社会にインパクトのあった研究成果

農林水産省農林水産技術会議事務局は、農業技術クラブの協力を得て「農林水産研究成果10大ニュース」を選定しています。これは、各年に新聞記事になった研究成果(独立行政法人研究機関、公立試験研究機関、大学及び民間の研究成果)の中から、内容に優れ、社会的関心が高いと考えられるもの10件を選定するものです。2018年は、農研機構が中心及び共同で行った研究成果が8件選ばれました。

農林水産研究成果10大ニュース 2018年選出

ため池防災支援システム
-地震・豪雨時に、ため池の決壊危険度をリアルタイムに予測-

【図】 南海トラフ地震を想定した「ため池」の決壊危険度予測

東日本大震災などの大地震、九州北部豪雨や平成30年7月豪雨などの豪雨災害で、ため池が決壊し、ため池の下流域で人が亡くなる二次被害が発生しています。

農研機構は、地震・豪雨時に、ため池の決壊危険度を3段階で予測し、予測情報をインターネットやメールを通じて防災関係者に配信するとともに、被災したため池の状況を防災関係機関に情報共有するシステムを開発しました。ため池決壊による人的被害の防止や決壊防止に向けた緊急対策が行え、迅速な防災と復旧支援への活用が期待できます。

多収で倒伏や病害虫に強く飼料用米に適した水稲新品種「みなちから」を育成
-関東以西の地域での飼料用米の安定生産に期待!-

【図】 「みなみちから」の草姿
(左:みなちから、左:ホシアオバ)

これまで育成された温暖地での栽培に適したイネの多収品種は、倒伏や病害虫により収量性が十分に発揮できない事例が多くありました。

農研機構は、関東以西の地域で栽培が可能で、多収で倒れにくく、病害虫に強い水稲新品種「みなちから」を育成しました。温暖地や暖地における飼料用米の安定生産へ向けて、普及が期待されます。

野菜用の高速局所施肥機を開発
-高精度肥料散布・高肥料効率・高速作業を実現!-

【図】 野菜用高速局所施肥機(条間45cm仕様)

キャベツの生産地で一般的に普及している、接地輪により施肥ロールの回転を制御する畝立て同時局所施肥機は、土壌条件やほ場の傾斜の影響により接地輪の回転にムラが生じて施肥量のバラつきが生じやすく、また、作物の初期生育の確保を目的として畝上面に散布される肥料が風雨により流れてしまう等の問題を抱えていました。

農研機構は、上田農機株式会社、株式会社タイショーと共同で、高速かつ高精度に肥料を散布可能な局所施肥機を開発しました。開発機は慣行機と比較して2割程度の作業能率向上と設定施肥量に対する散布誤差3%以下を実現しました。本開発機により、畝立て施肥作業の効率化と生育ムラの低減が期待されます。

熱だけでイチゴ苗の病害虫をまとめて防除
-蒸熱処理防除装置の小型実用化と利用マニュアル作成-

【図】 プレハブ冷蔵庫内の小型蒸熱処理防除装置

イチゴ栽培では夏季に育苗した苗を9月に栽培ハウスに植え付けます。このときに苗が病害虫に汚染されていると、その後の防除が困難になります。これまで無病虫苗の確保には、化学農薬が使用されてきましたが、化学農薬に対する病害虫の抵抗性が発達し農薬が効きにくくなったため、農薬のみに頼らない防除法の開発が必要になってきました。

農研機構は、株式会社FTH、福岡県、佐賀県、熊本県と共同で、イチゴ苗のナミハダニやうどんこ病等の病害虫を防除することができる蒸熱処理防除装置の開発、小型化・省電力化を実現しました。経営規模や共同利用の有無等の生産状況に適した装置を選択できることで、本技術導入の加速化が期待されます。

培養不要で多様な作物に使える革新的な植物ゲノム編集技術の開発

【図】iPB法によるin plantaゲノム編集

従来の遺伝子導入技術では、組織培養が必須であり、時間を要していました。

株式会社カネカと農研機構は共同で、茎頂の生長点にDNA等を直接打ち込む「インプランタ パーティクル ボンバードメント(iPB)法」を用いた植物ゲノム編集技術を開発しました。この手法は組織培養が不要なため、コムギをはじめとする様々な作物に適用でき、品種改良を劇的に加速すると期待されます。

ウンシュウミカンのゲノム解読
-品種改良の加速化に期待!-

【図】 ウンシュウミカン

近年カンキツでは、大量のDNAマーカー情報から芽生え段階で果実の特性を高い精度で予測し、その結果に基づき優良個体を選抜する技術が開発されてきました。DNA情報を駆使した選抜の精度や効率を向上させるためには、多数のカンキツ品種の親となっているウンシュウミカンにおける重要な遺伝子や特定の染色体(ゲノム)領域の配列を、他の品種と比較することが必要です。

農研機構は国立遺伝学研究所と共同で、ウンシュウミカンの全ゲノム配列を解読しました。その結果、カンキツの着色や結実性に関わる遺伝子91個を特定しました。本成果の利用により、カンキツの生産性や品質向上に向けた品種改良の加速化が期待されます。

抵抗性害虫の出現を遅延させるための殺虫剤施用戦略
-複数剤の「世代内施用」と「世代間交互施用」を比較-

【図】 作用機構の異なる複数の殺虫剤による「世代内施用」

害虫を防除するために同じ殺虫剤を続けて使用すると、その剤が効かない「抵抗性害虫」が出現し、やがてその殺虫剤が使えなくなるという問題があります。

農研機構は、ウメオ大学(スウェーデン)、ミネソタ大学(米国)と共同で、別の殺虫剤を世代内で同時に施用した方が、世代毎に交互に使うよりも抵抗性害虫の出現を遅らせるのに効果的なケースが多いことをシミュレーションを用いて明らかにしました。抵抗性害虫を早期検出する技術と、抵抗性の発達を抑制する本成果を組み合わせることにより、薬剤抵抗性害虫の被害抑制への貢献が期待できます。

コムギのゲノム配列解読を達成
-新品種開発の基盤完成-

【図】 ゲノム解読を終了した「チャイニーズスプリング」

世界では「環境の変動に強く、安定して生産できるコムギ品種」や「収穫量が高いコムギ品種」、日本においても、優れた製粉品質を持ち十分な生産量を確保できる良品質高収量の品種や、日本の湿潤な気候等によって多発する穂発芽や赤かび病等に対して十分な耐性を持つ品種の開発が切望されています。

農研機構と京都大学などが参加した国際コンソーシアムは、コムギゲノムの塩基配列解読を達成しました。コムギの21本の染色体上における遺伝子の位置関係を明らかにし、様々な特徴を決定する10万個以上の遺伝子を見出しました。この情報を利用し、有用な遺伝子の単離やDNAマーカーの開発を通じて、新品種育成が加速すると期待されます。