平成22年度 研究成果報告
バイオエタノール生産統合化技術の開発
・Aチーム(農研機構 食品総合研究所 糖質素材ユニット長 徳安 健)
当チームでは、我が国において戦略性の高い、稲わら、麦わら、サトウキビ、ソルガム、バレイショ、カンショ及びテンサイを
原料として、100円/L程度でのエタノール製造が可能となる変換プロセスを構築するため、食品総合研究所を拠点として、要素変換
技術の開発とそれらの連結・統合を行っている。平成22年度には、原料特性に対応した4つの変換工程(DiSC法、CaCCO法、LTA法及
びCARV法)の提案を行うとともに、試作プラントにおけるベンチスケールでの試験を行い、問題点を抽出した。また、各変換工程
に対応した酵素生産・利用技術の高度化や、プロセスコスト、エネルギー効率や環境負荷の評価を行った。
易分解性糖質蓄積稲わら変換技術の統合・最適化
稲わら稈部の易分解性糖質に注目した直接エタノール発酵技術 -DiSC process-
・A210(独)農研機構 食品総合研究所 徳安健、朴正一
稲わらには、品種・栽培法などにより違いはあるが、繊維性多糖のほかに、ショ糖、澱粉等の易分解性糖が存在していることが
少なくない。易分解性糖質は、発酵性糖質であるブドウ糖や果糖を容易に提供できることから、稲わら中のセルロースから得られ
るブドウ糖とともに回収することにより、効率的な変換工程が完成するものと考えられる。本課題では、これらの糖質が稈部に多
く存在することを確認するとともに、機械的処理による稈部分離方法の開発にも成功しており、DiSC法
(Direct Saccharification of Culms process、稈部直接糖化法)としての完成を目指して検討を進めているところである。
通常稲わら・麦わらの変換技術の統合・最適化
稲わらからのバイオエタノール実用生産のための新たな前処理法の開発 -CaCCO process-
・A220(独)農研機構 食品総合研究所 徳安健、朴正一
稲わらをはじめとする多様な草本系バイオマスに適したバイオエタノール製造前処理法として、低環境負荷・低コストなプロセス
(CaCCO法、Calcium Capturing by Carbonation process )を開発している。本法は、水酸化カルシウム処理後、糖化・発酵時に中
和剤として発酵槽などから発生する二酸化炭素を利用することを特徴とする。本法は、前処理時に稲わら仕込み濃度が高いとその効
果が向上すること、そして室温処理でも前処理効果が十分発揮可能な点から期待されている。現在、高濃度仕込みによる5%(w/v)以
上のエタノール生産系を構築しつつあり、ベンチプラントを活用しつつ変換効率データを取得しているところである。
遺伝子組換え酵母によるグルコース・キシロースの効率的発酵技術の開発
・A220-2 (独)農研機構 食品総合研究所 榊原祥清、王暁輝、徳安健
高温でキシロース・セロビオースを発酵する酵母の開発
前処理をした稲わらからバイオエタノールを作るには、糖化と発酵というプロセスが必要になります。「並行複発酵」はこの2つの
プロセスを同時に行う方法で、高いエタノール収率を得るのに優れた方法なのですが、問題点もあります。酵母の生育によってグル
コースだけでなくキシロースやセロビオースといった糖も生じてきますが、通常の酵母はグルコース以外の糖を発酵することができ
ません。そこでこの研究では、並行複発酵を効率的に行うために、通常の酵母よりも高い温度でもエタノール発酵が可能な酵母
(NFRI 3163)を、遺伝子組換え技術を用いて改良し、酵素活性の低下が比較的少ない40℃で、グルコースに加えキシロースやセロビ
オースからもエタノールを作ることができる酵母を開発しています。
サトウキビ・ソルガム変換技術の統合・最適化
LTA(Low temperature alkali) process の開発
・A230(独)農研機構 食品総合研究所 徳安健、武龍
高糖性原料からの実用性の高いバイオエタノール製造技術として、搾汁後のバガスを常温アルカリ処理することにより高度に脱リ
グニンを行い、セルロース精製後に効率的な酵素糖化を行うことを特徴としたLTA法(低温アルカリ法)の開発を行っている。この
処理後に得られる繊維質の酵素糖化効率は90%以上となり、搾汁液と糖化液を混合し、通常の酵母を用いてエタノール製造ができる。
双子葉系原料の変換技術の統合・最適化
Mix-CARV法(北海道型)の開発
・A240(独)農研機構 食品総合研究所 徳安健、ユン ミンスウ
テンサイとバレイショを併用するバイオエタノール製造技術「Mix-CARV法」の開発を行っている。本研究では、テンサイ・バレイシ
ョの両磨砕物を混合し、CARV(Conversion After Reduction of Viscosity)法を用いて粘性低下処理と澱粉液化・並行複発酵を行う
ことにより、テンサイの単独使用時に必要なシックジュース調製工程を省くとともに、簡素な設備で高濃度のエタノールを生産できた。
本技術の開発により、北海道の大規模輪作地域を中心としたテンサイ産地において、製糖用途に供されない余剰テンサイを吸収できる、
新たな変換工程を提供することが可能となる。
双子葉系植物バイオエタノール抽出残渣のサイレージ調製
・A240-2(独)農研機構 畜産草地研究所 蔡義民
バイオエタノールの原料となるサツマイモ、ジャガイモおよびテンサイなどの双子葉植物にはエタノール抽出後も、エネルギー、
繊維、タンパク質類などの栄養成分が多く含まれている。これら残渣は腐敗しやすいため、乳酸菌とビートパルプなどの混合調製では、
サイレージの発酵品質は改善された。さらにビートパルプ、チモシー乾草、濃厚飼料および抽出残渣を配合したTMR発酵飼料では良質な
サイレージが調製された。サツマイモ、ジャガイモおよびテンサイを利用したバイオエタノール抽出残渣の粗タンパク質が31%と高くて、
可消化養分含量は47〜57%と牧草並みであり、反芻家畜の飼料として充分に利用できると考えられる。
バイオエタノール発酵廃液に含まれる生物生産に有効な成分の把握及び圃場還元による有効利用法に関する研究開発
・A241 帯広畜産大学 谷昌幸
バイオエタノールを製造した後に残る発酵廃液には、窒素、リン、カリウムなど生物生育に欠かせない肥料成分が多く含まれる。
本研究では、廃液に含まれる肥料成分や有機成分の含量や分解特性などを調べるとともに、栽培試験により作物の生育や養分吸収量に
及ぼす影響などを調べた。バレイショ・カンショおよびビートなどを原料とするエタノール発酵から得られた廃液には作物が利用可能
な肥料成分が多く含まれ、化学肥料と比べてリンやカリウムの利用効率が著しく高かった。特に、バレイショ由来の廃液と化学肥料を
混合して施肥することにより、作物の生育量が大幅に増加した。最終的には圃場栽培試験による検証により、廃液の循環利用を提案し
たい。
草本系原料の糖化技術総合研究
多様な変換プロセスに対応した糖化酵素の効率的生産システムの構築
・A250(独)農研機構 食品総合研究所 徳安健、池正和
糸状菌Trichoderma reesei M3-1株を用い、可溶性糖質を原料とし、連続フィード培養系によ
る糖化酵素生産を行った(昨年度成果参照)。可溶性糖質2種混合液(グルコース+セロビオース)および3種混合液(グルコース+キ
シロース+セロビオース)を原料として培養を行い、生産酵素活性を比較した。その結果、セルロース分解に関係する酵素群の生産性
はほぼ同等であったのに対し、ヘミセルロース分解に関係する酵素群の生産性は3種混合液を用いた場合が2倍以上高かった。
また、2種混合液を用いて生産された糖化酵素は、前処理物のヘミセルロース含有量が少ないプロセス(LTAプロセス(A230)など)
に、3種混合液を用いて生産された糖化酵素はヘミセルロースも利用するプロセス(CaCCOプロセス(A220)など)に有効であることも
確認した。添加原料の組成やタイミングなど、培養条件の検討・最適化などを行っていくことで、生産酵素群の組成を調節することが
可能となり、多様な変換プロセスに対応した糖化酵素群の効率的な生産が期待される。
微生物による糖化酵素生産条件最適化のための網羅的解析
・A251 東京大学大学院 鮫島正浩
トリコデルマ菌における酵素生産性の向上を目指した誘導物質の探索
糸状菌Trichoderma reesei PC-3-7株とその変異株(M2-1、M3-1、M8-1)において、セルロー
ス系バイオマス中に含まれる糖質や安価な基質を対象に、酵素生産性の向上に資する誘導物質を探索した。
酵母エキスやポリペプトンを含む天然窒素培地では、PC-3-7株において、M3-1株がタンパク質生産性、セルラーゼ活性とともに他の
株よりも高い値を示した。また、尿素を含む合成窒素培地では、PC-3-7株においてキシロースまたはグルクロン酸添加時には、セルラ
ーゼ生産が著しく誘導される事が明らかとなった。
天然窒素培地ではM3-1株の酵素生産性が顕著であり、また、PC-3-7株では、窒素源を比較的安価な合成窒素に置き換え、発酵プロセ
ス終了後に回収可能なキシロースやグルクロン酸を誘導基質として利用することにより、糖化酵素オンサイト生産時にコスト低減に貢
献できるものと期待できる。
結晶性セルロースの効率的糖化技術の開発
・A252 東京大学大学院 和田昌久
アルカリセルロースWへの改変条件の検討と構造安定性
バイオマス中の天然セルロースは、強固な結晶構造をとっており、またその周囲をリグニンやヘミセルロースで囲まれているため、
酵素による糖化効率が極めて遅い。これまでにバガス粉砕物を室温にて高濃度水酸化ナトリウム水溶液に漬けた後に水洗いすると、リ
グニンやヘミセルロースが取り除かれ、さらにセルロースが天然型からアルカリセルロースWに改変することが分かった。そしてこの
アルカリセルロースWへの改変によって飛躍的に酵素糖化効率が向上することが明らかとなった。そこで、1)アルカリセルロースW
への改変条件の検討、2)アルカリセルロースWの構造安定性の検討を実施した。その結果、アルカリセルロースWへの改変には4N
以上の濃度が必要であり、アルカリセルロースWは低温の水中に保管する必要があることが明らかになった。
微生物機能改良効率化のための網羅的遺伝子解析
・A253 長岡技術科学大学 小笠原渉
バイオマスエタノールを作るには、材料となる稲わらなどをまず分解し、糖を作る必要があります。この分解には、セルラーゼなど
の酵素が関わっており、安く効率的に酵素を作ることが求められています。我々は、これらの酵素を作り出すカビのトリコデルマ・リ
ーセイに最も適した培養条件を決めることで培養にかかる費用の削減を試みました。生物が酵素を作るには、その設計図となる遺伝子
を発現する必要があり、今回は遺伝子の発現量を目安に最適な条件を決定しました。その結果、このカビにセルラーゼの生産を促す物
質(セロビオース)の適濃度は、0.5mg/mlあれば十分であり、カビの餌となるグルコース濃度は、20-100mg/mlが適していることが分
かりました。
草本系原料の変換工程解析・評価総合研究
・A260(独)農研機構 食品総合研究所 徳安健、城間力、伊藤聖子
各原料からの発酵性糖質の回収時における制約要因を解明、その問題を解決するための技術を開発するとともに、各課題と連携し、
基質濃度向上、連続化や大規模化に伴う問題点をバイオエタノール製造実証試験ペンチプラント(BEP)等を活用して抽出しています。
これまで、部位ごとに分けた稲わら(cv.リーフスター)の繊維質に対する酵素糖化率の差を解析し、他の部位に対する稈部の優位性
を定量的に確認するとともに(A210と連携)、CaCCO処理した稲わら(cv.コシヒカリ)の酵素糖化液中に不完全に糖化された物質が
存在し、このことが、酵素糖化後の単糖収率を下げている原因となっていることを見出しました。(A220と連携)。また、各課題担
当者と協力し、BEPにおける大規模化、連続化の際の問題点を抽出・解決しています。
コスト、エネルギーおよび環境負荷に関する評価の高度化
・A260-2(独)農研機構 食品総合研究所 椎名武夫、Poritosh ROY
各種バイオマスからのエタノール生産におけるコスト、CO2排出量、エネルギー収支の解析を行っている。H22年度は、チーム内で
開発中の技術である常温CaCCO法をベースとして、文献データ量に基づく改善シナリオを加えて、稲わらからのエタノール生産におけ
るコスト、CO2排出量、エネルギー収支について解析を行った。その結果、新技術の導入(減圧発酵蒸留法)、バイオマスの低コスト
供給などにより、コスト100円/L以下、CO2排出量の削減(対ガソリン比40%程度)の達成が可能であることを示した。
バイオエタノール製造工程におけるコスト・エネルギー評価と重要要因の解析
・A261(株)三菱総合研究所 小島浩司
わが国で適用可能なセルロース系バイオエタノール製造システムについて、一貫システムを想定した場合のコスト、LCA評価におけ
る重要要因(例えば、原料バイオマス組成、糖回収率、発酵効率等)、国内での持続可能性基準を踏まえたLCA評価における重要要因
(例えば、副産物等でのアロケーションの設置等)について整理し、システム化をはかるうえでの課題、対応策を検討した。また、
バイオエタノール生産の統合化技術を評価するため、モンテカルロ法等の感度分析を組み込んだシステム評価モデルを構築した。この
評価システムとして統合化した場合の姿を解析することが可能であり、一連のシステムでの最適化を検討する上で、有効な解析手法と
なることが期待できる。
バイオエタノール製造工程における統合プロセスの解析
・A262 宮城大学 折笠貴寛、矢野歳和
CaCCO法とDiSC法によりバイオエタノールを製造した際の、コスト、CO2排出量およびエネルギー収支について、ライフサイクルアセ
スメント(LCA)手法を用いて解析した。その結果、セルロース糖化に伴う酵素コスト負荷や、変換効率の向上に関する研究の更なる
促進が必要となるものの、CaCCO法とDiSC法はCO2削減効果を有し、且つエネルギー収支がプラスになるバイオエタノール製造法として
期待されることを示した。また、バイオマス輸送の最適条件の検討に有用な稲わら輸送時におけるCO2排出量モデル式を構築した。本
モデル式を用いることにより、バイオマス輸送に伴うCO2排出量の予測が可能となった。