反すう家畜からのメタン産生抑制は水素発生とルーメン細菌叢の変化を起こす

要約

反すう家畜からのメタン産生をブロモクロロメタン製剤により抑制すると、水素ガスが発生するとともにルーメン内プロピオン酸濃度が増加し、ルーメン細菌叢ではPrevotella属の細菌が優勢となる。

  • キーワード:メタン、ブロモクロロメタン、ヤギ、ルーメン微生物叢
  • 担当:家畜生産・第一胃発酵・産肉制御
  • 代表連絡先:電話 029-838-8611
  • 研究所名:畜産草地研究所・家畜生理栄養研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ルーメン微生物による発酵作用(ルーメン発酵)は飼料を分解して反すう家畜に栄養を供給している。しかし、ルーメン発酵により産生されるメタン(温室効果ガス)は飼料エネルギーの損失であることから、メタン産生の低減による飼料効率の増大が期待されている。しかし、ルーメンからのメタン産生を抑制した場合に起きるルーメン発酵性状やルーメン細菌叢の変化についての情報は少ない。

そこで、メタン産生菌(メタン菌)の活性のみを低下させるブロモクロロメタン(BCM)をシバヤギに投与し、メタン産生を抑制する。この際に起きるルーメン発酵性状やルーメン細菌叢の変化を解析し、メタン産生抑制に関わる栄養学的要因を解明する。

成果の内容・特徴

  • シバヤギをチモシーと濃厚飼料(1:1)で飼養し、次いでサイクロデキストリン包接BCM(BCM-CD)を低濃度、中濃度、高濃度の順で各々6日間投与する。BCM-CDの無投与期(コントロール期)と高濃度投与期にはシバヤギを呼吸試験装置に入れて、消化試験を実施する。また、ルーメン内容物を各期間で採取して、短鎖脂肪酸濃度の測定、ルーメン細菌叢の分子生物学的解析を行う。
  • 水素ガスの産生量は、メタン産生量、メタン産生量の減少率、ルーメン内短鎖脂肪酸濃度から求められ、ルーメン内における代謝性水素の短鎖脂肪酸、メタン、水素ガスへの配分率を明らかにできる(図1)。
  • 各個体から発生するメタン産生量(1/日)は、ルーメン内短鎖脂肪酸濃度から求める比((C2+C4)/C3)と高い相関があることが示される(図2)。
  • ルーメン細菌叢は、高濃度投与区でPrevotella属の細菌が優勢となり(図3)、プロピオン酸産生経路が増強されると推察される。
  • 以上のことから、BCM-CDの投与によりメタン産生が抑制されると同時に水素ガスが放出されることが明らかになる。また、家畜の生産性に重要な短鎖脂肪酸の産生量も約25%増加(メタンの減少率90%の場合)することから、メタン産生抑制によって家畜の生産性を増大できる可能性が示される。ルーメン微生物叢は、BCM-CDの投与によりPrevotella属のルーメン細菌が優勢となり、これらの細菌がプロピオン酸産生に関与していることが類推される。

成果の活用面・留意点

  • 反すう家畜のメタン抑制による生産性増大のための基礎的な知見として活用できる。
  • BCM-CDは飼料添加剤として承認されていないため、飼料添加剤として利用可能なメタン抑制剤での検討が必要である。

具体的データ

図1 ルーメン内における代謝性水素の短鎖脂肪酸、メタン、水素ガスへの配分率図2 メタン産生量とルーメン内短鎖脂肪酸の濃度比((C2+C4)/C3)との関係
図3 BCMによるルーメン微生物叢の変化

(三森眞琴、真貝拓三)

その他

  • 中課題名:第一胃内発酵制御因子の解明と栄養制御による産肉特性改善
  • 中課題番号:130e0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2008~2011年度
  • 研究担当者:三森眞琴、真貝拓三、竹中昭雄、永西 修、樋口浩二、小林洋介、野中最子、浅沼尚人(明治大)、Stuart E. Denman (CSIRO)、Christopher S. McSweeney (CSIRO)
  • 発表論文等: Mitsumori M. et al. (2011) Br. J. Nutr. doi:10.1017/S0007114511005794