水田土壌中に蓄積する酢酸の微生物による分解機構

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要約

水田土壌中に蓄積する酢酸は還元過程の初期にはメタン生成菌Methanosarcina により分解され、還元が進むに伴い、酢酸酸化菌とメタン生成菌Methanosarcina とにより分解されると推察された。

  • 担当:東北農業試験場・水田利用部・水田土壌管理研究室
  • 連絡先:0187-66-2775
  • 部会名:生産環境
  • 専門:土壌
  • 対象:稲類
  • 分類:研究

背景・ねらい

水田士壌中で稲わらなどの分解により生成する酢酸は特に寒冷地において水稲の根の生有を抑制する。酢酸の分解にはメタン生成菌が重要な役割をはたしているといわれているが、酢酸と同様メタン生成の基質となる水素+二酸化炭素や、酢酸を分解する他の微生物がメタン生成菌の酢酸分解に及ぼす影響についてはほとんど明らかにされていない。そこで水田土壌から採取した土壌を嫌気的に培養することにより水田土壌中の酢酸の分解機構を明らかにし、酢酸の抑制技術の開発に資する。

成果の内容・特徴

風乾土を用いた場合(図1)、対照区で酢酸分解が終了した時点(12日日)におけるメタン生成濃度は添加した酢酸濃度とほぼ等しかった。酢酸1モルが分解するとにより、メタン1モルが生成することが知られている。このことから、添加した酢酸はおもにメタンに分解されたと推察される。

  • 図1において、培養12日目まては水素を添加することにより酢酸の分解が抑制されたがメタンの生成はほとんど変わりなかった。培養12日目以降、水素添加がメタン生成を増加させこのとき、水素添加区の酢酸は分解された。このことから、水素添加区では培養12日目までは添加した水素と土壊からの二酸化炭素によりメタンが生成され、その後、酢酸からのメタン生成に切り替わったと考えられる。また、酢酸だけではなく水素+二酸化炭素を利用できるメタン生成菌Methanosarcinaが酢酸の分解に関与している推察される。
  • 前培養(12.5mM酢酸存在下、21日間培養で酢酸は完全に分解)した土壌を培養した場合(図2)、水素の添加は酢酸の分解とメタンの生成を抑制した。このことから酢酸は酢酸酸化菌とメタン生成菌の共生的分解により分解されたと考えられる。この反応は以下の式により構成される。
    酢酸→二酸化炭素+水素(酢酸酸化菌)(1)
    二酸化炭素+水素→メタン(メタン生成菌)(2)
    (1)式で酢酸酸化菌により二酸化炭素と水素が供給され、(2)式でメタンを生成する。(1)式において生成した水素は(1)の反応を阻害するが、(2)式においてメタン生成菌が水素を取り除くのでメタン生成は持続する。しかし、水素を添加すると(l)の反応が阻害され、その結果、(2)の反応が進まなくなる。

成果の活用面・留意点

本試験の結果から水田土壌中では水素の蓄積が酢酸の分解を抑制することが明らかになった。水田土壊中では鉄還元菌や硫酸還元菌か水素を利用することが知られている。本成果は、これらの水素を利用する微生物による水田土壌中における酢酸の蓄積抑制技術に活用することができる。

具体的データ

図1.酢酸分解とメタン生成に及ぼす水素の影響

 

図2.酢酸分解とメタン生成に及ぼす水素の影響

 

その他

  • 研究課題名:有機物施用効果の解明
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成5年度(昭63-平成5年)
  • 発表論文等:Changes in microbiological decomposition of acetic acid during the reduction process in submerded paddy soil. Soil Science and Plant Nutrition.(投稿中)