平成22年度 研究成果報告
バイオマス変換要素技術の高度化

セルロース系バイオマスから一工程でエタノールを生産するプロセス構築へ
・Cチーム(農研機構 食品総合研究所 食品バイオテクノロジー研究領域長 矢部 希見子)
セルロース系バイオマスから一工程でエタノールが作れる次世代バイオエタノール生産プロセス「糖化発酵同時進行(CBP)」の構築を目指しています。
食用キノコであるエノキタケの野生株Fv-1株は、ごく少量の糖化酵素を添加するだけで、前処理稲わらを効率的にエタノールに変換できることを既に明らかにし
ていますが、糖化酵素使用量ゼロを目指し、新たにTrichoderma reesei 由来のセロビオハイドラーゼ
(CBHI )を形質転換したエノキタケを作出しました。CBHI 発現株では、添加糖化酵素をゼロにした場合においてもライム前処理稲わらのエタノール変換
率が野生株に比べ大幅に向上することが確認でき、今後、多様な形質転換エノキタケを作出し利用することで、安価にエタノールを作れるようになると期待されます。
担子菌によるwhole cropの直接エタノール発酵技術の開発
・C010(独)農研機構 食品総合研究所 金子 哲
エノキタケFv-1株を用いた連結バイオプロセス(CBP)によるエタノール製造へ向け、イナワラのライム前処理、高濃度バイオマス条
件下でのCBPの検討を行った。ライム前処理の成分分析を行ったところセルロースが約41%、ヘミセルロースが約14.8%であり、大量の
市販糖化酵素を用いて糖化率を評価したところ、最大糖化率は82.7%であった。この材料を高濃度バイオマス条件下でエノキタケによるエタ
ノール変換を行ったところ、10mg/g生成糖相当の糖化酵素を添加した場合に0.15g/g乾バイオマス相当のエタノールが生産された。この量
はライム前処理イナワラに含まれる総ヘキソース量に対して回収率70%であり、前処理物の最大糖化率が82.7%であることを考慮するとエ
タノール変換効率は82.7%と非常に高い値となる。
エノキタケFv-1株を用いたCBPにおいては、糖化酵素使用量を大幅に抑えることができるが、糖化酵素使用量ゼロを目指し、
Trichoderma reesei 由来のセロビオハイドロラーゼ(CBHI)を形質転換したエノキタケを作出
した。CBHI発現株では添加糖化酵素をゼロにした場合においてもライム前処理したイナワラのエタノール変換率が野生株に比べ大幅に
向上しており、今後、安価なエタノール製造が可能になることが期待される。
バイオマスに含まれるリグニンの微細構造の解析とリグニン分解酵素の探索
・C011東京農工大学 福田清春
近年,我が国では資源作物として一年生の草本系バイオマスの一つであるソルガムが注目されている。ソルガムには天然に存在する
ものの他に,消化性が高い変異株(bmr株)が存在する。両者の違いはリグニンと呼ばれる構成成分の構造にあると考えられていること
から,両者のリグニン構造の差異を明らかにするため研究を行った。その結果,両者のリグニン構造には違いがあることが明らかにな
った。また,消化性の高いbmr変異株にのみ特徴的なリグニン構造が存在することが明らかとなった。この構造の違いに基づくソルガム
糖化プロセスを開発することで,ソルガムの効率的な糖化技術が開発できる可能性がある。
糖質加水分解酵素を蓄積するエノキタケの菌床培養法の開発
・C012富山県農林水産総合技術センター 森林研究所 高畠幸司
放線菌S.fradiae, S.rimosus, S.griseochromogenes
の3種を用いて,エノキタケFv-1をコーンコブ・米ぬか培地に無殺菌で接種して培養したところ,放線菌S.rimosus
とエノキタケを接種し,5,10℃で培養すると培養基内に雑菌が繁茂することなく,エノキタケを培養できる方法を開発した。また,放線菌とエノキタケとの無殺
菌培養において,培地にカラマツ水抽出物を1〜2%添加することにより,エノキタケ菌糸体が速やかに蔓延して子実体を形成し,糖質分解
酵素の活性が高くなった。
代謝工学によるwhole cropの直接発酵に適した担子菌の開発
・C020(独)農研機構 食品総合研究所 金子 哲
エノキタケFv-1株のgpd promoter・terminator配列を持つ組換え用ベクター、pFvGを作製した。選抜マーカーであるEscherichia coli hph
(hygromycin B phosphotransferase)gene を用いることでgpd promoterの評価を行い、以前取得したtrp promoterよりも強い発現量を得る
ことが可能であることを確認した。このgpd promoterを用いてエタノール発酵関連遺伝子をFv-1株へ導入した変異体を作製し、ペントース
からのエタノール発酵能を評価した結果、最大で35 %のペントース変換率を示す株を取得することに成功した。また糖加水分解酵素をコー
ドしている遺伝子をFv-1へ導入したところ、WTと比べ高い活性が認められる変異体を取得することができた。
さらに今後Fv-1を用いたエタノール発酵の効率化を目指すためには、Fv-1のエタノール発酵におけるペントース代謝関連遺伝子や嫌気応答
遺伝子の挙動を知る必要がある。そこで二次元電気泳動・RT-PCR, メタボローム解析を開始した。これらの結果をゲノム情報とあわせるこ
とで、改良すべきポイントを明らかにすることが期待される。
エノキタケの生産する糖質加水分解酵素の網羅的解析
・C021東京大学大学院 農学生命科学研究科 鮫島 正浩、五十嵐 圭日子
炭素源としてセルロースを含む液体培地においてエノキタケを培養し,得られた菌体外タンパク質を二次元電気泳動法により分離して,相同
性検索によるタンパク質機能の予測を行った。
その結果,糖質加水分解酵素(GH)ファミリー7やファミリー6のセロビオヒドロラーゼに代表されるセルロース分解系の酵素の他,キシラン
分解系やガラクタナーゼなど多様なヘミセルラーゼが同定された。さらに,セロビオース脱水素酵素やセルロース結合性ドメインを有する
機能未知タンパク質も同定された。
エノキタケにおけるバイオマス分解酵素の網羅的な情報が得られたことから,エノキタケを用いたバイオマス糖化の効率化への貢献が期待される。
エノキタケの糖質加水分解酵素の発現応答と制御システムの解析
・C023長岡技術科学大学 小笠原渉
エノキタケを用いてより効率的な糖化発酵同時進行プロセス(CBP)を構築するためには、リグノセルロース分解酵素群の生産制御機構の解明
と炭素源異化抑制の解除が必須の課題である。本年度においては、次世代シーケンサーを使用した全ゲノムおよびcDNA配列の網羅的な再配列決定
に着手すると共に、推定遺伝子のアノテーション解析を行い、エノキタケゲノムデータベースの高精度化を行った。また、昨年度に開発したマイ
クロアレイを用いてリグノセルロース分解酵素群の遺伝子発現解析を行い、セルラーゼおよびキヘミセルラーゼ遺伝子群の生産制御を明らかにし
た。さらに、推定炭素源異化抑制因子のクローニングとその遺伝子発現抑制株の構築を行い、いくつかの遺伝子組換え体を取得することに成功した。
酵素複合体(セルロソーム)の特徴を最大限に生かした糖化技術開発
嫌気性好熱性細菌Clostridium thermocellum が生産する「酵素複合体(セルロソーム)」 は多様な触媒機能と基質結合能を有する糖化活性の高い糖化酵素で、他の好熱性細菌が生産するβグルコシダーゼと一緒に用いることで効率的な糖化が可 能であることを既に示しています。酵素複合体はセルロースに結合しますが、βグルコシダーゼは結合できないため、βグルコシダーゼの構造を改変(セ ルロース結合モジュール(CBM)を融合)しセルロースに結合できるようにしました。その結果、酵素複合体と改変βグルコシダーゼの繰り返し利用が可能 になり、エタノール変換の低コスト化が期待できます。
酵素複合体を活用したリグノセルロース系バイオマスの効率的糖化技術の研究開発
・C040(独)国際農林水産業研究センター 小杉昭彦、森隆
本研究課題では、糸状菌酵素とは異なる酵素開発を目指し、一部の嫌気性好熱性細菌が生産するセルロソームと呼ばれるセルラーゼ・ヘミ
セルラーゼ酵素複合体を用いた高効率リサイクル糖化技術の開発を目的にしています。セルロソームの最大の特徴は骨格タンパク質を介し
バイオマス分解に必要なセルロース、ヘミセルロース分解酵素がワンセットとなり巨大な酵素複合体を形成していることです。さらに非常
に高効率な糖化能を有していることが知られています。従って、稲わらなどのリグノセルロース系バイオマス分解に適した高活性セルロソ
ームの作出や繰り返し利用可能なセルロソーム再利用技術開発を行うことで低コスト、高効率化を目指しています。
発酵(エタノール生産)過程における発酵効率の向上
酵母の再利用を可能にするため、アルギン酸カルシウムゲルを担体とした固定化酵母を作り、セルロースの同時糖化発酵におけるエタノール生産および糖化 効率を調べました。その結果、固定化酵母を利用することでセルロースの同時糖化発酵における糖化速度が向上し、これにより発酵時間の短縮の可能性が示 唆されました。
阻害物質耐性の向上及び発酵阻害物質の制御によるバイオエタノール発酵過程の効率化及び低コスト化に関する研究
・C050(独)農研機構 食品総合研究所 中村敏英、安藤聡
バイオエタノール製造における発酵工程の効率化・低コスト化を目的として、エタノール発酵を阻害する因子に耐性を有する酵母の発酵試験
および育種を実施した。本年度はセルロースの高温同時糖化発酵に有用な高温耐性呼吸欠損変異株Cgrd1株のエタノールに耐性を強化した
CgrdN10株を作成し、エタノール生産量を向上させることに成功した。また、固定化酵母を利用することでセルロースの同時糖化発酵における
糖化速度の向上、発酵時間の短縮の可能性が示唆された。さらに、バレイショからのエタノール生産に優れている酵母NFRI3225株については、
エタノール耐性株との細胞融合を行うことで連続発酵が可能となり、実用的酵母株の育種に成功した。
新規高機能型発酵阻害因子耐性酵母の分離・育種と様々な糖化手法への適用
・C051京都大学微生物科学寄附研究部門 島 純
稲わら等の未利用バイオマスや資源作物からのエタノール生産プロセスにおいて、発酵を行う酵母には、様々な発酵阻害ストレスが負荷される。
そこで、発酵阻害ストレスに耐性を有する酵母の開発を目標に研究を行った。まず、優れた性質を有する酵母株を取得し、約800株からなる酵母
株ライブラリーを整備した。酵母株ライブラリーを用いて、発酵を阻害するストレスである酸やフルフラール等の阻害物質に耐性を有する酵母
を検索した。その結果、高度な阻害ストレス耐性を有する酵母株が見出された。
糖化酵素の大量生産系の確立
糖化酵素の1つであるキシラナーゼの大量生産系の構築を目指しています。キシラナーゼを比較的高生産することが知られる難培養性糸状菌 Humicola について培養条件を検討したところ、キシラナーゼ大豆系廃棄物を窒素減に用いると、 菌体が均一に分散して培養できることが分かりました。この培養方法では、キシラナーゼ酵素活性が、非分散時に比べて100から1000倍高いこと が確認され、キシラナーゼの大量生産が期待できます。
セルラーゼのオンサイト生産方法の確立
・C070日本大学生物資源科学部酵素化学研究室 春見隆文
Trichoderma reesei を用い、精製セルロースによる実用レベルの
セルラーゼ生産法を確立するとともに、イナワラをC源とした培養では、イナワラ糖化に効果的な活性をもつ酵素の生産が可能
なことを確認した。次に、一時的に進化速度を速める不均衡変異導入法を適用し、グルコース存在下でもセルラーゼ生産に抑制
のかからない菌株の探索を行った結果、グルコース存在下でも高いセルラーゼ生産性を示す菌株を取得することができた。また、
キシラナーゼを高生産することが知られる難培養性糸状菌Humicola につき、
大豆系廃棄物を窒素源に用いる分散培養方法を確立した。同培養方法による酵素生産では、非分散時に比べて100から1000倍高い
活性を示すことを確認した。
凝集性酵母を用いた無殺菌・長期連続発酵技術の開発
・C080熊本大学大学院自然科学研究科工学系 木田建次、森村茂
ソルガムの総合利用システムを構築するために、無殺菌ソルガムジュースを原料として@無殺菌長期連続発酵プロセスの確立、
A耐熱性・耐酸性酵母の育種、B蒸留廃液の高効率メタン発酵プロセスの開発を実施した。その結果は以下のとおりである。
@発酵温度35℃、D=0.3 h-1の条件で生産性21 g/l/hを達成した。また、必要となる無機塩および添加量を決定した。
A焼酎酵母と凝集性酵母KF7から育種した酵母は、発酵温度40℃の条件で24時間後に約60 g/lのエタノールを生成した。
B固定床型リアクターを用いた高温メタン発酵処理で、C/N比を調整することによりTOC容積負荷10 g/l/dを達成した。
以上、エタノール・メタン二段発酵でソルガムジュースの持つエネルギーのほぼ100%をエタノールおよびメタンに変換でき、分担
した研究開発の目標を全て達成することができた。
ワラ前処理物の酵素糖化効率化のための新規酵素とその生産技術の開発
・C090北海道大学農学研究院応用生命科学分野応用菌学 浅野行蔵
バイオエタノールのコストを下げるためには、バイオマスを高度に分解することが必要である。バイオマスとしての稲わらは、
結晶性のセルロースだけでなく、リグニンなど多種の高分子物質の混合体である。稲わらは希アルカリ分解をした後、セルラー
ゼはもちろん多数の分解酵素によって液化、糖化するが、現状では分解率は75%程度(稲わらの種類によって異なる)である。
酵素の性能は向上して糖化率は向上してきた。課題C90では、さらなる向上を目指して、さらなる有効酵素を植物内生糸状菌か
ら探索している。それらの酵素をバイオマスを原料としてオンサイトで生産する技術を開発することによって、バイオマスの低
コストかつ高分解性を目指している。
キシロースを糖源としてエタノール発酵する微生物の育種
・C091京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科微生物工学分野 鈴木秀之
私たちは、キシロースを栄養源として利用できる酵母を対象にキシロース取り込み能を調べました。キシロース取り込み能が高かった
酵母のうち、グルコースを同時に与えてもキシロースを取り込む活性があまり低下しない酵母として
Candida guilliermondii を選択しました。私たちはこの酵母が持つCGUG_05859遺伝子がグルコース耐性のキシローストランス
ポーターであることを示し、アルコール発酵用のSaccharomyces cerevisiaeで発現させること
に成功しました。形質転換株のキシロース取り込み活性はグルコース存在下においてもほとんど阻害されませんでした。