チャンスは必ずめぐって来る、あきらめないで



岸本 (莫) もう 文紅 あやか さん

物質循環研究領域
主任研究員

温暖化を緩和するために

現在、どんな研究をしていますか?

温暖化をはじめとする気候変動の原因は、 二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量の増加と考えられ、 現在、世界中でさまざまな排出削減の取り組みがなされています。 土壌には、大気中のCO2の2倍もの炭素が含まれており、 その10%は農耕地の土壌にあります。 ですから、管理方法を工夫することで農耕地土壌の炭素量を増やすことができれば、 その分大気中のCO2を減らすことができると期待されています。

土壌の炭素量を増やすとは?

植物は光合成によって炭素(CO2)を吸収して成長します。 その植物を土壌に入れれば、炭素は有機物として土壌に蓄積されます。 土壌有機物はやがて微生物によって分解され、大気中にCO2が放出されますが、 分解されるよりも多くの有機物を土壌に入れれば、 土壌中の炭素量が増え、その分大気中のCO2が減少します。 (詳しくは、「土壌呼吸:土から発生する二酸化炭素 」をご覧ください。)

畑の土壌炭素量を増やすには堆肥などの有機物を入れることが有効です。 けれども、入れ方によってはもう一つの温室効果ガスである 一酸化二窒素(N2O)がより多く出てくる可能性があります。 現在の私の研究は、2つの温室効果ガスを考慮して農耕地の管理方法を総合的に考えることです。


具体的には、どんなことをしているのですか?

管理条件の違う農耕地で、土壌から出る温室効果ガスを測定しています。 また、他の人が測定したデータも集めて解析できるようなデータベース作りにも取り組んでいます。

野外で観測する仕事と、データベースを作る仕事の両方をしているんですね。

はい。現在は、観測が60%、データベース作りが40%でしょうか。

私は、基本的には野外で観測するタイプの研究者です。 今は農耕地の研究をしていますが、もともとは自然生態系を研究対象としていました。 これまで、草原・森林・砂漠といろいろな場所で野外観測してきた経験が、 データベースの仕組みを考える仕事で生かされています。

生態系を俯瞰(ふかん)する

研究の魅力は?

私の専門分野は生態系生態学といい、ある空間における生物と環境の相互作用を研究しています。 たとえば森林には、植物、動物、微生物などが生息し、光合成を行なったり、食べたり食べられたり、 遺体や排泄物を分解したりしています。 そしてそれに伴い、体を構成する炭素や窒素などが、 「植物-動物-微生物-土壌-大気」の間を循環しています。

このとき、植物の種類や量が違えば、動物や微生物の種類や量も異なり、 その結果、物質循環の仕方も違ってくるでしょう。 また、温度などの環境要因によっても循環量は変わるでしょう。 それを明らかにできれば、気候変動による生態系の応答を予測する基礎となります。

けれども、複雑にからむ生態系全体をとらえることは容易ではありません。 まず、個々の現象を多様な視点や手法によってひとつひとつ測定し、 次に、得られた結果を融合し、生態系を全体として解析します。 このとき、生態系全体を俯瞰する視点がとても大切になります。 「木も見て、森も見る」、そこがこの研究の魅力でしょうか。

生態系を俯瞰する?

ええ、この視点は野外調査によって養われたように思いますね。 研究現場には、違う分野、違う考え方、違う哲学を持った人が集まって来て、 議論し影響し合うことができます。 現象をつねに別の視点から説明しようとすることが、生態系を俯瞰的にとらえることにつながります。

研究をやっていて良かったことは?

農環研に入る前、雄大な自然の中で野外調査をたくさん行いました。 砂漠や内モンゴルの大草原、新緑や紅葉が美しい落葉広葉樹林、そして北極海に浮かぶ小さな島など。 それぞれの場所でそれぞれの美しい自然と出会い、 そのたびに「生態学を研究し続けて良かったなあ」と心から思いました。 この思いが、つらいことも多い研究の道を歩み続ける原動力となっています。

研究者の道を簡単にあきらめないで

女性研究者であることのメリットやデメリットを感じたことはありますか?

女性研究者だからということは感じていません。 誰もが同じような壁にぶつかり、同じように人に助けてもらっているはずです。 これは他の職業でも同じでしょう。

私は中国で生まれ育ちました。 中国は日本より女性の社会進出が進んでいますが、 中国の方が女性の置かれた環境が良いというわけではありません。 今は違うかもしれませんが、中国では女性が働かなければ収入が足りないため、 好きな仕事でなくても働くしかなかったのです。 日本では本当に働きたければ働ける、日本の方が選択肢があると思いますね。 研究が好きなら、研究者の道を選択するのもよいと思います。

研究者を目指す人たちにメッセージをお願いします。

研究者になるには覚悟が必要です。 研究では常に独自性が求められ、超えなくてはならない壁があります。 本当になりたいのか時間をかけて考え、それでも研究者になると決めたら、 簡単にあきらめないことが大切です。 私の尊敬する先生がよく言ってくれました。 「人生を変える大きなチャンスは、公平にめぐってくる。 きちんと準備した人だけがそのチャンスをつかむことができるのだ」と。 失敗を恐れずにチャレンジしてください。やってみてダメだったなら、 どうしてダメだったのかを逃げずに分析し、改善すべき点を素直に認める、それの繰り返しです。 時には失敗が人生の宝物になったりもします。 回り道は決して悪くない、他の人より悩んだ分、後のための経験になります。

(取材日2011年3月、広報情報室)