分娩後306日以降の生産乳量を精度よく推定する泌乳曲線の作成

要約

分娩後305日までの遺伝的な泌乳曲線情報(回帰係数)を説明変数とした重回帰式は、306日以降の個体ごとの泌乳曲線を高い精度で予測できる。これにより、分娩後306日以降の生産乳量の予測が可能となる。

  • キーワード:乳牛、泌乳曲線、乳量
  • 担当:北海道農業研究センター・酪農研究領域・乳牛飼養グループ
  • 代表連絡先:電話011-857-9212
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

一般に乳牛の生産効率を最適にする搾乳期間および乾乳期間(搾乳終了から分娩までの期間)は、それぞれ305日および60日程度とされてきた。しかし、遺伝的な改良による産乳能力の向上により、305日よりも長い搾乳期間が最適となる個体の増加が示唆されている。しかし、現状の乳牛の乳生産能力評価は305日間で行われていることから、生産効率を最適にする搾乳期間を決定するためには、306日目以降の乳量を予測する必要がある。
わが国は、個体ごとの乳生産能力の評価手法として、分娩後305日までの検定日乳量(牛群検定で収集される毎月の日乳量)から個体ごとの泌乳曲線(分娩後の経過にともなう日乳量の推移)を推定する手法を採用している。日乳量は前日までの影響を強く受けることから、分娩後306日以降の個体ごとの泌乳曲線や日乳量は、305日までの泌乳曲線情報を用いて予測できる可能性がある。そこで、個体ごとの分娩後306日以降の泌乳曲線を305日までの泌乳曲線情報から予測する手法を提案し、その精度を検証する。

成果の内容・特徴

  • 分娩後305日までの遺伝的な泌乳曲線情報(回帰係数)を説明変数とした重回帰式により306日以降の泌乳曲線を予測する手法を提案する(図1)。その精度は、重回帰式の寄与率、および作成した重回帰式による日乳量の予測精度から検証できる。
  • 分娩後306日以降の実際の泌乳曲線は、305日までの泌乳曲線の延長とするよりも、独立して算出することにより、予測誤差を小さくできる(図2)。
  • 分娩後305日までの個体ごとの遺伝的な泌乳曲線情報を説明変数、306日以降の実際の泌乳曲線情報(切片と一次回帰)を目的変数とした重回帰分析では、切片を予測したときの寄与率が高い(表1)。
  • 作成した重回帰式による306日以降の日乳量の予測値は、実際の泌乳曲線の日乳量との相関が高い(表2)。したがって、305日までの遺伝的な泌乳曲線情報から306日以降の日乳量予測が可能である。

成果の活用面・留意点

  • 分娩後306日以降の生産乳量を早期に予測するための手法、および分娩後306日以降を仮定した総生産乳量を予測するための手法として利用可能である。
  • 実際の泌乳曲線は、北海道の牛群検定記録より、1998年から2010年に分娩した初産次約8.5万頭、経産次約13.1万頭の検定日乳量記録および血縁情報を用い、検定年月の効果を考慮した変量回帰モデルにより推定した。回帰係数の共変量にはルシャンドル多項式を用い、分娩後305日までの変量回帰係数の次数は2次を採用している。

具体的データ

図1 提案する分娩後306日以降の泌乳曲線予測手法;図2 分娩後306日以降の実際の泌乳曲線における予測誤差※(経産次);表1 分娩後305日までの遺伝的な泌乳曲線情報を説明変数、306日以降の泌乳曲線(切片と一次回帰)を目的変数とした重回帰式の寄与率;表2 作成した重回帰式による分娩後306日以降の日乳量の予測値と、実際の泌乳曲線の日乳量との間の相関係数;

その他

  • 予算区分:交付金、委託プロ(生産システム)、その他外部資金(27補正「先導プロ」、28補正「AIプロ」)
  • 研究期間:2015~2017年度
  • 研究担当者:山崎武志、武田尚人、佐々木修
  • 発表論文等:Yamazaki T. et al. (2018) Asian-Australas. J. Anim. Sci. 31(10):1542-1549