平成20年度 研究成果報告
担子菌によるwhole cropの直接エタノール発酵技術の開発
(独)農研機構 食品総合研究所 食品バイオテクノロジー研究領域 生物機能利用ユニット
(独)農研機構 食品総合研究所 食品工学研究領域 製造工学ユニット
秋田県農林水産技術センター 総合食品研究所
東京農工大学 大学院 共生科学技術研究院 環境資源共生科学部門
富山県農林水産総合技術センター 森林研究所 森林資源課
概要
バイオマスを原料としたバイオエタノール生産プロセスでは、酸または酵素糖化後に酵母で発酵させる方法が主流である。しかしながら、特にリグノセルロースバイオマスを原料とした酵素糖化法では、酵素の価格が高く、製造コストが高いことが問題となっている。担子菌類の多くは木材腐朽菌として知られ、リグノセルロースバイオマスの分解性に優れた能力を有している。また、中にはエタノール発酵能を有する菌も存在することから、リグノセルロースを原料として、糖化・発酵を同時に行い、直接エタノールを製造できるプロセスを構築できる可能性がある。
そこで、我々は食用キノコの一種であるエノキタケFlammulina velutipesに着目し、そのエタノール発酵能について解析した。複数のエノキタケ野生株について、セルラーゼ生産性とエタノール発酵能を比較し、どちらの能力にも優れたFv-1株を選抜し、各種糖類を原料とし、Fv-1株のエタノール発酵能の解析を行った。
その結果、Fv-1株はグルコース等単糖だけでなく、マルトース、セロオリゴ糖からも高い効率でエタノールを生産できることが明らかとなった※。
※特願2009-19243, 論文投稿中
エノキタケにおけるエタノール・糖質加水分解酵素生産性の比較

発酵14日目におけるグルコース{10%(w/v)}からのエタノール生産性

培養6日目における培養上清のavicel (セルラーゼ),およびXylan(キシラナーゼ)の分解活性 1U=1分間に1mmolの糖を遊離した酵素量
◇エタノール・酵素生産性両方の能力に優れたFv-1株を選抜。
Fv-1株によるエタノール発酵能
<グルコースのエタノール発酵>
グルコースから88%の高いエタノール変換率を示した
<セロビオースのエタノール発酵>
グルコースと同様高いエタノール変換率
<セロトリオースのエタノール発酵>
<セロテトラオースのエタノール発酵>
◇セロビオースだけでなく、セロオリゴ糖も高いエタノール生産能を有している。
<各種糖類のエタノール発酵能>
◇エタノール発酵において、グルコースの他にも2糖類など多様な基質
特異性を有しているが、ペントースからのエタノール生産能は低い。
まとめ
エノキタケFv-1株は、エタノール発酵において多様な基質特異性を有している。さらに、糖質加水分解酵素を生産・分泌できることから、今後更なる研究により次世代バイオエタノール生産プロセスである糖化発酵同時進行(CBP)への活用が期待される。