フロレチンのがん細胞へのアポトーシス誘導作用

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要約

がん細胞にアポトーシスと呼ばれる生理的な細胞死を誘導することによって、がんが抑制されることが明らかになっている。本研究では、リンゴやナシ等に含まれるフロレチンが、がん細胞のアポトーシスを誘導することを明らかにした。

  • 担当:食品総合研究所・食品機能部・機能成分研究室
  • 代表連絡先:0298-38-8055
  • 部会名:食品
  • 専門:食品品質
  • 対象:葉菜類、果菜類
  • 分類:研究

背景

抗がん剤等の作用により、がん細胞に誘導されるアポトーシスと呼ばれる生理的な細胞死は、重要ながんの抑制機構であることが明らかになっている。そこで、野菜中の成分のがん予防効果及びその作用機構を明らかにするために、野菜等の成分のがん細胞のアポトーシス誘導作用を検索した結果、リンゴ等に含まれるフロレチンがB16メラノーマ細胞のアポトーシスを誘導することが明らかになった。そこで、さらにフロレチンのB16メラノーマ細胞のアポトーシス誘導機構について検討した。

成果の内容・特徴

  • リンゴ等に含まれるフロレチンは、B16メラノーマ細胞の増殖を抑制すると共に、アポトーシスに特徴的なDNAの断片化を誘導した(図1)。また、フロレチンは、核の断片化等、アポトーシスに特徴的な細胞の形態を誘導した。これらのことから、フロレチンがアポトーシスを誘導することが明らかになった。
  • 0.1mMのフロレチンで24時間処理したB16メラノーマ細胞では、アポトーシスが誘導されて細胞数の減少が認められたが、protein kinase C の活性の抑制は認められなかった(図2)。また、0.15mMのフロレチンで処理した場合には、protein kinase C の活性は抑制されていた(図2)。これらのことからフロレチンはB16メラノーマ細胞のprotein kinase C の活性を抑制するが、B16メラノーマ細胞のアポトーシスはprotein kinase Cの活性抑制を介さずに誘導されることが明らかになった。
  • B16メラノーマ細胞の培養液中にグルコースを添加することによって、フロレチンで誘導されるアポトーシスは抑制された(図3)。このことから、フロレチンは、グルコースの細胞膜輸送の阻害を介して、B16メラノーマ細胞にアポトーシスを誘導することが示唆された。

成果の活用面・留意点

  • アポトーシス誘導機構をさらに明らかにすることによって、フロレチン及びその他の食品成分によるがんの予防及び抑制機構が明らかになるものと期待される。
  • 実験動物等を用いた in vivoでの作用の確認が必要と考えられる。

具体的データ

図1
図2
図3

その他

  • 研究課題名:野菜中の成分のがん予防効果の解明
  • 予算区分:一般別枠(健康機能)
  • 研究期間:平成9年度(平成5年~10年)
  • 研究担当者:小堀真珠子、新本洋士、津志田藤二郎
  • 発表論文等:Phloretin-induced apoptosis in HL60 human leukemia cells and B16 melanoma 4A5 cells : FASEB J., 11(9), A1239 (1997)
    Phloretin-induced apoptosis in B16 melanoma 4A5 cells by inhibition of glucose trans- membrane transport : Cancer Lett., 119, 207 (1997)