生物系特定産業技術研究支援センター

SIP

第2期 スマートバイオ産業・農業基盤技術

「スマートフードシステム」とは
  SIP「スマートバイオ産業・農業基盤技術」の目指す出口

日本の農業は、農業従事者の高齢化、後継者不足による就農人口の減少、地球温暖化による生産環境の変化といった問題を抱えており、さらに新型コロナウィルスによる社会の混乱は人やモノの流通が世界的に突然停止した場合の様々なサプライチェーンの脆弱性を明らかにしました。
そのような状況下で、日本の農業の特徴である多様性を維持しながら、食料安全保障の観点からも一定以上の食料自給率を確保していくことは極めて重要な課題と考えます。SIP第2期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」が目指す「スマートフードシステム」は、農産物を中心に、生産、加工、流通という供給側の視点に加え、消費側からの視点と資源循環や研究開発など食のサプライチェーンにおける「動脈」と「静脈」を循環化した連関モデルです。

サーキュラーモデルにより3つのサステナビリティ実現を目指す

「開発」「生産」「加工」「流通」「販売」「消費」のフードチェーンを持続性の観点から最適化するとともに、フードチェーンの終点に「消費後の廃棄物や農産物のみ活用部分の資源化・循環化」を加え、かつ直線的モデルから食の循環経済化を促進するサーキュラーモデルに変換したものです。「食」のサステナビリティ実現のための生態系である、この「食」の循環経済化モデル(スマートフードシステム)をフレームとし、その構築に必要となるパーツとして『データ・情報利活用基盤構築』と各ステージで必要な下記の『個別開発技術展開』を図っていきます。

スマートフードシステムにおける研究開発

スマートフードシステムの構築のための取り組み

「スマートフードシステム」構築のために、SIP第2期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」では以下に取り組んでいます。

【バイオ・農業研究開発データ・情報利活用基盤構築】

SIP「次世代農林水産業創造技術」の成果である農業データ連携基盤(WAGRI)をサプライチェーン全体へ拡張すると共に、本SIPで得られるバイオ関連データ及び国内外のオープンデータベースとも連携した「データ・情報利活用基盤」として実装します。現在、WAGRIは気象や農地、地図情報等のデータ・システムを農業関連サービスベンダーに提供することで、農業従事者の生産・収穫を支援しています。スマートフードシステムのデータ・情報利活用基盤は、連関する情報の範囲を一次加工から消費を含む食サプライチェーン全体、さらには生産の前段階にあたる育種情報や、バイオ資源の活用、素材化情報まで拡張します。

▼スマートフードシステムにおけるデータ・情報利活用基盤(WAGRIの拡張)

第2期SIPにおけるWAGRIの拡張領域

最終利用者としては、農業生産者、就農希望者、加工・食品メーカー、流通・小売事業者、輸出入業者、素材メーカー等の実務者と該領域の研究者を想定しています。最終利用者は、利活用しやすい形でデータそのものやデータの分析・情報サービス及び各種開発技術を提供する企業や機関を通じて技術、製品、サービスを受けます。なお、その利用に関して、利用規約(ライセンス契約)、システムを財務的に支えるために必要な機能(利用回数カウント、決済など)を併せて整備することで自走する仕組みを構築します。研究者向けには、オープンサイエンス促進を目的とした情報提供やトレーニングを開発します。

【個別開発技術展開】

開発~資源循環までのそれぞれのステップに紐づく研究テーマを設定し、技術開発と展開を図ります。それぞれのテーマは、「食」の循環経済化の促進、食関連新ビジネスの創出、情報連携モデルの具体化において提示されている課題の目標達成に資することで、データ・情報利活用基盤の価値を高め、データ・情報の利活用と共にシステムの利用を促進します。

研究開発について>>

スマートフードシステムの社会実装

スマートフードシステムを通じて提供されるデータ・情報、開発技術の提供は、最終利用者たる農業生産者、就農希望者、加工・食品メーカー、流通・小売事業者、輸出入業者、素材メーカーへ、各々のニーズに応じた形の商品・サービスを基盤(プラットフォーム)上への展開によって提供する提供主体者(参画企業や組織体)によって行うことを想定しています。そして、各提供主体と最終利用者間の価値交換を運営資源とし、提供主体者から対価をいただくことでの自走を想定しています。
なお、このプラットフォーム上にある提供主体間の情報の「交流」「交差」「融合」による新たな価値の創造も期待できます。

▼スマートフードシステムの社会実装イメージ

スマートフードシステムの社会実装イメージ

また、データは一方通行ではなく、最終利用者や研究者から対価を伴う形でデータを提供いただくことも検討しており、データ・情報の流通の活性化も図ります。

以上の構想をユースケースの実装試験により検証し、下記の目標の実証を行います。

  • 農業現場の効率化・農業経営効率の向上
  • フードロス・フードウェイストの削減
  • 高付加価値食材・食品の開発
  • 輸出拡大による一次産業の発展
  • 農産物(非可食部含む)を原料としたバイオ技術による新素材開発
  • 環境に負荷をかけない新農法の開発

スマートフードシステムが自走可能な「食関連」の知の創造、知の社会実装、知の国際化に資する「データ・情報」利活用と個別開発技術の展開モデルとなることで、SIP第2期終了後も「食」の新たなビジネス創出を促進するエンジンとして機能します。

これにより、バイオ関連データの利活用の活性化、異分野やベンチャー企業等の食領域事業への参入促進、海外輸出も含めた日本の農産物や加工食品による農業の成長産業化に貢献します。