殺菌剤の生態影響評価のための水生菌類を用いた新たな毒性試験法

要約

殺菌剤の生態影響をより適切に評価することを目的とした、複数種の水生菌類を用いた効率的な毒性試験法である。試験生物種は、生態学的重要性や開発した毒性試験への適合性を考慮して、我が国の水域に優占する5種類の水生菌類株を選定している。

  • キーワード:農薬、殺菌剤、菌類、生態リスク
  • 担当:農業環境変動研究センター・生物多様性研究領域・化学物質影響評価ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8240
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

河川や湖沼などの水圏生態系には多種多様な生物が生息しているが、農薬の毒性は対象となる生物種によって極端に異なることが知られており、殺虫剤は甲殻類等、除草剤は植物(藻類等)、殺菌剤は菌類に強い毒性を持つという一般的な特徴がある(除草剤の例として図1左)。このような生物種間の感受性差を統計学的分布として表現したものが「種の感受性分布」である(図1右)。農研機構では種の感受性分布を用いた生態リスク評価手法の開発を進めており、2016年に技術マニュアルを作成・公開している。
水生菌類は分解者としての機能を持ったり、ミジンコの餌となったりするなど重要な生態学的役割を担っている。ところが、水生菌類を用いた毒性試験はこれまでほとんど報告がなく、水生菌類の毒性データに基づいていない現状の生態影響評価は、殺菌剤の影響を過小評価している懸念がある。また、従来行われてきた病原菌等に対する薬剤感受性検定法は、薬剤を添加したシャーレ内寒天培地に菌体を接種し、その生育を調べる試験である。これは、結果の定量的な評価が難しい、寒天培地を用いるため操作が煩雑であり大量の試験を効率よく行えない、水生菌類の生息の場である「水中」での試験ではない、といった欠点がある。そこで本研究では、水生菌類を用いた効率的な毒性試験法を新たに開発し、試験に適合する5種類の試験生物種を選定する。

成果の内容・特徴

  • 新たな試験法は、これまでに開発した96穴マイクロプレートを用いた藻類の効率的な毒性試験法を、水生菌類の試験に適するように改変したものである(図2)。この特徴は、マイクロプレート内の試験液中で菌体を生育させ、バイオマスをATP発光として測定することであり、非常に効率的であるため多種類の試験を同時に行うことが可能となっている。
  • 試験生物種選定の条件は以下の通りであり、試験への適合性のみではなく、生態学的重要性も考慮している:(1)日本の水圏生態系に一般的に分布し、頻繁に見られる種であること、(2)幅広い分類群をカバーしていること、(3)試験の普及と再現性確保のため、公的な系統保存施設に保存されており誰でも入手可能なこと、(4)マイクロプレートを用いた培養試験に適合すること。選定した5種は表1の通りで、これらの菌株は独立行政法人製品評価技術基盤機構より入手可能である。
  • 殺菌剤のマラカイトグリーンを用いた毒性試験を行ったところ、ミズカビの一種であるAphanomycesに対して非常に毒性が強いという結果が得られている。これらの毒性データを用いることで、殺菌剤の生態影響評価をより適切に評価できることが示されている(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本試験法により、わが国の水生菌類に対する殺菌剤の毒性データを効率的に整備することが可能となり、行政や研究機関、農薬メーカー等による農薬の生態リスク評価の高度化に貢献する。

具体的データ

図1 除草剤プレチラクロールを例とした、分類群ごとの毒性値(半数影響濃度もしくは半数致死濃度)(左)と種の感受性分布の解析結果(右),図2 開発した効率的な試験方法の概要,表1 選定した5種類の試験生物種,図3 殺菌剤マラカイトグリーンを例とした、分類群ごとの毒性値(左)と種の感受性分布の解析結果(右)

その他

  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2015~2018年度
  • 研究担当者:永井孝志
  • 発表論文等: