベルが高いので、ここで技術を盗んで山に帰りたいです。
日本の国土の三分の二は森林ですが、お荷物だと考えられている面があります。人工林って暗いイメージがするんですけど、ちゃんと手入れをしている林はすごくきれいです。「森林はこれだけ良いことやっている」ということを根拠のある数字で示して、みなさんに、「それじゃあ、世話にお金がかかるのはしょうがない」と思ってもらえるようにしたいですね。

(取材日2009年9月、広報情報室)